下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
この連載においても、また、上梓した書籍(『超ソロ社会』『ソロエコノミーの襲来』『結婚滅亡』)においても、私は終始一貫して「日本のソロ社会化は不可避である」ことを訴え続けてきました。それは、私個人の勝手な思い込みではなく、1990年代から始まる未婚化・非婚化の流れを冷静に分析すれば明らかです。
誰がなんと言おうとこの流れは止まりませんし、2040年には人口の半分は独身者になり、世帯の4割が一人暮らしというソロ社会時代がやってくるのです。そして、それは既婚者にとっても無関係な話ではありません。たとえ結婚したとしても、配偶者との離別や死別によって、誰もがソロに戻る可能性があります。子どもがいても生涯同居するわけではありません。
私たちは、一人になっても生きていけるか?
今回は、その問いについて、「寿命」や「死因」のデータを通じて、男女配偶関係別の「ソロ生活耐性」という視点から考えてみたいと思います。
未婚がいちばん死亡ピーク年齢が早い!?
まず、2018年の人口動態調査から、配偶関係別年齢別の死亡者数構成比をグラフにしたもの(次ページ)を見ていただきたいのですが、男女とも配偶者との死別者が最も長生きしています。これは、配偶者と死別すると長生きるということではなく、配偶者と死別するまで一緒にいた夫婦はそもそも死別前段階まですでに長生きだったということでしょう。
興味深いのは、未婚と離別という独身の死亡者の男女の違いです。男性は、未婚が最も死亡ピーク年齢が早く、死亡年齢中央値を計算すると約66歳でした。続いて短命なのは離別男性で、同じく死亡年齢中央値は約72歳。男性トータルでの死亡年齢中央値は約81歳ですから、離別は10年、未婚は15年も早死にしているということになります。
女性は有配偶より未婚・離別のほうが長生き!?
一方、女性のほうは未婚が82歳、離別が81歳と女性トータルの88歳よりは早いですが、男性ほどその差に開きがありません。何より、女性の場合、未婚および離別という独身のほうが、有配偶より長生きしている点が特徴的です。有配偶女性の死亡年齢中央値は約78歳ですから、有配偶男性の81歳よりも早いということになります。言い換えれば、結婚している夫婦の場合、女性より男性のほうが長生きだということになります。
もちろん、夫婦は夫が妻より年上の場合が多いので、実際夫が妻より先に亡くなるパターンが多くなるわけですが、配偶関係別に見た場合、女性は夫がいる有配偶状態が最も早死にしているという事実は驚きではないでしょうか。
配偶関係別の死亡状況全体の傾向をまとめると、男性の場合、有配偶より独身のほうが短命で、女性の場合は、独身のほうが有配偶より長生きという、男女で正反対の構造になっています。「一人になってしまうと生きていけない男、一人のほうが長生きできる女」と言っても過言ではないかもしれません。
では、それぞれの主な死因はなんでしょうか?
同じく2018年の人口動態調査から、代表的な死因を抽出して、男女配偶関係別に見てみましょう。
ご覧のとおり、総数では男女とも悪性新生物(いゆわるがん)による死亡が圧倒的に多いのですが、男女および配偶関係別に見ると違いがあります。
有配偶はがんによる死亡が最も多い
まず、男性ですが、有配偶ではがんによる死亡は最も多く36%であるのに対し、未婚や離別男性のがんでの死亡率は低いようです。その代わり、未婚も離別も自殺での死亡割合が高く、未婚で7%、離別で4%となっています。
しかし、これは、全年齢を対象としていますので、未婚の自殺割合が高くなってしまうのは、15~44歳までの男性の死因の第1位が自殺であるためで(2018年人口動態調査より)、決して「未婚だから自殺が多い」ということではありません。
後ほど出てくるグラフにありますが、45~64歳での自殺構成比は未婚より有配偶のほうが多く、さらに離別のほうが圧倒的に多いのです。離別男性の自殺が多い点については、以前『「離婚した男性」の自殺はなぜこんなに多いのか』という記事に考察を書いていますので、ご参照ください。
女性に関しても、男性同様、有配偶はがんによる死亡が多く4割近くを占めます。が、男性と明らかに違うのは「老衰」まで健康で長生きする率が高いことです。未婚で10%、離別でも8%、死別に至っては16%が老衰です。
配偶関係別の死因を45~64歳の年齢層で見てみると、有配偶男性と独身男性(未婚・離別)とがまったく正反対の傾向であることがわかります。有配偶男性の死因は、主に白血病を含むがんであるのに対して、独身男性は「糖尿病」「高血圧性疾患」「心疾患」など、主に生活習慣に起因する病気です。これは、独身男性が、外食やコンビニ弁当などによる高炭水化物・高脂肪の食生活や運動不足などに陥りやすいからと考えられます。
かといって、有配偶男性全員が独身男性より普段の食生活や運動などに気を使っているというわけでもないでしょう。有配偶男性は妻によってそこの部分をサポートしてもらえているだけの違いかもしれません。なぜなら、未婚男性と離別男性がほぼ同じ傾向だからです。
有配偶のがんの割合が多い理由は不明
むしろ、独身に比べて、どうして有配偶だけが45歳以上の働き盛り年代で、がんでの死亡が多いのかという点も気になるところです。まさか、有配偶環境下にあるほうががんになりやすいということはないでしょうが、それについては専門外なので言及を控えます。
この傾向は女性でも同じですが、より対称性が顕著なのは男性のほうです。男性と違い、女性では、有配偶女性のほうが未婚・離別女性よりも早死にする傾向がありましたが、死因から見た限りでは、その要因とみられるような特徴は見当たりませんでした。
これは「有配偶女性が独身女性より早死にする」というより、「女性のほうが一人で生きるソロ生活耐性が強い」とみるべきでしょう。例えば、孤独死はほぼ元既婚の高齢男性で占められるという事実からも、それは読み取れます。夫は、定年退職してしまうと外部コミュニティが妻だけになってしまいます。
一方、妻は、普段からママ友などの夫以外の外部コミュニティの充実化を図っているという違いも大きく影響していると言えるでしょう。言い換えれば、「男は職場や家庭など固定の居場所に依存し、女は子ども、友人など人に依存する」という違いだと考えられます。
いずれにしても、有配偶なのか、独身なのかによって、このように主たる死因も違えば、死亡の多い年齢層も違うというのは興味深い結果です。男女別や年齢別だけで統計を見ていると発見できないポイントです。寿命や死因に配偶関係という環境要因が影響していることは間違いないでしょう。
未婚者は社会のフリーライダーか
未婚化の話題では、既婚者から未婚者に対して以下のようなコメントが寄せられることが数多くあります。
「未婚者が生涯独身で過ごそうが知ったことではないが、結婚もせず、子どもを産まず、高齢者になった未婚者たちを支えるのが、自分たちの子どもたちだと思うと我慢ならない」と。
まるで、未婚者たちは全員社会のフリーライダーだといわんばかりですが、どうやらその指摘は間違いのようです。未婚だろうと、働いて税金を納めている以上、国民としての義務は果たしています。加えて、自身の年金もコツコツと積み立ててきました。
しかし、未婚男性の半分が66歳までに亡くなっているという事実からすれば、例えば、年金受給開始時期が65歳だとすると、ほとんどその年金を受け取らずに半数が力尽きてしまうということになります。フリーライダーどころか、ほかの皆さんのため社会のために尽力していたとも考えられるわけです。
とはいえ、短命な未婚男性が不幸だったとも言い切れません。自分の好きなものに積極的にエモ消費をして(『独身を幸せにする「エモい」という感情の正体』)、太く短い人生を本人として楽しめたのなら、それはそれで豊かで幸せな人生なのかもしれません。が、未婚男性の皆さん、くれぐれも食生活・運動など生活習慣には多少なりとも気をつけていただければと思います。
荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト