10月17日(日)ヘルベルト・ブロムシュテット 指揮 NHK交響楽団
《2021年10月Aプロ》
東京芸術劇場
【曲目】
1.ブラームス/ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.Op.77
【アンコール】
♪ バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ長調 BWV 1006~ルーレ
Vn:レオニダス・カヴァコス
2.ニルセン/交響曲第5番 Op.50
1年半以上待ち焦がれたアーティストの来日公演が続くが、今日は94歳の巨匠ブロムシュテット翁が、元気な姿でN響定期の指揮台に立った。
前半はブラームスのヴァイオリン協奏曲。ソロのカヴァコスも1年前のリサイタルのチケットを購入していて来日が叶わなかったアーティスト。ブロムシュテットは指揮台にしっかりと立ち、ブラームスの豊饒な前奏がダイナミックに始まった。
初めて聴くカヴァコスのヴァイオリン、伸びやかで力強く、野性味に溢れていたる。均整の取れた四肢が美しく躍動する肉食動物の狩りのシーンとか、短距離のアスリートの走りが浮かぶ。第2楽章では青山さんのオーボエをはじめN響の管楽器の妙技とともに、柔らかで美しいヴァイオリンが心に沁み、第3楽章は血気盛んな民族的なダンスが繰り広げられているようで心が躍った。
アンコールは一転して静かな世界。一人スポットが当たるダンサーの、指の先端まで神経を行き渡らせ、繊細で優美な、生き生きした踊りを観ているよう。ピュアで温かな音色も絶品だった。カヴァコスのバッハがもっと聴きたくなった。
ニルセンは極めつけの名演となった。第1次世界大戦の不穏な空気を反映したというこの音楽から、張り詰めた深刻な空気のなか、恐怖や不安、絶望といった人間の負の感情がたぎり、鮮血が迸るリアリティに圧倒される一方で、豊かな情感を湛えた深い祈りの美しさも例えようがない。これは、楽曲への深い理解と共感を伴ったブロムシュテットとN響が、驚くべき精度と集中力でエネルギーに満ちた演奏を行った賜物だ。
第1楽章終盤での竹島さんのスネアによる「これでもか!」と傷ついた心と体を更に情け容赦なく痛めつける常軌を逸した狂気の演奏や、それを慰め、癒すように心のヒダにじんわりと入り込み、全身に染み渡る松本さんのクラリネットの見事な表現力と極上の音色など、個々のプレイヤーの卓越したパフォーマンスも演奏の完成度を一段と高めた。
そしてアンサンブルのクオリティの高さ! テンションが高まりオケ全体が高らかに響き渡るときの音色の特異なほどの輝きが胸にグワワンと迫ってきて心臓が高鳴った。これは単なる感動ではなく、作品が抱える根源的な痛みや不条理への怨念に突き動かされ、極限状態まで追いつめられた胸の高鳴りだ。
音が鳴り止んでからしばらく沈黙に続き、3階の上方までびっしり埋まった満席の客席からの凄いヴォルテージの拍手が沸き起こり、ブラボーの声もかき消されるほど。席を立つ聴衆も殆どいない。やがて一斉のスタンディングオベーションとなった。
2時間の演奏会を支えもなくずっと立ち続けて指揮をして、こんなにも鬼気迫る演奏を聴かせてくれたブロムシュテットに老いは全く感じられない。これからもN響との共演を重ねて、ブロムシュテット/N響の歴史に新たな感動のページを加えていってほしい。
ブロムシュテット指揮N響:モーツァルト/ハ短調ミサ(2019.11.22 NHKホール)
ブロムシュテット指揮N響:「英雄」「死と変容」「タンホイザー」(2019.11.7 サントリーホール)
ブロムシュテット指揮N響:「田園」&ステンハンマル(2018.10.25 サントリーホール)
N響公演の感想タイトルリスト(2017~)
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♪ バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ長調 BWV 1006~ルーレ
Vn:レオニダス・カヴァコス
2.ニルセン/交響曲第5番 Op.50
1年半以上待ち焦がれたアーティストの来日公演が続くが、今日は94歳の巨匠ブロムシュテット翁が、元気な姿でN響定期の指揮台に立った。
前半はブラームスのヴァイオリン協奏曲。ソロのカヴァコスも1年前のリサイタルのチケットを購入していて来日が叶わなかったアーティスト。ブロムシュテットは指揮台にしっかりと立ち、ブラームスの豊饒な前奏がダイナミックに始まった。
初めて聴くカヴァコスのヴァイオリン、伸びやかで力強く、野性味に溢れていたる。均整の取れた四肢が美しく躍動する肉食動物の狩りのシーンとか、短距離のアスリートの走りが浮かぶ。第2楽章では青山さんのオーボエをはじめN響の管楽器の妙技とともに、柔らかで美しいヴァイオリンが心に沁み、第3楽章は血気盛んな民族的なダンスが繰り広げられているようで心が躍った。
アンコールは一転して静かな世界。一人スポットが当たるダンサーの、指の先端まで神経を行き渡らせ、繊細で優美な、生き生きした踊りを観ているよう。ピュアで温かな音色も絶品だった。カヴァコスのバッハがもっと聴きたくなった。
ニルセンは極めつけの名演となった。第1次世界大戦の不穏な空気を反映したというこの音楽から、張り詰めた深刻な空気のなか、恐怖や不安、絶望といった人間の負の感情がたぎり、鮮血が迸るリアリティに圧倒される一方で、豊かな情感を湛えた深い祈りの美しさも例えようがない。これは、楽曲への深い理解と共感を伴ったブロムシュテットとN響が、驚くべき精度と集中力でエネルギーに満ちた演奏を行った賜物だ。
第1楽章終盤での竹島さんのスネアによる「これでもか!」と傷ついた心と体を更に情け容赦なく痛めつける常軌を逸した狂気の演奏や、それを慰め、癒すように心のヒダにじんわりと入り込み、全身に染み渡る松本さんのクラリネットの見事な表現力と極上の音色など、個々のプレイヤーの卓越したパフォーマンスも演奏の完成度を一段と高めた。
そしてアンサンブルのクオリティの高さ! テンションが高まりオケ全体が高らかに響き渡るときの音色の特異なほどの輝きが胸にグワワンと迫ってきて心臓が高鳴った。これは単なる感動ではなく、作品が抱える根源的な痛みや不条理への怨念に突き動かされ、極限状態まで追いつめられた胸の高鳴りだ。
音が鳴り止んでからしばらく沈黙に続き、3階の上方までびっしり埋まった満席の客席からの凄いヴォルテージの拍手が沸き起こり、ブラボーの声もかき消されるほど。席を立つ聴衆も殆どいない。やがて一斉のスタンディングオベーションとなった。
2時間の演奏会を支えもなくずっと立ち続けて指揮をして、こんなにも鬼気迫る演奏を聴かせてくれたブロムシュテットに老いは全く感じられない。これからもN響との共演を重ねて、ブロムシュテット/N響の歴史に新たな感動のページを加えていってほしい。
ブロムシュテット指揮N響:モーツァルト/ハ短調ミサ(2019.11.22 NHKホール)
ブロムシュテット指揮N響:「英雄」「死と変容」「タンホイザー」(2019.11.7 サントリーホール)
ブロムシュテット指揮N響:「田園」&ステンハンマル(2018.10.25 サントリーホール)
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