<イメージ>
冴久馬 ――― 三浦春馬
マナ ―――― ??
< 第 五 章 >
大好きなおじいちゃん。
煙草の匂いをさせて、和製サンタクロースみたいに、
いつも微笑んでる。
この前、コーヒーミルのハンドルを廻しながら、
「お前と冴久馬くんは、生まれた時から婚約者なんだよ。
彼のおじいちゃんと戦友でね、約束したんだ。
マゴが大きくなったら結婚させようって」
聞いた時は、
のけぞりすぎて、背骨がアーチになりそうだった。
「いくら、おじいちゃんの決めたことでも、
それはできないわ。世界で一番、相性の合わないヤツ」
(なんで、あんなヤツと婚約!顔も見たくないのと)
(婚約って、いいなずけって、時代サクゴの言葉は何?
私はまだ十六!)
頭に血が上りながら、南の島へいく修学旅行のスーツケースに
八つ当たりしながら着替えを押し込む。
おじいちゃんは、はにかむような顔で何も言わなかった。
気がついた時には、修学旅行生を詰め込んだ船が座礁。
目の前が真っ赤だった。
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病院にたくさんの保護者が迎えに来た。
包帯だらけの子たちも、意識を取り戻し、
ひとり、またひとりと家に帰っていく。
そんな中、私だけは包帯がすっかり取れても、
まだ病院に居続けた。
冴久馬くんの行方が 分からないままなのだ。
どの病院へ問い合わせてもらっても、
彼らしい人物が見つからない。
このまま、自分だけ家へ帰って
報告を待つ気分になんてなれなかった。
どんなに お母さんが泣いて説得しても―――。
(どうして、こんなにアイツを待ちたいんだろう?)
< 第 六 章 >
ついに、一番長く入院していた子が退院していった時、
おじいちゃんがやってきた。
まだ頭に残るひと巻きの包帯の私の頭を
子どもにするみたいに撫でた。
「怖かったなあ、マナ。よく辛抱した」
眉毛が下がった口ひげの白いおじいちゃん。
とたんに涙があふれだし、広い胸に飛び込んだ。
秋のじりじりとした夕日が差し込む病室で、
私はずっと泣き続けた。
「マナ、もう泣き止みなさい。冴久馬くんはきっと帰ってくる」
「だって、だって、きっと海へ投げ出されてしまったんだわ、
あの真夜中の海へ。今頃、冴久馬くんは……」
「やめなさい、きっと帰ってくる。
おじいちゃんが、お前の伴侶に決めた男だ」
いつも垂れさがっているおじいちゃんの目が、
キリッとして見つめた。
(ハンリョ??)
意味はわかるけど、おじいちゃんらしい古風な言葉だ。
「帰ろうな」という言葉に、コクリとうなずき、
そして―――、それから十年の月日が流れた。
★第七章に続く。