ジェシー「な・・・何だ!?(回りを見回す。)」
マリア「(ジェシーを認め、驚いて再び悲鳴を上げる。)キャーッ
!!」
ジェシー「(思わず耳を塞ぐ。)一体何なんだ!?」
マリア「ごめんなさい!!私、こんなところに人が寝ているなん
て知らなくて!!」
ジェシー「この糞暑い夜に・・・折角、人が寝入ろうとしている時
に、勘弁してくれよ・・・。・・・で、何が“キャー”なんだ?」
マリア「あの・・・私・・・来週のオーディションで、台詞を言わなき
ゃならないんだけど、それが中々上手く言えなくて・・・。」
ジェシー「(呆れたように。)台詞・・・って・・・今の“キャー”が・・・
?」
マリア「(頷く。)そう・・・」
ジェシー「ありゃ台詞って言うんじゃないだろ?ただの叫び声だ
!!ただの!!」
マリア「あら、悲鳴も立派な台詞なのよ!!悲鳴が下手だと、
後のお芝居が嘘っぽくなって、舞台そのものが台無しに
なっちゃうんだもの。悲鳴を馬鹿にすると、とんでもない
ことになっちゃうのよ!!」
ジェシー「ああ、そうかい・・・。よく分かったよ。分かったから何
処か余所へ行って、その“キャー”を練習でも何でもや
ってくれ。俺はぐっすり眠りたいんだ。」
マリア「ここで・・・?」
ジェシー「ああ、ここでだ!!」
マリア「(クスクス笑う。)可笑しなところで眠るのね。確かにもう
そろそろ町は夜の闇に包まれて、休む時間かも知れない
けれど・・・。普通はちゃんと家へ帰って眠るものよ。」
ジェシー「俺はこの場所が気に入ってるんだ。放っておいてくれ
。おまえもこんなところで道草食ってないで、早く帰らな
いと、本当に悲鳴を上げなきゃならないことが起こって
も知らないぞ!!」
マリア「まあ、心配してくれてありがとう!」
ジェシー「誰の心配もするものか・・・。」
マリア「(ジェシーの言葉は耳に入っていないように。)私ね、今
まで舞台で名前のある役って貰ったことがなかったの・・・
。それに私のいる劇団には、もうずっと前からスターがい
て、後から入った私なんかが如何頑張ったところで、到底
主役なんか望めるようなところじゃなかったの。(嬉しそう
に。)でもね!!今度の舞台では、主役を選ぶオーディシ
ョンが行われるの!!来週、フランスから偉い先生が来
られるのよ!!私にもやっとチャンスが巡ってきたんだわ
!!丸で夢みたい!!まだチャンスをものにした訳じゃ
ないけれど、この日の為にずっと頑張って来たんだもの!
!」
ジェシー「くだらない・・・」
マリア「あら、そうかしら!!夢を持ってそれに向かって努力す
る。そしてその努力が報われる時がくれば、こんな素晴ら
しいことはないわ!!あなただってあるでしょ?夢が!!
」
ジェシー「ないね、そんなもの・・・」
マリア、瞳を輝かせ嬉しそうに歌う。
マリア“私には夢がある!!
将来 屹度 舞台に立ち
誰もが驚くような
輝く人に!!”
ジェシー「(素っ気なく。)興味ないね・・・。」
マリア“(ジェシーの手を取って。)
あなたにも屹度ある筈
心に誓った夢が!!
誰にもある筈
心を賭けて願うこと!!”
ジェシー「俺にはない・・・。」
マリア“心の奥を探って
自分で忘れたことも
体は屹度 覚えてる筈
夢見た明日を!!”
ジェシー「俺は何時も一人だった!!生まれて直ぐに親に捨て
られ、ずっと孤児院で育てられたんだ!!物乞いしたこ
とだって・・・盗みを働いたことだってある!!そんな俺
に明日を夢見る心なんて、あったと思うのか!?」
マリア「(優しくジェシーを見詰める。)・・・思うわ・・・。」
ジェシー「おまえに如何してそう言い切れる!!」
マリア「(微笑んで。)・・・だって私も・・・あなたと同じ一人ぼっち
だったから・・・」
ジェシー「(呆然とマリアを見詰める。)・・・一人ぼっち・・・?」
マリア「(頷く。)生まれて間もなく、教会に捨てられてたの・・・。
小雪の舞う寒空に・・・。シスターが見つけてくれたのが、
後一時間遅かったら危なかったって・・・。(微笑む。)だか
ら私の名前は“マリア”・・・。」
ジェシー「聖母・・・マリア・・・」
その時、遠くにけたたましいパトカーの
サイレンの音が鳴り響く。
マリア「(その方を見遣って。)・・・何かあったのかしら・・・。」
ジェシー「・・・おまえ・・・それで・・・自分の運命を呪ったことは・・
・?」
マリア「ある訳ないじゃない!!私の両親がどう言う訳で、私を
捨てたにせよ、今私がこうしていられるのは、その父さん
や母さんがいてくれたから・・・。その父さんや母さんが私
を生んでくれなかったら、私はここにはいないのよ!そし
てあなたと出会うこともなかった・・・。だから運命って不
思議よね・・・。何処で如何してそうなるのか・・・。あなた
がもし、今夜は自分のベットで真っ白なシーツにくるまれ
て眠りたい気分だったり、私が今夜は台詞の練習をお休
みして、真っ直ぐ家へ帰ってたなら、今夜こうしてあなた
と私は出会わなかったのよ!!」
ジェシー「(思わず微笑みを洩らす。)初めて会った人間に物怖
じしない奴だな・・・。」
マリア「なんだか、あなた・・・言葉使いと違って優しい目をして
る・・・。だから最初も・・・驚いて悲鳴を上げたけど、怖い
とは感じなかったもの・・・。」
ジェシー「・・・優しい・・・目・・・?」
そこへ下手よりメアリ、鞄を担いで登場。
メアリ「(マリアを認めて。)マリア!こんな所で何をしているの?
」
マリア「メアリ!今帰り?」
メアリ「ええ・・・。(マリアの肩越しに、ジェシーを覗き込むように
。)誰?」
マリア「(微笑んで。)知らない。今さっき、知り合ったばかりの人
よ!」
メアリ「もう、あなたって本当に誰とでも直ぐに慣れ慣れしくする
んだから!!気をつけなきゃ駄目よ!!」
ジェシー溜め息を吐いて、2人に背を向け
立つ。
マリア「そうだ!さっきパトカーのサイレンが鳴り響いてたけど、
何かあったの?」
メアリ「ええ・・・。何でもあなたがよく行く美術館から、“聖母マリ
アの肖像”が盗まれたらしいわよ。」
マリア「・・・嘘・・・」
メアリ「本当よ!(腕時計を見て。)いっけない!!私、急いで帰
らなきゃ!!彼が来ることになってるの!!じゃあマリア、
私帰るわね!!あなたも早く帰りなさい!!」
メアリ、マリアに手を振り上手へ走り去る。
マリア「マリアが・・・マリアが盗まれたなんて・・・」
ジェシーとマリア残して、カーテン閉まる。
ジェシー、そっとマリアの様子を盗み見する
ように。
マリア「(ジェシーに駆け寄って。)マリアが盗まれたんですって
!!」
ジェシー「・・・それが・・・如何したんだ・・・?」
マリア「如何したですって!?(涙声になる。)あの絵は、私が
一番心の拠り所にしてた絵なのに!!あの中のマリアは
私にとって、たった一人の母さんだったのに!!何時も
劇団で嫌なことがあっても、あの絵の中のマリアに会い
に行くと、本当に元気になれたのに!!その絵が盗まれ
たなんて・・・!!これから私、如何すればいいの!!」
ジェシー「そんな大袈裟な・・・」
マリア「大袈裟じゃないわ!!(泣き叫ぶ。)本当に大切に思っ
てたのに!!来週のオーディションだって、マリアが付い
ていてくれたから頑張ってこれたのに!!」
ジェシー「おい・・・おい!!落ち着け!!」
マリア「(ジェシーを見る。)」
ジェシー「(マリアの肩に手を置いて。)あの絵が、おまえを踊ら
せてくれる訳じゃないだろ!?あの絵が、おまえに台詞
を教えてくれるのか!?あの絵があろうがなかろうが、
そんなことで壊れるくらいの夢だったなら、最初から夢
なんか持つな!!全く・・・もっとしっかりしろよ!!何で
この俺が励まさなきゃならないんだ・・・。」
マリア「(ジェシーを見詰め、頷く。)」
暗転。
――――― 第 6 場 ―――――
音楽でライト・インする。と、ジェシー、ニックの
働くクラブ。歌手シャロンの歌。
正面にカウンター。男性客が座ってグラスを
傾けている。カウンターの中にはニック。
グラスを拭いたりしている。
他に2組のテーブルと椅子。その1つに1組の
男女、シャロンの歌を聞いている風。
シャロンの歌が終わると拍手して、楽し気に語
らいだす。カウンターの客、ニックに酒のお代り
を求める。シャロン、お辞儀をしてカウンターへ。
椅子へ座る。
シャロン「今日はジェシー、遅いのね。」
ニック「そうだなぁ・・・。無愛想な奴だけど、仕事に遅れることな
んて滅多にないからな。」
シャロン「あら、彼は無愛想に見えるだけで、本当はとても優し
い男よ。」
ニック「(酒をカウンターの客へ差し出して。)へぇ・・・よく分かる
んだな、奴のことが・・・。」
シャロン「決まってるじゃない。好きな人のことは何だって分か
わよ!」
ニック「(驚いた面持ちをして。)意外だなぁ。おまえがあいつに
惚れてたなんて・・・。」
シャロン「そう?去年、ジェシーがこの店にふらっと立ち寄った、
あの雨の日のこと・・・今でもよく覚えてるわ・・・。濡れた
髪が妙にセクシーで、一目惚れってやつかなぁ・・・。」
ニック「へぇ・・・。だが俺には、あいつの心の中は見えないね。
一体・・・何を考えて俺達の仲間に入ったのか・・・。」
シャロン「(不思議そうに。)仲間・・・?」
ニック「(少し慌てて。)いや・・・この店で働くつもりになったのか
だよ。」
シャロン「変ね。別にどんなつもりで働く気になったからって、如
何でもいいじゃない。私は嬉しいわぁ・・・。だって何時も
彼に会えるんだもの。」
そこへ入口よりジェシー入って来る。
シャロン「(ジェシーを認め嬉しそうに。)ジェシー!!遅かった
じゃない!!」
ニック「おまえにしちゃ珍しいじゃないか、遅刻なんて。」
ジェシー「悪い・・・。(カウンターの中へ入り、自分のジャケットを
脱いで、黒のウエイタージャケットを着る。)」
シャロン「あら、別にいいのよ。偶に遅刻するくらい!しょっちゅう
開店時間にいない人だっているんだから・・・。ねぇ、ニッ
ク!」
ニック「悪かったな。」
シャロン「誰もあなたのことだって言ってないわよ。(立ち上がっ
て。)さ、奥で休んでこよ!また後でね、ジェシー!」
シャロン、奥へ入る。
カウンターの客、金を置いて出て行く。
ジェシー「ありがとうございました。」
ニック「ありがとうございました。」
ジェシー、客のグラスを下げて、用事を
している風。ニック、カウンターの外へ。
ニック「何処か行ってたのか?」
ジェシー「まぁな・・・」
ニック「ふうん・・・。さて・・・俺も少し休んでくるかな。」
ジェシー「ああ・・・。」
ニック「じゃあ中、頼んだぜ。(奥へ行こうとする。)」
その時、入口からマイク、走り登場。
マイク「大変だー!!ニック!!」
座っていた男女、その声に驚いたように
揃ってマイクの方を見る。
ニック「(客の態度に気付いて。)馬鹿、お客様が居るんだ!!
大声で騒ぐな!!(客の方を向いて。)失礼しました。(頭
を下げる。)」
客、再び楽し気に語らう。
マイク「ごめん・・・」
ニック「・・・で、何が大変なんだ?」
マイク「それが“聖母マリアの肖像”が無くなったんだ!!」
ニック「(驚いて。)無くなった!?何故!?」
マイク「今さっき、絵を隠してあった倉庫へ、ちょっと拝みに行こ
うと思って覗きに行ったら・・・」
ニック「ジェシー!!知ってたか!?」
ジェシー「(用事をしながら。)ああ・・・」
ニック「そうか・・・。“ああ・・・”?“ああ”ってことは知ってたのか
!?」
ジェシー「俺が元の美術館へ返しに行った・・・。」
ニック・マイク「えーっ!!」
客、再びニック、マイクの声に驚いたように
2人を見る。ニック、客に気付いて、引き攣った
笑顔で頭を下げる。
客、首を傾げて顔を見合わせ、再び話しだす。
ニック「返しに行ったって如何言うことだよ!!」
ジェシー「あの絵は、あの場所で大勢の人達に見られるのが一
番なんだ・・・。」
マイク「一体、何言ってるんだよジェシー!!あの絵がいくらす
ると思ってんだよ!!それにあんなに苦労して盗んだも
のを!!」
ニック「なのに、また同じ苦労を冒して返しに行っただと・・・?」
マイク「如何かしちまったのか!?」
ジェシー「別に・・・。兎に角、あの絵にだけは二度と手はつけな
い。」
その時、奥よりシャロンの声。
シャロンの声「ジェシー!!ちょっと、こっち手伝ってくれない!
?」
ジェシー「OK!(ニックとマイクを見て。)そう言うことだ・・・。」
ジェシー、奥へ入る。呆然と顔を見合わせる
ニックとマイク残して、カーテン閉まる。
マイク「如何しちまったんだろう、あいつ・・・。」
ニック「確かに何時も何考えてるか分からない奴だが・・・今度
ばかりは全く信じられないね・・・。(暫く考えている風に。)
」
マイク「本当だよ!!あんな大金を棒に振るなんて!!信じら
れないよ!!」
ニック「煩い!!だけど可笑しいな・・・。これには何か訳がある
かも知れないぜ・・・。」
マイク「・・・訳って・・・?」
ニック「馬鹿野郎!!それをこれから探るんだよ!!」
マイク「ああ、そうか・・・。」
ニック「行くぞ!!」
ニック、マイク上手へ走り去る。
暗転。
――――― “マリア”3へつづく ―――――
― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪ ― ♪
(どら私的余談^^;)
子どもが退院しました(^^)v
今まで、読みに来て下さってた皆さんにも、随分とご迷惑を
お掛けしてきましたが、これからはまた少しずつ、こんな時間に
しか更新出来なかったページの改善など、行っていけるかな
・・・と考えていますので、引き続きお楽しみ頂けると嬉しいで
す♥
沢山の方達にご好意を頂いてきたので、これからはまた、
今度は私が皆さんに、暖かい心を届けることができるように、
頑張って行こうと思っていますので、ヨロシクお願い致します。
で・・・
何故、退院した今日もこんな時間なのか・・・と申しますと・・・
引越しかと思われる程の、病院から持って帰った大荷物を、
片付け終わった途端、ものすごい睡魔に襲われ・・・さっきまで
爆睡してしまいました~・・・^^;
http://milky.geocities.jp/little_pine2012/index.html
http://ritorupain.blogspot.com/
http://blogs.yahoo.co.jp/dorapontaaponta