年明けから春先にかけて、滋賀県内を車で走っていると、あちこちで「イチゴ狩り」の看板を目にした。直売所に行けば、品種や大きさ、価格のさまざまなイチゴが手に入る。どうしてこんなにイチゴ農園が多いのか−。その謎に迫った。
米や小麦、大豆といった穀類の産出額で滋賀県1位を誇る東近江市。
昨年末、東近江市農業水産課に驚きのデータが伝わった。東近江市内の2019年のイチゴ生産者数32軒、生産面積38000㎡、産出額1.5億円が、いずれも滋賀県内でトップの「3冠」だったのだ。
地元ケーブルテレビ局(東近江スマイルネット)の番組で、イチゴを紹介するために集めたデータで判明したという。東近江市農業水産課の担当者は「1軒あたりの生産面積で見れば竜王町ほどではないが、東近江市全体でここまで多いとは想定外だった」と舌を巻く。
1市6町の合併による市の規模拡大以外に独自の要因は「思い当たらない」とする。農家にとっては、ハウス栽培で天候に左右されにくく、小規模でも一定の収量を見込めるイチゴならではの収益力の高さが魅力となっているとみる。
「野菜ソムリエプロ」などの資格を持ち、市内の農業に詳しい古川孝裕さんは、収益力に加え、行政や民間団体による新規就農者の支援策もあり、新規では「イチゴかトマトの二択になる」ことが多いという。
実際、2020年の農業品目別産出額で、東近江市はトマトでも滋賀県内トップだった。イチゴについては「大掛かりな農園と比べて、祖父母や親の世代から事業を引き継ぎやすい」と説く。
↑写真:中日新聞より
古川さんの紹介で、祖父母の農園を引き継いで就農した福田那夢さんを訪ねた。子育てに励みながら、東近江市大沢町で3棟のハウスを営んでいる。
継いだのは3年ほど前。父母は別の仕事に就いていた。祖父母から閉園の意向を聞き、「農業は会社勤めに比べて上下関係がなく、伸び伸び働けそう。なくすのはもったいない」と跡取りを名乗り出た。
新規就農と比べ、顧客や設備をそのまま引き継げ、親戚らから助言を受けやすいのも決断を後押しした。イチゴ狩りの店番などで幼いころから農業が身近にあったのも大きかったという。
ただ、現状の設備は30年近く経過しており、更新時期が迫る。補助金などの支援策は新規就農者に手厚い傾向があり、福田さんは「やっていることは一緒なので、後継者への支援がもっと充実したらありがたい」と望む。
↑写真:中日新聞より
東近江市はイチゴ生産高「滋賀県一位」の判明を受け、新たに「イチゴ農園マップ」を作成。東近江市のホームページに掲載し、「本当においしいものは地元にあります!」と呼び掛けている。
「せっかく1位と分かったので、PRを継続したい」と東近江市の担当者。来季は新型コロナ禍の収束も見据えながら、更なる農家の支援や販路拡大、認知度アップを目指す。