日々是迷走中

まったく同じ名前のブログがあるけど、gooのがあたしの。
自称永遠の八歳。
ただし他称、宇宙人。

一年がたった 震災翌日

2012-03-14 02:18:49 | 非日常
蕪島の様子で、鈍いあたしにも、ようよう「これは尋常では無い事態だ」ということが飲み込めた。
今までは「信じられない」「何かの間違いだ」と、無理矢理に、思い込もうとしていたのだ、と
今更ながら気がついてしまったのだ。

妹も、顔面蒼白。
しっかりと目を合わせ、二人とも無言のままで、うなずく。
ともかく、一刻も早く、いとこの家に行かなければならない。

それからは、どこをどう走ったのか、まったく記憶に無い。
知らない坂道を走ったり曲がったりしたような気がするが、もうそんなことは「どーでもいい」こと。
鳥が故郷を目指すように、いとこの存在を空気で感じて走った、というのが
たぶん、一番正確だろう。
おかしな言い方だが、そうとしか思えなかった。

いとこの家は、鍵がかかっていなかった。
かまわず「入るよ~」と、ずかずか上がったら、夫婦二人は、肩を落としてこたつに座っていた。

  あれ?電気、来た?

  ・・・こない。

  こたつ・・・

  あぁ。座るとこ、ないから。

なんか、間抜けな会話を交わしながら、何から言ったらいいのか、考えていた。
妹が、単刀直入に尋ねた。

  浜が、ひどいことになってるけど。

いとこは、やっと、というようにこちらを向き、涙目で答えた。

  あの地震のあと、なぁ。津波が来たんだよ。

・・・・つ、 と声に出して、あとは飲み込んだ。

なんですと?津波?あの、海が盛り上がるという、津波のことか?
頭の中で、疑問形が渦巻いている。声が出ない。

とたんに、いろんなことがぐるぐると回転し、ぴたっとつながった。
あの車も、船も、破れたシャッターも、道路の家も、津波のしわざ。

立ったままだったのに気がついて、腰を下ろそうと思ったのだが、
実際はかっこうわるく「へたっ」と座り込んだ。

  母さん(伯父の嫁さん)の実家、なァ、・・・・流れてしまった。

あ。下の方にあったっけな、そういえば。

いとこの家は、高い丘の上にある。
昔の集落は、浜に近い方にあるのだ。
年寄りたちは、みんな、そっちに暮らしている。
みんな、海が好きで、海の近くに居たがるのだ。
波の音が聞こえないと、夜、眠れないと笑ったもんだ。

  ・・・・みんなは、無事?

やっと開いた口からこぼれた声が、かすれた。

  うん。みんな、逃げた。
  逃げたけど、思ったよりも大きくて、な。

いとこの声が、ぐわんぐわんと揺れて耳の中で遠くから響いてくるように聞こえた。

ここいらは、地震が多い。
津波警報も、しょっちゅう出ている。
警報が出ると、わざわざ浜まで出て、見物する輩も、けっこう多い。
だけど、今回は違ったという。

  引き波がさ。やたらで。

こりゃ、まずいんでねぇが?てことになって、逃げたんだという。
年寄りには、昔の三陸大海嘯の言い伝えが生きている。
あたしらも、育つときに耳にたこができるくらい、聞いたもんだった。


引き波が大きい時は、命だけ持って、遠くに逃げろ、高くに逃げろ。
隠れてないで、とにかく走れ。息が続く限り、走れ。
見物なんかはしなくていい。後ろを見たら、引っ張られるぞ。
井戸が濁ったら、そこには波が来る。
何も考えずに、走って逃げろ。

引き波の時は、浜に貝や魚がいっぱい見えるんだと。
それを採りに行ったひとは、みんな死んでしまったそうだ。
死体が、防風林の枝に、あっちにもここにも、というふうに引っかかっていた、そうだ。
砂に埋もれていた人たちも居たそうだ。

波は、足を引っ張るから、捕まったら負ける。
とにかく、振り返らずに走れ。



その教えを、しっかり守って、みんなは逃げた。
明るい時間だったことも、幸いした。

(本当は、逃げ遅れて死んだひとも1人居たのだが、そのときは知らなかった。)
ともかく、お互いの無事を喜んだのだった。

そして、気付く。
この大きさの津波だとすると。

宮古の兄姉は?いとこたちは?伯父、叔母は?
釜石のいとこ夫婦は?
大船渡のおじさん一家は??

電話は通じない。電気も来ないから、パソコンで検索もメールもできない。
無線も通じない。

どうしよう。。。。。

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