冴久馬―― 三浦春馬
マナ ――― ??
< 第 九 章 >
同じ高校にいたでしょう、日本の」
漁師の青年に駆け寄って叫んだが、
不思議そうに見返すだけだ。
ボウボウに伸びた髪が茶褐色に焼けている。
「マナ、どうした。こいつは言葉がわからないんだ」
クンバさんが言う。
「わからないの?この人は日本人よ、私と同じ」
クンバさんは しょんぼりして首を振った。
「言葉だけでねえ、浜辺で気を失って倒れていて、
何も覚えてねえだ」
「なんですって!」
漁師の青年の瞳は焦点があっていない。
「あなたは、冴久馬くんよ。ご両親も心配して待っている。
どうして分からないの?私だってば、マナ。
ねぼけマナコのマナ!」
私のことが分からない!?
記憶喪失……。
なんてことだろう。
だから、待っても待っても帰ってこなかったんだわ。
呆然としているうちに、クンバさんは、
冴久馬を連れて浜へ帰っていってしまった。
< 第 十 章 >
そうだ!
退屈な会議中に思いついて、つい叫んでしまったので、
活動チームの皆が振り向いた。
「あ、すみません、なんでもないんです」
と言いながら、我ながらナイスアイデア!と
心の中で笑っていた。
冴久馬くんが大好きだった、
カメレオンを見れば、記憶が戻るかも?
しかし、超、難関なのが
カメレオンをどうやって持って行くか、だ。
クンバさんに相談してみると、この島にも南米のと似た
緑色のおぞましいのがいるらしい。
「おし、俺がどこかのジャングルで探してきてやろう」
そして、数日後、クンバさんが分厚い唇を
ニヤケさせてやってきた。
手には、ヤシの葉で囲んだ宝石のような??カメレオン。
顔がひきつり、トリハダがたつのをどうしようもできないが、
浜で魚をより分けている冴久馬くんのところへ向かった。
「冴久馬くん、これ、分かる?」
カメレオンをクンバさんの手からぶら下げて
見せられた彼の表情は、うつろなまま。
「君が大好きだった、カメレオンよ。
ほら、子どもの時に大切にしてたでしょう」
すると……すると……
乾燥ワカメののれんの間から覗いていた
彼の瞳に小さな光がともった。
「お前……、ねぼけマナコのマナ!大丈夫なのか、
気を失っちまって!」
「え……」
魚のにおいの沁みついた仕事着の
ポロシャツのままの胸に、
ぎゅうううう~~~~~と、抱きしめられた。
「やっぱり、冴久馬くん……その瞳があなた!
すぐに分かったわよ、キラキラした瞳が変わっていない!」
「良かったあ、俺、カメレオンの
カメ吉にびっくりさせちまって、どうしようかと、
パニクッちまって急いで帰っちまったから。
で―――保健室で目を覚ましたのか?」
「え?」
と思っている間に、ぐちゃぐちゃに抱きしめられた。
「マナの眼が俺、好きなんだ。ねぼけマナコのよ。
ビックリするなんて思わなかったんだ……」
ま、待て。。。
記憶が戻ったらしいけど、
保健室って小学校の記憶だろう。
そんなことにはお構いなし、
磯くさい胸から逃げられない。
クンバさんの捕まえてきたカメレオンが、
のっそりと私の腕に昇ってきたけど、
今度は必死で悲鳴をかみ殺した。
大好きな瞳の冴久馬くんが帰ってきたのだから―――。
ほっとしたとたんに、
保健室のオバチャン先生かと……」
★★★(@_@;)★★★!!
「瞳があなた!」 完。ってほど長くない(笑)
★最後まで お読み下さいました方へ
心より感謝申し上げます。