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判決後行われた裁判員の方々の記者会見、特に、録音・録画について、ある裁判員が
「決定的な証拠がなかったが、録音・録画で判断が決まった」
と話したという文字が目に飛び込んできて、目がくらむというか、目の前が真っ暗になりました。
決定的な証拠がなかったら有罪にしたらダメでしょう。
判決は客観的証拠は状況証拠しかなく、しかも
「被告が犯人でなければ合理的に説明できない事実は含まれていない」
と指摘し、客観的な証拠だけではこの被告人を犯人とは認定できないと述べています。
ああ。これはえん罪の可能性があります。
2005年に栃木県今市市(現日光市)で小学1年の女の子が下校途中に連れ去られ、茨城県で遺体で見つかった栃木女児殺害事件の裁判員裁判で、宇都宮地裁(松原里美裁判長)は2016年4月8日、殺人罪に問われた被告人(33)に対し、検察側の求刑通り無期懲役の判決を言い渡しました。
事件から10年以上が経ち、凶器や被害者の遺留品などの直接的な物的証拠がない事件。別の裁判員は録音・録画を評価しながらも、
「抜けている部分が多いという印象を持った。もっと公開する範囲を広げてほしい」
「状況証拠のみだったら判断できなかった。最初の自白が抜けていて、やるならやるで録音・録画は全部徹底してやるべきだ」
と指摘しています。
ここでも客観的証拠では判断できなかったと言っています。有罪判決は有罪の確信を抱かなければ出してはならないものですから、この事件で有罪判決を出してよかったのかが問われます。
法廷で異例の7時間の録画再生が行なわれたと言いますが、最初に自白した場面の録画ではなく、しかも7時間なんて録画した取り調べの10分の1、全取り調べ時間の数十分の1にしかすぎません。
捜査機関は都合のよい場面しか録画を証拠として提出しませんから、もっと見たいと裁判員の方々が感じたのは当たり前です。
さらに別の裁判員も
「物的証拠が少なく、(判断が)より難しく感じ、はがゆかった」
と語ったというのですが、物的証拠が乏しくて、自白しか有力な証拠がないというのはこれまでのえん罪事件の典型的なパターンです。
本件では、警察は録画をしておらず、検察も最初に自白した場面は録画していません。
ところが、被告人・弁護人側は、まさに最初の自白が採取される前後の段階で利益誘導や暴行・威圧があったと言っているのですが、肝心のそこの取り調べは録画がなく、検察にとって都合のよい場面だけ録画が出てきています。
自白を採取した取り調べ状況を、捜査機関が録音録画した映像がなければ判断が違っていたと裁判員が言っているのですから、これは本当に危ない。
猛烈に嫌な予感がします。
これまで何度も職業裁判官だけで判断される高裁でひっくり返ってきた裁判員裁判の判決。
今回も東京高裁に期待した方がいいような気がします。
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強引な捜査でえん罪事件が起こると、被疑者・被告人にされた方にとっては当然大変な事態になるのですが、被害者遺族にとっても悲惨な苦痛を呼び起こすことになります。
事件からますます時間が経って、真犯人が見つかる可能性は極めて少なくなり、自分のお子さんを殺害された苦しみに、さらに犯人がだれかわからないという苦悩が加わるからです。
ですから、重大事件ほど慎重な捜査が求められるのですが、世論やマスコミが警察に犯人を捕まえろと責め立てるのが、かえって無理な捜査を招き、えん罪を生む原因の一つとして知られていることを、我々市民も肝に銘じなければなりません
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<栃木女児殺害>「録音・録画で判断決まった」裁判員ら会見
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◇宇都宮地裁 裁判員たち、物証の「弱さ」を指摘
栃木県日光市(旧今市市)で2005年、小学1年の吉田有希ちゃん(当時7歳)を連れ去り殺害したとして、殺人罪に問われた勝又(かつまた)拓哉被告(33)=栃木県鹿沼市=の裁判員裁判。無期懲役の有罪が言い渡された勝又被告(33)の裁判員裁判を担当した裁判員らが閉廷後、宇都宮地裁で記者会見した。裁判員たちは物証の「弱さ」を指摘する一方、「(犯行を自供した)録音・録画がなければ判断は違っていた」と話した。
会見したのは裁判員6人のうち5人と、補充裁判員3人のうち2人の計7人。判決について、7人は「(被告は)真摯(しんし)に受け止め、罪を償ってほしい」と感想を述べた。
録音・録画について、70歳代の女性は「決定的な証拠がなかったが、録音・録画で判断が決まった」と話した。別の30歳代男性は録音・録画を評価しながらも、「抜けている部分が多いという印象を持った。もっと公開する範囲を広げてほしい」と指摘。女性会社員も「物的証拠が少なく、(判断が)より難しく感じ、はがゆかった」と語った。
評議時間の短さへの指摘も多く、女性看護師は「(読み込む調書の量など)情報量があまりにも膨大で、どう処理していいか分からなかった。振り返る時間がほしかった」と注文をつけた。判決が3月31日から延期された経緯については、裁判官側から「これでは間に合わないので延期できないか」と申し出があったためという。【高橋隆輔】
2016.4.9 00:19
【栃木・今市女児殺害】
難しい判断 評議重ねた裁判員 「被告は気持ち受け止めて」
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長時間の録音・録画の再生や判決期日の延期を経て、裁判員が出した結論は「有罪」だった。栃木小1女児殺害事件で、無罪を主張していた勝又拓哉被告(33)に無期懲役を言い渡した8日の宇都宮地裁判決。「緊張の日々だったが、なんとか乗り切れた」。難しい判断を迫られた裁判員らは1カ月以上にわたる審理を終えて、疲労感をにじませながらも安堵の表情を浮かべた。
「逮捕前、ネットや新聞で事件のことを調べたことはあるか」「最終的に全面否認したときの状況は」。検察側と弁護側が全面的に争った今回の公判で目立ったのは、熱心に被告人質問を行う裁判員の姿だった。
「生半可な気持ちで臨んではだめな裁判だった。疑問は解消しなくてはいけないという気持ちがあった」。被告人質問をした女性裁判員の一人は、判決後の記者会見で振り返った。
別の女性裁判員は被告の供述の変遷について疑問を感じ、被告を問いただしたといい、「質問に答える被告の表情などを評議の参考にした」と話した。法廷では、取り調べの録音・録画も再生されたが、男性裁判員は「録音の被告と目の前にいる実際の被告の違いを感じた。もっと見たり、聞いたりしたいと感じた」と振り返った。
一方で、補充裁判員の男性は「なぜ被害者が亡くなったのかという最大の疑問に、明確な答えは出なかった。申し訳ないという気持ちもある」と語る。遺族の悲しみや無念さも直視した裁判員は会見で口をそろえた。「評議を尽くして出した判決。その気持ちを被告に受け止めてほしい」
勝又被告はこの日、水色の長袖シャツに黒のズボンで入廷。少し赤みがかった顔は正面を見たまま、終始無表情だった。
ただ、松原里美裁判長の判決文読み上げが、争点となっている自白の任意性と信用性にさしかかると、納得がいかないかのように首を左右に動かした。
最後に、松原裁判長が控訴ができると説明すると「今、今のもう一度」と聞き返した勝又被告。閉廷後、取材に応じた弁護士も「不当な判決。自白を重視した判決は危険だ」と、控訴する方針を明らかにした。
被告は判決後、弁護士にこう話したという。「法廷で真実を述べているのに、どうして納得のいかない判決が出てしまうのか。自分には分からない」
栃木県の小1女児殺害事件の判決は、取り調べを録音・録画した映像などを基に被告を有罪と判断した。自白は変遷を重ねており、犯人でなければ知り得ない明らかな事実が含まれていたとも言えず、録画映像がなければ任意性や信用性を認められたか疑問が残る。
検察側は自白調書の他に、多数の状況証拠を積み上げて立証を図った。しかし判決は、最高裁判例が求める「犯人でなければ合理的に説明できない事実」がこれらに含まれているとは言えないと判断した。仮に任意性が認められず調書が証拠採用されていなければ、無罪とされた公算が大きい。
取り調べ録画は裁判員裁判の導入を前にした2006年から一部事件で試行され、現在、裁判員裁判対象事件などでの録画を義務化する法案が国会で審議されている。もともと、密室での取り調べの「可視化」を求める日弁連などが長年、導入を求めていたもので、捜査機関側は消極的だった。
検察は現在、自白の任意性や信用性だけでなく、供述調書のように犯罪事実を直接立証する証拠としても録画を活用しており、録画を根拠に有罪が言い渡された例は少なくない。今回の判決は改めて、検察側にとって録画映像が強力な武器となることを示した。
一方で、課題も表面化した。殺人容疑での逮捕前の取り調べについて、検察は今回、大半を録画したものの最初に自白した場面では実施せず、警察は録画していなかった。弁護側は、録画のない調べで暴行や威圧などがあったと主張して争った。
審議中の法案では、逮捕前の取り調べの録画は義務化の対象外で、捜査官の裁量に委ねられている。本当の意味で取り調べを可視化し、公判での争いを避けるためにも、捜査当局には逮捕前を含む全ての取り調べの録画が求められる。
[時事通信社]
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既に、司法取引は頻繁に行われているようですが、合法化されれば、嘘の証言が取り放題。
今回のように決定的な物証がなくても、推定無罪の大原則を十分理解されていない裁判員を「自白」映像や「証言」で有罪へと誘導することが、さらに容易になります。
「タイホされたらおしまい」の時代が間違いなくやってきます。ケーサツカンから見れば「逮捕さえすればいい」のお気楽時代の到来です。ああ恐ろしい。
そもそもは、警察の伝統的冤罪生産の温床である「見込み捜査」で楽して犯人をデッチ上げて「自白」を迫る代官所捜査でしょうし、それを真に受けて、証拠を吟味もしない検事と検察庁の警察一体体質でしょう。
警察の捜査を何の疑いも無く追認するだけでは、検察庁も検事も廃止しては如何でしょうか。 検察庁等は、何の意味もありません。
それは楽でしょうね。 科学的で地道な地を這う捜査をせず、彼奴が怪しい、と見当をつけて、これまた、疑うこともせず、ただ只管逮捕状発布を機械的に行う裁判所の「逮捕状」を請求して逮捕し、証拠が残らないように拷問して「自白」させれば勝ちですからね。
今回の事件が冤罪か否かは、別にして、証拠も無いのに起訴するのも可笑しいですし、それをまた、有罪にするのも可笑しいを通り越して、違法でしょう。
こんな捜査と裁判で有罪になるのならば、誰でも冤罪の犠牲になる危険性があることになります。
今回の判決を裁判員制度の欠陥を追及する証拠として云々するのは、簡単ですが、根本的には、日本の警察と検察庁と裁判所を包含した体質、そしてそれらを支える基礎である国民意識を究明しなければならない、と思います。
仮に「決定的な証拠」が無かったとしてもね。
証拠は不利有利に関わらず全部、強制力を持つ検察が握っており、被告・弁護側が同じ調査をやろうと思ったら大変な時間と努力が必要。
これでは冤罪はなくなりません。袴田事件狭山事件がいくつ起きても同じ。
貴様にとっては、駄法螺かも知れないが、憲法にこうある。 眼を凝らして読め。
第三項を読めば、貴様の難癖が根拠のないことが衆人には分かる。
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
○2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
○3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。」
「貴様」とは相手を尊重した物言いである。 「貴」と「様」を使っているのだからな。