嵐ファン・大人のひとりごと

嵐大好き人間の独りごと&嵐の楽曲から妄想したショートストーリー

妄想ドラマ『スパイラル』 (6)

2010年11月28日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
  妄想ドラマ 『スパイラル』 (6)




時計の針が午後10時を回った。

渉は美菜の携帯の番号を押しかけて手を止めた。

まだ仕事が終わっていないかもしれない。

或いは川崎が隣にいるという可能性も考えられる。

川崎に知れるとやっかいなことになりそうな気がした。

声を聴きたい気持ちを抑えて、渉は自分の番号をメールで送信した。


翌日は睡眠不足で頭が重かった。

美菜からの電話を待って明け方まで眠れなかったからだ。

まるで初めて恋をした中学生みたいだと自分を笑った。

人並に恋愛経験はある。

結婚を考えた人もいた。

しかし、こんなにも心を持って行かれたのは美菜が初めてだ。

美菜も好きだと言ってくれたのに、それでもまだ不安でその先の何かを求めている。


夕方、携帯の画面に美菜の二文字が光った。

渉は高鳴る心を抑え、平静を装った声で言った。

「忙しかった?」

「うん・・・でも本当はなかなか電話する勇気がなくて」

「どうして?」

「声を聞くと会いたくてたまらなくなりそうだったから」

美菜の言葉が嬉しかった。

渉はやっと心が温かいもので満たされていくような気がした。

それから二人で他愛ない話をした。

舞台の稽古で聞きなれたはずの美菜の声が新鮮に聞こえる。

「明日はいよいよ初日だって考えただけで、緊張してきちゃう」

「大丈夫だよ。美菜は本番に強いから」

「よかった。渉さんが大丈夫って言ってくれると安心する」

「あのさ・・・」

「なに?」

「川崎さんに何か話した?」

「私たちのこと?」

「うん」

「何も話すつもりはないの。二人だけの秘密」

「そうだね。舞台終わるまでは周りの人たちに悟られないように注意したほうがいいと思う」

渉は舞台の間は美菜と二人きりで会うのは難しいだろうと思っていた。

ただでさえ人気女優の美菜の行く先には、スクープを狙う人間たちがいる。

この舞台が千秋楽を迎えるまで、二人の関係は絶対嗅ぎつけられてはいけない。

ふと、川崎が言った言葉が脳裏をよぎったが、すぐに振り払った。



美菜の初舞台は順調なスタートを切った。

小田中プロのホームページにも、驚くほど多数の追加公演の要望が寄せられた。

もちろん追加公演など小田中プロは考えていない。

社長の小田中は密かに進めている映画の成功を予感し、ひとりほくそえんでいた。

渉と美菜はそんな周りの思惑を知る由もなく、深夜の電話だけで二人の愛を育んでいた。



事件はちょうど舞台の日程が終盤に差し掛かったころに起こった。

演劇誌のインタビューを終えた渉は、その足で早めに楽屋に入り、

西野が入れてくれたコーヒーを飲みながら、インタビューの時にもらった雑誌を見ていた。

ドアの外でバタバタと人が行きかう気配と、誰かを呼ぶような声がした。

渉は少し気になったが、一瞬顔を上げただけでまた雑誌のページをめくっていた。

「なんかさっき騒がしくなかった?」

西野が言った。

「そうだね」

「ちょっと俺、見てくる」

そう言って楽屋を出た西野は、しばらくすると厳しい表情で戻ってきた。

「美菜ちゃんが倒れたって」

「倒れた?」

渉は思わず立ち上がった。

「詳しいことはよくわからないけど、救急車が来てる」

楽屋を飛び出そうとする渉を西野が引きとめた。

「待て、俺たちにできることはないよ。もう救急車に乗ったと思うし」

「でも」

「みんなに押しかけられたら美菜ちゃんだっていやだよ」

「美菜の様子はどうだった?」

「見てないからわからないけど、救急車を呼ぶくらいだから今日の舞台は無理だろうな」

「美菜・・・命に係わるようなことじゃないよね?」

「大丈夫だよ」

「どうしてそう言える?」

「川崎さんが冷静だった。渉も落ち着け」

西野の言うとおり今、自分にできることはないだろうと渉は思う。

それでもすべてを放り出して美菜のもとへ駆けつけたい思いでいっぱいだった。

「とにかく指示があるだろうからここで待ってるしかないな。沢渡さんもまだ来てないし」

西野は事務所に連絡を入れ、しばらく誰かと話し込んでいた。

声は聞こえているはずなのに渉の頭には入ってこない。

今朝の電話で、今日もがんばろうねと言っていた美菜の元気な声を思い返していたから。

30分ほど経っただろうか、誰かがドアをノックした。

「沢渡さんがお見えになりました。スタッフルームに集合するようにとのことです」

渉と西野がスタッフルームに行くと、沢渡と舞台監督が何やら話していて、

出演者のうちの半分くらいが来ていた。

その中に不安げな顔をした沙織を見つけてそばに行った。

話しかけようとしたとき、沢渡が立ち上がった。

「全員は揃っていないけど、時間がないのではじめます。もう聞いてる人もいると思うけど

 美菜ちゃんが急に具合が悪くなってきょうの公演にはでられません」

知らなかった数人から驚きの声が漏れた。

「しかし、小田中さんをはじめ各方面と相談の結果、今日の公演は30分遅れで上演することになりました。

 美菜の代役は新田沙織がやります」

渉が隣を見ると、さっきとは違う凛とした表情でみんなの視線を受け止める沙織がいた。



  --------つづく------ 7話へ 

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