妄想ドラマ『スパイラル』 (14)
夜になって美菜から渉に電話がかかってきたが、
美菜はまだ何も知らなかった。
そして渉の主演が決まったことを聞き、純粋に喜んでくれた。
「俺は、美菜と他の誰かでやるんだと思ってた」
「そう?私は渉さんは外せないと思ってたよ。だってラブストーリーだもん。
見に来るのは大半が女性でしょう。渉さんを見たいはず」
少し迷ったが、渉は率直に聞いてみた。
「ヒロインは沙織だよ。嫌じゃない?」
「そうね、舞台も映画も沙織さんに持っていかれちゃったって世間は思うかもしれない。
でも私は来期の連ドラ決まってるし、まだ秘密なんだけど別の映画のオファーも来てるの。
だから心配しないで。凹んでいる暇はないから」
「ならいいんだ。変なこと言ってごめん」
「でもほんとはちょっとだけ妬ける」
「ほんとに?」
「嘘よ。共演者に嫉妬してたら仕事できないでしょ。お互いね」
美菜はそう言って笑った。
本当は沙織のことが嫌いだと言えるものなら言いたい。
しかし今そんなことを言えば、共演しなくてはいけない渉を重い気持ちにさせるだけだ。
美菜は沙織を頭から追い払った。
渉にはベストな状態で撮影に臨んでもらいたい。
渉も沙織を疑ったことや、自分への気持ちを告白されたことは黙っていた。
今は沙織と映画をやるしかないのだから。
最終的に発表されたキャストは、主演の二人以外に舞台のメンバーは一人もいなかった。
脇役クラスの中堅の役者なかで、過去にやった特定の役のイメージがついてない者と、
最近注目され始めた若手とが選ばれた。
そして、新しい台本が渉に渡された。
以前にもらったものより原作のイメージに近く書き直されている。
主人公の二人が大学生から30歳までを演じるのは同じだったが、
大きな違いは最初の台本には無かったベッドシーンがある。
どんな撮り方をするのかは監督次第だ。
クランクインまで時間はなかったが、それでも翌日から渉は体を作り始めた。
ミュージカルのためにダンスで鍛えた体は、そのままでいいと監督に言われたが、
映像となって残ると思うと、自分がベストだと思える状態にしないと気が済まなかった。
そして、沙織との個人的な感情のいきさつは、クランクアップを迎えるまで忘れることにした。
すべては映画の撮影が終わってからはっきりさせようと思う。
渉の知っている2年前の沙織はもういないことを、渉はまだ知らずにいた。
「久しぶり。ごめんね、今度も私が美菜ちゃんの役取っちゃったみたいになって」
沙織から美菜に電話がかかってきたのは、クランクインの前日だった。
--------つづく------- 15話へ
1話から読みたい方はこちら
夜になって美菜から渉に電話がかかってきたが、
美菜はまだ何も知らなかった。
そして渉の主演が決まったことを聞き、純粋に喜んでくれた。
「俺は、美菜と他の誰かでやるんだと思ってた」
「そう?私は渉さんは外せないと思ってたよ。だってラブストーリーだもん。
見に来るのは大半が女性でしょう。渉さんを見たいはず」
少し迷ったが、渉は率直に聞いてみた。
「ヒロインは沙織だよ。嫌じゃない?」
「そうね、舞台も映画も沙織さんに持っていかれちゃったって世間は思うかもしれない。
でも私は来期の連ドラ決まってるし、まだ秘密なんだけど別の映画のオファーも来てるの。
だから心配しないで。凹んでいる暇はないから」
「ならいいんだ。変なこと言ってごめん」
「でもほんとはちょっとだけ妬ける」
「ほんとに?」
「嘘よ。共演者に嫉妬してたら仕事できないでしょ。お互いね」
美菜はそう言って笑った。
本当は沙織のことが嫌いだと言えるものなら言いたい。
しかし今そんなことを言えば、共演しなくてはいけない渉を重い気持ちにさせるだけだ。
美菜は沙織を頭から追い払った。
渉にはベストな状態で撮影に臨んでもらいたい。
渉も沙織を疑ったことや、自分への気持ちを告白されたことは黙っていた。
今は沙織と映画をやるしかないのだから。
最終的に発表されたキャストは、主演の二人以外に舞台のメンバーは一人もいなかった。
脇役クラスの中堅の役者なかで、過去にやった特定の役のイメージがついてない者と、
最近注目され始めた若手とが選ばれた。
そして、新しい台本が渉に渡された。
以前にもらったものより原作のイメージに近く書き直されている。
主人公の二人が大学生から30歳までを演じるのは同じだったが、
大きな違いは最初の台本には無かったベッドシーンがある。
どんな撮り方をするのかは監督次第だ。
クランクインまで時間はなかったが、それでも翌日から渉は体を作り始めた。
ミュージカルのためにダンスで鍛えた体は、そのままでいいと監督に言われたが、
映像となって残ると思うと、自分がベストだと思える状態にしないと気が済まなかった。
そして、沙織との個人的な感情のいきさつは、クランクアップを迎えるまで忘れることにした。
すべては映画の撮影が終わってからはっきりさせようと思う。
渉の知っている2年前の沙織はもういないことを、渉はまだ知らずにいた。
「久しぶり。ごめんね、今度も私が美菜ちゃんの役取っちゃったみたいになって」
沙織から美菜に電話がかかってきたのは、クランクインの前日だった。
--------つづく------- 15話へ
1話から読みたい方はこちら