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八つちがいの、馬鹿なオレ、の、姉。

姉は癌と、闘っていた。


西洋医学、

癌を、カラダから、物理的に、切り取る外科的治療。

抗ガン剤、

食事療法、

東洋医学、

フィリピンでの、

信頼されるスピリチャルな先生の治療。



彼女は、

自分で、勉強し、

自分の頭で考え、

自分が信じることができる、あらゆる方法を試みた。


癌になった姉を、癌と闘っている姉を、置いて、

その自分の我が娘をも、置いて、

オレの義理の兄、つまり、姉の旦那は、

昔の女と、どこかに消えた。



そういう生き方もあるだろう。

姉には、悪いが、

そういう生き方もあると、

オレは、冷静に、その男のことを、

強くは、肯定は、できないが、

強くは、否定を、できなかった。



たぶん、その当時、その男に出会っても、

拳(こぶし)も、言葉も、でなかったと思う。

ただ、目を閉じ、

あわれみの表情を、浮かべただけかも知れない。


そのなかでも、

姉は、ひたすらに、ひたむきに、癌と闘った。



生きるということを、

彼女は、馬鹿なオレに、教えてくれた。


馬鹿なオレは、

ネズミのプロダクションから、

落語に、逃げながらも、

姉のいる病室にも、通っていた。



プロダクションから、らくご してからは、

プータローという、入金のない職業に就き、

副業として、

毎朝、姉の食べたいものをたずね、

その食べ物を買い物をして、

病室に届ける仕事に就いた。



姉を観ていたオレは、

癌を、なくすんじゃなくて、

なぜ、医学は、癌との共棲の道を探らないのかと、

思った。

癌だって、棲み家を、失くせば、

自分の居場所がなくなるわけで、

癌に、そのことを、教え込み、進化させ、

転移して、殖やして、

棲み家を失くす愚かな行為に、抑制する方法を。

最先端では、温存療法って、

もう、この発想で、

進んでいるんでしょうが。

癌に、そのことを、伝える、言語を、薬を、探して、

研究中、開発中ってことなのか。

まだまだ、

癌の攻撃的な、

自我の強い増殖行為の方が、目立つようだ。

薬も、激しい副作用が、多いようだ。

 


姉は、突然、オレに、

「いま、なにが、一番、したい ?」と訊ねた。

 


突然すぎて、

コトバを探していると、

 

姉は、

「仕事が、したいッ」と、大きな声で、宣言した。

プータローのオレには、

耳にも、こころにも、痛い宣言だったが、

病室のベットの上で、

孤独に、癌と闘い、長く過ごしていると、

家族ではなく、他人(ひと)様に必要とされるような、

仕事という、

社会に参加したくなるものなのかと思った。



彼女らしいと思ったが、

その言葉で、

馬鹿なオレは、つまずきながらも、働いて、

いまも、こうして、生きている。


ヒトの死の間際というものは、

不可思議なことが、起こる、ものだ、

その事を、知らされた。



モルヒネで、痛みを抑えていた。

もう、昏睡し、ゆっくり、衰弱し、

死に、近付きつつあると思われていた。



モルヒネが、効いているはずなのに、

昏睡状態から意識が戻りつつあった。

だが、意識は、混濁し、

意味不明な、断片的な、言葉を、

次から、次へと、発していた。



走馬灯のまわる出来事のなかで、

現れてくる人たちと、

うわごとのように会話をしていたのだろうか。

 


ところがだ、仕事に追われ、

姉にも、仕事を優先するように、と含まれていた、

姉の娘が、仕事場から駆け付け、

ベットの脇に寄り添った。



姉の娘が、姉の手を握り、しばらくすると、

姉の意識が戻ってきて、

母や、姉の親友、そばで見守っていた、

オレたちと、姉は、短い会話をした。



最後は、姉と、姉の娘のふたりを、病室に残し、

オレたちは、外にでた。



姉の娘が、いよいよ、と思い、

ドクターとオレたちを、呼んだ。



これが、姉との、別れとなった。



みんなと、最後の別れをした、姉は、

優しい、穏やかな、笑顔のような顔だった。


ドクターも、

医学的にも説明がつかない、不可思議な、

こういう、出来事が、たまに、あると言った。



律儀な、姉らしい、最後だった。



オレの先祖からの実家の墓は、

オレが、一族、最後の一匹なのだが、

20年以上も前に、父も亡くなり、

母が、ひとりで、最近、苦労の末、全てを処分した。


姉のなきがらは、

浄土真宗の家に生まれ、

キリスト教で、結婚して、

キリスト教で、葬儀をし、

再び、都内の、なんの縁(ゆかり)もないが、

たまたま、浄土真宗で、宗派問わずの、

合同廟のなかで、眠っている。



娘の意向で、戒名も無く、姓もなく、

ただ、

名前(俗名というのも価値観が付くから、名前とした)

と、没年月日だけが、明記されている銀色のプレート。



数々の、戒名、姓名の書かれた、

銀色のプレートたちの中に、囲まれて、

姉のプレートだけが、ひと際、目立っている。



目立つことには、照れているんでしょうが、

これも、娘の意向ながら、

姉らしい、のかも知れない。


オレが生まれて、姉とは、八つ違いだったが、

姉が、亡くなる際(きわ)まで、

オレと姉とは、八つ違い、だった。



もう、そろそろ、

馬鹿なオレは、姉の歳に近づき、

馬鹿なオレでも、

姉の歳を越えていく事になるんだろう。



母を残して、

先に逝った姉は、親不幸になるのだろうか。

残った、馬鹿なオレに、

親孝行などという、ことが、出来るのだろうか。



「親孝行したいときには 親はなし

 墓に布団は 着せられず」

 

小津安二郎『東京物語』で、知った言葉だ。



姉も、先に逝かなければ、

馬鹿なオレは、

無責任な駄目な弟で、頼りない息子として、

映画な中の、台詞(せりふ)として、

すんでいた言葉だ。



姉貴よぉ、

たまには、また、

生きるということを、教えてくれないと、

馬鹿は、死ななきゃ、治らなねぇン、だからなぁ。



もう、いい歳なんだから、

馬鹿は、馬鹿なりに、自分の頭で、考えなさいって、

そう、姉に、諭されそうだ。



ホントは、
オレって柄じゃないんだけどね。

 

 

馬鹿なオレ、の、姉。

鬼籍に入る。

 

 

 

初出 17/09/30 04:01 再掲載 一部改訂

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あの社会人時代の、馬鹿なオレ。子守するほう、の。( 摸摸具和の7 )別離

エゾモモンガが、

尻尾を出さないまま、

4日が過ぎた。



そして、

5日目、思いきって、

山奥育ちの、へなちょこ精鋭撮影作業部隊の、

隊長プロデューサーの勘で、

時間を早めて、明るい15時から、

準備をして待つことに作戦を変更した。



準備中、16時過ぎに、

なんと ‼︎

はじめて、オレたちの前に、

エゾモモンガが、

姿を現した。



見事、隊長、作戦、成功 ‼︎



へなちょこ精鋭撮影作業部隊は、

お前、やっぱり、ここに、いたんだ、ね、って、



驚きと、感動と、涙目と、安心と、

これからの希望を、味わう、いとまもなく、

オレたちは、椅子から転げ落ちた。



はじめての、エゾモモンガは、いきなり、

照明を運ぶ、オレの肩に、飛んで来て、

一瞬、乗って止まった、のだ。



オレたちは、

転げ落ちた、椅子を、探したが、

余りにも、驚いたので、

あるはずもない妄想の椅子よりも、

眼の前のエゾモモンガの、

その後の行動に、釘付けとなった。



エゾモモンガは、上空から、滑空することは出来るが、

平地から、飛び立つことは出来ないようだった。

 


オレの肩から、樹に飛び降り移り、

その樹を、素早くよじ登って、滑空して、

まだ、明るさの残る、森の奥に、

軌道を残して、消えて行った。


エゾモモンガにも、

ワカッテシマッタノカ、

馬鹿なオレが、

ニンゲン界より、どうぶつ界への近さを。



イヤッ、どうぶつ界でもない、せいぶつ界への近さに、

(生物、静物、性物……… 、)

ちょっと、おちょくってやろうと思う、

下等性を、感じとったのか。


この日を境に、

15時には、スタンバイして、

撮影に臨んだ。



夜行性といわれるエゾモモンガたちは、

16時過ぎには、

つがいと、その子どもなのだろうか、3匹、

次々と、30分位の間に、樹を駆け上がり、滑空して、

決まって、同じ方角の森に消えて行った。

そして、

19時頃から遅くても21時の間には、

消えて行った方角から、

次々と、巣穴に戻ってきた。

 

撮影用に、

調教されているかのようだ。



その後の3日の間で、

飛び立ちと、巣穴に戻るチャンスを、確実に撮影した、

と、判断した、

オレたちは、一旦、撮影を終了することにした。



東京に戻って、フィルムを現像して、ビデオ素材と

編集が成立するかどうかを検証し、

今後の動向を考えようという事にした。



そして、

今回の撮影素材で、

無事、編集することが出来た、と判断した。


おかげさまで、

なんか、賞を、頂いたようだ。



表彰状と、楯(たて、トロフィー)を、

見せられただけで、

昇給も、金一封も、

祝福のねぎらいの食事会もなかった。


そんな、モノが、あっても、

オレは、授賞への特別な感慨は、無かっただろう。



できあがって、編集された映像に、

達成感を、感じていなかった、から、だ。



現場にいたオレには、

あの丘の、エゾモモンガたちなら、

へなちょこ精鋭撮影作業部隊のオレたちにも、

カメラの位置も変えて、別のアングルでのショットも、

期待できたはずだし、

もっと、素晴らしく、驚くような、

映像を、与えてくれたであろう。

そんな想いも残っていたから、だ。



すべては、大人の事情、

なんとか賞を、頂いて、

大人たちだけで、満足したんだ。


結局、オレが、頂いたのは、

寒さを凌ぐために、アゴの下や、

腹のまわりの、カラダに溜め込んだ、

脂肪分だけだった、のか。

 



北海道のアイヌ民族たちは、

エゾモモンガを「子守する神」として、

信じているそうだ。

 


大人に、上手くなれない、

馬鹿なオレは、子守する神に、遊ばれたことが、

なによりの宝であった、

グレイス、恵み、だったんだ。


どうなんだろう、あの時の神さまは、

まだ、

あの「うろ」で、生きているのだろうか。

それとも、

引っ越しを、してしまったのか。

そして、

世代交代を、しているのだろうか。

そもそも、

あの丘の森は、残っているのだろうか。


モモンガ、

当て字で「 摸摸具和 」と、書くそうだ。



そのホントの意味を、オレは、知らない。


それ以上に、

エゾモモンガは、

夜行性で日中は樹洞等に潜む、と云うけれど、

ニンゲンが、勝手にいう、夜行性と、

エゾモモンガが、実際に、行動する、夜行性との、

ギャップだったのか。



それとも、

いつもの、行動時間を、

照明で、人工的に、明るくされての、

余儀なくされた、時間差行動、だったのか。



エゾモモンガが、ニンゲンの身勝手で、

静かな夜の暗闇だった森を、

騒がしく明るくされたことに、

どう、感じていたのか、

 

肩の上に、止まって、喜んでいる、

馬鹿なオレには、まったく、知ることは、出来ない。

 

 

天人峡にも旭川にも別れを告げ、

エゾモモンガとも別れ、

へなちょこ精鋭撮影作業部隊は解散し、

その所属した会社も、その後、倒産し、

皆んな、みんな、解散した。

 

オレは、エゾモモンガから、

その後、「ネズミの穴」のプロダクションに移った。

 






ホントは、
オレって柄じゃないんだけどね。

 

 

「撮影終了!」、

クランクアップ、お疲れ様でした。

 

初出 17/10/19 06:08 再掲載 一部改訂

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あの社会人時代の、馬鹿なオレ。子守するほう、の。( 摸摸具和の6 )

撮影作業開始、3日目に、

代理店のクリエイティブの担当者が、

ふたり、陣中見舞いに、

現場にやって来た。

 



このために、東京で買ってきたのだろう、

お揃いの暖かそうな

高級なダウンジャケットとダウンパンツに、

身をまとっていた。



オレらは、4人いたから、不公平になると思ったのか、

見すぼらしい格好のオレたちを横目に、

ダウンジャケットを置き土産にはしないで、

「モモンガ、でるといいよね、

 風邪ひかないように、頑張ってね」って、

他人事のように、軽いコトバと、

日本酒、一升瓶、1本だけを置いて、

サッサと、待たせていたタクシーで、

現場から立ち去って行った。



誰が、

カネを握ってるんだ、

おいッ。



そうです、クライアントの企業様から、

代理店様で、トップオフ、搾取され、

(駄目だって、「搾取」なんてコトバを、

簡単に、使ったら。

階級関係があって、余剰価値が産まれて、

彼らは、何もしていないようじゃない。

イヤイヤ、そもそも、

付け焼き刃は剥げやすいンだから、

知ったかぶっても、恥を晒すだけ、だよ。

なんか、使ってみたかった、だけだよね。

そんなに、ダウンジャケットが、

着たかったんだって、気持ちが伝われば、

それで、いいんでしょ。)



それから、

オレたちの会社の利益分を、差っ引いて、搾取され、



(駄目だって、「搾取」なんてコトバを、

よく理解もせずに、使ったら。

付け焼き刃は剥げやすいンだから、

知ったかぶっても、恥を晒すだけ、だよ。

「搾取」って、

ぶんどられるような、コトバで、

畜生、なんで、あいつらが、

ダウンジャケットを着て、

現場で、四苦八苦している、

オレたちが、ドカジャンなんだよォ、って、

そんな気持ちが伝われば、

それで、満足するんでしょ。)



この現場に、チャリンと、落ちて来ているんです。



この現場で、

カネを握ってるのは、

駆けだし、頼りにならない、なんでもやります、

プロダクションマネージャー、

いや、雑用係のオレではなく、

照明作業マン、兼、プロデューサーです。


彼らに、高級なダウンジャケットが入手出来ても、

オレたちには、ドカジャンが、精一杯と、

照明作業マン、兼、プロデューサーが、

算盤を弾いて、判断したのだ。



なぜなら、

彼ら、陣中見舞組は、

往復の航空運賃

1泊分?の旭川のホテルの宿泊代と食事代

現場までの往復のタクシー代

と、余剰価値分

(遊興費と、捉えてください。当然、誤用です。)

すべて予算が読めるのだ。



終わりが、見えない、と、いうことは、

予算配分を、そう判断させる、ということだ。


何も、撮影の現場に、限ったことでは、ないでしょう。

あらゆる予算配分について、

万国共通することと、思えるんです。

世の中、世界、世間を、見渡せば、です。

 

財源から、そんな名目で、

打ち切られたり、計上さえされない、

必要と思われる、予算も、

いくらでも、あるでしょう、が。




物見遊山の、数分の滞在費を、こっちに廻せよ、

それで、オレたちは、

ダウンジャケットと

ダウンパンツで、

作業員から、撮影スタッフに、

変われるという、理屈もあるは、あるんだが。

彼らとしても、

どんな現場かを見て、知っているという事実を、

クライアント様のご担当者様に、

ご報告するお役目が、

お有りになるんで御座いますんですよ。

ビジネス、

ミッション、

お仕事 です。



現場に、何日も滞在した、ということで、

札幌のすすきのに、寄って、

美味いもん喰って、遊ぼうが、

牧歌的な時代には、

窺い知れないことで御座います、ですよね。

 

 

 

 

「フィルムチェンジ!」と、

次のロールに、撮影はつづきます。

 

初出 17/10/17 03:22 再掲載 一部改訂

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あの社会人時代の、馬鹿なオレ。子守するほう、の。( 摸摸具和の5 )

ほんとうに、

この丘の森の、

この樹の「うろ」の中に、

エゾモモンガが、

いるのだろうか。



環境の変化で、臆病に、警戒しているのか。



すでに、根城を、移しているんじゃないだろうか。



プロデューサーが、

タレコミ料を、ケチったんじゃないだろうか。



動物カメラマンは、

本当の居場所を教えるために、

一旦、がせネタで、再度、本気の情報料を、

請求しようとしているんじゃないだろうか。



疑心暗鬼で、自己崩壊しそうになった、

馬鹿なオレは、あれやこれやと、愚想した。




翌晩は、早めの16時頃、旅館で、

ゆっくり食事を摂って、

小一時間をかけて、

現場に向かった。



寒さに耐えるため、

頼りないドカジャンのほかに、

カラダの中に、脂肪を溜め込もうと、

旅館の食事には、

脂やバターを、多めに使って欲しいと、注文をした。

愚かな防寒対策。



セッティングは、昨日、苦労して、

一度でも、かたちが、出来ているから、

初日より遅めの、18時前くらいから、

準備を始めた。



カメラの三脚、照明、バッテリー、コード、等、

すべての機材を、

ハイエースから、小高い丘に運び、

セッティングをして、



エゾモモンガの出現を待ち、

待ちぼうけをくらい、



すべての機材を、

小高い丘から、ハイエースに片付け、

その機材用ハイエースと、

ゼネレーターを積んだトラックを運転して、

ベースの天人峡の旅館に、

小一時間かけて、戻る。


一体、何日間、この作業が続くのだろうか ?

誰も、何も、保証するものは、ないのだ。

当てのない、終わりの見えない、不安な作業だ。



信じなければいけないのは、

高級な暖かさそうなダウンジャケットと、

ダウンパンツを履いた、

動物カメラマンの、情報だけだ。



まずは、

この「うろ」に、エゾモモンガが、

必ずいると信じて、

この環境に、慣れさせなくてはならないと、

へなちょこ精鋭撮影作業部隊、

隊長プロデューサーは、判断し、

オレたちは、了解し合い、

不安を (まぼろし)と払いのけ、

この作戦を継続した。

 

 

 

「フィルムチェンジ!」と、

次のロールに、撮影はつづきます。

 

 

初出 17/10/16 07:43 再掲載 一部改訂

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