向こう隣のクロちゃん

用事があって、向こう隣に出向いたら留守だった。
田舎のこととて、留守でもカギなんかかけてない。
飼い猫のクロちゃんが、律儀に戸口に出てきて、ご挨拶してくれた。

クロちゃんは、今年で２３歳のおばあちゃん猫、いたって元気。
隣のお兄ちゃんが小学生だった頃に、近所で生まれた子猫をもらってきたのだ。
家族は「お兄ちゃんの猫」と呼んでいた。
甘え上手で、あたしにまで「すりすり・・・」してくれる。
じっと見上げて、なにやら「なー、なー！」訴えてくる。
ふと見たら、えさ入れがからっぽ。
横の棚にあったキャットフードを勝手にあげたら、喜んでもしゃもしゃ食べてくれた。
健康そのもの、の食欲に、思わず笑顔になってしまう。

当の飼い主であるお兄ちゃんは、学校を出て結婚して、もう実家には居ない。
連れていったら？とおばさんは言うのだそうだが、猫は住み慣れた家から出さない方がいい、と
絶対に連れていかないのだ、と、苦笑しながら教えてくれたっけ。

若い頃に比べれば、毛並みも艶が失せて、少しばさばさしてきているけど、まだまだ大丈夫だね。

あんたよりも若かった、うちのクッキーねぇ、こないだ亡くなったのよ。
背中をなでながら、問わず語りに言葉にしてみた。
クロちゃん、ふっと食べるのを止めて、あたしの顔を見上げていたが、小さく「にゃ。」
と鳴いた。お返事してくれたのね、ありがとね。
なんということもないのに、涙がぽろっとこぼれた。

クッキーは、亡くなる三年ほど前から、薄くなってへろへろになって、歩くと風に吹かれているみたいに
あっちによろろ、こっちにへろろ、となったっけ。
背中なんか、背骨の標本みたいになって、でも、内蔵は悪くないから、元気だったんだよ。

クロさんは、元気で長生きできて、幸せだね。
いっぱい甘えて、もっとずっと長生きしてね。
そう、声をかけたら、今度は振り向かずに、しっぽで「ぱった、ぱった。」と二回、
お返事してくれた。

猫ってさ、絶対に人間の言葉が通じている、と思うよ。
クロさん、お留守番、ご苦労様ですな。（＊＾。＾＊）