遠(かなた)の世界

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三浦春馬氏イメージ短編「瞳があなた!」第九、十章(終)」

2021-04-30 09:54:27 | 三浦春馬
<イメージ>
 冴久馬―― 三浦春馬
 マナ ――― ??


     < 第 九 章 >
 
「冴久馬くんよね?ほら、私よ、マナ!
同じ高校にいたでしょう、日本の」
漁師の青年に駆け寄って叫んだが、
不思議そうに見返すだけだ。
ボウボウに伸びた髪が茶褐色に焼けている。

「マナ、どうした。こいつは言葉がわからないんだ」
クンバさんが言う。
「わからないの?この人は日本人よ、私と同じ」
クンバさんは しょんぼりして首を振った。
「言葉だけでねえ、浜辺で気を失って倒れていて、
何も覚えてねえだ」

「なんですって!」
漁師の青年の瞳は焦点があっていない。
「あなたは、冴久馬くんよ。ご両親も心配して待っている。
どうして分からないの?私だってば、マナ。
ねぼけマナコのマナ!」

私のことが分からない!?
記憶喪失……。
なんてことだろう。
だから、待っても待っても帰ってこなかったんだわ。

呆然としているうちに、クンバさんは、
冴久馬を連れて浜へ帰っていってしまった。


    < 第 十 章 >

そうだ!
退屈な会議中に思いついて、つい叫んでしまったので、
活動チームの皆が振り向いた。
「あ、すみません、なんでもないんです」
と言いながら、我ながらナイスアイデア!と
心の中で笑っていた。

冴久馬くんが大好きだった、
カメレオンを見れば、記憶が戻るかも?
しかし、超、難関なのが 
カメレオンをどうやって持って行くか、だ。

クンバさんに相談してみると、この島にも南米のと似た
緑色のおぞましいのがいるらしい。
「おし、俺がどこかのジャングルで探してきてやろう」

そして、数日後、クンバさんが分厚い唇を
ニヤケさせてやってきた。
手には、ヤシの葉で囲んだ宝石のような??カメレオン。
顔がひきつり、トリハダがたつのをどうしようもできないが、
浜で魚をより分けている冴久馬くんのところへ向かった。
 


「冴久馬くん、これ、分かる?」
カメレオンをクンバさんの手からぶら下げて
見せられた彼の表情は、うつろなまま。
「君が大好きだった、カメレオンよ。
ほら、子どもの時に大切にしてたでしょう」

すると……すると……
乾燥ワカメののれんの間から覗いていた 
彼の瞳に小さな光がともった。
「お前……、ねぼけマナコのマナ!大丈夫なのか、
 気を失っちまって!」
「え……」
魚のにおいの沁みついた仕事着の
ポロシャツのままの胸に、
ぎゅうううう~~~~~と、抱きしめられた。

「やっぱり、冴久馬くん……その瞳があなた!
すぐに分かったわよ、キラキラした瞳が変わっていない!」
 


「良かったあ、俺、カメレオンの
カメ吉にびっくりさせちまって、どうしようかと、
パニクッちまって急いで帰っちまったから。
で―――保健室で目を覚ましたのか?」
「え?」
と思っている間に、ぐちゃぐちゃに抱きしめられた。
「マナの眼が俺、好きなんだ。ねぼけマナコのよ。
 
ゴメンよ、ゴメンよ、カメ吉にあんなに
ビックリするなんて思わなかったんだ……」

ま、待て。。。
記憶が戻ったらしいけど、
保健室って小学校の記憶だろう。
 
そんなことにはお構いなし、
磯くさい胸から逃げられない。
クンバさんの捕まえてきたカメレオンが、
のっそりと私の腕に昇ってきたけど、
今度は必死で悲鳴をかみ殺した。
大好きな瞳の冴久馬くんが帰ってきたのだから―――。

ほっとしたとたんに、
 
「ん?なんかお前、老けてないか?
 保健室のオバチャン先生かと……」

★★★(@_@;)★★★!!



「瞳があなた!」 完。ってほど長くない(笑)

★最後まで お読み下さいました方へ
 心より感謝申し上げます。
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三浦春馬氏イメージ短編「瞳があなた!」第七、八章

2021-04-29 09:18:41 | 三浦春馬

<イメージ>
 冴久馬 ――― 三浦春馬
 マナ ――――  ??



    < 第 七 章 >

 黄金の浜辺に波が打ち寄せている。
 潮騒とともに、薄い薄い波が繰り返しひた寄せる。
 大昔からこの十年も変わらず。
 二十六歳になった私は日本から遠く離れた

 南の島にいた。
 あの日、高校の修学旅行で行くはずだった、

 あの島に。



 十年前の事故を忘れるはずはない。
 冴久馬がまだ帰らない。
 だからかもしれない。
 大人になってから、この島での発展補助の
 海外派遣の仕事を選んだのは。

 まだ、思春期だった冴久馬。
 教室の机の上をスニーカーのまま

 飛び跳ねていた冴久馬。
 誰よりも太陽のような笑顔をして、
 青空の下、汗臭そうなシャツでボールを転がしていた。
(えっ?な、なんか、こんなのが頭に浮かぶって、
 まるで冴久馬のことを?)
 思い切りぶんぶん頭を振って、水平線に背を向けた。

「どうしたの、マナさん」
 活動仲間たちが不思議そうに声をかける。
 二年前に おじいちゃんはこの世を去っていった。
 ベレー帽が似合った。大正生まれのおじいちゃん。
 最期まで「冴久馬を待っててやれ」って言っていた。



 そして、今、派遣されて立っている小さな島は 
 なんという偶然!
 おじいちゃんと冴久馬のおじいちゃんが戦争の時に
 一緒だった島だった、と
 お父さんからのメールで知った。



      < 第 八 章 >

 島の市は賑やかだ。
 褐色の肌の老若男女が カラフルな民族衣装で
 押し合いへしあいしている。
 市にならぶ香辛料やフルーツの前で
 大声を張り上げている。
 ここに来て、二年になるからそんな風景を

 見慣れている。
 今日も良い天気だ。スコールは来るかな。

 



 市に魚を並べにくる、漁師のクンバさんが 
 ニコニコ笑いながらやってきた。
「マナ、久しぶりだな。こんなに焼けちまって。
 もう俺たちと見分けがつかないな」
「また、クンバさんたら、これでも私、乙女……」

 ……と、言いかけて、動けなくなった。
 クンバさんの連れている漁師の青年――― 
 ボロボロになったTシャツ、
 魚と取り換えたのか、腕にはカゴいっぱいの南のフルーツ。
 肩まで伸びたカサカサの髪の毛。
 彼から目がそらせない。



 島の漁師のなりをしていても、その瞳は
 思春期のままの冴久馬ではないか。
 そう――――。
 見間違えない。あの冴久馬の瞳だ。
 少年時代の頑張り屋さんの瞳に間違いない。
 
 潮騒も市場の喧騒も黙り込んだ。。
 黄金の南の島に、ポツンと立っているのは、
 頑張り屋さんの瞳の青年だけだ。

★第九章に続く。

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三浦春馬氏イメージ小説「瞳があなた!」第五、六章

2021-04-28 10:08:13 | 三浦春馬

<イメージ>
 冴久馬 ――― 三浦春馬
 マナ ――――  ??

     < 第 五 章 >
 
 大好きなおじいちゃん。
 煙草の匂いをさせて、和製サンタクロースみたいに、
 いつも微笑んでる。


 この前、コーヒーミルのハンドルを廻しながら、
「お前と冴久馬くんは、生まれた時から婚約者なんだよ。
 彼のおじいちゃんと戦友でね、約束したんだ。
 マゴが大きくなったら結婚させようって」
 聞いた時は、
 のけぞりすぎて、背骨がアーチになりそうだった。


「いくら、おじいちゃんの決めたことでも、

それはできないわ。世界で一番、相性の合わないヤツ」

(なんで、あんなヤツと婚約!顔も見たくないのと)
(婚約って、いいなずけって、時代サクゴの言葉は何?
 私はまだ十六!)

 頭に血が上りながら、南の島へいく修学旅行のスーツケースに
 八つ当たりしながら着替えを押し込む。
 おじいちゃんは、はにかむような顔で何も言わなかった。

 気がついた時には、修学旅行生を詰め込んだ船が座礁。
 目の前が真っ赤だった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 病院にたくさんの保護者が迎えに来た。
 包帯だらけの子たちも、意識を取り戻し、
 ひとり、またひとりと家に帰っていく。
 そんな中、私だけは包帯がすっかり取れても、
 まだ病院に居続けた。

 冴久馬くんの行方が 分からないままなのだ。
 どの病院へ問い合わせてもらっても、
 彼らしい人物が見つからない。
 このまま、自分だけ家へ帰って 
 報告を待つ気分になんてなれなかった。
 どんなに お母さんが泣いて説得しても―――。
(どうして、こんなにアイツを待ちたいんだろう?)


          < 第 六 章 >

 ついに、一番長く入院していた子が退院していった時、
 おじいちゃんがやってきた。
 まだ頭に残るひと巻きの包帯の私の頭を
 子どもにするみたいに撫でた。
「怖かったなあ、マナ。よく辛抱した」

 眉毛が下がった口ひげの白いおじいちゃん。
 とたんに涙があふれだし、広い胸に飛び込んだ。




 秋のじりじりとした夕日が差し込む病室で、
 私はずっと泣き続けた。
「マナ、もう泣き止みなさい。冴久馬くんはきっと帰ってくる」
「だって、だって、きっと海へ投げ出されてしまったんだわ、
 あの真夜中の海へ。今頃、冴久馬くんは……」
「やめなさい、きっと帰ってくる。
 おじいちゃんが、お前の伴侶に決めた男だ」
 いつも垂れさがっているおじいちゃんの目が、
 キリッとして見つめた。

(ハンリョ??)

 意味はわかるけど、おじいちゃんらしい古風な言葉だ。

「帰ろうな」という言葉に、コクリとうなずき、
 そして―――、それから十年の月日が流れた。

★第七章に続く。

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三浦春馬氏イメージ短編「瞳があなた!」第三、四章 

2021-04-27 08:27:28 | 三浦春馬

<イメージ>
  冴久馬 ――― 三浦春馬
  マナ ――――― ??

       < 第 三 章 >

 次の日、ベッドの上に起き上れるようになった。
 左右のベッドの人たちも、まだ眠り続けてる人、
 意識が戻った人、様々だ。

 全身、包帯だらけ。雪だるまみたいになってるが、
 必死で探す。
 冴久馬くんの姿を。

 あの時、船が傾いて火を噴いた時、
 一緒に海に投げ出されたはず。
(冴久馬くんは?冴久馬くんはどこだ?どうか無事でいて)

 走りこんできたのは、お母さんとお父さんだな、たぶん。
「マナ」
「よくぞ、無事で……」
 包帯だんごの私を抱きしめてくれた。
(私って、マナっていうんだ)

 船が岩礁に乗り上げ、エンジンから出火した
 大惨事だったと分かった。
「お母さん、冴久馬くんはどこにいるの?」
 両手が上がるならすがりつきたい剣幕で
 お母さんに食らいついた。

「それがまだ……どこにいるか分からないの」

 両親ともにうなだれた。

 幼馴染みの冴久馬くんは修学旅行の直前におじいちゃんから、
婚約者だとビックリ宣言されてパニックになってしまった、
さなかの事故だった。

       < 第 四 章 >

 冴久馬くん。小さい頃から遊び仲間の中にいたヤツ。
 何回、虐められて泣いたか。他の子とはフレンドリーなのに、
どうして私にだけ髪の毛ひっぱったり、ランドセル隠したり、
からかったり、突然ムシしたり。


 勉強は中の中くらい。ガキ大将でも、英才教育でもない。
ちょっとばかり可愛いからって、女友達が騒いでいたかも。
私には憎らしい存在でしかないから、どこがいいんだか。

************************

 ★忘れられないのが、カメレオン事件★

 ある日、ペットのカメレオンを自慢げに学校へ持ってきた。
「カッコいいだろ、知り合いのおじいちゃんが
 南米のお土産にくれたんだ」
 カメレオン!!
 私は爬虫類、両生類、魚類、昆虫、すべてダメ!!
 なのに、アイツは眼の前にカメレオンをぶら下げた!!
 ぎょろぎょろとした眼が迫った!

 


  <なぜかオマケのカマキリ>

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 よく、あんな甲高い声が出せたもんだ。。。。。
 エメラルドのようなカメレオンは、

 暗闇の中に消えていった。
 気を失った私にびっくりした同級生が、
 担架で運んでくれたらしい。


 保健室で目が覚めた時には、
「冴久馬くんなら、カメレオンと帰ったわよ」
 と知らされた。
 ベッドの上で神様と仏様と大仏様と天女様と、十字架と、
 ええと、
 アッラーとやらの神様に呪うように誓った。
 コンリンザイ、冴久馬くんとは口もきかない、

 顔も見ないと!!

 それ以来、廊下ですれ違っても眼も合わせてない!

★★第五章に続く。

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三浦春馬氏イメージ短編「瞳があなた!」第一、二章

2021-04-26 12:09:42 | 三浦春馬

<イメージ>
  冴久馬(さくま) ――― 三浦春馬
    マナ ―――――― ??

    < 第 一 章 >

 見えるものは、真っ赤なゆらぐ柱。めらめらと……。
 熱くはない。迫ってくる怖い赤さ。
 ふっと、すべて無くなり、真っ白な中にいる自分。
 霧?雲??
 私は横向けでいるの?立って歩いているの?
 足元には何もない。

「だから、お前、気をつけろって
 いつも言っているだろっ!ねぼけマナコ!」


 突然、つんざくような 怒鳴り声。
 誰かな。聞きなれた声だけど、思い出せない。
 頭が痛い、殴られたことはないけど、
 殴られたみたいに痛い……。

********************************

  < 第 二 章 >

 ふと、明るくなった。
 窓のカーテンが開けられたようだ。
瞼をそっと開けてみる。
 全身が地球の引力の力で寝かしつけられてる
みたいだ。
 勇気を出して、目玉だけ右側を見てみる。
 ベッドが並んでいて、たくさんの人が
ヨコになってる。

 左側にも目玉を動かす。同じくたくさんのベッドが。
(いったい、ここは……)
 軽いドアの開く音がした。
 誰かがやってきた。
 知らないおじさんの顔が見えた。
女の人も。白い服を着ている。
「気がついたかな」
 男の人は 眩しい光を私の瞳に当てた。
痛いくらいの眩しさ。
「大丈夫なようだね。だんだん、動けるようになるよ」


(ここはどこ?私は……)
と、聞きたいが声が出ない。
「ここは病院ですよ。あなたやお友達は
船の事故で運ばれてきたの」
(この人は看護師さんかな)
 ベッドの側のチューブみたいなものを、
カチャカチャ触ってから二人は去った。
(船の事故……??)
(あっ)と閃いた。(私たちの修学旅行……)

 



「だから、お前、気をつけろって言ってるだろ、
ねぼけマナコ!!」 

 また、怒鳴りつけられた。
 子どもの頃から、いつも怒鳴りつけてる声。
(ふん、どーせ、私はねぼけマナコみたいに
目が細いわよ)


 ハッとした。
(冴久馬くんだ)
 熱いものが瞼にあふれた。

★第三章に続く―――。

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