下記の記事は東洋経済様のホームページからお借りして紹介します。(コピー)です。
日本では年々、男女の未婚率が高まっています。こうした状況が続けば、孤独を感じる日本人だけじゃなく、ひきこもり状態になってしまう日本人も増えると考えられています。未婚者ほど「ひきこもり」を他人事と思わず、自分事と捉えたほうがいい理由とは?
臨床心理士の桝田智彦氏による新書『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』から一部抜粋してお届けします。
前回は、2つの事例をご紹介しながら、「誰でもきっかけとなる出来事さえあれば、ひきこもる可能性がある」ということをお伝えしてきました。
中高年ひきこもりは、リストラ、親の介護、心身の不調など、何かしら家にこもらざるをえない出来事があれば、誰の身にも起こりえます。
さらに、とくに日本人は、このような出来事によってひきこもりやすい環境におかれていると言えます。なぜなら、日本人は「先進国でいちばん孤独な国民」だからです。いったいどういうことでしょうか──。
日本の「社会関係資本」はアフリカ以下
2018年、英国シンクタンク「レガタム研究所」が国の繁栄に関する統計を発表しています。その統計では、149の国や地域で調査を行い、繁栄の度合いを経済、教育、安全性などの9つの項目に分けて数値化し、「繁栄指数」としています。日本の繁栄指数の結果は下記のグラフのとおりです。
出所:『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』より
健康や安全性などの項目が高い指数を指す一方で、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の充実度が149カ国中、99位であり、OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進国31カ国中では、30位でした。最下位であったギリシャが、アメリカのRussell Investmentsにより発展途上国に範疇替えさせられたことを考えれば事実上、日本は先進国中では最下位となります。決して豊かではないガーナなどのアフリカ諸国を下回っているのです。
ソーシャル・キャピタルとは「家族以外のネットワーク(社会的なつながり)」を意味し、具体的には、ボランティアや地域活動への参加、地域社会での「人との信頼関係や結びつき」を示す概念です。
このソーシャル・キャピタルが極めて低いということは、日本では家族などのコミュニティー以外に居場所を持たない人たちが圧倒的多数であることを示しているわけです。
でも、家族がいれば、孤独ではないのでは……。そう考えられる方もいるでしょう。前回の2つの事例を思い出してください。AさんもUさんも、一緒に暮らす家族はいました。しかし、家族以外に居場所がなく、相談できる人もいなかったことが、彼らをひきこもり生活へと加速させたのです。
「ひきこもりから回復するとき」には、家族である「親」の存在が大きな役割を果たします。家族、とくに親というのは本来、子どもの心の居場所(安全基地)や心の土台をつくるために欠かせない存在です。
しかし、時と場合によっては、家族はとても遠い存在にもなりえます。身内だからこそ話しにくかったり、助けを求めにくかったりすることもあるでしょうし、家族関係がうまくいっていなければ、当然ながら家族に助けを求めるのは難しいものです。
そんなときに助けを求められるコミュニティーや仲間がいないと、孤独感がより増し、ひきこもりになりやすいのです。先のデータでもわかるように、日本には社会的なつながりを持たず、「ふとしたことで、孤独になりやすい人」が多くいます。
家族や職場以外のコミュニティーを持たない人が、なんらかの形で仕事を失ったり、家族との関係がよくないなかで家に閉じ込もるようになると、孤独になり、一気にひきこもりやすくなるのです。
孤独が人を「ひきこもり」にする
ひきこもりを考えるときに、「孤独」の問題は避けて通れません。孤独が人をひきこもり化させ、ひきこもることでその人の孤独が加速する……。そんな悲しい相乗作用があるのが、ひきこもりと孤独の関係なのです。
先の事例でも、1000万円プレイヤーだったAさんは、「雇用打ち切り」ののちに、みずから周囲と連絡をとらないようになって孤独化し、ひきこもっていきました。
孤独になると、その人にじわりじわりと絶望が襲ってきます。絶望とは、読んで字のごとく、望みが絶たれた状態なので、絶望に置かれた人はセルフイメージ(自己評価)が日を追うごとに低下していき、徐々に自分を粗末にしていくようになります。これが、いわゆる「セルフネグレクト」という状態です。
セルフネグレクトとは「自己放任」ともいわれます。自分の生活や健康の状態が悪化しているにもかかわらず、改善する意欲や助けを求める気力を失っていくことを指します。
孤独になり、セルフネグレクトの状態になると、何事にもやる気が出ず、改善もできなくなるのです。こうなると、ひきこもりがちな現状を改善しようという意識など持てません。部屋や家から出る頻度もどんどん減っていき、自分のケアをいっさいしないまま、ひきこもって生きていくようになると考えられます。
さらにいえば、自分の最も身近なコミュニティーである「家族」をつくらない人も増えています。近年増加している未婚や一人暮らしの家庭です。
現在の日本では、50歳時未婚率(50歳までに1度も結婚したことがない人の割合)が右肩上がりで急増しています。
内閣府が行った『令和元年版 少子化社会対策白書』によると、2015年に男性23.4%、女性14.1%であった50歳時未婚率は、2030年には男性28.0%、女性18.5%にまで上昇すると見込まれています。
さらに、国立社会保障・人口問題研究所の2018年の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」によると、単身世帯数(一人暮らし)の一般世帯総数に占める割合も、2015年の34.5%から2040年には39.3%へ増加するという推計がなされています。
出所:『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』より
注意していただきたいのですが、ここでは、50歳の時点で未婚であることや、一人暮らしであることが悪いと言うつもりはまったくありません。家族という最も身近なコミュニティーを持たず、孤独になっている人が多いという事実に注目していただきたいと思います。
「おひとりさま」は気楽な選択なのか?
家族や会社以外で、人とのつながりやコミュニティーを持たない。さらに、その家族自体も持たない選択をする──。そのような人たちの増加によって日本には、孤独な人が増えていると言えるでしょう。
『中高年がひきこもる理由―臨床から生まれた回復へのプロセス―』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)
そして、怖いのはそんな方たちが、失業や親の介護などの「ひきこもりにつながるきっかけ」に出合ってしまったときです。もともと孤独であれば、ちょっとしたきっかけでひきこもりになることも、十分に考えられます。
日本では「おひとりさま」が市民権を得ており、“孤独であること”が普通になっているようにも思えます。そして、孤独を楽しめるのであれば、それは決して悪いことではないという雰囲気も世の中にあるように思います。それ自体はまったく間違いではなく、「自分の意思で孤独を選ぶこと」も、よい選択かもしれません。
しかし、何かが起きたときにはじめて自分の孤独と向き合うと、その重みに耐えられず、ひきこもってしまう方も少なくないと思われます。だからこそ「自分は大丈夫」と高をくくっている方にこそ、孤独とひきこもりの問題を「自分のこと」として捉えていただきたいと思うのです。
桝田 智彦 : 臨床心理士