たまゆら夢見し。

気ままに思ったこと。少しだけ言葉に。

我が背子 大津皇子64

2019-05-02 11:42:16 | 日記
ひれ伏した大津の屋敷に集まった民の間を通り過ぎ大伯や終の眠りについた大津、山辺のもとに持統天皇は歩みを進めた。


大津のそばで持統を見据えている大伯がいた。
大伯は澄んだ瞳からは涙の跡もなく持統と目があった瞬間ゆっくりと低頭した。

「大伯…すまぬ。許せ。我の不行届きを許せ。」
大伯が頭をあげるとこうべを垂れた持統がいた。

「皇太后さま。」
「許せ。大津の譲位を受け我が持統天皇になった。まだ正式な即位はしておらぬが草壁にも、不比等にも思うようにさせぬ。」
「申し訳ありませぬ、私だけが辛いのではありませぬに。申し訳…」と大伯が言った途端とめどなく涙が流れた。
「許せ。すまぬ。」持統は大伯を抱きしめた。
周りからもすすり泣きがした。

「大津、山辺も我を許せ。我の不覚であった。」
大伯を抱きしめながら、大津、山辺を見て持統も涙は止まらなかった。

「大津を二上山に祀る。その祭祀の儀式を大伯…そなたに任せたい。ただ…すまぬが今は天武天皇のもがりの途中であるので、工人が足りない。粗末なものになると思う。」と持統が言うと「恐れながら申し上げます。」とシラサギが言った。
「ここ大津さまの元には工人を生業にしているものもおります。どうぞ、そのもの達もお役立て出来ましたら、これほどに幸いなことはありません。お願い申し上げます。」と言いひれ伏した。

「そなた名は。」持統が言うとシラサギは名を挙げた。

「シラサギ…頼む。しばらく二人にしてもらえぬか。」

広間は大伯と持統、大津、山辺になった。

「大伯…我がこの世からいなくなれば真実の大津を誰も言わなくなると思う。薬師寺に大津の像を残したい。それを元に大津に似た観音像を作らせたい。そして大津を龍神として薬師寺のそばで祀りたいと思う。我のために天武天皇が造らせた。勅願寺じゃ。永遠に大津の姿がとどめられるようにな。天皇、我が大津の親としての証しになればと願う。こんなことでしか我は大津と大伯に報いてやれぬ。」と持統は大伯を見つめ言った。