SSF 光夫天 ~ 詩と朗読と音楽と ~ 

◆ 言葉と音楽の『優しさ』の 散歩スケッチ ◆

秋の詩 「秋の林から」

2015-12-07 10:27:41 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」
寒い朝、爽やかな朝を迎えることができました。
冷たい空気を、今日は、太陽が暖めてくれそう(^^)


自註 富士見高原詩集(尾崎喜八)より

秋の林から

秋の林には、時おり、ふと、

なにか小鳥の声の響くことがあった。

その声は澄んだこだまを生んでじきに消えたが、

回復された沈黙はもう元のようではなかった。

或るまったく新しい感情が

そこに住んで生きることをはじめたように思われた。


そのように、林を通るしぐれもあった。

乾いた苔や下草を濡らす程ではなく、

やがて夕日に華やぐかろい木の葉を

しっとりとさせるぐらいの訪れなのに、

其処には何かこまやかな語らいがあったように

ほのぼのとした空気が醸されて残った。


そんな秋の林で見出されたさまざまな きのこが

とりどりに眼や心を悦ばせる色と形で、

畳へひろげられた白紙の上、

山荘の黄いろい燈下にぎっしりと押し合っている。


【自註】
秋の森や林から採って来たキノコを眼目に書いたのではなく、この詩のこころは初めの聯とそれに続く聯とによって語られている。小鳥の声にしろ時雨の音にしろ、それが忽然(こつねん)として消えた後に全く新しいものして生れて来る感情や、余韻として残るものの美しさを書いたのである。事実私にはこいう心境から出来た詩が少なくない。

白紙の上へ拡げられたキノコは食うための物ではなく、菌類図鑑でそれぞれの名を調べるための物だった。尤もその中の食用キノコの幾つかは結局食ったが・・・。



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