安倍元首相のように自分がプーチン大統領と懇ろだったことを忘れて、ウクライナ戦争を利用してアメリカとの「核共有」まで言い出す政治家は言語道断です。
しかし、岸田首相のように「広島出身なんです」「核のない世界を目指します」ってパフォーマンスをしてきたのに、内心そんな気持ちは全くなく、国内で「広島出身の政治家」、国際社会で「唯一の被爆国の日本を」を売り物にするだけという不誠実な政治家も最低です。
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自称国際政治学者の三浦瑠麗氏と違い(ほとんど論文を書いていない)、本当の学者で多数のロシア関連の論文を書いていて国際的に権威のあるアジア・太平洋賞特別賞の受賞歴もある廣瀬陽子慶応大学教授。
その廣瀬氏にして、プーチン大統領のウクライナ侵攻は全く不合理で予想だにできなかったということで、
と率直に吐露しておられます。
ここが、
「ロシアはキーウに攻め込んだり絶対しない」
と侵攻前日に予想して大外れだったのに口を拭っている恥知らずの三浦女史とは全く違って、学者の良心をまだお持ちの方です。
その廣瀬教授がプーチン大統領による「核の威嚇」に関連してラジオ番組で、国際政治学者の中で長年の神話とさえいえる「核抑止論」ついてこう述べておられます。
「抑止にならないばかりか、ロシアが核を持っているので、他の核保有国はロシアを責められず、ロシアのやりたい放題の状況になってしまっています。
核がむしろロシアの自由度を高めるというむしろ逆効果を生んでいるので、核抑止論者にとっては衝撃的だったと思います」
数少ない良心的なラジオ番組「大竹まことゴールデンラジオ」に出演中の廣瀬教授(右から2番目)
また、廣瀬教授はこうも述べています。
「この戦争勃発で、茫然自失となっている社会科学研究者は少なくないらしい。
たとえば、相互依存論で平和が維持できるとしていた論者は、相互依存状態が戦争を防がないという現実に衝撃を受けているという。
また、核抑止論者は、核は戦争の抑止にならないばかりか、核を持つ好戦国が戦争を起こせば、その核が他国の介入をも抑止してしまうという現実に打ちひしがれているという。」
緊急座談会「ロシアのウクライナ侵攻を考える:国際社会に与えた衝撃と今後の課題」
核兵器を保有している国だけがやりたい放題に他国を攻撃する自由を持っている。
このことは核抑止論者にとっては衝撃的なのかもしれませんが、核兵器廃絶をめざす我々のような国際社会の市民にとっては常識的な事実で、学者はそんなことにも気づいていないのかと、逆に衝撃でした。
たとえば、アメリカはいまだに核先制攻撃の選択肢を維持し続けていて、自国に対して化学兵器など核兵器以外での攻撃があった場合には核を容赦なく使うと明言している国です。
そして、核の傘の下にいる日本は自国の安全保障のためと称して、そのアメリカの核先制攻撃のオプションを捨てないでくれと頼んでいるのが現在の状況です。
アメリカのバイデン大統領は2020年春に米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」で、米国の核兵器の
「唯一の目的は核攻撃に対する抑止と報復であるべきだ」
と訴えて、核先制不使用宣言を検討しています。
この核先制不使用宣言は、バイデン氏が副大統領だったオバマ政権時代に検討され始めました。
ところが日本政府は
「先制不使用は中国などへの誤ったメッセージとなり、抑止力が低下する」(外務省幹部)
との懸念を持っていて、バイデン政権発足後、非公式にこうした懸念を伝えたというのです。
話を元に戻しますと、アメリカは朝鮮半島、ベトナム、イラク、アフガニスタンなど外国に侵攻し続けていますが、9・11テロはあったものの第二次大戦後、自国には一回も攻め込まれていません。
自国本土から遠く離れたフォークランド紛争はありましたがイギリスもそうで、フランスもロシアも中国も他国を攻めることはあっても自国に攻め込まれたことはありません。
その理由の一つが核を独占するNPT条約で特権的に守られた国々の核保有にあることは明らかで、核兵器は核保有国だけに戦争をする自由を与える打ち出の小づちなのです。
このような国際社会の中での著しい不公正を正し、全世界を核の脅威から自由にしようというのがあらゆる核兵器に関する行為を禁止する核兵器禁止条約で、だからこそ支持する国が毎月のように増えているのです。
半年間でさらに6国増えて今現在61か国に
ところが、アメリカの核の傘の下にあるという特権的な恩恵を享受している日本政府は、表では「唯一の被爆国」を標榜しながら、裏ではアメリカの核先制不使用宣言さえ邪魔しており、もちろん核兵器禁止条約には署名・批准どころかオブザーバー参加さえ拒否しているのが現状です。
そして広島県出身で核兵器廃絶を表看板にしている岸田首相も核兵器禁止条約を拒否していて、オーストリアのウィーンで6月21日から始まる核兵器禁止条約の第1回締約国会議への参加は見送る方針です。
松野博一官房長官は6月3日の記者会見で
「核兵器禁止条約は、核兵器のない世界への出口ともいえる重要な条約だ」
としながら
「現実を変えるためには核兵器国の協力が必要だが、同条約には核兵器国は一国も参加をしていない」
として、核保有国であるアメリカに責任を押し付けて言い訳しているような状態です。
そのくせ、岸田首相は核兵器禁止条約締結国会議と同じ時期の6月26日からドイツで開かれるG7サミット=主要7か国首脳会議に出席することにしているのですが、これに続けて、スペインで開かれるNATOの首脳会議にも出席する方向で調整を進めているというのです。
もしこれをしたら、日本の総理大臣としては初の出席になります。
その目的が、ロシアのウクライナに対する侵略戦争を止めさせるために、プーチン大統領が戦争の原因だと公言しているNATOこそが停戦協議で積極的に行動しろと演説しに行くというのならいいですよ。
ところが実際には、岸田首相は防衛費の増額など日本の防衛力を抜本的に強化する方針を説明したい考えだとのことで、そんなことをわざわざ説明しに行くのは中国やロシアにケンカを売りに行くようなものです。
岸田首相はれっきとした軍事同盟であるNATOの会合にオブザーバーで行くのではなく、本当の意味での被爆国としての行動をとり、核兵器禁止条約の歴史的な第1回締結国会議にこそオブザーバー参加して、岸田首相がお題目代わりに言っている「核のない世界」実現のために、日本も核兵器禁止条約に参加します!と言ってくるべきなのです。
大久保賢一弁護士(日本反核法律家協会会長)がウクライナ危機に乗じる核共有論者や非核三原則見直し論者を弾劾する。「彼らは、人類社会に死をもたらす死神の手先なのだ」。
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日米首脳会談の共同声明で中国に「異例の核軍縮呼びかけ」のお笑い。5500発保有の米国が350発の中国に文句を言う資格はない。ウクライナ危機で核兵器禁止条約のみが人類の生き残る道であることは明らかだ。
「ロシアが核の威嚇射撃を行い、NATOがこれに小型の攻撃で応戦すると、最初の数時間に9000万人以上の死傷者が出る」(プリンストン大学)。核兵器禁止条約の全国家批准しか、人類の生き残る道はない。
ジョンソン英首相がロシアの安保理常任理事国からの「解任」を提案。それが可能ならベトナム戦争やイラク戦争を起こした米国も解任せよ。常任理事国制度も彼らの核保有だけを合法化するNPT条約も要らない。
「ロシアが核の威嚇射撃を行い、NATOがこれに小型の攻撃で応戦すると、最初の数時間に9000万人以上の死傷者が出る」(プリンストン大学)。核兵器禁止条約の全国家批准しか、人類の生き残る道はない。
『「核兵器も戦争もない世界」を創る提案ー「核の時代」を生きるあなたへー』大久保賢一著 学習の友社
「唯一の被爆国」日本がアメリカ大統領に、中国でさえ明言している「核兵器の先制不使用宣言」をしないでってお願いしている事実、この不道徳さこそ衝撃的じゃないですか。
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ロシアによる軍事侵攻が続く中、岸田総理大臣は、6月下旬にスペインで開かれるNATO=北大西洋条約機構の首脳会議に出席する方向で調整を進めています。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して100日が経過し、政府は、アメリカなどと足並みをそろえて、ロシアに対する経済制裁やウクライナへの支援を継続するとともに、アジアなど各国に連携を働きかけています。
岸田総理大臣は、6月26日からドイツで開かれるG7サミット=主要7か国首脳会議に出席することにしていて、これに続けて、スペインで開かれるNATOの首脳会議にも出席する方向で調整を進めています。
日本の総理大臣がNATOの首脳会議に出席すれば初めてのことになります。
岸田総理大臣としては引き続き、加盟国などと連携してウクライナ情勢への対応にあたる考えを示すとともに、中国や北朝鮮の動向も念頭に、いかなる地域でも力による一方的な現状変更を認めないとする立場や、防衛費の増額など日本の防衛力を抜本的に強化する方針を説明したい考えです。
ただ、G7とは異なり、日本はNATOの加盟国ではないことから、岸田総理大臣としては、参議院選挙の情勢などをぎりぎりまで見極めて、出席するかどうか最終的に判断することにしています。
日本や英仏など米国の同盟国がバイデン米政権に対し、核兵器で攻撃されない限り自国は核兵器を使わない「先制不使用」を宣言しないよう、水面下で働きかけていることがわかった。各国の安全確保には、米国の核抑止力の維持が不可欠なためだ。複数の日本政府関係者が明らかにした。
バイデン氏は2020年春に米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」で、米国の核兵器の「唯一の目的は核攻撃に対する抑止と報復であるべきだ」と訴えた。米政権が今夏から取り組む「核戦力体制見直し」でも、先制不使用が検討課題となる見通しだ。
しかし、中国が迎撃困難な「極超音速兵器」開発で米国に差をつけるなど、軍事バランスは日米より中国優位に傾きつつある。このため、日本政府は「先制不使用は中国などへの誤ったメッセージとなり、抑止力が低下する」(外務省幹部)との懸念を持っており、バイデン政権発足後、非公式にこうした懸念を伝えた。
岸田首相は年内の訪米とバイデン氏との会談を模索する。実現すれば、米国が同盟国への武力攻撃に核兵器などで報復する「拡大核抑止」の提供を改めて確認する方針だ。
原子力資料情報室より
『原子力資料情報室通信』第568号(2021/10/1)より
米バイデン政権では「核体制の見直し」(Nuclear Posture Review、以下、NPR)が現在進行中だ。7月上旬から開始され、来年早々には結論が出ると見られる。NPRは5年~10年間のアメリカの核抑止政策、戦略や態勢を包括的に見直すもので、1994年から政権が変わるごとに策定されるようになった。
今回のNPR改訂で注目すべきは、核兵器の先制不使用/唯一の目的が採用されるか否かである。なぜなら、バイデン大統領が繰り返し先制不使用/唯一の目的の支持を表明してきたからだ。
先制不使用/唯一の目的とはなにか?
核の「先制不使用」とは、核兵器を先には使わないが、核での攻撃に対しては、核兵器で報復する選択肢を留保するというものだ。通常兵器や生物・化学兵器などでの攻撃に対しては核兵器での報復はしない。現在、核兵器保有国の中では、中国・インドが採用している。また、「唯一の目的」とは、保有する核兵器の唯一の目的を相手国の核兵器の使用の抑止に限定するもので、2010年、オバマ政権のNPRで将来的な米国の核政策の目標として記載された。
逆に、「ファースト・ユース(先制使用)」は、紛争中、相手国より先に核兵器で攻撃することを意味する。通常兵器や生物・化学兵器への対抗措置としての核兵器の使用も選択肢に残る。よく似た言葉に「ファースト・ストライク(第一撃)」がある。こちらは、先制核攻撃で相手国の(戦略)核戦力に壊滅的な損害を与え、核報復できないようにするものだ。
先制不使用と唯一の目的は大体同じという見方と、異なるという見方がある。後者では、唯一の目的は、相手が核攻撃をしそうだという段階では、先に核攻撃をかけるという選択肢も留保するものと見る。いずれにせよ、核兵器の役割を縮小し、核戦争リスクを低減するものとしては、極めて効果的だ。
2016年オバマ政権末期の検討
オバマ政権は、退任が近づいていた2016年夏、政権の遺産として、先制不使用の宣言を検討した。ニューヨーク・タイムズによれば、その検討の中で、ケリー国務長官らが、日本や韓国を名指しして、核抑止力に不安をもった両国が核武装する可能性を示唆した、という。そして、ワシントン・ポストは、日本政府は宣言に反対する意向を伝えたと報じている。結局、先制不使用宣言は見送られた。
日本の核武装への懸念は、米国内の核体制の現状維持派が先制不使用に反対する際の正当化に使われているだけではない。そうした声は昔から米政府内にある。たとえば中国の核実験成功の影響を検討する核拡散委員会の報告書(Gilpatric Report、1965年)は、中国の核はインドや日本の核保有意欲を募らせると指摘、日本の核武装を阻止するために、「現在の防衛に関する約束を再確認、必要に応じて強化すべき」と書かれていた。この方針は基本的には現在も維持されている。
日本側もその懸念を認識し、利用すらしている。外務省北米局長や国連大使などを歴任し、安全保障や軍備管理などの交渉に長年携わってきた佐藤行雄は著書『差し掛けられた傘』(時事通信社)で「日本の核武装の可能性についての外国の懸念は払拭し切れるものではない。また、米国については若干の懸念が残っていることも悪いことではないとすら、個人的には考えている。米国が日本に核の傘を提供する大きな動機が日本の核武装を防ぐことにあると考えるからだ」と記している。
潜在的な核武装能力とその影響
元国防長官のジェイムズ・シュレシンジャーは米下院公聴会(2009年5月6日)で、「米国の核の傘の下にある30余りの国のなかで最も独自の核戦力保有に傾いているのは、おそらく日本だ」と証言している。ケリーの発言も同趣旨のものだ。こうした懸念の背景には、日本の核燃料サイクルがある。
日本は非核保有国の中で唯一、使用済み燃料再処理技術とウラン濃縮技術の両方を持つ。再処理では使用済み燃料から核兵器に転用可能なプルトニウムを分離できる。低濃縮ウラン製造技術があれば、核兵器に利用できる高濃縮ウランの製造も可能だ。
日本の核燃料サイクルは、米国の核政策に口出しする材料ともなる。経済産業省出身で国際エネルギー機関事務局長や笹川平和財団会長を歴任した田中伸男は原子力学会誌「ATOMOΣ」の2018年5号で「原子力は安全保障、国防上の理由からも必要である。広島長崎を経験した日本は核兵器を持つつもりは毛頭ないが北朝鮮の核ミサイルが頭上を飛ぶ時代に核能力を放棄することは彼の国からなめられる」と述べ、潜在的核保有能力を隠そうともしない。
先制不使用と日本政府の見解
先制不使用や核抑止力をめぐる日本政府の最近の発言には以下のようなものがある。
加藤勝信官房長官 「我が国周辺には質、量ともに優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向も顕著(中略)現実に核兵器などの我が国に対する安全保障上の脅威が存在する以上、日米安全保障体制のもと、核抑止力を含む米国の拡大抑止というものが不可欠」(2021年4月6日記者会見)
茂木敏充外務大臣 [核の先制不使用宣言は]「すべての核兵器国が検証が可能な形で同時に行わなければ、実際には機能しないんじゃないか(中略)現時点でですね、当事国の意図に関して何らの検証の方途のない、核の先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に万全を期すことは困難だと考えております。あのこういった考え方については、概ね日米間で齟齬はない、こう考えています。」(2021年4月21日衆議院外務委員会)
日本政府の見解をまとめると、①核抑止力を含む拡大抑止は核兵器など(つまり通常兵器や生物化学兵器も含む)を対象としており、②先制不使用宣言では日本の安全保障に万全を期せない。③また、先制不使用は「すべての核兵器国が検証が可能な形で同時に」行われなければならず、④日米間でこうした認識に齟齬はない、というものだ。
唯一の戦争被爆国で核兵器国と非核兵器国の橋渡し役を自認し、「核兵器の究極的廃絶」を訴えてきた日本政府は、通常兵器での攻撃も核報復の脅しで抑止してほしいと要求している。しかも、バイデンらが目指している先制不使用宣言が一方的宣言であるのに、「すべての核兵器国が検証が可能な形で同時」でなければならないと宣言のハードルを上げている。
22団体44人の要請書
バイデン政権下での見直しが2016年の二の舞とならないよう、各国で市民・有識者らの動きが始まっている。8月9日、米国の21人の核問題専門家と5団体が日本の主要政党代表宛に、先制不使用・唯一の目的政策を宣言することに反対しないこと、この政策が日本の核武装の可能性を高めることはないと確約すること、を求める書簡を送った。8月12日にはオーストラリアの反核団体などが同国政府にむけて米国の先制不使用・唯一の目的政策に反対しないよう求める書簡を送付している。
こうした中で、9月7日、米書簡と同じく、各政党代表者に対し、先制不使用・唯一の目的政策に反対しないこと、この政策が日本の核武装の可能性を高めることはないと確約することを求める書簡を日本の22団体44人(原子力資料情報室など5団体5個人の呼びかけ、17団体39人賛同)が送付した*。
日本の反対で米国が先制不使用を採用できないとあっては、スキャンダル以外の何物でもない。日本の動きは米政府の政策決定にあたって、極めて重要になる。今後も取り組みを続けたい。
(松久保肇)
■「絶望的な気持ちに苛まれた」ウクライナ侵攻を予測できなかった廣瀬教授の失意と新たな決意
旧ソ連圏の国際政治を研究してきた廣瀬教授は当初、ウクライナへの軍事侵攻の可能性について否定的な意見だった。ハフポスト日本版が2月20日に掲載したインタビューでも「基本的には軍事侵攻は『まず、ないだろう』という立場」と答えていた。しかし、軍事侵攻は現実に起きてしまった。廣瀬教授は「論理的な説明はできません。全く合理性がない決断です」として、戸惑いを隠さなかった。
「研究成果に基づけば、ロシアがウクライナに侵攻するはずはなかった」と回想しつつ、実際には軍事侵攻が起きた。そのショックを「自分の長年の研究は何だったのだろうか、そして人間は戦争を防げないのか、という絶望的な気持ちに苛まれた」と振り返った。
「研究は戦争を止められないのか」という問いに対して「残念ながら止められないことは、今回の顛末からも明らかだ」と率直に分析しつつも、「研究が果たせる役割もゼロではないはずだ」とさらに研究を続けることの意義を強調した。
これまでの常識が通用しなくなる「パラダイム・シフト」が起きているとして、「新たなパラダイムの研究」の必要性を訴えた。その上で「私の旧ソ連研究は一旦振り出しに戻ったが、また心新たに旧ソ連研究に取り組みたいと思っている」と決意を示している。
この文章の読者からは「自分が間違っていたことを認める潔さと、次に進むバイタリティがすごい」「知的に誠実な態度。これこそが研究なんだろうな」などの反響が広がっている。
全文は以下の通り。
■研究は戦争を止められないのか|メディアセンター所長/総合政策学部教授 廣瀬陽子
2月24日、目覚めると世界が変わっていた。ロシアがウクライナに侵攻し、全く大義のない戦争が始まったのだ。そして、その日、私は重要な研究対象の一つを失い、これまでの研究人生で構築してきたセオリーは水泡と化した。
私は旧ソ連地域をフィールドに地域研究、国際関係を研究してきた。そして研究の出発点は、旧ソ連の紛争を解決するための研究を行いたいという気持ちだった。そして、アルメニアとのナゴルノ・カラバフ紛争を抱えていたアゼルバイジャンに留学もした。
旧ソ連の紛争を紐解くにはロシアの行動が重要だということから、旧ソ連の小国からロシアの外交政策を検討してきた。そのプロセスの中で、国家の体裁を整えながらも国際的に承認されていない「未承認国家」をロシアが近い外国(ロシアにとっての旧ソ連諸国)を勢力圏に置くために利用していることから、未承認国家の研究を深めた。
また、ロシアの周辺国がロシアと欧米、そして中国の狭間でバランス外交を強いられ、しかしそのバランスを崩すと、つまり親欧米になりすぎるとロシアから懲罰を受けるという「狭間の政治学」という考えを打ち出した。さらに、ロシアが勢力圏を維持するため、また勢力圏を脅かす欧米に対峙するためにハイブリッド戦争を利用しているということで、近年ではハイブリッド戦争の研究に注力してきた。
これらの研究成果に基づけば、ロシアがウクライナに侵攻するはずはなかった。紛争勃発前夜まで、私は「侵攻はない」と自信を持って主張していたのだ。しかし、侵攻は起きてしまった。その時、「私が知っている」ロシアは消滅し、私が構築してきた議論も崩壊した。自分の長年の研究は何だったのだろうか、そして人間は戦争を防げないのか、という絶望的な気持ちに苛まれた。
だが、この戦争勃発で、茫然自失となっている社会科学研究者は少なくないらしい。たとえば、相互依存論で平和が維持できるとしていた論者は、相互依存状態が戦争を防がないという現実に衝撃を受けているという。また、核抑止論者は、核は戦争の抑止にならないばかりか、核を持つ好戦国が戦争を起こせば、その核が他国の介入をも抑止してしまうという現実に打ちひしがれているという。このような例は枚挙にいとまがないだろう。
それでは研究は戦争を止められないのか...。残念ながら止められないことは、今回の顛末からも明らかだ。
しかし、研究に意味がないのか、と言えば、そうではないと思う。研究はあくまでも起きてしまった事象を分析し、どうしたら戦争を抑止できるのか、より早く解決できるのかなどという問いに迫るものであるが、第二次世界大戦後の世界では、それらの研究がさまざまなアプローチからなされ、また、時代の変化に伴って新しい議論も次々に生まれていた。そして、かつての戦争や紛争を分析することで、その反省を次に活かすこともできていたと思うからだ。たとえば、今、ウクライナが大国ロシアに対して善戦しているのは、海外からのサポートに加え、2014年にクリミアを失い、東部の混乱を防げなかったことの反省を徹底的に分析し、その問題を乗り越えたからに他ならない。
また、これまでの世界の歴史で節目節目に「パラダイム・シフト」が起きてきた。今まさに「パラダイム・シフト」の時代であるともいえる。新たなパラダイムの研究が求められているのかもしれない。
だが、戦争を起こすのは人間だ。全ての人間がそれぞれのバックグラウンドを持ち、それぞれの思考、独自性を持っている。全ての人間の思考、行動を網羅できるような研究が行えるはずもない一方、ウラジーミル・プーチン大統領1人のせいでこのような惨事が起こってしまった現実を受け、今後は1人の人間が歴史を動かすという現実を分析に取り入れてゆく必要が出てくるのかもしれない。承認欲求で歴史は動く、とフランシス・フクヤマが『アイデンティティ』で説いたように、施政者の個性に踏み込んだ分析が必要となりそうだ。
研究は戦争を止められない。しかし、研究が果たせる役割もゼロではないはずだ。私の旧ソ連研究は一旦振り出しに戻ったが、また心新たに旧ソ連研究に取り組みたいと思っている。そして、今回の戦争にショックを受けている方々にも、ぜひそれぞれの分野で研究をしていただきたいし、この新しいパラダイムに挑戦できるのは総合政策的アプローチしかないと確信する。研究が世界平和に貢献できる日がくることを祈るばかりだ。
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