豊臣秀吉の権威をかさに着た奸臣(かんしん)、頭は切れるが小ざかしい官僚…。天下分け目の関ケ原の戦いで徳川家康に敗れた「石田三成」のそんなマイナスイメージが、近年の研究で変わりつつある。
三成は放送中の大河ドラマ「どうする家康」では純粋で優しい人物として描かれているが、実は大河ドラマの主人公にもなりうる魅力的な人物だったというのだ。明らかになってきた最新の三成像とは-。
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「堅苦しいインテリ」から激変
かつての三成は、秀吉の寵愛(ちょうあい)をかさに着た「奸臣」と蔑まれ、陰湿で鼻持ちならないイメージが定着。その後、主君・秀吉の恩を忘れなかった「忠義の臣」としての側面が強調されるようになり、汚名返上が図られてきた。
更に近年、「三成研究は驚くべき進展を遂げている」と、元長浜城歴史博物館長の太田浩司さんは指摘する。
太田さんは平成21年、三成研究の成果をまとめた書籍を発刊。九州大の中野等教授と立命館大の谷徹也准教授らも近年、三成に関する著作や論文を発表した。これらの研究成果によって、これまで知られていなかった三成像が次々と明らかになってきたのだという。
例えば慶長元年(1597年)、秀吉の命令で宣教師ら26人が処刑された事件に関する研究では、三成が命令に背いてでも宣教師らの命を救おうともがいた事実が判明。
朝鮮出兵で三成らが現地の状況をメモ書きした「豊臣家三奉行連署書状案」などの史料からは、明(中国)まで征服すると豪語した秀吉の面目を保ちつつ、冷静に現実を見て戦争終結を模索していたことが分かった。「秀吉の命令に盲従する手先」といった人物像は過去のものになったという。
また、豊臣家五大老の上杉景勝に宛てたと推測される三成の書状からは、武将の娯楽だった鷹狩りに喜々として興じる姿が浮かび上がり、現在の封筒のように、のりで封をして書状を送り始めた人物であることも明らかになった。
「堅苦しいインテリ」という人物像は、最新研究によって「多趣味で創造性豊かな文化人」に刷新されつつある。
また、豊臣家五大老の上杉景勝に宛てたと推測される三成の書状からは、武将の娯楽だった鷹狩りに喜々として興じる姿が浮かび上がり、現在の封筒のように、のりで封をして書状を送り始めた人物であることも明らかになった。
「堅苦しいインテリ」という人物像は、最新研究によって「多趣味で創造性豊かな文化人」に刷新されつつある。
大河ドラマに何度も登場、実像に近いのは
そんな三成は、過去の大河ドラマにも数多く登場している。長浜市観光振興課によると、近年では、真田幸村が主人公の「真田丸」(平成28年)で山本耕史さんが演じた、クールで愛嬌(あいきょう)のある三成の評判が高いという。
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「三成は古い利権におかされた戦国の世の社会構造を打破し、新たな政治経済システムを構築した」と論じる太田さんは、直江兼続が主人公の「天地人」(平成21年)で小栗旬さんが演じた三成を「国家をどう変えていくべきか考えていたという面がよく描かれていた」と評価する。
太田さんが最新研究による三成像に近いと評するのは、大阪・堺の貿易商が主人公の大河ドラマ「黄金の日日」(昭和53年)だ。秀吉が命じる無理難題に苦悩しながら奔走する、正義感が強く人情深い三成を近藤正臣さんが演じた。
放送中の「どうする家康」では歌舞伎役者の中村七之助さんが純粋で優しい三成を演じている。太田さんは「三成が日本の歴史に与えた影響は極めて大きく、歴史に精通した脚本家が、三成を主人公としたドラマを描くべきだ。それによって実像をしっかりと伝えることができる」と話す。
滋賀県北部の3市、NHKに〝直談判〟
実際、三成ゆかりの滋賀県北部3市は、平成25年から「石田三成公をNHK大河ドラマの主人公に!」を合言葉に活動を続けてきた。
▽三成出生地の長浜市
▽長浜城主だった豊臣秀吉に取り立てられるきっかけとなった「三献の茶」伝説が残る米原市
▽居城の佐和山城跡がある彦根市
中心となっているのは、3市でつくる「びわ湖・近江路観光圏活性化協議会」。戦国イベントの開催やグッズ開発、動画配信などを続けている。
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3市の市長は30年以降3回、東京・渋谷のNHK放送センターを訪れ直談判もしている。3回目となった今年2月9日には岐阜県関ケ原町長も加わり、ドラマ制作部門のトップにNHK会長宛ての要望書を手渡した。
滋賀県内ではかつて、長浜市が大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」(平成23年)の舞台となり、観光客増などで240億円の経済効果があったとされる。3市が「三成」推しに躍起になる背景には、三成のイメージを実像に近づけたいとの願いとともに、このときの成功体験もあるようだ。
<産経新聞より>