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どうしても児童虐待がやめられないという悩みに応えるべきは、弁護士ではないと思いますが、以前の通信(愛の反対語は憎しみ?それとも虐待?? 子ども未来法律事務所通信6)に対しての「自分もやめられなかった」というコメントを拝見して、自分に書けることは書こうという気持ちになり、それから構想を温めてきました。
これまでの経験から感じることをできる限り書いてみたいと思います。
まず、話を始める前に。
前提として大事なことは、「我が子を虐待するのをやめるためなら、なんでもする」というお気持ちでおられるかどうかです。
自分が嫌になる、嫌いになる。我が子が可哀想。周りから責められる。もう通報されるかも知れない。理由は何でもいいのですが、どうしても虐待をやめたいという気持ちになっておられるのなら、本当にやめられるのです。
ただし、気持ちは行動で測られます。
あれはやるけど、これはやらない、という気持ちでは、どうしても止まらない虐待はやはり止められません。逆に、なんでもやると決心して本当に行動されたあなたは、必ず虐待をやめられます。
それでは、始めたいと思います。
一歩前に踏み出す勇気を。
1 人に話す
やっぱりかよ!と思われましたか(笑)。それができないから苦労しているのだと。
相談じゃないんですよ。まずは相談しなくてもいいのです。誰かに、少しだけでもいいから話してみるということです。
これでもなかなかできないのですよね。さて、虐待をやめるためなら何でもやる気があるか、いきなり試されます。
なぜ人に話すかというと、自分一人では絶対にやめられないからです。もちろん、虐待をしたことがあっても自分の意思で引き返せた人もたくさん居ます。しかし、ことここにいたっては、もう自分一人の力ではどうしようもないのだと認めなければいけない状態もあります。
これを読んだ段階で「いや、自分は自分一人でやめられるし、やめるべきだ」と考えたあなた。
とても危ないです。
だって、もう20行も読みすすめてきたということは、本当に悩んでおられるのですよ。ですが、人には話したくないから「やはり自分で何とかする」というところに戻ってしまいます。
自分のお力で今までなんとかなってきましたか?
今、なんでもやると決めたのではなかったのでしょうか。
話す相手は誰でもいいです。いきなり弁護士だの(笑)、児童相談所だの、配偶者や親兄弟でなくていいんです。むしろ、こういう人に話せるならもう問題は解決したも同然です。虐待をしてしまったけれども、やめることができた多くの親たちは最終的にはこういう人々に話してきました。
たぶん、これまでご友人にも話せなかったでしょう。いきなり知り合いはしんどいかも知れません。
誰かに少しだけ話しましょう。
たとえば、欧米の人なら教会の神父さんに告解したりしますよね。お坊さんとか占い師でもいいんですよ、最初は。
全く見ず知らずの人もいいです。極端な話、ホームレスの方々の自立のための雑誌「ビッグ・イシュー」を売っているホームレスのおじさんに話を聞いてもらうなんてどうですか。とても聞き上手ですよ。暇そうにしているコンビニやキヨスクのお姉さん、おばちゃんとか。
今は視野狭窄に陥っていますから、「これはダメ」「それは無理」「そんな馬鹿な」と考えがちですが、ぐっと考え方に幅を持たせるのが必要なんです。
なんなら、雀とか野良猫とかからはじめましよう。お空やお星様に話すのでもいいですよ。ただし声に出して。
心の中でぐるぐるぐるぐる同じところを回っているより、口に出すだけでもずっと良いことです。
弁護士駆け出しの頃、私も「ベイビーステップ ベイビーステップ」とよく言われました。赤ちゃんの歩みのように、たどたどしくても一歩前に踏み出すのが大切なんです。
人に話すのは断片的でもいいし、誤魔化してもいいんです。いきなりなんでも正直には話せませんよ。
なんにつけても、完璧主義者になるのはやめましょう。
これまで誰にも話してこなかった、「我が子に手を上げている」「我が子に食事を出していない」「給食費をパチスロに使ってしまった」などなどを、なんでもいいから、どんな形でもいいから少しだけ人に話して、荷物を下ろすことです。
ちょっとずつ話してみましょう。最初は勇気が要ります。しかし、やり始めれば意外と楽ですし、楽になってきます。
2 人に相談する
これは1の人に話すというのとは違ってきます。自分のやっていることの全体像を大まかにでも話すのです。
評判のいい心療内科、神経科などの医師はどうでしょうか。
彼らは守秘義務があって、どんなにひどい事例があってもいきなり通報するということはありませんから安心です。
あなたが虐待をやめられないこと自体が、なんらかの精神障害や精神病が原因とは限りません。しかし、あまりに悩みが深く、また長く続いているためにうつ状態にあることは確かです。だから、病院に行くのです。
最初は抗うつ剤や安定剤を処方してもらうのだけでもかまいません。眠れないなら睡眠薬。しかし、それだけでは問題は解決しません。眠れない、だけではなくて、必ず、虐待の悩みを医者に相談するべきです。
それで自分の精神的な問題を見つけてもらって、適切な対処をしてもらえれば、ものすごい得ですよね。パーソナリティ障害だとか、自分の病気や障害が見つかったら、それと向き合うだけで児童虐待が収まるかも知れません。
逆に虐待のことを相談したら薬の量を増やすだけ(汗)、という医者ならすぐに見切りをつけましょう。頭がぼや~~んとするだけです。
この点、カウンセラーこそそういう相談を受ける仕事だと思われるかも知れませんが、当たり外れが多いです。外れだと取り返しがつかないことになります。カウンセラーは次に書く児童相談所で紹介してもらった方がいいでしょう。
配偶者やご親族に話すと責められはしないか、離婚されたり勘当されたりしないかという不安がありませんか。
だったら、児童相談所がいいです。親兄弟とかお連れ合いだと、素人だからびっくりしてしまいそうでしょう?むしろ身近な人に相談するのは、児童相談所に何度か通よって、解決の道筋が着いてからの方がいいかもしれません。もしそういう人たちに相談できるくらいなら、もうとっくにしてきたでしょう。
児童相談所はまずこういう児童虐待に慣れています。こちらは一般市民だからたいへんなことをしていると思っていても、向こうはプロで、似たような事例、もっとひどい事例をいくらでも知っていますから、びっくりされたりしません。
また、よそから通報されるのではなくて、虐待している親が自分から相談に行くのですから、児相は、あなたを決して責めたり警察に通報したりしません。責めたらもう親が来なくなってしまい、かえってひどいことになることをわかっていますし、いきなり通報するようなら誰も相談に来なくなってしまうこともわかっているからです。
児童相談所もことが大事になる前に解決したいのが山々ですから、児童虐待をしている親からの相談業務は良い人材を置いています。
今、このブログを見られる人はGoogle検索ですぐに最寄りの児童相談所を見つけることが出来るでしょう。できないようなら、NTTの電話番号案内114にかけましょう。自分で行動するのが大切です。
3 仲間と共にやめる
結局、なにが原因かはわかりませんが、あなたは自分自身の力では虐待をやめられないところまで来ています。だったら同じ悩みを持つ親、かつて持っていた親御さん達と一緒にやめてみませんか。自助(じじょ 自ら助け合う)グループというものです。
自助グループはアディクション(日本語で嗜癖といいます)に特に効果があると言います。アディクションとは、ある物や行為にとらわれてどうしてもやめられないことを言うのですが、有名なものでは、物に対する依存にアルコール依存症、薬物依存症、行為に対するものではギャンブル依存症、買い物依存症などがあります。どれも悪いとわかっていても、どうしてもやめられないということでは一致しています。
虐待がやめられないというのは、ギャンブルや買い物のように、ある行為に対する囚われ(とらわれ)ですよね。きっかけはあるのですが、結局なにか理由があって殴るのではなくて、ただただ無性に腹が立つと言うことが多くありませんか。
たぶん、どうしても虐待をやめられないという人の多くが、暴力のアディクションだと思います。
これらの病気や障害を持った人々で、しかし囚われから解放されてやめている人の多くが、自助グループを利用しています。たとえば、アルコール依存症の代表的な自助グループであるアルコホーリクス・アノニマス(アノニマス=無名のアルコール依存症者たちの意 通称AA 無名であるから自分の名前を名乗らなくても良い)の場合、世界180カ国以上にグループがあり、250万人くらいのメンバーが酒をやめているそうです。ほとんど国連加盟国全部にグループがあるわけですね。
今では、イモーショナル・アノニマス(通称EA イモーション=感情のコントロールが効かない人のための無名のグループ)もあります。これなんか、すぐ切れてしまうあなた(笑)にとても効くかもしれません。
アルコールにしてもギャンブルにしても、依存症というくらいの状況になると、自分でもやめられませんが、病院ではとめられないのです。専門家の方が素人より頼りになるというのは幻想です。なぜ仲間と共にいるとやめられるのかは、厳密な意味では医学的には証明されていませんが、彼ら当事者本人には仲間と共にやめられる、仲間と一緒でなければやめられないという確信があるのです。
今は糖尿病だって腎臓病だって、気の利いた病院の患者さんなら、自助グループを作って仲間と共に楽に節制しているのですよ。インシュリンを処方することは医師にも病院にもできますし、彼らにしか出来ません。しかし、糖尿病とか腎臓病食って味気ないんですよ(笑)。これをずっと続けなさいっていう指示は医師が出せても、患者さん達がそれを続けることが出来るのは同じ悩みを背負った仲間と支え合うからだ、という理屈はわかりやすいでしょう?
意地と根性ではやめられない。
虐待をしている親はあなたと同じで普通の人間です。あなたは虐待している自分を否定しているから、同じことをしている親たちと会いたくないと思うかも知れません。しかし、出会ってみれば、あなたと同じ普通の、心優しい人間であることがわかります。さらに、不幸にして虐待をするようになった親も、幸運にもしないで済んでいる親も、大きな人類という船に乗った共同体の一員であることが実感できるはずです。
自助グループも全国各地にありますが、ネットで検索して、顔を出してみたらいいです。児童相談所に相談して紹介してもらってもいいし、逆に先に自助グループに行ってさまざまな当事者でないとわからない情報を得るのもいいでしょう。
4 自己嫌悪をやめ、行動しよう
最後に。
今まで、散々ご自身のことは責めてきたでしょう。もうやめましょうよ。
自分ではやめられなかった。どうしてもやめられなかった。それは意志が弱いからではないんです。もう意志が働かない世界に入ってしまったからです。
うちの父親は去年食道ガンの手術をして、そのあたりの神経が少し切れてしまったみたいで、いまだに食事をしていると突然痙攣(けいれん)が起きて、戻してしまいます。今週、一緒に食事をしているときに急に戻して可哀想でした。
でも、これ、意志の力では止められないんです。彼ほど意志の強い人間もいないのですが、ダメです(この暑いのに、免疫力アップのために、毎日一時間も足湯につかるという、そういう男なんですが)。
児童虐待はもうあなたの場合、しゃっくりとおなじです。ゲップやオナラは意志の力で止められる(こともある)けれど、しゃっくりは無理でしょう、しゃっくりは(笑)。理由もなくやってしまいます。反射みたいなものです。
それなのに、自己嫌悪や自己憐憫に浸っても辛いだけです。
自己嫌悪っていうのは、真実の自分以外の自分から見て今の自分を責めることです。要は、虐待をしない本当の自分がいるはずだとどこかで思っていて、その自分から見て虐待をしている自分につばを吐くことです。
自己嫌悪は無意味です。
だって、虐待している自分が本当の自分なんですから。それを嫌悪するのは、虐待しない自分がいるはずだ、そちらが本当の自分だと思いたいだけです。今の自分を受け入れたくないだけ。無駄だし、有害です。問題は解決しないまま、それこそ嫌悪される側の自分を消してしまいたくなるだけです。
駄目な私、とか、可哀想なオレ、と考えてきた莫大なエネルギーや時間は、必要な無駄でした。無駄ではあったけれども必要だったのでしょう。
意志の力が働かないのですから、やめるのではなくて、いつかやまる。
さあ、気を楽にして。明けない夜はありません。夜空は夜明け前が一番暗いとも言います。
今は行動するときです。
偶然にもこのつたない文章に出会った。
これを天の配剤と考えて、さあ、まず誰かに話すところから話してみましょう。まず雀から始めますか(笑)
一歩踏み出す勇気を。
あなたのお子さんのため。
いや、この世に一人しかいない、あなた自身のために。
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北海道新聞社説
幼い命が危険にさらされる事例が後を絶たない。
2010年度に全国の児童相談所(児相)に寄せられた児童虐待の相談・通報件数が初めて5万件を超えた。前年度に比べ28%増という。
それらがすべて虐待につながっているわけではあるまいが、いずれにしても驚くべき数字だ。
残念なことに、厚生労働省が中身を分析していないという。それがなければ、せっかくの統計も単なる数字の羅列に終わりかねない。
どういう人がどんな相談を寄せ、どんな悩みを持っていたのか、それにどういう対応をしたのか。
そういうことを分析すれば、虐待への対応を考えていく上で、有効な手だてになるのではないか。国民の関心をより高めることにもなろう。統計を生かす道を考えてほしい。
今、都市化や核家族化の波で、子育ての悩みを誰にも相談できず、孤立化する父親や母親が増えている。共働きが増え、子育てに専念できる女性も減った。
子育てを親やきょうだいに頼れない人もいる。社会全体で知恵を絞ることも必要だ。
まず、行政は、相談体制を充実させてほしい。
児童虐待が注目されたこの10年、法整備は進んできた。児童虐待防止法が改正され、児相に家庭への立ち入り強制調査権が与えられた。
今国会では、保護中の子どもに対し、緊急の場合、児相所長の判断を親の意向よりも優先させる児童福祉法改正案も成立した。
だが、問題は児相の体制だ。
担当する児童福祉司は4月末で2606人。10年前の約2倍に増えたが、1人で100件の相談を抱えている場合もある。増え続ける通報に、追いついていないのが実態だ。
厚労省が08~09年度に道内で行った調査では、虐待のあった家庭の7割が経済苦に陥っていた。児相と自治体が生活保護の相談にも、きめ細かく応じていかねばならない。
望まない妊娠から子どもに愛情を持てず、虐待に至る例も多い。性教育のあり方にも、踏み込む必要があろう。
地域で子育てに協力する体制づくりが理想だ。胆振管内安平町は6月下旬に、「地域見守りネットワーク」を設立した。
学校、商工会、農協などが、子どもたちの異変に気付いたときに町に連絡する。町は児相などと連携しながら虐待の芽を摘む仕組みだ。
虐待防止には、横のつながりが欠かせない。監視ではなく、子どもに関心を寄せ、温かく見守る社会のあり方を、私たち一人一人がこれまで以上に考えていくべきなのだろう。
このページを読んで、背中を押してもらって、児童相談所に電話をしました。
最初にかけた相談電話では、少し話を聞いてもらって、後日担当から電話させるということで終わり。
てっきり面談する話になると思ったのに、後日かけてきた担当は、市役所に連絡してよければ、そちらから話を聞いて自宅訪問などもします、というのでOKすると・・・
市役所からは、育児にお悩みとのことで連絡ありましたが、どういったことでしょう?と電話。40分くらい話したけど、結局「聞くだけしかできませんけど、いつでもまたご相談ください」
自助グループについても、それはどんなものですか?だって・・・。
こどもを強制的に取られるんじゃないかと思って、いままで相談できなかった私としては、拍子抜けでした。
なんだか愚痴になってしまってごめんなさい。
聞いてほしかったんです、ありがとう。
親と同じことをしていると気が付いていない場合は、
どうするんですか?
5879
ありがとうございました。
ほんとうに止まって良かったですね。
今はトラウマだのアダルトチルドレンだの、たくさん言葉が氾濫していますが、親が自分は虐待をしたから何かが起こるに違いないと思っていても、特になにも起こっていない家族もたくさんいるようです。
でも、親御さんがACなどのことを勉強しておいて今の子育てに生かすのは大切なことだと思います。
大人も子どもも、回復も成長はベイビーステップで。
ありがとうございました。
私自身、虐待がとまった経過を振り返っても、偶然にもおっしゃられてる通りの経過をたどっていました。
現在、子供も元気に暮らしています。
今後、子供にどのような弊害が出現するかわかりませんが、そのときも、私がたどった道をしめしていきたいと考えます。
恨まれ責められすることは当然あると思いますが、その時にきちんと受け止められる親でありたいと願っています。
そのためにも私は自分の回復に努め続けようと改めて思えることができました。
ありがとうございました。