ケイトの４

　ケイトの田舎のお話をしましょう。
　ケイトはトートス家に生まれた長女でした。トートス家はケイトのほかに女の子が４人、男の子が２人いました。一番上のケイトは苦しい家計を助けるべく、ジオライ家に奉公に出ていました。
　ケイトの田舎、ミスランドウ地方では毎年恒例のお祭りがありました。ぶどう祭です。この一年で収穫したぶどうの一部を神様に捧げ、来年もたくさんのぶどうが収穫できることを祈るのです。ケイトは二つ年下の妹のマリーと、近所で仲良しの同い年のショーンと一緒に、毎年そのお祭りに参加していました。ショーンは美形な男の子です。とても文字通りに鼻が高いのです。黒瞳がちな眼はすこし女の子を思わせました。ケイトはそんなショーンに淡い恋心を抱いていました。
　ショーンがケイトの家（うち）に遊びに来たことがありました。一匹だけ飼っている馬に、ショーンとともに角砂糖をやり、二人でラス湖まで遠出をしてきたことは良い思い出です。陽だまりの中、馬が水を飲むさまを、ケイトは麦わら帽子をかぶって見ていました。さざなみのように揺れる草叢の中、ショーンと軽い冗談を交わしながら。
　ショーンの両親が大きな町へ商売をしに行っているときには、ショーンはよくケイトの家（うち）に来て眠りました。
　いたずら半分にケイトとマリーの干し草のベッドにもぐりこんできたこともありました。
「きゃあきゃあ」
マリーもショーンのことが好きなのを、ケイトは姉ですから、そっと知っていました。
「俺もいれてくれる？」
「お客様用のベッドのほうが寝心地いいんじゃないの？」
ケイトが言えば、
「ケイトの隣のほうが寝心地いい」
そう言って、ケイトを真ん中にして三人でくっついて寝たこともありました。
　ですが、そんな楽しいさなか、お別れのときは忍び寄ってきました。ショーンのお父さんが賭けで大儲けをしたのです。別荘にと田舎の家はとっておいて、ショーンの家族はみな遠い港町に引っ越していってしまいました。ケイトが奉公に出たのもその引っ越しの直後でした。