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産経新聞における「主張」は他紙の社説に当たります。ちょっと目を疑いました。
社説でどうどうと、「世界保健機関(WHO)などの公式調査によると放射能によって増加した病気は、小児甲状腺がんに限られ、しかも死者は6千人中10人前後にとどまっている。白血病やその他の疾患は増えていない。」だの「チェルノブイリ事故の全死者は、甲状腺がんの子供を含めて約60人に抑えられた」だの、どういう神経をして「主張」しているのでしょうか。
はっきり言って、その「都合のいい話」をつまみ食いする不合理さは、同紙がさかんに批判している管政権や東京電力・原子力安全保安院の比ではないです。
以下の日本の普通の新聞が報道するように、WHO(世界保健機構)が報告したチェルノブイリ原発事故の死者数についての意見は、ウクライナ・ロシア・ベラルーシ3国だけで最大9000人というものです。被災国40カ国では1万6000人という見方もしています。これらでさえ、原爆症訴訟では過小評価であるとされた広島・長崎での原爆被爆者の放射線がん死亡リスクに基づいたものです。すでに1万人がガン死したという見方もあります。
それでも産経新聞によれば、チェルノブイリからの教訓は、同原発事故の最大の健康問題である(苦笑)「心の病」に対処することになるのでしょうか。もしくは、「誤解を拡大させない対応」とは、死者や被害を矮小化して海外に報道していくと言うことなのでしょうか。どんな「健全なエネルギー政策」や。
まさに、原発推進という自社の「主張」に不都合な真実を無視するその姿勢。河北新報に全国紙の立場を譲ったらどうでしょうか。
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(前略)
だが、世界保健機関(WHO)などの公式調査によると放射能によって増加した病気は、小児甲状腺がんに限られ、しかも死者は6千人中10人前後にとどまっている。白血病やその他の疾患は増えていない。
医師団によるとチェルノブイリ事故による最大の健康問題は、目に見えない放射線への不安に起因する心の病であるという。医学情報の提供が適切になされていれば軽減可能であったはずである。日本では、今からその予防に力を入れていきたい。
海外への正確な情報発信も重要だ。チェルノブイリ事故の全死者は、甲状腺がんの子供を含めて約60人に抑えられたが、「数十万人説」が独り歩きを続けている。日本政府は福島事故をチェルノブイリと同じ「レベル7」としただけに、これ以上、誤解を拡大させない対応を求めたい。エネルギー不足は経済をはじめとする国家機能を弱体化させる。定期検査が完了した原発を停止したままにしてはならない。健全なエネルギー政策の展開が必要だ。右顧左眄(うこさべん)は禁物である。
東日本大震災 チェルノブイリ/「不都合な真実」に向き合え 2011年04月26日火曜日 河北新報 社説
(前略)
福島では廃炉と汚染除去に100年―。英科学誌ネイチャーがそんな専門家の見方を紹介した。長い消耗戦を覚悟しなくてはならないのだ。 何より心配なのは健康への影響だ。チェルノブイリ事故について世界保健機関(WHO)の下部組織は、がんによる死者数が計40カ国で2065年までに約1万6千人に達する恐れがあるとしている。国は事故後、「直ちに健康に影響を及ぼすとは考えられない」との説明を繰り返しているが、住民は不安を払(ふっ)拭(しょく)できずにいる。健康調査も長期にわたることは避けられない。 「福島の場合、テクノロジーへの過信があったと思う」。フランスの原子力専門家の見方だ。四半世紀前の「不都合な真実」は、いったんは黙殺された。それを謙虚に受け止めることが、全ての議論の出発点になる。
社説:チェルノブイリ 25年の教訓を生かせ 毎日新聞 2011年4月23日 2時31分
(前略)
チェルノブイリ周辺では今も住民の健康被害が報告されているが、ソ連末期の社会混乱など精神的ストレスの影響も指摘され、被ばくとの因果関係は証明できないと切り捨てられる例が多い。長期被ばくがもたらすがんによる死者数も、推計した国際機関によって4000人から1万6000人まで幅がある。低線量被ばくの影響評価が異なるためだ。福島原発の放射性物質漏れも「ただちに健康への影響はない」とされるが、住民への長期にわたる健診と追跡調査を怠ってはなるまい。
(後略)
2006/04/25 01:17 【共同通信】
【キエフ25日共同】国際原子力機関(IAEA)やウクライナなどチェルノブイリ原発事故被災国政府でつくる「チェルノブイリ・フォーラム」が、これまで約4000人としていた同事故による最終的な死者数の推定を、世界保健機関(WHO)が今月公表した最新の報告書に従い「最大で9000人」と修正する見通しとなったことが24日分かった。 26日の原発事故発生20年を前にキエフで開かれている国際会議で報告される予定。同会議筋が明らかにした。 同フォーラムは推定死者数を引き上げることで被災者感情への配慮を示し、被災国政府に一層の復興努力を促す考えだ。
産経新聞が根拠としているのは、チェルノブイリフォーラムのこれまでの報告や国連原子放射線影響科学委員会(UNSCEAR)が今年2月に出したチェルノブイリ事故に関する最新の報告書だと思われます。後者によると最初の水素爆発で2人の作業員が死亡し、駆けつけた他の作業員や消防士ら28人が放射能の影響で亡くなり、その後、2006年までに死亡したのは19人に上るが、放射能だけが死因とは特定できないとしているようです。また、汚染された牛乳を飲んだ子供ら6000人が甲状腺がんにかかったが、05年までに死亡が確認されたのは15人としており、合わせても犠牲者は数十人としているようです。しかし、少なくともこの委員会は国連直属の組織で、WHO=世界保健機構とはなんの関係もありません。同紙の報道の仕方はまるでWHOがこのような発表をしているように読めます。ひどいものです。また、この組織は1955年に当時の核実験の影響を調査するために核保有国が中心につくったもので、チェルノブイリフォーラムに参加する国際的組織8つのうちの一つで、ICRP=国際放射線防護委員会に基礎データを提供しているものですが、私は設立経緯からしてもその意見は信用できないと思っています。6000人の子どもが甲状腺ガンにかかって10人しか亡くなっていない!?いくら致死率の低いガンとは言え、ありえないでしょう。だいたい、産経新聞の死者60人という数は2005年の同フォーラムでの報告数で、それから一人も死んでいないことが前提です...