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指宿白水館社長下竹原氏  『2015年に何をなすべきか?』から学ぶ-1 

2015-12-30 01:12:37 | 鹿児島-おすすめの宿・ホテル

 「指宿白水館」代表取締役社長下竹原啓高氏がご執筆の 『2015年に何をなすべきか?』(「月刊ホテル旅館」 2015年1月号掲載)は,時代を読む目鋭く,卓越した経営手腕がうかがわれる切れ味鋭い経営戦略論である。許されるならば,ビジネススクールのケーススタディに使わせていただきたい,格好の教材でもある。

 その全文を掲載させていただき,1)時代感覚に富む点,2)経営戦略論としての手本とは,について順を追って述べさせていただく。
  


 『2015年に何をなすべきか?』  代表取締役社長 下竹原啓高氏

                          出典:「月刊ホテル旅館」 2015年1月号 115ページ ~ 116ページ
                             
・指宿白水館の体制
 指宿白水館グループは、「指宿白水館」(204室) の他に、隣接する「オーベルジュ潟山倶楽部」(8室+フレンチレストラン)、指宿の標高330mの山頂にある「指宿ベイテラスホテル&スパ」(70室)を運営している。
 このうち指宿ベイテラスは、東証1部上場企業の㈱新日本科学から2年前に経営受託した。厚生省が巨費を投じて103万坪に上る広大な山林を開発した旧グリーンピア指宿の施設を、新日本科学が10年ほど前に取得したものだ。温泉・宿泊に加えて、トレッキングコース・スポーツジム・テニスコート・グラウンドゴルフ場・室内プール・体育館を備えた総合レジャー施設である。
 異なる要素を持つこれらの施設を巡回する無料シャトルバスを運行し、双方の宿泊客の利便性を高め、特徴を補完し合うことにより、長期滞在にも対応した飽きのこない環境作りを目指している。

・メディカルツーリズムの拡大
 指宿ベイテラスの隣接地には、新日本科学が中心となって設立された、世界長先端の「陽子腺病粒子線治療研究センター」がある。この4年間に1200名の治療実績があり、特に、膵臓痛・肝臓癌・肺癌・前立腺癌に大きな成果を挙げており、すでに世界各国から患者が集まりつつある。この4月から乳癌の臨床試験も始まる予定であり、その締果次第では、さらに大きな注目を浴びることになるだろう。
 陽子線治療は、陽子を患部にピンポイントで照射し、癌細胞を壊死させる最先端の技術である。一切の切開手術
を伴わず、痛みがない。一度の照射時間が最長5分と短く、1日に30分程度の拘束ですむため、残りの時間は健常者と同様に、好きなことをして過ごすことが可能なのである。そこに指宿におけるメディカルツーリズムの独自性と可能性がある。


・ILTMに2年連続出展-インバウンドの拡大を目指して
 当社はインバウンドの拡大を目指して、毎年12月1~4日に南仏・カンヌで開催される世界最大の富裕層向け旅行フェア ILTMに一昨年に引き続き、昨年も参加した。ILTMでは、バイヤーとセラー合わせて3000社が一同に会し、世界トップクラスの旅行社やホテルグループ、さらにはメディア、各政府観光局、行政機関等も参加して積極的な販売交渉、情報交換が行なわれる。
 日本政府観光局のブースに共同出展した旅館は、指宿白水館、旅館倉敷、二期倶楽部(那須高原)、ロテル・デユ・ラク(滋賀)。都市ホテルとしては、ホテルダランヴィア京都、ハイアットリージエンシー京都、東京ステーションホテル。さらに、lR九州の〃ななつ星列車〟も出展し、注目を集めていた。
 2003年4月、ロシアの初代大統領ボリス・エリツィン氏が妻子と大統領府儀典局長を伴って大統領専用機で鹿児島空港に入り、指宿白水館に4泊5日で滞在した。これをきっかけにロシアでの知名度が高まり、その後、プーチン大統領が指宿で砂蒸し温泉に入ってみたいとコメントしたことが共同通信社で報じられている。
 さらに、翌年12月には、小泉首相、慮武鉱大統領をお迎えして、日本旅館初となる日韓首脳会談が当館で開催された。こうした機会を通じて、ロシアや韓国において当館の知名度が格段に上がっていることを今回のILTMでも実感した。

・なぜインバウンドを強化するのか? 
 日本は少子高齢化の中で、20年には人口に占める6歳以上の割合が30%を超す。さらに幼年には人口が3分の2に減少すると試算されている。生き残り策を講じなかった場合、単純計算で現在の旅館の3分の1が廃業せざるを得ない現実が待ち構えているのである。
一方、移民を積極的に受け入れてきた米国の人口は、同年までに7億人を越えると予測されている。先進国における人口の差は、市場規模の差でもある。従来、日本の2倍と言われていた米国の市場規模は、このままいけば60年には8倍となる。
 効率経営・ブランド戦略が徹底している米国を中心とした世界的な大手ホテルチェーンが益々業績を伸ばし、日本市場にさらに参入してきた場合、非効率経営から脱却できていない旅館はひとたまりもない。また、少子高齢化に伴って有効労働人口も激減する。そのため、人の奪い合いが始まり、人件費が高騰するだろう。
 長期的視野にたって、今から徹底的な経営効率化とインバウンド市場でのブランドの確立が急がれるのである。

・インバウンド3万人を目指す長期戦略
 指宿白水館の創業者、故下竹原弘志は、30年前に国際観光連盟の会長を務めていた時から少子高齢化問題に着目し、インバウンドを強化しなければ、日本の旅館業界は生き残れないと繰り返し提言してきた。実際、当時8万軒あった旅館は、バブル崩壊、リーマンショック等を経て、既に4万6000軒を切っている。
 私は10年前に三菱商事を退職し事業を継承して以来、父の遺志を継いで積極的なインバウンド拡大を図ってきた。日本政府観光局の賛助メンバーになり、シンガポールで開催される旅行フェアNATAS、ロンドンのWorld Travele-Market(WTM)、HLTM、他に参加すると同時に、鹿児島県観光連盟に同行して、台湾・香港・シンガポール等にもアピールしてきた。
 日本人観光客は正月、お盆を除いては連休に殺到する傾向があるが、季節によっては平日の空室が目立つ時期もある。この状況の解消にも、インバウンドが有効に作用している。
 休日・祭日は、国や宗教により異なる。例えば、2月中旬に、中国・台湾・韓国の旧正月を祝うためのお客様にお越しいただけるようになった。また、観光が低調な師走には、クリスマス休暇で欧米の観光客に来ていただける。
 このように、インバウンドによって年間を通して稼働率、歩留まりを押し上げることができるようになってきた。
 10年前、当館のインバウンド客数は年間3000人(2%)程度に過ぎなかったが、今では9000人(6%)を越え、今年は1万人の大台に乗る勢いである。これまでの蓄積が、ようやく効果を見せ始めている。今後は3万人(20%)を目指し、日本人観光客の減少に備えていこうと考えている。
 また、インバウンドと陽子線痛治療によるメディカルツーリズムを融合させていくことで、長期滞在をさらに拡充することが可能になると考えている。例えば、前立腺癌の場合で測泊、乳癌で測泊の滞在が必要になることから、その受け皿が必要となる。
 これからは、さらに長期滞在者の利便性を高めるための施設作り、泊・食分離の価格対応を進めることで、より幅広い要望に応えられる柔軟な体制を目指していく。

 

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