2020年に東京高等検察庁・黒川弘務検事長(当時)の “定年を延長” した閣議決定をめぐり、大学教授の男性が、法務省内の関連文書を「不開示」とした決定を取り消すよう国に求めていた裁判。大阪地裁は6月27日の判決で、国に不開示決定の大部分を取り消しよう命じました。男性側がほぼ全面的に勝訴した形です。

 国側は「法解釈変更は黒川氏の定年延長を目的としたわけではなく、請求対象の文書は存在しない」としてきましたが、大阪地裁は判決の中で「解釈変更の理由は黒川氏の定年延長をしかありえず、文書を保有しているはず」と断じました。

▼退官が1週間後に迫った東京高検検事長 「法解釈変更」で“定年延長”を閣議決定

 2020年1月31日、当時の安倍晋三政権は、東京高検の黒川弘務検事長(当時)の勤務を、同年8月まで延長することを閣議決定しました。

 黒川氏は当時62歳。約1週間後の2月8日が63歳の誕生日で、前日2月7日に定年退官が迫っていました。当時の「検察庁法」は検察官の定年について、検察トップである検事総長を除き、63歳と定めていました。

 しかし安倍内閣は、特別な場合に公務員の勤務延長を認める「国家公務員法」の条文を適用し、退官を目前に控えた黒川氏の”定年延長”を決めました。

 それまでの政府の法解釈は、「国家公務員法」の勤務延長の規定は、検察官には適用されないというものでした。しかし、安倍内閣はその解釈を変更した形となりました。


 当時、この判断は恣意的な解釈ではないかと大きく物議を醸し、”政権に近い黒川氏を検事総長に据えたいからではないか”という憶測まで呼びました。

 最終的に黒川氏は、新型コロナの緊急事態宣言が出ていた最中に、新聞記者らと“賭けマージャン”をした問題で、2020年5月に東京高検検事長を辞任。その後、東京簡裁から罰金20万円の略式命令を受けました。

▼“法務省内の意思決定のプロセスを知りたい” 大学教授が文書開示を求めるも…

 神戸学院大学の上脇博之教授は、「当時の意思決定プロセスを知りたい」と、黒川氏の“定年延長”をめぐり、法解釈の変更や閣議請議に至るまでに、法務省内でどんな協議や検討などがあったかや、内閣官房とどんな折衝があったかを示す文書を開示するよう、同省に求めました。

 しかし法務省は2021年11月、上脇氏が開示請求した文書のうち、▽法務大臣が閣議に請議した際の決裁文書のみを開示し、▽その他の文書は「いずれも作成していない」として、不開示決定を行いました。

 上脇氏は「公文書管理法の規定などからも、作成していないことはありえない」として、不開示決定の取消を求めて、2022年1月に国を提訴。

 国側は「法解釈変更をめぐる文書はあるが、それらは黒川氏の“定年延長”には関連していない=上脇氏が開示を求めているような文書は存在しない」という姿勢を示していました。

▼大阪地裁「急な解釈変更の理由は定年退官を間近に控えた黒川氏の勤務延長しかありえない」

 大阪地裁(徳地淳裁判長)は6月27日の判決で、
「法務省は2019年12月頃から2020年1月中旬までのわずか約1カ月間で、従来とは全く異なる法解釈をすることにし、その後も速やかに関係機関との調整を終えて閣議請議を行った」
「従来の解釈をただちに変更すべき社会経済情勢の大きな変化や、捜査現場からの要請などがあったとも認められない」
「全国の検察庁に周知されず、ほかに勤務延長が行われた検察官がいないことも踏まえれば、短期間で急きょ解釈を変更した理由は、定年退官を間近に控えた黒川氏の勤務延長を行うことしかありえない」
と指摘。

 そうした法解釈変更をめぐり、内部で協議・検討などした際の関連文書を法務省は保有しているはず=上脇氏が開示請求した文書の大半は存在しているはずだとして、国に対し、不開示決定の大部分を取り消すよう命じました。

 上脇氏側の主張が、ほぼ全面的に認められた形です。

 一方で、「事前に内閣官房と法務省との間で折衝があったかは、証拠上明らかではない」として、取り消しを命じなかった不開示決定もありました。