日本維新の会」の馬場伸幸代表(58)が、認知機能の衰えが目立つ社会福祉法人の女性理事長(当時)に、任意の財産管理契約を結ぶ文書を書かせた上で、馬場事務所が女性理事長の財産を私的な形で管理してきたことが、「週刊文春」の取材でわかった。この問題を巡り、馬場氏が社会福祉法人の元理事らと会議する様子を収めた音声データを入手した。

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 認知症患者の財産管理については事件化するケースも多く、成年後見制度など公的な枠組みを利用することが推奨されており、専門家は、馬場氏らの対応が適切ではなかった疑いを指摘している。馬場氏は今年6月下旬、この社会福祉法人の理事長に就任した。


党を仕切る馬場伸幸代表 ©時事通信社

 馬場氏は昨年8月、維新の代表に就任。最近では、インターネット番組で「共産党は日本から無くなっていい」などと発言し、物議を醸している。

「1993年、堺市議補選に自民党から出馬し、初当選。その後、2010年、盟友関係にあった松井一郎氏らと大阪維新の会の結党に参加。2012年に国政に転じ、2015年には党幹事長に就任しました」(維新関係者)

 週刊文春8月3日発売号では、馬場氏が今年4月の統一地方選挙を巡り、池田克史堺市議(当時)に対し、「公認は僕の権限や! 理由なんか無かってもええねん」などと述べていた音声データについて報道。実際に、池田氏には公認が下りなかった。池田氏は取材に対し、馬場氏によるパワハラ行為だった旨を認めていた。

認知症の症状が進んだ理事長の財産を私的に管理している疑いが浮上

 問題の社会福祉法人は、大阪府堺市で4つの保育園を運営する社会福祉法人「ドレミ福祉会」。西侑子氏(仮名)が1980年に設立し、2015年度に幼保連携型認定こども園としての認定を受けるなど、時代のニーズに合った運営を行ってきた。法人登記簿によれば、現在の資産総額は約15億7000万円に及ぶ。

 馬場氏は2017年から同法人の業務執行理事に就任していた。他の理事とは異なり、法人の業務執行権限を持つ、事実上のナンバー2だ。

 ところが、西氏と60年以上の付き合いがあるドレミ福祉会の元理事A氏ら関係者の間で、馬場氏が認知症の症状が進んだ西氏の財産を私的な形で管理している疑いが浮上。今後の対応などを協議するため、今年4月10日、西氏、馬場氏と馬場氏の公設第一秘書ら、さらに、A氏や、同じく西氏と親しい別の社会福祉法人理事長B氏、2人が呼んだ弁護士らが集まり、会議の場を持った。「週刊文春」は関係者を通じ、その様子を収めた音声データを入手した。

音声データから判明したこと

 冒頭でA氏が、西氏の認知症が進み、要介護3の認定を受けている現状などを説明。そのうえで「後見人をどうするのか」と質問すると、馬場氏は次のように応じた。

「西先生、プライベートの部分については、うちのほうできちっと、個人の財産とかも管理させて頂いています。それについては、西先生から一筆頂いて、やらせて頂いているんで。(略)西先生の今の状況では、成年後見人制度とかを使って、やるということはそぐわないということで」

 成年後見制度は、判断能力に支障のある人物の財産管理や福祉施設との契約などを、家裁が選任する法定後見人や、本人が選任する任意後見人が代理して行うもの。馬場氏は西氏の個人および法人の資産を自身の事務所で管理していると認めたうえで、なぜか成年後見制度などの公的な枠組みを利用することはそぐわないと主張したのだ。

 それに加えて、弁護士の質問に対し、秘書が、西氏の死後に個人財産(土地を含む)を法人に寄付するとする自筆証書遺言を作成した旨も回答。この遺言の作成時期について問われると、馬場氏は「3年くらい前ちゃう?」、秘書も「3年くらい前ですね。それは、当時の西理事長から、ちょっと物忘れが激しくなったりとかし始めた時に。ちょっと私、おかしくなる時があるんや、というご意見があって」などと応じた。

 すなわち、馬場氏らは、A氏が3年前の時点で「物忘れが激しい」などの認知症が疑われる初期症状が出ていることを把握しながら、成年後見制度などの公的な枠組みを避け、A氏に自筆証書遺言を書かせたり、任意の財産管理契約をさせたりしていたことを認めたことになる。

吉村氏と馬場氏 ©時事通信社

 厚労省認定認知症サポート医で金町駅前脳神経内科の内野勝行医師が言う。

「短い時間の記憶が無くなるなど3年前には、少なくとも認知症の初期症状が始まっていたと考えられる。半年ほどで急激に進行する場合もあり、身寄りのない方は認知症診断を受け、介護保険でケアマネジャーをつけたり、後見人の準備をすべきタイミングでした」

 しかし、実際に馬場氏らが行ったのは、西氏に認知症診断を受けさせないまま、施設に入れるということ。西氏は昨年1月頃からサービス付き高齢者向け住宅に入居したが、勝手に帰宅するなどのトラブルが続き、昨年11月頃に現在の老人ホームへと転居したという。その間も、法人、個人を問わず、西氏の一切の財産は、馬場事務所が私的に管理してきた。

 高齢者問題に詳しい弁護士法人ナビアスの生田秀弁護士が指摘する。

『社会福祉法人を非道な形で乗っ取った』という人も

「一般論として、西氏の権利保護のためには成年後見制度を利用し、裁判所の監督の下で、適切に財産管理・身上保護を行うのが望ましい。仮に、特定の人物に財産管理を任せる意向があった場合でも、認知症の初期段階であれば、任意後見制度を利用する選択肢もあったはずです。今回のように、後見制度等を利用せず任意の財産管理契約にすると、西氏が判断能力を喪失した後、適切に財産管理が行なわれているかをチェックする第三者がいないため、透明性に欠ける部分がないとは言えません。西氏の認知症の進行が分かった段階で、本人に後見の申立てを促したり、役所に相談して市区町村長による申立てを検討してもらったりするべきだったと言えます」

 4月10日の会議から2カ月半後の6月25日付で、西氏は理事長を退任。代わりに、馬場氏が後任の理事長として就任した。馬場氏らが言及したように、西氏の死後に個人財産がすべて法人に寄付されるという自筆証書遺言が存在するなら、それを事実上手中にするのは、法人トップの馬場氏ということにもなる。

「不透明かつ私的な財産管理に加えて、馬場君は認知機能が衰えた西さんを追い出し、自ら理事長に収まった。『社会福祉法人を非道な形で乗っ取った』という人もいます」(元理事A氏)

 8月4日夜、馬場氏を直撃した。

「あなたに! 説明をする必要はないから!」

当選4回を数える馬場氏の答えは… ©時事通信社

――ドレミの乗っ取りという声が出ているが?

「あなたに、あなたに、言われる筋合いではない!」

――認知症と分かりながら遺言書を書かせた?

「……」

――後見人でもないのに、財産を管理している。

「あなたに! 説明をする必要はないから!」

 同日、事実関係の確認を求める詳細な質問状を送付したが、8月7日夕方、秘書が以下のように口頭で答えた。

「回答は差し控える」

 日本維新の会を巡っては、8月3日発売号で報じたように、所属議員の不祥事が相次いでいる。そうした中、党代表の馬場氏に“公認パワハラ問題”に続き、社会福祉法人の“乗っ取り疑惑”が浮上した。社会福祉法人は公共性の高い非営利法人で税金などの優遇措置もあるだけに、馬場氏に対し、透明性のある説明を求める声が高まりそうだ。

 8月9日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」および8月10日(木)発売の「週刊文春」では、馬場氏らが参加した4月10日の会議の詳細、元理事らの詳細な証言や、馬場氏が主導したとみられる社会福祉法違反の疑いのある法人運営、老人ホームに入居する西氏が語った言葉などについても報じている。

 また、「週刊文春 電子版」では、4月10日の会議の様子を収めた“乗っ取り疑惑”音声を公開している。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2023年8月17日・24日号)

 

 

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