都道府県庁のある自治体が隣接しているのは全国で3カ所だけ。仙台と山形、福岡と佐賀、そして「古都」京都と「湖都」大津だ。
地理的にも、歴史的にも、随一に近しい2つの「コト」に象徴される、京都と滋賀。そんなお隣さんとの「こと」を、京都市生まれで著書「京都ぎらい」で知られる国際日本文化研究センター所長・井上章一さんと、滋賀県甲賀市出身で漫画「三成さんは京都を許さない―琵琶湖ノ水ヲ止メヨ―」を連載した漫画家・さかなこうじさんに語ってもらった。
「困った京都人いはります」井上章一さん
京都の町中には「滋」という字を見て「ゲジゲジ(ゲジ)のようだ」と滋賀の人をおとしめる、困った人たちがいはりますね。かつては京都を日本の真ん中に据えた地理秩序というものがありました。「都の近くにある江(うみ)」=「近江」もそう。今やそうした都を敬う地理感はほぼ無くなったのに、気の毒なことに滋賀の場合、偉そうな京都人の近くにいるせいでいまだに偉そぶられている。
京都市西部の嵯峨で育ち、差別意識など全く無かった私に、より西側の亀岡を見下す意識を植え付けたのも京都の町です。そんな自分が不愉快で嫌で、でもやめられない。四季ごとに京都を案内するテレビ番組で会う滋賀県出身の歌手西川貴教さんは「京都、好きですよ」と言わはるんですよ。多分、心に秘めているだろう「くそう」という気持ちを表してくれない。京都が好きと言うてると、滋賀県知事になる時、よろしくないんじゃないですか、とも申し上げたんですけどね。
コロナ禍でどう推移しているか分かりませんが、京都市中の不動産価格が高騰し、若い人が大津近辺に家を見つけるようになったと思います。特にそういう人たちの中で、彦根や長浜に対するいわれのない優越感がまん延しなければいいなあと思います。やっぱり“都落ち気分”があるだろうし、「自分たちの方が京都に近い」と考えかねない。そういう感情を捨て、滋賀としての一体感をつくりあげてほしい。ただ、気の毒なことに滋賀固有のものは何なのか分からない。だから「琵琶湖しかない」という悪口が出てくるんやろうね。
「奥ゆかしさで損してる」さかなこうじさん
滋賀県民が誇るものは琵琶湖だけと自虐的に言いますが、近江牛に彦根城、忍者とたくさんあります。でも、奥ゆかしく前に出ない県民性と宣伝ベタなせいで損をしてますね。
歴史をさかのぼっても、平安京より古い大津宮や紫香楽宮(しがらきのみや)があったり、素晴らしい仏像がたくさんあったりしますが、どれも地味。忍者も、三重の伊賀忍者が伊賀上野城を中心に派手なイメージで観光客を呼んでますが、甲賀忍者は「忍者が書いた貴重な古文書が出た!」と、すごいんだけどディープ過ぎるし、やっぱり地味。昨年6月に運行を終えたJRのラッピング列車「SHINOBI―TRAIN」も、とてもかっこいいデザインで滋賀の魅力を宣伝できるのに、走っていたのは滋賀県内だけ。本当に忍んでどうする。もっと外に出ないと。それでも、他の忍者ゆかりの地に負けるのはいいんです。忍者とは関係がないはずの京都で忍者を売りにしたレストランがヒットすると、嫉妬してしまいますね。
比叡山延暦寺は大津よりも京都と思われていたり、京都の紅葉イベントに滋賀の名所も混ぜられてたり。滋賀は京都を意識しているけど、京都は滋賀を意識していないという前提で、滋賀のものが京都のものにされている。滋賀県民は、それも仕方ないと理解しつつ、「もう少し滋賀も見てよ、考えてよ」と、面倒臭い恋人のような心境になるんです。
コロナ禍で地方に住む良さが注目を集め、交通の便が良く、都市と自然が程よく調和した滋賀の魅力が再認識されています。刺激的なものはなくても、ゆったりとした癒やしを与えられる滋賀。うーん、やっぱり地味?
地理的にも、歴史的にも、随一に近しい2つの「コト」に象徴される、京都と滋賀。そんなお隣さんとの「こと」を、京都市生まれで著書「京都ぎらい」で知られる国際日本文化研究センター所長・井上章一さんと、滋賀県甲賀市出身で漫画「三成さんは京都を許さない―琵琶湖ノ水ヲ止メヨ―」を連載した漫画家・さかなこうじさんに語ってもらった。
「困った京都人いはります」井上章一さん
京都の町中には「滋」という字を見て「ゲジゲジ(ゲジ)のようだ」と滋賀の人をおとしめる、困った人たちがいはりますね。かつては京都を日本の真ん中に据えた地理秩序というものがありました。「都の近くにある江(うみ)」=「近江」もそう。今やそうした都を敬う地理感はほぼ無くなったのに、気の毒なことに滋賀の場合、偉そうな京都人の近くにいるせいでいまだに偉そぶられている。
京都市西部の嵯峨で育ち、差別意識など全く無かった私に、より西側の亀岡を見下す意識を植え付けたのも京都の町です。そんな自分が不愉快で嫌で、でもやめられない。四季ごとに京都を案内するテレビ番組で会う滋賀県出身の歌手西川貴教さんは「京都、好きですよ」と言わはるんですよ。多分、心に秘めているだろう「くそう」という気持ちを表してくれない。京都が好きと言うてると、滋賀県知事になる時、よろしくないんじゃないですか、とも申し上げたんですけどね。
コロナ禍でどう推移しているか分かりませんが、京都市中の不動産価格が高騰し、若い人が大津近辺に家を見つけるようになったと思います。特にそういう人たちの中で、彦根や長浜に対するいわれのない優越感がまん延しなければいいなあと思います。やっぱり“都落ち気分”があるだろうし、「自分たちの方が京都に近い」と考えかねない。そういう感情を捨て、滋賀としての一体感をつくりあげてほしい。ただ、気の毒なことに滋賀固有のものは何なのか分からない。だから「琵琶湖しかない」という悪口が出てくるんやろうね。
「奥ゆかしさで損してる」さかなこうじさん
滋賀県民が誇るものは琵琶湖だけと自虐的に言いますが、近江牛に彦根城、忍者とたくさんあります。でも、奥ゆかしく前に出ない県民性と宣伝ベタなせいで損をしてますね。
歴史をさかのぼっても、平安京より古い大津宮や紫香楽宮(しがらきのみや)があったり、素晴らしい仏像がたくさんあったりしますが、どれも地味。忍者も、三重の伊賀忍者が伊賀上野城を中心に派手なイメージで観光客を呼んでますが、甲賀忍者は「忍者が書いた貴重な古文書が出た!」と、すごいんだけどディープ過ぎるし、やっぱり地味。昨年6月に運行を終えたJRのラッピング列車「SHINOBI―TRAIN」も、とてもかっこいいデザインで滋賀の魅力を宣伝できるのに、走っていたのは滋賀県内だけ。本当に忍んでどうする。もっと外に出ないと。それでも、他の忍者ゆかりの地に負けるのはいいんです。忍者とは関係がないはずの京都で忍者を売りにしたレストランがヒットすると、嫉妬してしまいますね。
比叡山延暦寺は大津よりも京都と思われていたり、京都の紅葉イベントに滋賀の名所も混ぜられてたり。滋賀は京都を意識しているけど、京都は滋賀を意識していないという前提で、滋賀のものが京都のものにされている。滋賀県民は、それも仕方ないと理解しつつ、「もう少し滋賀も見てよ、考えてよ」と、面倒臭い恋人のような心境になるんです。
コロナ禍で地方に住む良さが注目を集め、交通の便が良く、都市と自然が程よく調和した滋賀の魅力が再認識されています。刺激的なものはなくても、ゆったりとした癒やしを与えられる滋賀。うーん、やっぱり地味?
<毎日新聞より>