妄想ドラマ『スパイラル』 (22)
渉が美菜と一緒に小田中に会うことになったのは、翌日の夜だった。
一人で大丈夫だという美菜を、自分の仕事が終わるまで待つように説得したのだ。
仕事が終わり、渉がひとりで小田中プロの事務所に行くと、マネージャーの川崎が待っていた。
「こんなことになるなんてね」
渉の顔を見るなり川崎が言った。
「まぁ、あなたのせいじゃないけど」
美菜をスカウトしてここまで育ててきたのは川崎だと、西野から聞いていた。
実力も人気も申し分ない今、美菜に辞められるのは残念で仕方ないに違いない。
「美菜は?」
渉が聞いた。
「社長と話してる。美菜はあなたが来るまで待つつもりだったけど、
小田中はね、あなた抜きで美菜と話したいのよ。自分なら説得できると思ってるの。
バカな男」
川崎は嘲るように言い放った。
渉は川崎の真意がわからずに戸惑ったが、何も聞かなかった。
川崎は踵をかえすと人気のない事務所にヒールの音を響かせて、
渉を奥の応接室に案内した。
ノックしてドアを開けると、渉が来たことを歓迎していないことが一目でわかる小田中と、
渉の顔を見てホッとした美菜がいた。
二人は三人掛けのソファに並んで座っていたが、小田中はおもむろに立ち上がると
テーブルを挟んだ向かい側の一人掛けに座りなおした。
渉は迷わずに小田中がいた美菜の隣に座る。
美菜の目を見て、大丈夫と言うように小さく頷いた。
重苦しい沈黙を破ったのは川崎だった。
「で、話はどうなったんですか?」
「申し訳ないけど、私の気持ちは変わりません」
美菜が言った。
「そう、じゃぁ仕方ないわね」
「君はちょっと黙っていてくれ」
投げやりな川崎の言い様に、小田中が苛立った声を出した。
それから小田中は渉に聞いた。
「高野くんは美菜が辞めることに賛成なのか?」
「美菜が考えた末に出した結論です。僕は反対はしません。彼女の人生ですから」
「君にも頼んだよね、美菜を説得してくれって。その返事がこういうことか・・・。
僕はね君の力になるつもりだったんだよ。君のことを美菜の相手役に抜擢したのは僕だし、
映画もそうだし、小さな事務所じゃ無理なことだって僕にはできる。移籍すれば」
小田中の話の途中で川崎が急に立ち上がった。
「移籍させてつぶすの?いい加減にしなさいよ!いくら可愛がっても美菜はあなたの思い通りにはならないわ。
力とお金があっても人の心は買えないの。高野さんが芸能界からいなくなっても
美菜は一生あなたと寝たりしない」
「何を言ってるんだ!」
小田中が血相を変えて立ち上がったが、川崎はひるむ様子もなく、
冷たい微笑みを浮かべていた。
----------つづく------- 23話へ
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渉が美菜と一緒に小田中に会うことになったのは、翌日の夜だった。
一人で大丈夫だという美菜を、自分の仕事が終わるまで待つように説得したのだ。
仕事が終わり、渉がひとりで小田中プロの事務所に行くと、マネージャーの川崎が待っていた。
「こんなことになるなんてね」
渉の顔を見るなり川崎が言った。
「まぁ、あなたのせいじゃないけど」
美菜をスカウトしてここまで育ててきたのは川崎だと、西野から聞いていた。
実力も人気も申し分ない今、美菜に辞められるのは残念で仕方ないに違いない。
「美菜は?」
渉が聞いた。
「社長と話してる。美菜はあなたが来るまで待つつもりだったけど、
小田中はね、あなた抜きで美菜と話したいのよ。自分なら説得できると思ってるの。
バカな男」
川崎は嘲るように言い放った。
渉は川崎の真意がわからずに戸惑ったが、何も聞かなかった。
川崎は踵をかえすと人気のない事務所にヒールの音を響かせて、
渉を奥の応接室に案内した。
ノックしてドアを開けると、渉が来たことを歓迎していないことが一目でわかる小田中と、
渉の顔を見てホッとした美菜がいた。
二人は三人掛けのソファに並んで座っていたが、小田中はおもむろに立ち上がると
テーブルを挟んだ向かい側の一人掛けに座りなおした。
渉は迷わずに小田中がいた美菜の隣に座る。
美菜の目を見て、大丈夫と言うように小さく頷いた。
重苦しい沈黙を破ったのは川崎だった。
「で、話はどうなったんですか?」
「申し訳ないけど、私の気持ちは変わりません」
美菜が言った。
「そう、じゃぁ仕方ないわね」
「君はちょっと黙っていてくれ」
投げやりな川崎の言い様に、小田中が苛立った声を出した。
それから小田中は渉に聞いた。
「高野くんは美菜が辞めることに賛成なのか?」
「美菜が考えた末に出した結論です。僕は反対はしません。彼女の人生ですから」
「君にも頼んだよね、美菜を説得してくれって。その返事がこういうことか・・・。
僕はね君の力になるつもりだったんだよ。君のことを美菜の相手役に抜擢したのは僕だし、
映画もそうだし、小さな事務所じゃ無理なことだって僕にはできる。移籍すれば」
小田中の話の途中で川崎が急に立ち上がった。
「移籍させてつぶすの?いい加減にしなさいよ!いくら可愛がっても美菜はあなたの思い通りにはならないわ。
力とお金があっても人の心は買えないの。高野さんが芸能界からいなくなっても
美菜は一生あなたと寝たりしない」
「何を言ってるんだ!」
小田中が血相を変えて立ち上がったが、川崎はひるむ様子もなく、
冷たい微笑みを浮かべていた。
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