松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆政策形成の真髄(茅ヶ崎市)

2016-01-19 | 1.研究活動

 茅ヶ崎市・寒川町の若手職員による合同研究会の発表会となった。

 3グループの発表は、いずれも興味深かったが、とりわけ地域コミュニティ団体が行う有償事業に対する課税問題は面白かった。

 この問題については裁判例(流山裁判)があり、裁判所は、課税をすることを正当とした。この判決をどのように評価するかである。 

 事件は、NPOが、利用会員に1時間800円でサービスを提供し、このうち600円をボランティアが受け取り、残りの200円は事務運営費に当てるためにNPOがもらっていた。この200円の部分が、請負業に当たるとして課税したものである。

 2004 年11 月17 日の東京高等裁判所の判決では、
① このNPOの「ふれあい事業」は、会員の主観によれば精神的交流であるが、外形的には家事等のサービスであって、客観的形態からすれば、「請負業」にあたる。
② 1 時間あたり800 円(会員に600 円、NPO側に200 円)はサービスの対価であるとして、収益事業と見なすというものだった。

 法律の解釈としては仕方がないとして、それでも弊害が出てくる。たとえば、地域コミュニティは、いろいろな活動を行っている。たとえば、高齢者孤立死を防ぐために、高齢者の様子を見る活動を行っているが、この活動では相手からお金を取れない。しかし、経費はかかる。そこで、収益事業で得た収入をこちらに回して、活動するということが行われている。

 例えばJRが、新幹線で儲けて、赤字の在来線にお金を回して、路線を維持するようなものである。これを新幹線だけ切り離して課税をするようなもので、もしそれをやったら、在来線は廃止せざるをえなくなる。

 そこで自治体で条例を作って、こうした弊害を防げないかという提案である。いくら条例でも法律を変えることはできない。しかし、適切な運用の後押しはできるのではないか。

 地域コミュニティが、儲けたお金を他の収入にならない公益活動に回していること、それをきちんと説明できる証拠があること、それをきちんと情報公開していること、それを行政が認定してあげること、こんな条件がそろったら、行政が税務署に働きかけてあげること、こんなことを内容とする条例をつくるという提案である。

 世上では、ついついAかBか、わかりやすい答えを求めがちである。しかし、それを求めたら、税務署はノーという。それに対して、税務署は理解がない、役所の努力が足りないといって非難しても、溜飲は下げることができるが、実質的には何も獲得していない。

 しかし政策作りは、もっとしたたかなものである。相手の立場を立てつつ、こちらの主張も取り入れてもらう。世の中の問題は、白黒すっぱと割り切れるものはむしろ少なく、どちらともいえるグレーゾーンーがあるので、それをうまく解きほぐして、実質的な部分を取得するのである。

 この提案では、条例というのもミソである。市民の代表である市長が提案し、市民の代表である議会がいいねと言っている。市民の総意という武器を使って、話を前に進めるのである。

 これらが政策形成の真髄であるが、研修では、こうしたノウハウや知識を学ぶことができたら、一番いいのだろう。それには、きちんと体系化して、記述が必要であるが、問題は、それをだれがやるかだろう。

 発表会には、関連部局の職員が来てくれた。質問をしてもらったが、いい質問が出て、さらに議論が深まった。

 ともかく、みんなよく頑張った。ごくろうさまでした。

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