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近代市民社会の構造を解き明かしたイギリスのジョン・ロックやフランスのジャン・ジャック・ルソーの考え方を社会契約論と言います。
もともと生まれながらにして最高の価値を持ち、天賦の(天が与えた)基本的人権も享有している市民は、しかし一人では生きていけないので一部自分の権利を制限して(納税など)、社会を形成します。
だから、この契約に反して政府が悪逆非道をする場合には、市民には抵抗権があるのです。
さて、現代社会においては、国民には主権者として、また納税者として国家に対して安全を保全するように請求する権利があり、国家には市民を保護する義務があります。
もし、邦人が海外で危難に遭った時には、国家はこれを保護する法的義務があり、これは国際法はもちろん日本の国内法でも様々に規定されています。
つまり、国民は納税の義務も果たしているのですから、海外で拉致などされた場合には、納税者の権利として、国家に対して自分を保護するように要求する権利があるのです。そのために、日本人であることを示すパスポートという制度もあるのです。
さらに、およそジャーナリストが海外の危険な地域にも果敢にチャレンジして現地の実際を報道してくれることは、彼らの報道の自由という基本的人権の発露であるばかりでなく、我々市民の知る権利を保障し、我々が主権者として自分なりの政治的意見を形成することに必要不可欠な行為です。
これは、NPOなどが海外の危険な地域にも果敢にチャレンジして国際貢献をしてくださり、日本に有形無形多くの実りを下さっていることに勝るとも劣らない貢献です。
紛争地域に果敢に赴く国際ジャーナリストは、
1 一般市民として納税の義務を先に果たして、納税者の権利を有する
2 自分の命と体を市民社会に捧げている
3 さらに、我々に貴重な情報を与えてくれることで、我々一般市民に多大な貢献をしている
つまり、彼らは現地に行く前に、そして行くことで、もう義務は前払いしているのです。
彼らが危難に遭遇したときに、国家が彼らを救うのは何重もの意味で現代市民社会の当然の義務なのです。
こういうことも現地に行き、生の体験をしているジャーナリストだからこそ説得力を持って言える。
そして、それが時の政府には都合が悪いのだ。
かつて、イラク戦争を止めに入ろうとして、市民が果敢に渡航して体を張って戦争を阻止しようとしたことがありました。
そのうちの日本人の何人かが現地の武装勢力に拉致され、小泉政権下の日本で嵐のように「自己責任論」が吹き荒れました。
そのとき、このような日本のありさまを見かねて、湾岸戦争の時の軍のトップである統合参謀本部議長で、このイラク戦争当時は国務長官をしており、次の大統領候補とまで言われる人望を誇ったコリン・パウエル米国務長官が、こう話して日本人を諭しました。
「もし誰もリスクを引き受けようとしなかったら、私たちは前に進むことはできなくなる。
彼らのような市民や、リスクを承知でイラクに派遣された自衛隊がいることを、日本の人々はとても誇りに思うべきだ」
「私たちは『あなたはリスクを冒した、あなたのせいだ』とは言えない。彼らを安全に取り戻すためにできる、あらゆることをする義務がある」
3人の方々が戦争阻止のために戦地に赴いたことを、米軍側の最高指揮官だった人が、米軍が今から戦争をしようというときに
「日本の人々はとても誇りに思うべきだ」
と断言したのです。
いまもなお自己責任論を語るあなたたち。恥を知りなさい。
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法律家よ、沈黙するな!
この項、続く!!
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安田純平さん名乗る男性の動画を公開 ヌスラ戦線が拘束か(発言全文)
2015年6月に内戦下のシリアに入国した後、行方不明になったとみられるフリージャーナリストの安田純平さん(42)と名乗る男性の動画が3月16日、Facebook上に投稿された。男性は、家族への思いを語った後、日本政府を念頭に対応を求めるような発言をした。毎日新聞などが報じた。
男性は「Hello, I am Junpei Yasuda.(こんにちは、私は安田純平です)」と名乗った上で、英語で「今日は3月16日は私の誕生日で、彼らから『メッセージを送っていい』と言われた」などと語った。確認できた映像の長さは約1分7秒の長さで、男性は、机の上に置いた紙を見ながら、紙に書かれているとみられる文章を読む形で話している。
男性が語った内容の日本語訳は以下の通り。
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こんにちは。私はジュンペイ・ヤスダです。そして、今日は私の誕生日、3月16日です。
彼ら(拘束しているグループとみられる)が、話したいと思うことを話していいと言い、これ(映像)を通して、誰にでもメッセージを送れると言いました。
私の妻、父、母、兄弟、愛しています。いつもあなたたちのことを考えています。あなたたちとハグし、話したいです。でも、もうできません。ただ、気をつけてと言うしかできません。
私の42年の人生はおおむね良いものでした。とくに、この8年間はとても楽しかったです。
私の国に何かを言わなければなりません。痛みで苦しみながら暗い部屋に座っている間、誰も反応しない。誰も気にとめていない。気づかれもしない。存在せず、誰も世話をしない。
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■ヌスラ戦線が拘束か
NHKニュースによると、映像を公開したシリア人の男性は「安田さんはアルカイダ系の武装組織ヌスラ戦線に拘束されており、映像は解放に向けた仲介役を務めている人物から16日に入手した」と話したうえで、映像がどこでどのような状況で撮影されたのかについては「分からない」と語ったという。共同通信によると、ヌスラ戦線は日本側に身代金を要求する姿勢だという。
岸田文雄・外務大臣は午前7時ごろ外務省で記者団に対し、「映像は承知しており、その映像の分析を行っているところだ。政府にとって日本人の安全確保は重大な責務であり、情報網を駆使して対応している」とコメントした。
■ フリージャーナリスト・安田純平さん
安田さんは埼玉県出身、一橋大学卒。1997年に信濃毎日新聞記者となり、2003年1月に退職してフリージャーナリストに転身した。2004年、外務省の退避勧告が出ているイラクで取材中に武装勢力に拘束され、3日後に解放された。その際には「自己責任」と批判的な声も出たが、その後も何度もイラクやシリアを取材してきた。著書に「囚われのイラク」(現代人文社)などがある。
安田さんは2015年6月、シリア内戦を取材するためトルコからシリア北西部に越境。しかし、予定していた7月を過ぎても帰国していなかった。
国境なき記者団が12月に得た情報によると、安田さんは7月前半にシリア入国直後、国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」支配地域で拉致され、現在も拘束されているという。過激派組織IS(イスラム国)に殺害映像が公開された国際ジャーナリストの後藤健二さんに関する取材などが目的だったとみられるという
記者狙い営利誘拐横行…トルコ・シリア国境
毎日新聞2016年3月18日 19時40分(最終更新 3月18日 23時31分)
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【カイロ秋山信一】内戦下のシリアでジャーナリストの安田純平さん(42)が行方不明になった事件で、安田さんと共にトルコから密入国したブローカーの周辺者が安田さんの拘束への関与を認めていたことが、関係者の証言で分かった。トルコ・シリア国境は密入国・密輸業者が暗躍、営利目的の誘拐など闇ビジネスがはびこる温床となっている。
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安田さんの知人のシリア人男性によると、安田さんは昨年6月下旬、男性から紹介されたブローカーと共にシリア北西部イドリブ県に密入国した。平常時は国境検問所を通過するが、イスラム過激派への外国人戦闘員の流入などを阻止するためにトルコ政府が国境管理を厳格化していたため、密入国を選んだという。
地元住民によると、イドリブ県は昨年春以降、国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」や反体制派の連合軍が実効支配し、複数の武装勢力が要所に検問所を設置している。通過料名目で現金を徴収されるケースもある。また、身代金目的で記者や人道支援関係者の誘拐を狙う武装勢力や犯罪者集団も存在する。
そのため、外国人記者らが密入国する場合、土地勘があるガイドや武装勢力から通過許可を得るためのブローカーが必要になる。安田さんは知人男性から危険を理由に同行を断られ、ガイドを兼ねるブローカーに依頼したとみられる。こうした経緯は、過激派組織「イスラム国」(IS)に昨年殺害されたジャーナリストの後藤健二さん(当時47歳)のケースと似ている。
だがブローカーは入国当日、「安田さんがヌスラ戦線に拘束された」と男性に電話で連絡。不審に思った男性がブローカーを問いただしたところ、犯行グループの一員の男がブローカーの親族の知人であることが判明した。ブローカー自身の関与は不明だが、安田さんの情報が犯行グループ側に漏れていた可能性もある。
16日に公開された安田さんを名乗る男性の動画では、犯行グループの正体や要求内容は明らかになっていない。
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「私たちは『あなたはリスクを冒した、あなたのせいだ』とは言えない。彼らを安全に取り戻すためにできる、あらゆることをする義務がある」
という言葉が出てくる…この言葉の重量に、私ごときは言葉を失います。何という深さ、何という説得力。自己責任論者に対しては、私からは遠慮なくこう言います"Shame on you!"
右派(100)vs左派(0)の戦いになってしまっているのは、ただただ残念です。
文中にある、「ジャーナリズム→報道の自由→知る権利→私たちの為」なのだから、彼には「責任は無い」とのことですが、その考えには「一理」あると思っています。
しかし、重大な盲点があります。
それは、ジャーナリズムに基づかなかった場合のケース(拉致)はどうなるのか?という点です。
去年、亡くなられた湯川さんという方は、武器商人のような形(商売)で入国して拉致されてしまいました。
rayさんは、彼に対してはどのような名分で「責任は無い」と反論されるのでしょうか?
それとも、彼だけは「責任」があった?
ジャーナリズム云々の話は、ジャーナリストにしか適用されませんので、それ以外の人も含めてしまうと「ロジック」が崩れます。
含めないとすると、場合によっては「責任がある」となります。
rayさんの判断基準(ロジック)では、湯川氏のケースはどうなるのですか?
もちろん、居住・移動の自由、自己決定権、なにもかも。
その前に前回から書いているように、命の重さ。
誰一人として見捨てられていい命はない。
> 誰一人として見捨てられていい命はない。
rayさん、私は「見捨てていい」とは言ってないですよ。
主張して無いことで反論されると、藁人形のようで戸惑うばかりです。
もう一度、言います。
命は助けるべきです。
理由は国家の義務であり「責任」だからです。
しかし、「救出したあとの「責任」をどうするのか?」という点において質問しているだけです。
そしてrayさんの反論が、「ジャーナリズム云々の論によって、責任を問うべきでない」とのことだったので、その論に理解を示したうえで、「では、ジャーナリスト以外の人を【救出した後】の責任はどうするのですか?」と問いかけたのです。
rayさんの答えは、助けるべきか否かで質問を受けたような答え方になっており、ズレが生じています。
「助けるべき」という点は一致していますので、誤解の無きようお願いします。
命は助けるけれども、そのあとで責任を問うかどうか。
問うべきではありません。
何度も書いているように、行く人にはいく権利があり(居住・移転の自由 憲法22条。自己決定権 13条)、守ってもらう権利があり(社会契約論、国際法、国内法)、他方その裏返しに、国家が守るのは法的義務だからであって、国家の責任の履行だからです。
おお、結構、頭が整理されてきた(笑)。
「社会的責任を問うべき人と、問うべきでない人がいる」というのが私の主張です。
というか、正直に言うと、最初は「全員に問うべき」という考え方でしたが、本文のジャーナリズムの話を読んで、考えが上記に変わりました。
説明を補足すると、、、
私たちの「知る権利」を守るために闘っている人や、戦争を止めるために入国した人は、汲むべき事情があるのですから、社会的責任は問わない。
しかし、武器商人としてコネクションを築く為だったり、いたずらに興味本位で入国したケースは、汲むべき事情が無いため、【罰金や旅券剥奪】などの「社会的罰」を設けるべきという考えです。
もちろん、命は絶対に助けるべきです(議論の余地無し!)
> 問うべきではありません。
> 何度も書いているように、行く人にはいく権利があり(居住・移転の自由 憲法22条。自己決定権 13条)、守ってもらう権利があり(社会契約論、国際法、国内法)、他方その裏返しに、国家が守るのは法的義務だからであって、国家の責任の履行だからです。
個人の自由と、国家の責任の範疇なのだから、問うべきでないという事ですね。
rayさんの考え、理解しました。
その上でお聞きしたのですが、、、
雪山に軽装で行って遭難した場合は、罰金とかあるじゃないですか?
あれだって、十分「行く権利」だと思いますけど、罰則を設けてる訳ですよね?
それは、なぜ(罰則を設けることが)出来るのでしょうか?
たとえば、自分の過失で交通事故を起こした人が救急車で運ばれたとしても
1 救急車代は請求されない
2 医療費に健康保険は使える
3 事故で他人に損害を負わせていなければ損害賠償も請求されない
つまり、法律上、ある程度のことは大目に見るというのが基礎としてあるわけです。
さらに、海外にいる邦人の安全については、国内の山で遭難した人よりも強く救護の義務が国家に課せられているのでしょう。
そのためにこそ国はあるから的な。
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