SSF 光夫天 ~ 詩と朗読と音楽と ~ 

◆ 言葉と音楽の『優しさ』の 散歩スケッチ ◆

秋の詩 「巻積雲」

2015-12-07 13:07:21 | 「尾崎喜八を尋ねる旅」
雲の種類(見出し写真)

今年の秋の初め、おもしろい雲をいろいろ撮影できた。(大阪府豊中市)
ひつじ雲  秋の初めに撮影<20150912>



西の空から雲が東の空へ駆け抜けるような、そんな雲に見えた(笑)<20150920>



自註 富士見高原詩集(尾崎喜八)より

巻積雲

赤とんぼやせせり蝶の目につく日、

家畜たちが人間に一層近く思われる日、

人が"おもいぐさ"の鴇色の花を

光りさざめく尾花の丘に見出す日、

日光は暖かく 風爽やかなこんな日を、

ああ、高原の空のかなたに

真珠の粒を撒いたようなひとつらなりの巻積雲。


その昔、階段になった教室で

音の事をならう物理の時間に、

クラドニの音響図形の実験を見た。

薄い金属の板のへりを

ヴァイオリンの弓でこすって見せる先生の、

その薄給の服が私の心を痛ましめた。

だが、指先の支点をかえるたびに

さまざまに変化する砂絵の模様を

なんと先生が美しい微笑で示したことか!


今あの空につらつらとならぶ巻積雲が

少年の日のクラドニ図形を思い出させ、

遠い昔の先生の

おそらくはもう此の世で再び見るよしもない

あの笑顔や素朴な姿をなつかしませる。


なぜならば家畜や虫や花野や空が

彼らの無常迅速の美で

なお永遠を彷彿させる

こんなにも晴れやかな瞑想的な秋ではないか。


註)"おもいぐさ"は、「なんばんぎせる」の別名。


【自註】
秋の青空の一方を美しく飾っている雲を眺めているうちに、ふと中学時代の物理の時間に或る実験をして見せてくれた先生の事を思い出して、懐かしさの余りにこの詩を書いた。

巻積雲は空の上層の現れる雲の一種で、日本では俗に「いわし雲」とか「さば雲」とか呼ばれている。高さ地上約八〇〇〇メートルと言われているが、もっと低い場合もあり、天気の変わり目に出ることが多い。しかしこの日は幸いその天気が悪化するどころか、綺麗に晴れた夜になった。この雲は四季を通じて現れるが、秋のそれは空が澄んでいるせいか最も美しく、「秋の雲とでも名づけられたよう」と言っている気象学者さえある。

その美しい雲形の模様から私が連想した「クラウド図形」というのは、円形又は方形の金属板のまんなかを万力で固定して、その上に細かい粉を振りまき、板の縁の或る一点を指で押え、他の一点をヴァイオリンの弓でこすると板が振動して音を出し、粉は節となる線の上に集まって美しい模様を作る。そしてその摩擦する場所と指で押える位置を変えると、その度にいろいろ複雑な模様が出来る。これをクラドニ図形と言って、発音体の振動の事を習う時に見せられる実験である。

その貧しげな物理の先生の服の痛みと、それに気づいた少年私の心の痛みとの思い出が、巻積雲を縁に結びついたのも、まことに瞑想的な秋のなす業であった。

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