JWD(ジョン・W・ダワー)本当に動乱の時代です。
2012年の秋ごろから、
日本・中ごく・北朝鮮を
巻き込んだ出来事が、
米国を引っ張り込み
アジアを混乱のなかに
投げ込むような恐ろしい
武力衝突のごときもののへの
引き金になるかもしれない、
そのような現実の恐怖を、
私たちは目の当たりにしてきました。
けれども、
このような危機の時代はなにも
新しいものではありません。
少し距離を置いて、
第二次世界大戦の終わりと
冷戦の始まり以降のアジアの
大きな構図を見れば、
こうした緊急や危機は
お定まりの現象だという
ことがわかります。
今日の状況で新しい
こととは何でしょうか。
GM(ガバン・マコーマック)何もかもが新しい。
あまりにも多くのことが
変わっています。
そして、ひとりの人間の人生という
比較的短いタイム・スパンに
限ってみても、
私たち二人は波乱に満ちた
出来事をどれほど目撃してきたことか。
スペインの内戦が戦われていた時期に生まれ、
第二次大戦と朝鮮戦争の時代に
子ども時代をおくった。
大人になってからはベトナム・
インドネシアからアフガニスタン・
イラクへいたる戦争が起こり、
そして核兵器による
人類滅亡の脅威さえも
感じられた。
これらの記憶は消し去る
ことができません。
これらの出来事を私たちは
歴史家として整理するいっぽう、
人間が歴史から教訓を汲みとり、
私たちの子孫や孫が
平和のうちに生きることが
できるようになる兆(きざ)しが
生じることを心待ちにしてきました。
しかし、その(平和の)兆しは
有るとも無いとも言えません。
変化の時を迎えていますが、
良い方へ向かっているのか、
悪い方へ向かっているのか、
答えを出すには早すぎます。
私たちが現在を理解するためには、
もっと長い目で物事を見る
必要があると考えています。
植民地主義と冷戦の時代、
つまりヨーロッパとアメリカが
支配的であった200年ほどのあいだ
アジアを翻弄(ほんろう)した潮流は
後退しつつあるという現実があります。
米国は凋落(ちょうらく)し、
中ごくが台頭していることは、
短期的には深刻な対立を
生み出すでしょうが、
長期的には(マルクスが予見
したように)
経済が政治を根底から
変革していくことは確実です。
欧米列強による帝国主義の時代の前夜、
1820年ごろ、
アジアは世界の国内総生産(GDP)の
およそ半分を担(にな)い、
世界の中心であったのですが、
今また当時の地位を
回復する方向に動いています。
今日、アジア経済は統合され、
大衆文化の自由で
多方向な交流が盛んですが、
歴史やアイデンティティ、
価値観を共有するまでには
いたっていません。
1951年から52年にかけて
形づくられたサンフランシスコ体制に
関係した決定事項や構造が、
今ではアジアの地域的統合にとって
障害物になっています。
サンフランシスコ体制成立当時、
米国は世界のGDPの約半分を占め、
軍事力の面でも、圧倒的な支配力を
持っていました。
朝鮮半島は戦争の渦中にあり、
中ごくは内戦直後の分裂状態で、
日本は戦後の疲弊(ひへい)状態にあり、
アジアの多くの国々では
植民地体制が依然(いぜん)継続、
あるいは今まさに崩壊(ほうかい)しつつある、
といった状態でした。
60年後、東アジアは
世界成長のカギを握る
経済の中心として、
中ごくと日本は世界第二、
第三の経済力を誇っています。
まもなく、両国は
一位と三位になることが確実です。
(この書籍は2014年(平成26年)1月10日
第1版発行)
アジアが帝国主義時代以前に
世界の中心であった地位を
回復しようと動いている時、
❇️安全保障、
環境、
エネルギー問題が
共通のものだという認識が広まり、
❇️イデオロギーの違いも
小さくなりつつある。
💀しかし、軍備の拡張はつづき、
軍事衝突も、
絶対ありえないというには
程遠い有様(ほどとおいありさま)です。
米国は抜群に傑出した国ですが、
イラクやアフガニスタンで始めた戦争で
勝利を得られず、
また国際法上の責任を
とることを拒否し、
拷問や無差別な勾留(こうりゅう)や
殺戮(さつりく)に目をつぶり、
道義(どうぎ)という点でも
信用を失ってしまいました。
しかし、あらゆることが変革して
いるなか、
冷戦の高揚期(こうようき)に作られた
安全保障の基本構造は
もはや時代錯誤(じだいさくご)で
壊れかけているのに
旧体制のままです。
ここ数十年のあいだに、
世界は1970年代から
80年代始めにかけて
驚異的な「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」現象に眼を丸くし、
💀中ごくの奇跡的な成長に
驚嘆しています。
その驚きは、
💀これが地域や世界の秩序を
根本から変える、
💀不確実でおそらくは危険な時代に
入ったという不安感がつきまとう
ものでした。
早晩(そうばん)、
「チャイナ・アズ・ナンバー・ワン」
と宣言する者(👨人、
習●平氏⁉️)が出てくることは
間違いありません。
日本は1990年には、
世界のGDPの15%を占めていましたが、
それが2008年には10%以下に落ち込み、
2030年には4.2%、
2060年には3.2%になると
予想されています。
対照的に
OECD(経済協力開発機構)の予測では、
1990年に世界のGDPの2%であった
中ごくが、
2030年には27.9%、
2060年には27.8%に
達するといわれます。
この相対的な経済の比重の変化は、
おそらく何よりも
日本と米国に影響をおよぼすでしょう。
半世紀以上にわたってアジアは
太平洋の戦略状況を規定してきた
「パックス・アメリカーナ」は
こうした変化によって
かつてない挑戦を受けています。
問題は、
米中、
日米、
日中、
日韓、
日朝
における緊張がどのように
🌕️制御され、
🌕️解決されるか
ということです。
おそらくカギになるのは、
🌕️日本と中ごくという
アジアの二人の巨人が、
忌(い)まわしい歴史の記憶、
猜疑心(さいぎしん)、
恐怖をひとまず(わきに)おいて、
❇️協力することを学び、
❇️友好関係を作るという難問を
克服することにかかっていると思います。
(👨それは重々わかっているけれど……)
それと、核兵器の問題があります。
1951年には米国が保有しており、
ソ連も入手したばかりでした。
今では国連安保理常任理事国が支配的である「世界核クラブ」(👨核に軽率にクラブなんて名前を付けて‼️ゴルフクラブじゃないんだぞ‼️)が存在し、
そのメンバーは軍縮について考えることさえ拒否し、
💀安全保障は核爆弾にかかっていると信じて疑いません。(👨愚かだなあ。)
💀核クラブのメンバーでない他の国々も
核兵器を作ってこのクラブに入会しようと
並々ならぬ努力を払っている。
北朝鮮はそうしたグループの顕著な例です。
今日(こんにち)確かなのは、
米国、
中ごく、
ロシア、
北朝鮮
であろうと、
それらの核兵器がもたらす
脅威に向き合うまで
北東アジアにとって
安全はありえない、
ということです。
(👨脅威にどうやって
向き合うの⁉️)
そのようなわけで、
今日、「サンフランシスコ体制」は
中ごく問題であり、
日本問題であり、
朝鮮半島問題であり、
米国問題なのです。
(👨つづく(p.242))
📖『転換期の日本へ
「パックス・アメリカーナ」か
「パックス・アジア」か』
ジョン・W・ダワー、
ガバン・マコーマック[共著]
明田川 融、吉永ふさ子[訳]
NHK出版新書423
戦後日本の
光と影を見つめ、
緊迫する東アジアの
未来を見通す書❗
世界的大家(たいか)から
日本へ提言。
ジョン・W・ダワー
1938年生まれ。
マサチューセッツ工科大学名誉教授。
著書『吉田茂とその時代』(中公文庫)、
『敗北を抱きしめて』『忘却のしかた、記憶のしかた』(岩波書店)など。
カバン・マコーマック
1937年生まれ。
オーストラリア国立大学名誉教授。
著書『空虚な楽園-戦後日本の再検討』
(みすず書房)、『属国-米国の抱擁(ほうよう)とアジアでの孤立』(凱風社(がいふうしゃ))など。