遠(かなた)の世界

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三浦春馬氏イメージ短編「瞳があなた!」第七、八章

2021-04-29 09:18:41 | 三浦春馬

<イメージ>
 冴久馬 ――― 三浦春馬
 マナ ――――  ??



    < 第 七 章 >

 黄金の浜辺に波が打ち寄せている。
 潮騒とともに、薄い薄い波が繰り返しひた寄せる。
 大昔からこの十年も変わらず。
 二十六歳になった私は日本から遠く離れた

 南の島にいた。
 あの日、高校の修学旅行で行くはずだった、

 あの島に。



 十年前の事故を忘れるはずはない。
 冴久馬がまだ帰らない。
 だからかもしれない。
 大人になってから、この島での発展補助の
 海外派遣の仕事を選んだのは。

 まだ、思春期だった冴久馬。
 教室の机の上をスニーカーのまま

 飛び跳ねていた冴久馬。
 誰よりも太陽のような笑顔をして、
 青空の下、汗臭そうなシャツでボールを転がしていた。
(えっ?な、なんか、こんなのが頭に浮かぶって、
 まるで冴久馬のことを?)
 思い切りぶんぶん頭を振って、水平線に背を向けた。

「どうしたの、マナさん」
 活動仲間たちが不思議そうに声をかける。
 二年前に おじいちゃんはこの世を去っていった。
 ベレー帽が似合った。大正生まれのおじいちゃん。
 最期まで「冴久馬を待っててやれ」って言っていた。



 そして、今、派遣されて立っている小さな島は 
 なんという偶然!
 おじいちゃんと冴久馬のおじいちゃんが戦争の時に
 一緒だった島だった、と
 お父さんからのメールで知った。



      < 第 八 章 >

 島の市は賑やかだ。
 褐色の肌の老若男女が カラフルな民族衣装で
 押し合いへしあいしている。
 市にならぶ香辛料やフルーツの前で
 大声を張り上げている。
 ここに来て、二年になるからそんな風景を

 見慣れている。
 今日も良い天気だ。スコールは来るかな。

 



 市に魚を並べにくる、漁師のクンバさんが 
 ニコニコ笑いながらやってきた。
「マナ、久しぶりだな。こんなに焼けちまって。
 もう俺たちと見分けがつかないな」
「また、クンバさんたら、これでも私、乙女……」

 ……と、言いかけて、動けなくなった。
 クンバさんの連れている漁師の青年――― 
 ボロボロになったTシャツ、
 魚と取り換えたのか、腕にはカゴいっぱいの南のフルーツ。
 肩まで伸びたカサカサの髪の毛。
 彼から目がそらせない。



 島の漁師のなりをしていても、その瞳は
 思春期のままの冴久馬ではないか。
 そう――――。
 見間違えない。あの冴久馬の瞳だ。
 少年時代の頑張り屋さんの瞳に間違いない。
 
 潮騒も市場の喧騒も黙り込んだ。。
 黄金の南の島に、ポツンと立っているのは、
 頑張り屋さんの瞳の青年だけだ。

★第九章に続く。

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