遠(かなた)の世界

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三浦春馬氏イメージ小説「瞳があなた!」第五、六章

2021-04-28 10:08:13 | 三浦春馬

<イメージ>
 冴久馬 ――― 三浦春馬
 マナ ――――  ??

     < 第 五 章 >
 
 大好きなおじいちゃん。
 煙草の匂いをさせて、和製サンタクロースみたいに、
 いつも微笑んでる。


 この前、コーヒーミルのハンドルを廻しながら、
「お前と冴久馬くんは、生まれた時から婚約者なんだよ。
 彼のおじいちゃんと戦友でね、約束したんだ。
 マゴが大きくなったら結婚させようって」
 聞いた時は、
 のけぞりすぎて、背骨がアーチになりそうだった。


「いくら、おじいちゃんの決めたことでも、

それはできないわ。世界で一番、相性の合わないヤツ」

(なんで、あんなヤツと婚約!顔も見たくないのと)
(婚約って、いいなずけって、時代サクゴの言葉は何?
 私はまだ十六!)

 頭に血が上りながら、南の島へいく修学旅行のスーツケースに
 八つ当たりしながら着替えを押し込む。
 おじいちゃんは、はにかむような顔で何も言わなかった。

 気がついた時には、修学旅行生を詰め込んだ船が座礁。
 目の前が真っ赤だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 病院にたくさんの保護者が迎えに来た。
 包帯だらけの子たちも、意識を取り戻し、
 ひとり、またひとりと家に帰っていく。
 そんな中、私だけは包帯がすっかり取れても、
 まだ病院に居続けた。

 冴久馬くんの行方が 分からないままなのだ。
 どの病院へ問い合わせてもらっても、
 彼らしい人物が見つからない。
 このまま、自分だけ家へ帰って 
 報告を待つ気分になんてなれなかった。
 どんなに お母さんが泣いて説得しても―――。
(どうして、こんなにアイツを待ちたいんだろう?)


          < 第 六 章 >

 ついに、一番長く入院していた子が退院していった時、
 おじいちゃんがやってきた。
 まだ頭に残るひと巻きの包帯の私の頭を
 子どもにするみたいに撫でた。
「怖かったなあ、マナ。よく辛抱した」

 眉毛が下がった口ひげの白いおじいちゃん。
 とたんに涙があふれだし、広い胸に飛び込んだ。




 秋のじりじりとした夕日が差し込む病室で、
 私はずっと泣き続けた。
「マナ、もう泣き止みなさい。冴久馬くんはきっと帰ってくる」
「だって、だって、きっと海へ投げ出されてしまったんだわ、
 あの真夜中の海へ。今頃、冴久馬くんは……」
「やめなさい、きっと帰ってくる。
 おじいちゃんが、お前の伴侶に決めた男だ」
 いつも垂れさがっているおじいちゃんの目が、
 キリッとして見つめた。

(ハンリョ??)

 意味はわかるけど、おじいちゃんらしい古風な言葉だ。

「帰ろうな」という言葉に、コクリとうなずき、
 そして―――、それから十年の月日が流れた。

★第七章に続く。

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