<イメージ>
冴久馬 ――― 三浦春馬
マナ ―――― ??
< 第 七 章 >
黄金の浜辺に波が打ち寄せている。
潮騒とともに、薄い薄い波が繰り返しひた寄せる。
大昔からこの十年も変わらず。
二十六歳になった私は日本から遠く離れた
南の島にいた。
あの日、高校の修学旅行で行くはずだった、
あの島に。
十年前の事故を忘れるはずはない。
冴久馬がまだ帰らない。
だからかもしれない。
大人になってから、この島での発展補助の
海外派遣の仕事を選んだのは。
まだ、思春期だった冴久馬。
教室の机の上をスニーカーのまま
飛び跳ねていた冴久馬。
誰よりも太陽のような笑顔をして、
青空の下、汗臭そうなシャツでボールを転がしていた。
(えっ?な、なんか、こんなのが頭に浮かぶって、
まるで冴久馬のことを?)
思い切りぶんぶん頭を振って、水平線に背を向けた。
「どうしたの、マナさん」
活動仲間たちが不思議そうに声をかける。
二年前に おじいちゃんはこの世を去っていった。
ベレー帽が似合った。大正生まれのおじいちゃん。
最期まで「冴久馬を待っててやれ」って言っていた。
そして、今、派遣されて立っている小さな島は
なんという偶然!
おじいちゃんと冴久馬のおじいちゃんが戦争の時に
一緒だった島だった、と
お父さんからのメールで知った。
< 第 八 章 >
島の市は賑やかだ。
褐色の肌の老若男女が カラフルな民族衣装で
押し合いへしあいしている。
市にならぶ香辛料やフルーツの前で
大声を張り上げている。
ここに来て、二年になるからそんな風景を
見慣れている。
今日も良い天気だ。スコールは来るかな。
市に魚を並べにくる、漁師のクンバさんが
ニコニコ笑いながらやってきた。
「マナ、久しぶりだな。こんなに焼けちまって。
もう俺たちと見分けがつかないな」
「また、クンバさんたら、これでも私、乙女……」
……と、言いかけて、動けなくなった。
クンバさんの連れている漁師の青年―――
ボロボロになったTシャツ、
魚と取り換えたのか、腕にはカゴいっぱいの南のフルーツ。
肩まで伸びたカサカサの髪の毛。
彼から目がそらせない。
島の漁師のなりをしていても、その瞳は
思春期のままの冴久馬ではないか。
そう――――。
見間違えない。あの冴久馬の瞳だ。
少年時代の頑張り屋さんの瞳に間違いない。
潮騒も市場の喧騒も黙り込んだ。。
黄金の南の島に、ポツンと立っているのは、
頑張り屋さんの瞳の青年だけだ。
★第九章に続く。