りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“アレックス” ―全15場― 3

2013年01月17日 20時52分36秒 | 未発表脚本


    ――――― 第 8 場 ―――――

         カーテン前。
         生徒達、談笑しながら出る。

  ハンナ「ねぇ、ねぇ知ってる?」
  トミー「何だい?」
  ハンナ「ピーター先生とキャシー先生の噂!」
  トミー「噂・・・?」
  フィービー「結婚のことでしょ?」
  トミー「結婚・・・?」
  ハンナ「そうそう!でも本当のことかしら・・・」
  トミー「何の話ししてるのさ!!」
  ハンナ「トミーったら、何もしらないのね!ピーター先生とキャシ
      ー先生が結婚して、キャシー先生が学校を辞めるって言
      う話し!」
  トミー「えーっ!!冗談だろ!?」
  ジョニー「それが冗談なんかじゃないんだよな。」
  ジュディ「嘘・・・だってキャシー先生はアレックス先生と・・・」
  フィービー「そうよねぇ・・・」
  ジョニー「俺もそう思ってたんだけど、さっき校長室の前で・・・」
  フィービー「立ち聞き?」
  ジョニー「人聞きの悪いこと言うなよ!偶然通り掛かったら中か
       ら声が・・・」
  フィービー「立ち聞きしたんでしょ?(笑う。)」
  ジョニー「・・・うん・・・」
  トミー「それで?」
  ジョニー「冬休みの間に式を挙げて、キャシー先生は学校を辞
       るって・・・。」
  ジュディ「嘘よ・・・そんな話し・・・それにキャシー先生が私達の
       ことを置いて、学校を辞めちゃうなんて・・・」
  ジョニー「でもちゃんとこの耳で聞いたんだぜ・・・」

         その時、アレックス登場。
         ジュディ、逸早くアレックスに気付き、
         駆け寄る。(他の生徒達、続く。)

  ジュディ「アレックス先生!!キャシー先生が、ピーター先生と
       結婚して学校を辞めるって本当ですか!?」
  アレックス「え・・・」
  ジョニー「さっき、校長先生とピーター先生が話しているのを聞
       いたんだ。冬休みに結婚式を挙げるんだ・・・って・・・。」
  アレックス「・・・嘘だろ・・・」
  ジュディ「冗談でしょう!?キャシー先生はアレックス先生と結
       婚するのよね・・・!?私達が卒業するまで、学校を辞
       めたりしないわよね!?」

         その時、始業ベルが鳴る。
         アレックス、呆然と立ち尽くす。
         生徒達、アレックスを気にしながら
         出て行く。
         生徒達と入れ代わるように、キャシー
         登場。
         アレックス、キャシー、お互いを認める。

  アレックス「キャシー・・・」

         キャシー、黙って通り過ぎようとする。

  アレックス「キャシー!!待ってくれ!!」

         キャシー、その声に立ち止まり振り返る。

  アレックス「ピーターと・・・結婚するって・・・結婚して学校を辞め
         るって本当なのか・・・?」
  キャシー「・・・」
  アレックス「キャシー!!答えてくれ!!」
  キャシー「・・・ええ・・・本当よ・・・」
  アレックス「どうして・・・?ピーターのことを愛しているのか・・・
         ?」
  キャシー「・・・あなたには関係のないことだわ・・・」
  アレックス「愛しているのか・・・?」

         その時、ピーター登場、キャシーの側へ。

  ピーター「勿論、愛があるから結婚するんだ!」
  アレックス「ピーター・・・」
  ピーター「僕は彼女を愛している!!例えどんな状況でも!!
       僕は君のように、彼女に悲しい顔をさせやしない!!決
       して・・・!!さぁ、行こう・・・キャシー・・・」

         ピーター、キャシーの肩を抱いて出て行く。

  アレックス「・・・どんな状況・・・でも・・・キャシー・・・」

         音楽流れ、アレックス、スポットに
         浮かび上がる。歌う。

         “君が指からすり抜けた今・・・
         いくら悔やんだとしても
         君は元へと帰りはしない・・・
         何故手放してしまったのか
         いくら責めたとしても
         もうこの場所に君はいない・・・
         ああキャシー・・・
         愛しているんだ・・・
         もう・・・届かない想い・・・
         もう・・・君はいない・・・”

         アレックス去る。

    ――――― 第 9 場 ―――――

         カーテン開く。(絵紗前。)キャシーの家。
         中央、置かれているソファーに、カーター、
         シルヴィア、キャシー、ピーター座っている。

  カーター「そうか、では君は今の学校はもう長いのかね?」
  ピーター「(明るく。)いえ、キャシーより2年先輩になります。そ
       れで彼女が赴任した時に、僕は彼女に一目惚れしたと
       言う訳です。」
  キャシー「・・・ピーター・・・(少し困惑した面持ちになる。)」
  カーター「キャシーは学校ではどんな様子だね?」
  シルヴィア「あなた・・・」
  カーター「まぁ、いいじゃないか。人の目から見たキャシーの先
        生具合を聞いてみたって・・・。」
  ピーター「それはもう、キャシーは生徒達・・・特に女生徒達にと
        って、姉のような存在ですからね。皆、キャシーのこと
        が大好きですよ。何も問題はありません。(キャシーを
        チラッと見る。)」
  キャシー「・・・私・・・お茶を入れて来ます・・・。(立ち上がる。)」 
  
         キャシー、出て行く。

  ピーター「(キャシーが出て行くのを見計らって。)お父さん、お母
        さん!キャシーと結婚を前提にお付き合いさせて下さ
        い!」
  カーター「それは・・・キャシーも承知していることかね・・・?」
  ピーター「勿論です!」
  シルヴィア「でも確か・・・キャシーはアレックスとお付き合いして
         いたのでは・・・」
  ピーター「ご存知ないのですか?あの2人は別れたのです。」
  シルヴィア「別れた・・・?」
  ピーター「はい。」
  シルヴィア「何があったのでしょう・・・?」
  ピーター「さぁ・・・あまり詳しいことは分かりませんが、アレックス
        がキャシーに何か酷いことを言ったようです。」
  シルヴィア「・・・酷いこと・・・」
  ピーター「彼女の落ち込んだ顔を見るのは、とても辛かったので
        すが、何回か僕とデートを重ねるうち、彼女の気持ちも
        解れていったようです。」
  カーター「そうか・・・。我々もキャシーの幸せが一番なのだから、
        キャシーが笑顔でいられるのであれば、君達2人のこ
        とに、口出しすることは何もないのだよ。」
  ピーター「では宜しいのですね、僕がキャシーとお付き合いをし
        ても。」
  シルヴィア「あなた・・・私、お茶の支度を手伝ってきますわ・・・」    

         シルヴィア、立ち上がり扉から出て行くのに
         合わせて、舞台回転。     ※   
         (キッチン。)
         キャシー、椅子に腰を下ろしてぼんやりして
         いる。

  シルヴィア「(コンロの上のヤカンを下ろして。)キャシー・・・?」
  キャシー「(シルヴィアを認める。)あ・・・ママ・・・今、お湯を沸か
        していたの・・・」
  シルヴィア「もう沸いてたわよ。どうしたの?」
  キャシー「あ・・・ごめんなさい。直ぐ入れるわ・・・(お茶の用意を
        する。)」
  シルヴィア「キャシー・・・あなた本当にいいの?」
  キャシー「何が・・・?」
  シルヴィア「本当にピーターと結婚するつもりなの?」
  キャシー「・・・ええ・・・(無理に微笑む。)どうして?」
  シルヴィア「アレックスのことはどうするの?」
  キャシー「(一瞬、顔色が変わる。)・・・彼とは・・・もう終わったの
        よ・・・」
  シルヴィア「何かあったの・・・?アレックスと・・・」
  キャシー「(微笑んで。)心配しないで、ママ。私はピーターと幸
        せになるから・・・」

         カーテン、閉まる。
        
    ――――― 第 10 場 ―――――

         カーテン前。
         マリアとジョー、ゆっくり出る。

  マリア「・・・ママはアレックスと別れたことを、とても後悔してい
      るのよ。10何年経った今でも、まだアレックスのことを愛
      しているの。」
  ジョー「うん・・・。それは僕が見ても分かるよ・・・。口では色んな
      ことを言っても、アレックスと会ってる時の君のママは、キ
      ラキラと輝いているもの。」
  マリア「まぁ、あなたにそんなこと、分かるの?(可笑しそうに。)」
  ジョー「そりゃ・・・僕だって・・・(恥ずかしそうに。)」
  マリア「(笑って。)冗談よ!私が見てもそう感じるもの・・・。それ
      にパパもね・・・ママと結婚しない方が幸せになれるんだ
      と思うわ・・・。ここ何日か見てきて・・・パパも若い頃は、そ
      んなに悪い人ではなかったみたい・・・。それに本当にマ
      マのこと、愛していたんだと思うわ・・・。でも結婚しても、
      アレックスのことをいつまでも愛しているママに、屹度耐
      えられなかったのね・・・。決して自分の方を向いてくれな
      いママを心から愛していたとしても、いつまでも優しく包ん
      であげることができなかった・・・。それはパパの心の大き
      さの問題なんだけれど・・・。」
  ジョー「よく分かるんだな、大人のことが。」
  マリア「パパとママのことでは苦労してきたもの。(笑う。)それ
      よりどうやってアレックスとキャシーを結婚させるかよ!」
  ジョー「そうだな・・・でもアレックスはどうして教師を辞めて、化
      学者なんかになったの?変な物ばかり造って、僕たちの
      世界では、僕たち以外誰も寄り付かないじゃないか・・・」
  マリア「でもアレックスが機械博士になったお陰で、私達、彼の
      作ったタイムマシンに乗って、こうしてこの世界にこれた
      のよ!」
  ジョー「そうだね・・・でも僕にはそれが絶対に正しいことだ!!
      って言う自信がないんだ・・・。もしアレックスとキャシーが
      上手くいけば・・・ピーターとキャシーの子どもである君が
      ・・・この世の中からいなくなってしまうんだもの・・・」
  マリア「(微笑んで。)もう言わないで!」
  ジョー「・・・うん・・・」
  マリア「(再び暫く考えて。)・・・アレックスはママの為に機械博
      士になったのよ・・・片腕になったママの為に・・・」
  ジョー「どうして君のママは腕を怪我したの・・・?」
  マリア「・・・そうよ・・・それだわ!!ジョー!!いい考えを想い
      ついたわ!!」
  ジョー「いい考えって?」
  マリア「行きましょう!!(ジョーの手を取って、駆けて行く。)」

    ――――― 第 11 場 ―――――

         カーテン開く。絵紗前。(教室。)
         生徒達、楽しそうに談笑している。

  フィービー「ジュディ!もうドレス、仕上がった?」
  ジュディ「勿論よ!」
  ロット「俺の為に着飾って来てくれよ!(笑う。)」
  ジュディ「ロットったら!(笑う。)」

         その時、カール入って来る。
         ジュディ、カールを認める。

  ジュディ「カール・・・」

         生徒達、カールを認める。

  カール「調子に乗ってんじゃねぇ・・・」
  ジョニー「何だと・・・!?(立ち上がる。)」
  ロット「ジョニー、やめろ!(ジョニーの肩を掴んで止める。)相手
      にするな・・・」

         ジョニー、渋々椅子に腰を下ろす。
         カール、皆に近寄る。

  カール「(笑って。)よぉ・・・女ったらし・・・(ロットの肩に手を掛け
      る。)俺にも女の口説き方、教えてくれよ・・・」
  ロット「(カールの手を払い除ける。)やめろ・・・!」
  カール「俺とじゃ、話しも出来ないってのかよ!調子乗ってんじ
       ゃねぇ!!(ロットに殴りかかる。)」
  ロット「やったな!!(カールに掴みかかる。)」

         カール、ロット、殴り合いの喧嘩を始める。
         女生徒、悲鳴を上げる。
         男子生徒、はやす。
         その時、キャシー入って来る。驚いて駆け寄る。

  キャシー「何してるの!!止めなさい!!カール!!ロット!!
        (叫ぶ。)」

         キャシー、2人の間に入って止めようとする。
         2人、思わずキャシーを払い除ける。

  キャシー「(倒れる。)キャアッ!!」

         2人、驚いて手を止める。
         生徒達呆然と。

  ロット、カール「先生!!(キャシーに駆け寄る。)」
  キャシー「お願い・・・喧嘩はやめて・・・(涙声で。)」
  ロット「ごめんなさい、先生・・・」
  カール「(頬を押さえる。)ごめんなさい・・・」
  キャシー「どうしてあなた達は喧嘩ばかりするの・・・?カールも
        ロットも、私の前ではとてもいい生徒だわ・・・。なのに
        ・・・何故、2人揃うと喧嘩ばかりするの・・・?」

         2人、項垂れている。

  キャシー「喧嘩してどうなるの・・・?喧嘩が何かの役に立つの
        ・・・?喧嘩したって、後に残るのは・・・(言葉に詰まる
        。)」
  ジュディ「・・・先生・・・?」
  キャシー「(悲しそうな面持ちで首を振る。)兎に角・・・喧嘩は・・・
        誰もが傷付くだけの・・・愚かな行為だわ・・・」
  カール「・・・俺は・・・」
  ロット「(カールを見る。)」
  カール「・・・ロットが・・・羨ましかった・・・」
  ロット「・・・え・・・?」
  カール「・・・友達は大勢いる・・・信望が厚い・・・家庭は平和だ
      ・・・おまけに彼女までいる・・・俺にはないものばかりをロ
      ットは持っている・・・今まで・・・転校ばかりで・・・友達なん
      ていたことがない・・・どの学校でも・・・いつもクラスの食
      み出し者だ・・・俺も一度くらい・・・クラスの真ん中に立って
      みたかったんだ・・・」
  ロット「(照れたように鼻の下を擦りながら、わざと打切棒な言い
      方で。)・・・なんだ・・・そんなことか・・・馬鹿野郎・・・」
  カール「何!?」
  ロット「おまえの短所は、気が短いことだな・・・。(笑う。)」
  カール「煩い・・・!!(怒ったように顔を背ける。)」
  ロット「・・・友達が欲しいなら、最初からそう言えばいいのに・・・
      な・・・皆・・・!」
  ジョニー「・・・そうだよ・・・」
  ジュディ「ホントよ!」
  フィービー「うん!」

         生徒達、口々に同意する。

  カール「・・・(回りの皆をも回して。)おまえら・・・」
  ロット「今からでも遅くないぜ・・・!」
  カール「ロット・・・」
  ロット「友達になろうぜ・・・」
  カール「・・・俺を・・・仲間に入れてくれるのか・・・?」
  ロット「そう言ったろ!」
  カール「・・・ありがとう・・・」










      ――――― “アレックス”4へつづく ―――――












     ※ “舞台回転”とは・・・一体どんな舞台での公演を
       想像しながら書いたのでしょうね~・・・(^^;


 
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“フランドル” ―全17場― 3

2013年01月17日 20時00分26秒 | 未発表脚本

          下手より、よろめくようにアグネス出る。

          上手より村人たち、談笑しながら出る。

 

  アグネス「あの男は必ず災いを起こす・・・あの男の背後に死神が

       見える・・・」

  ウーゴ「(笑いながら。)婆さん、まだそんなことを言ってるのかい

      ?」

  アグネス「わしには見えるんじゃ。あの男がこの島の人間を、死に

       追いやるのが・・・」

  ヴィンタ「ただの兵隊さんだぜ!そりゃ仕事柄、多少の血腥さは

       漂ってるかも知れないけど・・・。」

  アンジェラ「ちゃんと治療代だって置いていってくれたものね。」

  ボルソ「ありゃ大金だぜ!」

  アンジェラ「あんた中、見たの?」

  ボルソ「見なくても袋の大きさ見りゃ分かるさ!!」

  アグネス「必ずよくないことが起こるんじゃ・・・」

 

          村人たち口々にアグネスを馬鹿にしながら

          笑って出て行く。

          ジュリオ一人、村人について行きかけるが

          通り過ぎたアグネスを気にして振り返る。

 

  ジュリオ「よぉ、婆さん・・・」

  アグネス「(振り返って。)なんじゃ・・・」

  ジュリオ「あんた・・・惚けてないよな?」

  アグネス「馬鹿言うな!わしは惚けてなんぞおらんわ!!」

  ジュリオ「・・・この島の人間を死に追いやるって・・・一体誰のこと

       なんだ・・・?」

  アグネス「そこまでは、わしには分からん・・・。ただ、あの男の背

       中には、黒い羽根が見えるんじゃ・・・。あいつは死神の

       使いに違いねぇ・・・。きっと誰かを連れて行ってしまうん

       じゃ・・・。気をつけた方がええ・・・」

  ジュリオ「死神・・・」

  アグネス「(独り言のように。)恐ろしいことになりゃせんといいがな

       ・・・。皆わしの忠告を聞かん、愚か者じゃて・・・」

 

          アグネス出て行く。ジュリオ、呆然と

          その方を見詰める。

          下手よりヴィットリオ出る。

 

  ヴィットリオ「おい、ジュリオじゃないか。」

  ジュリオ「(振り返って。)ああ、ヴィットリオ・・・」

  ヴィットリオ「さっき、アリアナが岩山の方へ行くのを見かけたぜ。

         今日は一緒に行ってやらなかったのか?」

  ジュリオ「なんだって!?」

  ヴィットリオ「あんな危ないところ、女一人じゃ大変だぜ。」

  ジュリオ「馬鹿野郎、あいつ・・・。それでいつ行った!?」

  ヴィットリオ「ああ、ほんの少し前さ。籠持ってたから、薬草摘みに

         違いないぜ。」

  ジュリオ「ありがとう!!」

 

          ジュリオ、手を上げて走って行く。

          暗転。

 

        ――――― 第 8 場 ―――――

 

          カーテン開く。と、絵紗前。アリアナの家。

          フランドル、ベッドの上で体を起こして、

          本を読んでいる。その時、ノックしてアリアナ

          が入って来る。

 

  アリアナ「具合どうですか?」

  フランドル「(読んでいた本を膝の上に置いて、嬉しそうにマジマジ

        とアリアナを眺める。)どうしたんだい、その服。泥遊び

        でもしてきたか?」

  アリアナ「(恥ずかしそうに、慌てて服を払う。)ごめんなさい!こん

       なみっともない格好で・・・」

  フランドル「どこか行って来たのかい?」

  アリアナ「ええ・・・ちょっと山まで・・・」

  フランドル「山か・・・歩けるようになったら案内してくれるかい?」

  アリアナ「(困ったように。)駄目よ・・・切り立った岩ばかりで、とて

       も危ないもの・・・。怪我が完全に治っても、慣れた人で

       ないと無理です。」

  フランドル「(不思議そうに。)そんな危ない岩山に、何をしに行っ

        て来たんだい?」

  アリアナ「それは・・・」

 

          その時ビアンカ、盆にお椀を乗せ、持って

          入って来る。

 

  ビアンカ「アリアナ、薬草湯ができたよ。」

  アリアナ「ありがとう、母さん・・・。」

 

          ビアンカ、それをアリアナに渡して

          出て行く。

 

  フランドル「全く・・・体は言うことを利かないが、頭は元気なもので

        余計なことを色々考えてしまう・・・。(脇のテーブルの上

        の花を見て。)この花はおまえが・・・?」

  アリアナ「はい・・・庭に咲いていたから・・・」

  フランドル「いい香りだ・・・。俺は今まで花を愛でる余裕なんか、こ

        れっぽっちもなかったし、そうしようとも思わなかった・・・。

        だが、こんな状態になって、初めて本当の花を見た気が

        する・・・。ありがとう・・・。」

  アリアナ「いいえ・・・少しでも、兵隊さんの気持ちが落ち着けばいい

       と思って・・・」

  フランドル「(声を上げて笑う。)そうだな。俺は確かに苛々ばかりし

        て、怒鳴りまくっていたからな・・・。それから、フランドル

        でいい。ここにいる間は、兵隊なんかじゃない。ただの

        怪我人だから・・・。おまえの名前は・・・?」

  アリアナ「アリアナ・・・」

  フランドル「アリアナか・・・アドリア海に因んで付けられたのか?」

  アリアナ「(頷く。)昔・・・父は地中海を渡り歩く商人だったんです・・・

       その時にいつも見ていたアドリア海の美しさに魅せられて、

       私もそんな風に美しくなればいいと・・・。可笑しいでしょう。」

  フランドル「いや・・・父上の願い通りに、おまえは育ったと言う訳だ

        。」

  アリアナ「え・・・?」

  フランドル「それで父上は・・・?」

  アリアナ「・・・アドリア海を航海中に、海賊船に襲われて・・・」

  フランドル「・・・そうか・・・」

  アリアナ「でも、あんなに好きだったアドリア海で眠ることが出来て、

       父は喜んでると思います・・・。さぁ、お薬を飲んで下さい。」

 

          アリアナ、フランドルに椀を差し出す。

 

  フランドル「いやな臭いだ・・・」

  アリアナ「飲まないと駄目!前に占いのお婆さんに教えてもらった、

       とても怪我によく効く薬草なんです!岩山にしかない・・・

       あ・・・(しまったと言う風に。)」

  フランドル「この為に・・・行ったのか・・・」

  アリアナ「(首を振って。)ついでだったから・・・」

 

          フランドル、アリアナの手を掴んで、

          暫く手を見詰める。

          アリアナ、驚いて手を引っ込める。

 

  フランドル「おまえが傷だらけになって、取って来てくれた薬草だ。

        有り難く頂くとしよう・・・」

 

          フランドル、薬を飲む。

 

  アリアナ「じゃあ大人しく寝てて下さいね・・・(出て行こうとする。)」

  フランドル「(思わず。)アリアナ!」

  アリアナ「(振り返って。)はい・・・?」

  フランドル「もう少しここにいてくれないか・・・」

  アリアナ「え・・・?」

  フランドル「あ・・・もう少し・・・おまえと話しがしていたい・・・」

  アリアナ「でも・・・お体を休めないと・・・」

  フランドル「大丈夫・・・さぁ、こっちへ来てくれ・・・」

 

          アリアナ、フランドルの傍らへ来て、

          椅子に腰を下ろす。

 

  フランドル「君はずっと、この島にいるのか・・・?」

  アリアナ「はい・・・この島で生まれてから一度も出たことはありま

       せん・・・」

  フランドル「では医学は誰から?」

  アリアナ「母に・・・母は外で何年も勉強してきた人ですから。そこ

       で患者だった父と知り合って結婚したんです。後、お薬の

       ことは、さっきの薬草湯も教えてもらった村の占いのお婆

       さんに習いました・・・」

  フランドル「そうか・・・外に出たいと思ったことは?」

  アリアナ「(首を振る。)母さんが外の世界は、諍いの絶えない殺伐

       としたところだって・・・」

  フランドル「それは偏見と言うものだ。」

  アリアナ「でも・・・じゃあどうしてフランドルはこんな大怪我を・・・?

       あ・・・ごめんなさい・・・こんなこと聞くつもりじゃなかったの

       に・・・」

  フランドル「構わないさ。確かに争いが絶えないのは事実だ。現に

        俺も敵の銃弾に倒れたんだから・・・。だがそれは、素晴

        らしい世の中を作り上げていく為に仕方のないことなん

        だ。」

  アリアナ「・・・自分たちにとっての・・・でしょう・・・?相手のことは考

       えたりしたことのない人が、沢山いるのね・・・。」

  フランドル「アリアナ・・・」

  アリアナ「だって平和な毎日は、みんな誰もが願うことではないの?

       きっと・・・あなたにも、あなたがこんな大怪我をして、心配

       している人が沢山いると思うわ・・・」

  フランドル「残念だが、今のところ俺は結婚もしていないし、天涯孤

        独の身だ。俺のことを心配している奴がいるとすれば・・・

        俺に自分の夢を全て賭けてヨーロッパ制覇を狙っている

        、俺の仕えている皇帝くらいのもんさ・・・」

  アリアナ「フランドル・・・ごめんなさい・・・」

  フランドル「(アリアナの素直な態度に、驚きの入り混じった微笑み

        を返す。)おまえの夢はなんだ・・・?」

  アリアナ「私・・・夢なんてないです・・・」

  フランドル「そんなことはないだろ?たとえば立派な医者になりた

        いとか・・・」

  アリアナ「いいえ・・・あ・・・私、皆が幸せになることが夢です。(微

       笑む。)あなたも含めて・・・世の中の人が全て平和で穏や

       かに毎日を過ごすことができるような世界にすること・・・

       それが夢・・・女の私には無理ね・・・(嬉しそうに。)でも、

       あなたにはできるわ!」

  フランドル「(驚いたように。)アリアナ・・・俺は今まで一度もそんな

        風に考えたことがなかった・・・。なんだかおまえに、一番

        大切なことを教えられたような気がするよ・・・。ありがと

        う・・・」

  アリアナ「そんな・・・」

  

   

 

 

 

 

 

 

 

 

       ――――― “フランドル”4へつづく ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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