りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“マリア” ―全14場― 3

2012年06月30日 21時42分24秒 | 未発表脚本


    ――――― 第 7 場 ―――――

         カーテン前。下手スポットにジェシー浮かび
         上がる。今の気持ちを切々と歌う。
         ゆっくり上手へ。

         “何故だろう こんな気持ち
         生まれて初めて感じたような・・・
         如何したんだろう一体
         こんな思いが駆け巡るのは・・・
         可笑しいんだ ここ数日
         この気持ちを持て余してしまう・・・

         ただおまえの・・・
         泣き顔より笑顔が・・・
         ほんの少し見てみたいと
         何故だろうこんな思い・・・
         変だ・・・変だ・・・
         如何しちまったのか
         自分で自分の心が分からない
         たった一度しか会ったことのない
         誰かの為になんて
         俺らしくない・・・”

         暗転。

    ――――― 第 8 場 ―――――

         フェード・インする。と、美術館。
         “聖母マリアの肖像”の前で見上げるように
         佇み、絵に見入るマリア。
         静かな音楽が流れている。
         1組の男女、楽しそうに絵を見て、ゆっくり
         出て行く。
         下手よりバリー登場。マリアを認め近寄る。

  バリー「マリア・・・。」
  マリア「(バリーを認め、嬉しそうに。)戻って来たのね!!」
  バリー「ああ。昨夜、見回りに来た時には盗まれた状態だったん
      だが今朝来てみると、全く何もなかったかのように戻って
      いたんだよ。それで直ぐに鑑定士に来て調べてもらった所
      、紛れもなく本物の“聖母マリアの肖像”だと言うんで、こ
      うして元の通り・・・と言う訳さ。だが、喜んでいいんだろう
      が、何とも・・・奇妙な話しさ・・・。今まで盗難に遭って、そ
      の品物が何処かへ流れて見つかることはあっても、元通
      り返って来るなんて、聞いたことがないからね。」
  マリア「でも私は嬉しいわ!!またこうしてここへ何時でも話し
      に来れるんだもの。」
  バリー「そうだね。だけどよく分かったね、昨夜この絵が戻って来
      たこと。それとも偶然かい?」
  マリア「(首を振る。)それが見てくれる?この手紙・・・(手に握り
      締めていた手紙をバリーに差し出す。)」
  バリー「(手紙を開いて読む。)ほう・・・」
  マリア「ね!今日ここへ来れば、必ずいいことがあるって・・・。マ
      リアのいなくなったここへ来たって、何がいいことあるのか
      しらって・・・。けど、何時もの習慣で、ついこの前まで来ち
      ゃって・・・そしたら!!」
  バリー「そうか・・・幸せの手紙って訳だ。(マリアへ手紙を返す。
      )」
  マリア「そう!」
  バリー「まあ今日は、飽きるまで見ておいで。」
  マリア「ありがとう!!」

         バリー、微笑んで上手へ去る。
         マリア再び絵に見入る。
         一時置いて、上手よりジェシー登場。マリアを
         見詰める。マリア、何となく人の気配に気付き、
         振り返りジェシーを認め、嬉しそうに微笑み
         駆け寄る。

  マリア「見て頂戴!!“聖母マリアの肖像”が戻って来たの!!
      (ジェシーの手を取って、嬉しそうに絵の前まで引っ張って
      行く。)」
  ジェシー「ああ・・・。」
  マリア「もう私、嬉しくって・・・!!マリアにもう一度会えるなんて
      ・・・。」
  ジェシー「・・・よかったじゃないか・・・。」
  マリア「ええ!!(恥ずかしそうに下を向いて。)あの時は・・・あ
      りがとう・・・。あなたのお陰で元気が出たのよ!」
  ジェシー「大袈裟だな・・・。(微笑む。)」
  マリア「でもね、変な手紙が届いたの。見て・・・(手紙をジェシー
      に差し出す。)」
  ジェシー「(手紙に目を遣る。)・・・へえ・・・」
  マリア「誰かが私に、この絵が戻って来たことを知らせてくれた
      のよ。一体誰かしら・・・。」
  ジェシー「いいじゃないか、別に・・・。またこの絵に会えて嬉しい
       んだろ?なら、そんな手紙、気にすることないさ・・・。(マ
       リアへ手紙を返す。)」
  マリア「・・・そうね!」
  ジェシー「それにいいことだとは書いてあるが、絵のことだとは
       一言だって書いてないんじゃないか?」
  マリア「そうね・・・いいことって、あなたにもう一度会えたことか
      も知れないわね?」
  ジェシー「馬鹿!」
  マリア「よく来るの?ここ。」
  ジェシー「いや・・・俺は絵なんかに余り興味はないからな。」
  マリア「それじゃあ、今日ここで会えたのは、奇跡に近いかもね
      !(微笑む。)」
  ジェシー「・・・そうだな・・・。」  
  マリア「そう言えば・・・私、まだあなたの名前知らない・・・。」
  ジェシー「・・・ジェシー・・・」
  マリア「ジェシー・・・。ねぇ、ジェシー!仕事は何をしているの?」
  ジェシー「・・・表通りのクラブで働いてる・・・。」
  アリア「私は・・・」
  ジェシー「知ってるよ・・・。“劇団フラップ”の団員だろ・・・?」
  マリア「・・・ええ・・・。でも如何して・・・」
  ジェシー「この間、劇団のパンフレットを見た時、最後の方に小
       さく写真が載っていた・・・。」
  マリア「よく分かったわね!!友達なんて、私が何処に写って
      るか見つけられない子だっているのに!!・・・何時かあ
      のパンフレットの表紙に、サイン入りで写真が載ることが
      私の夢・・・。ジェシーは夢なんてないって言ったけど・・・」
  ジェシー「・・・おまえに言われて・・・そう言えば俺も昔・・・子ども
       の頃・・・夢を持って生きていたような気がする・・・。」
  マリア「(瞳を輝かせてジェシーを見詰める。)どんな?」
  ジェシー「・・・(思わず笑みを洩らす。)」
  マリア「ねえ!!どんな夢!?」
  ジェシー「(微笑んで。)いいだろ、何だって・・・。」
  マリア「教えてくれたっていいじゃない!!意地悪ね!!」

         ジェシー、笑いながら上手へ去る。

  マリア「待ってよ!!(小走りでジェシーに続く。)」

         柱の陰から出たラリー、出て行く2人の背中
         を見据える。カーテン閉まる。

    ――――― 第 9 場 ―――――

         カーテン前。
         ニック、マイク、下手より話しながら登場。

  ニック「それで何か分かったのか?」
  マイク「全然!!」
  ニック「全く役立たずな野郎だぜ。」
  マイク「そんなぁ・・・。俺だって一生懸命、探り入れてたんだけ
      ど、あいつの住むとこすら俺達知らないんじゃ・・・。」
  ニック「そうだったよな・・・。」
  マイク「相変わらず無愛想だし・・・。」
  ニック「別にあれ以来、変わった様子もなしか・・・。そうだ!!
      (ズボンの後ろポケットから、新聞を取り出す。)これを見
      てみろよ!(新聞を差し出す。)」
  マイク「(受け取った新聞を開いて見る。)何を見るんだ?・・・
      人生相談・・・今日の料理・・・天気予報・・・」
  ニック「馬鹿野郎!!そこだよ、そこ!!(新聞を指差す。)」
  マイク「(新聞を読む。)来月行われる万国博覧会に“女王の涙
      ”が出品されることになった・・・て・・・“女王の涙”って、そ
      んなもの如何するんだよ・・・。」
  ニック「馬鹿!!“女王の涙”って言ったら、時価数千億は下ら
      ないと言われているダイヤの原石だ!!」
  マイク「・・・(呆然と。)数・・・千億・・・?」
  ニック「ああ!!」
  マイク「えーっ!!数千億もあれば、一生遊んで暮らせるじゃな
      いか!!」
  ニック「おまけに原石だぜ!!バラバラにして捌けば足もつかな
      い!!」
  マイク「やった!!次の獲物は決まりだな!!」
  ニック「これに目を付けない手はないだろ!?」
  マイク「けど、ただの原石に何でそんなロマンチックな名前が付
      いてるんだ?」
  ニック「(幾分、瞳を輝かせて。)何でも昔からこの宝石には曰く
      謂れがあって・・・一体何時から今の持ち主である王室に
      あるのか分からないそうなんだが、誰であろうと一目この
      宝石を見た者は、忽ちその妖しげな輝きに魅了され、ど
      んなことをしても我が物にしたくなる感情に駆られ、幾多
      もの人間がこの宝石を巡って、血の争いを繰り返したらし
      い・・・。で、手に入れた者は決まって不幸な人生を歩まな
      くてはならなくなるそうだ・・・。そしてこの宝石の赤く鈍く
      輝く独特の色合いは、その人々の血が滴り込められてい
      るからって話しだぜ。そんな醜い人々の心を悲しんで自
      殺した女王に因んで、この名前がついたって訳さ。」
  マイク「・・・えー・・・そんな・・・そしたら俺たちも・・・」
  ニック「馬鹿・・・それはもう何百年も昔の話しで、王室に渡った
      時にその曰く謂れを振り祓おうと、国中捜して一人の有
      名な祈祷師を呼んで、ちゃんとお祓いは受けたそうだ。」
  マイク「(ホッとして。)よかったー。へぇ・・・でもそんな魅力のあ
      る宝石なら、早く見てみたいなぁ・・・。」

         その時、上手よりラリー走り登場。

  ラリー「おおい!!ニック!!」
  ニック「(振り返りラリーを認める。)何処行ってたんだ?」
  ラリー「分かったぜ!!(息を切らせて。)」
  ニック「・・・分かったって・・・?」
  ラリー「ジェシーがとった不可解な行動の訳さ!!」
  マイク「えーっ!?」
  ニック「それで一体何が分かったんだ!?」
  ラリー「それが聞いて驚くなよ!!」
  マイク「早く言えよ!!」
  ラリー「煩いな!!おまえに言われなくても言うさ!!」
  ニック「早く言え!!」
  ラリー「ああ・・・。それがなんと・・・奴の後ろに“女”がいたんだ
      よ!!」
  ニック「・・・女・・・?」
  ラリー「そう!!」
  ニック「(笑って。)冗談だろ?あの無愛想で何考えてるか分か
      らないような奴が、女の為に何かするなんて考えられる
      かよ!!」
  ラリー「けど本当なんだ!!俺たちには笑顔なんか見せたこと
      のないあいつが、その女の前では笑ってたんだぜ!!」
  ニック「(真面目な顔付になって。)・・・へぇ・・・女ねぇ・・・」
  マイク「ニック?」
  ニック「今の話しが本当なら・・・ひょっとしたら、あいつはもう・・・
      使い物にならないかも知れないぜ・・・。」
  マイク「・・・使い物・・・?」

         ニック、上手へ去る。ラリー続く。

  マイク「ニック!!待ってくれよ!!ラリー!!(慌てて2人の後
      を追う。)」

    ――――― 第 10 場 ――――― A

         音楽でカーテン開く。と、ジェシーの働くクラブ。
         カウンターの中にジェシー。カウンターに1組の
         男女座り、語らっている。ジェシー、客のグラス
         へ酒を注いだり用事をしている。
         一時置いて、奥よりシャロン登場。カウンターに
         座る。

  シャロン「雨・・・降ってきたわね。」
  ジェシー「へぇ・・・」
  シャロン「私にも一杯頂戴。」
  ジェシー「OK・・・。」
  シャロン「覚えてる?一年前、あなたがこの店に初めて来た時
       のこと。」
  ジェシー「いいや・・・。(酒をグラスに注いで、シャロンの前へ差
       し出す。)」
  シャロン「ありがとう。(グラスを持って。)あの日も今日みたいに
       小雨が降ってたのよねぇ・・・。」
  ジェシー「よく覚えてるな・・・。」
  シャロン「そりゃあ・・・ね・・・」

         客の男女、お金を置いて出て行く。
         男、戸の外を見て雨が降っているのに
         気付き、自分のジャケットを脱ぎ、女の
         頭から掛けてやり、肩を抱いて出て行く。

  ジェシー「ありがとうございました。」
  シャロン「(客の2人を見ていて、呟くように。)いいなぁ・・・恋人
       同士は・・・。ジェシーは何も話さないのね、自分のこと
       ・・・。」
  ジェシー「話すようなことは何も持たないからな・・・。」
  シャロン「そう・・・?私はあなたがその内、ここへ来た時と同じ
       ように、ふらっと何処かへ行ってしまうような気がするの
       ・・・。」
  ジェシー「(微笑んで。)何処へも行かないよ・・・。」
  シャロン「(微笑んで。)そうね・・・。」

         その時、戸を開けて、雨に濡れた
         長く解き流した髪をハンカチで拭き
         ながら、マリア登場。

  ジェシー「いらっしゃ・・・(マリアを認め、驚いたように。)マリア
       ・・・」
  シャロン「マリア・・・?(振り返ってマリアを認める。)」
  マリア「(カウンターの中のジェシーを認め、嬉しそうに駆け寄る
      。)ジェシー!!やっと会えた!!随分探したのよ、この
      お店!!(興奮して。)聞いて!!私、選ばれたの!!今
      度の舞台の主役に選ばれたのよ!!」
  ジェシー「・・・え・・・?」
  マリア「オーディションで選ばれたのよ!!」
  シャロン「・・・知り合い・・・?」
  ジェシー「あ・・・ああ・・・(思い出したようにカウンターの外へ、
       慌てて出る。)何でこんなところへ来たんだ!!ここは!
       !(思わず誰かを捜すように、回りを見回す。)」
  マリア「でも、如何してもあなたに一番に知らせたかったの!!」
  ジェシー「(呆然とマリアを見詰め、フッと笑って。)・・・よかった
       な・・・。」
  マリア「(頷く。)ありがとう!!」
  ジェシー「今度ちゃんと祝ってやるよ・・・。だから今日はもう帰る
       んだ。」
  マリア「本当?」
  ジェシー「ああ・・・。髪が濡れてる・・・。傘持ってないのか?」
  マリア「だって、このお店を探し始めた頃は、まだ雨は降ってな
      かったもの。」
  シャロン「雨・・・もう30分は降ってるわよ・・・。」
  ジェシー「一体何軒回ったんだよ・・・。」
  マリア「だって表通りってことしか知らなかったもの・・・。」
  ジェシー「ちょっと待ってな・・・。(ジェシー、カウンターの中から
       傘を取って、マリアの側へ。」

         と、奥よりニック、ラリー、マイク登場。
         ジェシー、一瞬強張った表情で、3人を
         見据える。

  ニック「(にこやかに。)やあジェシー、彼女かい?」
  ジェシー「(態とぶっきら棒に。)そんなんじゃない・・・。」
  ニック「(ラリーをチラッと見る。)」
  ラリー「(ニックに答えるように軽く頷く。)」
  ニック「いいじゃないか、隠さなくても。何時の間の見つけたんだ
      ?こんな可愛い彼女・・・。おまえは恋愛なんかに興味な
      いと思ってたけど、これで安心だ。(笑う。)」
  ジェシー「本当に俺とは何の関係もないんだ!!」
  ニック「まあまあ・・・。(マリアを見て。)彼女、ゆっくりして行くん
      だろ?」
  マリア「いいえ・・・もう。レッスンもあるし。」
  ジェシー「さあ、これを持って行けよ・・・(傘を差し出す。)」
  マリア「ありがとう!(傘を受け取る。)」
  ニック「レッスンって?」
  ジェシー「(態とニックの言葉は耳に入っていない風に。)マリア
       ・・・(マリアの背中を軽く押して、戸まで付いて行く。)」
  マリア「(店の中の皆に軽く頭を下げる。)じゃあジェシー!さっ
      きの約束、絶対ね!!」

         マリア出て行く。暫くジェシーその方を見ている。










         ――――― “マリア”4へつづく ―――――











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   (どら余談^^;)

   この作品・・・に限らず、ずっと以前に書いたお話しは、言葉使
   いの気になる個所が所々出て来ます^^;
   そんな時は台詞の差し替えをしているのですが、し切れてな
   かったらすみません^_^;






   
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         http://ritorupain.blogspot.com/

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