東芝の巨額粉飾決算事件。
2015年7月21日、その責任をとって田中久雄社長ら歴代トップ3人を含む取締役8人と相談役の計9人が辞任しました。
リーマンショック以来の7年間、歴代3社長の圧力が、少なくとも総額1500億円の利益をかさ上げする不正な会計処理に導いたことがあきらかになったのです。
東芝は創業140年。
グループ売上高6兆5000億円超、従業員約20万人。経団連副会長を出すなど、日本を代表する大企業ですから、その巨大企業が経営陣主導で粉飾体質に染まっていたことが明らかになった衝撃は甚大です。
東芝では、半導体やパソコン、テレビなど主な部門すべてで利益がかさ上げされていたことが明らかになっています。
歴代社長が「チャレンジ」と呼ぶ高い収益目標を各カンパニー社長に掲げさせ、経営陣がメールや電話などで「工夫をしろ」などと強い圧力をかけ、利益のかさ上げを迫り、もちろん現場はそれに逆らえませんでした。
経営陣がメールや電話で「工夫をしろ」などと圧力を加えて利益のかさ上げを迫ったため、不正会計が
「多くの部門で同時並行的かつ組織的に実行された」(第三者委員会報告書)
のです。
今後、証券取引等監視委員会と金融庁が東芝の処分を検討することになっていますが、監視委は東芝に対して、
「課徴金を科すよう金融庁に報告する」
方向で検討に入っていると報道されています。
つまり、検察庁に刑事告発をし、検察庁が起訴をして法廷で事実を明らかにする刑事事件にはせずに、行政処分でお茶を濁すというのです。
これだけの大事件なのに、監視委は自ら調査に着手する前から課徴金による制裁で十分と判断し、刑事事件化を断念しているわけです。しかも、監視委が金融庁に報告を出すのは早くても9月なのに、調査をする前からもう刑事事件にはしないという結論ありきの調査というわけなのです。
また、東京証券取引所も「上場契約違約金」の支払いを求める方針というのですが、上場契約違約金というのは、上場企業が適切な情報開示を行わなかった場合に支払いを求める制裁であり、今回の事件に対する罰としては異常に軽すぎます。
また、経産省は「社外取締役の機能強化」を目指した会社法の新たな解釈指針を作成し発表していますが、それはそれで必要なことととは言え、東芝への制裁とは無関係です。
安倍政権が、なんとしても東芝の刑事事件化を防ぎ、すでに発表した役員退任と課徴金支払い、形ばかりの東証での制裁で済ませたいという意向を持っていることは明らかです。
しかし、過去にはカネボウが2000億円、ライブドアが53億円、オリンパスが1100億円の粉飾決算で立件され、経営陣が次々に逮捕されています。
カネボウは上場廃止にもなりました。
これらの企業も大企業ではありましたが、その中で東芝だけが刑事事件を免れようとしているのは、まさに、東芝が経団連に役員を輩出する財界の中核企業であり、原発や軍需など安倍政権を支える中心企業だからです。
決算の数字は、企業の実像を知る最大の手がかりです。投資家は決算報告が事実であることを前提に株を売買し、社債を購入するのです。
ところが、東芝は1500億円以上の利益を上積みして見せることで、この7年間で1兆円もの資金を市場から調達しています。
この過程で、東芝は『有価証券報告書』に故意に虚偽記載しているのであり、これは、ライブドア社の堀江貴文社長が実刑判決を受けた金融商品取引法違反(当時、証券取引法)に問えるはずの事件なのです。
またマスコミも、7月22日の朝刊で、新聞各紙がこの事件を取り上げましたが、多くはこの問題を「不適切会計」と表現し、「不正会計」と表現した新聞は一部にすぎませんでした。
ちなみにマスメディアでは、損失隠しや利益の水増しが組織的に行われ、違法性が高くなると「不正会計」と表現します。その後、刑事告発されて刑事事件になれば「粉飾」と表現するのが一般的なので、この時点でも「不正会計」とは書けるはずなのに書きません。
東芝が巨大企業であり、財界の中枢メンバーであり、マスメディアの大スポンサーであるため、各紙は遠慮して「慎重」な報じ方をしているわけです。
第三者委員会の調査報告書は、東芝について
「上司の意向に逆らえない企業風土が存在していた」
としていますが、これはまさに日本の官僚とマスメディアにもズバリ当てはまると言えます。
軍需産業の中でも東芝の自民党への献金額は1位。
軍事、原発両面で、東芝は安倍政権の中核企業。
この問題を調査して報告書を発表した第三者委員会も腰砕けで
「粉飾(=刑事事件)にあたるかどうかの観点からは調査していない」(上田委員長)
としていますが、その第三者委でさえ、
「経営トップらまたは社内カンパニーのトップらが、『見かけ上の当期利益のかさ上げ』を行う目的を有していた事実が認められる」
と認定しています。
第三者委はあくまで東芝が設置したもの。
証券取引等監視委員会や金融庁、ひいては検察庁は独自の調査、捜査をすべきです。
マスメディアも頼りにならない以上、我々は、これら、企業の監視役をさらに監視し続けなければなりません。
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2015年7月21日21時12分 朝日新聞
東芝の田中久雄社長(64)と、前社長の佐々木則夫副会長(66)が21日、引責辞任した。過去の決算の利益水増し問題で、第三者委員会が「経営判断として行われた」との報告書をまとめたため。西田厚聡相談役(71)も退き、東芝の不正会計問題は歴代3社長の辞任という異例の事態に発展した。ただ、記者会見した田中社長は報告書の指摘のうち、不正指示などについて否定した。
東芝、歴代3社長が辞任
第三者委の報告書によると、東芝は2008年4月から14年12月までにわたって、社内の全事業で税引き前利益で総額1518億円にのぼる利益水増しをしていた。経営トップによる過大な目標の達成を求める言動が原因となって、組織的な不正につながったとも認定した。
不正が始まった当時の社長で、事業の「選択と集中」を進めて名経営者と呼ばれた西田氏が社長時代、各事業に「収益改善の高いチャレンジを課してその必達を求めた」などと指摘。佐々木氏も「チャレンジ」を指示し、田中氏自らも事業の黒字化などを求めていたとしている。
さらに上司に逆らえない企業風土があったことや、役員や社員に適切な会計処理をするための意識が欠けていたとも指摘した。
歴代トップ辞任という事態は、この報告内容を受けて決まった。
不正に関わったとして辞任した取締役は社長らを含む8人で、全16人の半数に達した。各事業のトップとなる4人の副社長、財務・監査担当ら、経営の中心を担った役員が去る。暫定的に室町正志会長(65)が社長を兼ね、新経営陣は8月中旬までに決めて9月の臨時株主総会に諮る。
問題を調べた第三者委の報告書全文も、同日公表された。佐々木氏、田中氏らが事業部門に予算通りの利益を実現するよう強く求めたことが不正のきっかけになり、担当取締役らも一部を認識していたとした。上田広一委員長(元東京高検検事長)は会見し、一連の会計処理は「違法という意識がないまま行われたものもかなりあるが、会計用語としては不正会計だった」と指摘した。
■チャレンジ「私は使ってない」
東芝の田中社長は21日に開いた記者会見で、自身が不正を指示したかどうかについて「直接的な指示をしたという認識はない」と明確に否定した。
東芝が、前日に第三者委から受け取った報告書の要約版を、この日は全文を公表したため、質問は報告内容について田中社長がどう認識しているかに集中した。ところが、記者らの質問が不正を起こした背景に迫ると、その度に「報告書をご覧いただきたい」と繰り返した。
報告書は、部下への指示の模様も細かく記している。これに関して「部下にうそやごまかしを命じたか」という問いもあったが、「ございません」と語気を強めるなどした。
報告書には、経営トップが高すぎる目標を「チャレンジ」と称し、達成を部下らに迫ったと書かれた。これについて田中社長は「私は『チャレンジ』という言葉は使っていない。『必達目標』と言っていた」とし、前のトップとの違いを強調。社長就任前に当時のトップから「圧力を受けていたか」という質問には、「特にございません」と答えるだけだった。
東芝の歴代社長は4年務めるのが慣例だった。田中社長は2年余で辞任となった。社長時代にやり残したことを問われ、「大変残念だが色々ある。半導体のような稼ぎ頭を2本、3本、4本と増やしていきたかったが、まだその途上にある」と述べた。
■第三者委の指摘と東芝社長の説明は食い違う
【第三者委の報告書】 【東芝・田中社長の会見発言】
「利益水増しは経営判断だった」→「指示した認識はない」
「利益目標は実現不可能だった」→「努力で可能なレベルだ」
「社長は問題を知り容認」 →(回答を避ける)
「社長の圧力が水増しの原因に」→「適正な会計処理が大前提だった」
※20日の報告書要約版と、21日の会見から
東芝は20日、不適切な会計処理問題を調べてきた第三者委員会(委員長=上田広一元東京高等検察庁検事長)による調査報告書の要約版を発表した。それによると、2008年度~2014年度4~12月期の期間に計1,562億円の利益(税引き前)を水増ししていたことがわかった。修正額は、自主チェック分が44億円、第三者委員会認定分が1,518億円となる。
経営トップが「かさ上げ」認識
報告書は、不適切な会計処理の中には「経営トップらまたは社内カンパニーのトップらが、『見かけ上の当期利益のかさ上げ』を行う目的を有していた事実が認められる」と認定。「経営トップらの関与等に基づき組織的に不適切な会計処理が実行・継続されることを想定し、これを防止するためのリスク管理体制等はとられておらず、監督機能も十分に機能しなかった」と批判した。
また、毎月の定例会議などでは、経営トップが「チャレンジ」と称して設定した収益改善の目標値を示し、目標達成を強く迫っていたと指摘。業績不振のカンパニーに対しては、収益が改善しなければ事業撤退を示唆することもあったほか、特に不適切会計処理が目立った2011年度から2012年度にかけては、厳しい「チャレンジ」数値が設定され、各カンパニーは強いプレッシャーを受けていたという。
上司の意向に逆らえない企業風土
同社の企業風土についても、「上司の意向に逆らうことができない企業風土が存在していた」と批判。問題が発生した場合には、経理規定に定められた明文上のルールに基づく会計処理を行う前に上司に承認を求め、その承認が得られなければ実行できないという事実上のルールが存在したため、仮に上司の承諾が途中で得られなかった場合には、明文上のルールに基づく適切な会計処理自体が行われないという事態に陥っていたという。
さらに、同社の役職員は数値上の利益額を優先するあまり、適切な会計処理に向けた意識が欠如していたり、必要な知識を持っていなかったと指摘。不適切な会計処理が継続的に行われてきた要因のひとつとしては、それぞれの案件が「外部からは発見しにくい巧妙な方法で行われていた」ことを挙げた。
「チャレンジ」廃止求める
再発防止策としては、「チャレンジ」の廃止を求めるとともに、少なくとも幹部職員については、関与の程度などを十分に検証した上で「人事上の措置(懲戒手続きの実施を含む)を適切に行うことが望ましい」と提言した。
同社は、今回の報告書を精査し、過去の決算を訂正した上で、2014年度の決算予想を確定する。また、21日には田中久雄社長らの記者会見を予定している。
毎日新聞 2015年07月22日 02時40分(最終更新 07月22日 07時47分)
歴代3社長の圧力が「経営判断」として総額1500億円の利益をかさ上げする不正な会計処理に導いた。グループ売上高6兆5000億円超、従業員約20万人の日本を代表する大企業が、経営陣主導で虚偽体質に染まっていたことが明らかになった。管理体制や内部統制以前の「経営の暴走」と言わざるを得ない。
5月から不正を調査してきた第三者委員会の報告書を受けて田中久雄社長が記者会見した。経営陣を指弾する報告内容を公表し、自らと前社長の佐々木則夫副会長、前々社長の西田厚聡相談役の辞任を明らかにしたのは当然の判断と言える。
今後、証券取引等監視委員会と金融庁が行政処分を検討する。また、すでに米国で株主代表訴訟の動きもあり、経営陣が巨額賠償を求められるかもしれない。東芝の新経営陣は深刻さを認識し、利益至上主義と不正を許してきた企業風土を一掃しなくてはならない。
決算の数字は、企業の実像を知る最大の手がかりである。投資家は事実であることを前提に株を売買し、社債を購入する。虚偽は許されない。東芝の場合、不正が限られた部門ではなく、「多くの部門で同時並行的かつ組織的に実行された」(報告書)という点で根が深い。
当初、指摘されたインフラ事業だけでなく、半導体やパソコン、テレビなど主な部門すべてで利益がかさ上げされていた。「チャレンジ」と呼ぶ高い収益目標を掲げさせ、経営陣がメールや電話などで「工夫をしろ」などと強い圧力をかけ、利益のかさ上げを迫ったのだ。上意下達で不正に走ったのである。投資家にウソをつく違法行為が6年間もただされなかった物を言えぬ体質も問題である。
2011年のオリンパスの粉飾決算事件で問題となったチェック体制、監査機能も改めて問われる。
東芝には、経営の暴走を監視するはずの仕組みが備わっていた。4人の社外取締役に加え社内に監査委員会も設けて、経営全般に目を光らせる体制だった。形の上では他企業のモデルになるようなものだ。
しかし、機能しなかった。外部の監査法人も不正を見抜けなかった。オリンパス事件でもこの監査法人の対応が問題視され、金融庁の業務改善命令を受けている。
東京証券取引所などは6月、上場企業を対象に企業統治原則「コーポレートガバナンス・コード」を徹底することを始めた。経営の透明化に向け、社外取締役2人以上の選任などを求めている。だが、東芝の例でも明らかなように、いれば大丈夫という問題ではない。魂を入れる経営陣の姿勢こそが問われる。
東芝の不正会計処理 集団訴訟に発展か 米国
これについて、原告の代理人でニューヨークにあるローゼン法律事務所のフィリップ・キム弁護士は22日、NHKのインタビューに応じ、「第三者委員会が不正な会計処理を断定したので、次の焦点は投資家がどの程度の損害を受け、どれくらいの人数が訴訟に参加するかだ」と述べ、賠償金額を算出する考えを明らかにしました。
そのうえで、「すでに数十人の投資家が訴訟に応じる意向を示していて、ほかの法律事務所も参加者を呼びかけている」と述べ、今後、人数がさらに増えて集団訴訟に発展するという見通しを示しました。
さらにキム弁護士は、「第三者委員会が報告書で経営陣の責任を認めたため、われわれは有利な状況だ。一般的に企業は多額の費用と時間がかかるため裁判を避けたがる」と述べ、東芝と和解を探る展開になるのではないかという見方を示しました。
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