妄想ドラマ『スパイラル』 (19)
渉は美菜がどうしてメールの返事をくれないのか
確かめるのが怖くなった。
時間が経つほど、不安がつのる。
電話をすればすむと思うが、返事をくれない美菜に
何度も自分からかけるのはためらわれた。
仕事の合間に携帯を見て、美菜から電話もメールもないことを知る。
がっかりすると同時に腹がたって、もうどうでもいいやと思ってみたりもした。
その日、美菜はトーク番組の収録のためにテレビ局にいた。
楽屋のドアがノックされた。
「はい」
マネージャーの川崎がドアを開けると、そこに立っていたのは沙織だった。
「お久しぶりです。隣のスタジオで撮影だったので寄らせてもらいました」
にこやかな笑顔で言われても川崎はいい気分はしなかった。
舞台に穴をあけずにすんだのは助かったが、一旦は美菜がやることに決まっていた映画の主役にまで
彼女が抜擢されたことが内心面白くなかった。
小田中の一言で決まったらしいという社内の噂が川崎の耳にも入っていた。
「帰ってもらって」
美菜のきつい口調に川崎が驚いて美菜を見た。
沙織は余裕のある笑みを浮かべているのに、美菜は険しい表情だ。
「美菜ちゃんが私に聞きたいことがあると思ってわざわざ来たのに、いいの?
はっきりさせたほうがよくない?」
短い沈黙の後、美菜が言った。
「そうね。川崎さん席をはずしてくれる?」
「私がいたらまずい話なのね。美菜ちゃん大丈夫?」
「あら、川崎さんが心配なら居ていただいても、私はかまいませんけど」
沙織の言葉は無視して、美菜は立ち上がると川崎に笑顔を見せた。
「ごめんなさい。プライベートなことだから。すぐに終わるし」
川崎は楽屋を出ると、どこへも行かず、ドアのすぐ横の壁によりかかった。
いやな予感がして美菜が心配だった。
舞台の時に美菜を気遣ってくれていた沙織とは別人のような気がした。
「あなたのことだから、写メ速効で消したでしょ」
沙織が笑って言った。
「何がしたいの?」
「誤解がないように言っとくけど、あなたから渉くんを奪おうなんて思ってないから。
私は今のままで十分。美菜ちゃんは忙しくてなかなか会えないでしょ。
代わりに時々渉くんの寂しさを埋めてあげたいの。またあなたの代役ね」
「どうかしてる」
「そう?彼ね意外とさびしがり屋なのよ。許してあげて」
「何を許すの?言いたいことがそれだけならもう帰って」
美菜は務めて平静を装った声で話した。
「私と渉さんのことをあなたに心配してもらう必要はないわ。だから二度と私の前に現れないで」
「そう。じゃ、さようなら」
そう言って沙織はドアノブに手をかけたが、振り返ってこう言った。
「私も会いたくないけど、連ドラのあなたの親友の役、私に決まったの。3か月間よろしく」
---------つづく------- 20話へ
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渉は美菜がどうしてメールの返事をくれないのか
確かめるのが怖くなった。
時間が経つほど、不安がつのる。
電話をすればすむと思うが、返事をくれない美菜に
何度も自分からかけるのはためらわれた。
仕事の合間に携帯を見て、美菜から電話もメールもないことを知る。
がっかりすると同時に腹がたって、もうどうでもいいやと思ってみたりもした。
その日、美菜はトーク番組の収録のためにテレビ局にいた。
楽屋のドアがノックされた。
「はい」
マネージャーの川崎がドアを開けると、そこに立っていたのは沙織だった。
「お久しぶりです。隣のスタジオで撮影だったので寄らせてもらいました」
にこやかな笑顔で言われても川崎はいい気分はしなかった。
舞台に穴をあけずにすんだのは助かったが、一旦は美菜がやることに決まっていた映画の主役にまで
彼女が抜擢されたことが内心面白くなかった。
小田中の一言で決まったらしいという社内の噂が川崎の耳にも入っていた。
「帰ってもらって」
美菜のきつい口調に川崎が驚いて美菜を見た。
沙織は余裕のある笑みを浮かべているのに、美菜は険しい表情だ。
「美菜ちゃんが私に聞きたいことがあると思ってわざわざ来たのに、いいの?
はっきりさせたほうがよくない?」
短い沈黙の後、美菜が言った。
「そうね。川崎さん席をはずしてくれる?」
「私がいたらまずい話なのね。美菜ちゃん大丈夫?」
「あら、川崎さんが心配なら居ていただいても、私はかまいませんけど」
沙織の言葉は無視して、美菜は立ち上がると川崎に笑顔を見せた。
「ごめんなさい。プライベートなことだから。すぐに終わるし」
川崎は楽屋を出ると、どこへも行かず、ドアのすぐ横の壁によりかかった。
いやな予感がして美菜が心配だった。
舞台の時に美菜を気遣ってくれていた沙織とは別人のような気がした。
「あなたのことだから、写メ速効で消したでしょ」
沙織が笑って言った。
「何がしたいの?」
「誤解がないように言っとくけど、あなたから渉くんを奪おうなんて思ってないから。
私は今のままで十分。美菜ちゃんは忙しくてなかなか会えないでしょ。
代わりに時々渉くんの寂しさを埋めてあげたいの。またあなたの代役ね」
「どうかしてる」
「そう?彼ね意外とさびしがり屋なのよ。許してあげて」
「何を許すの?言いたいことがそれだけならもう帰って」
美菜は務めて平静を装った声で話した。
「私と渉さんのことをあなたに心配してもらう必要はないわ。だから二度と私の前に現れないで」
「そう。じゃ、さようなら」
そう言って沙織はドアノブに手をかけたが、振り返ってこう言った。
「私も会いたくないけど、連ドラのあなたの親友の役、私に決まったの。3か月間よろしく」
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楽しんでいただけて何よりです。
今回は行き詰ってばかりですが、なんとかゴールを目指します。
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