川の近くまで行き禊を済ませ、白い上着の装束に着替えた。久しぶりであった。しかし大伯は何も感じなかった。ただ大津を二上山の頂上近くの祠に移し安眠の場へと送り出すだけである。
胸元の大津から送られた白い珠が時折冷たく感じる。
「大津が喜んでいるの、悲しんでいるの。全くあなたの声が聞こえなくなった。」
大津の柩を見た。
もうそなたは父上様のもとに旅立ったの…お祖父様もあなたを優しく迎えてくれているの。
この世にもう未練は無くなった。これが仏の言う成仏なの。
私がおかしくなってあなたの声を聞いてしまっただけなの。
柩を撫で、頬でさえずった。
それを見ていたシラサギ、大津の邸に仕える者などは涙した。
「大伯さま、秋は陽が早いです。」とシラサギは悲しそうに言った。
「そうね…」と大伯は虚ろに答え輿に乗り天香山から二上山へと歩みを始めた。
沿道には百姓、民らが伏して手を合わせ泣いていた。
「本当にあなたは民を慈しんでいたのね。こんなところまで民が悲しみあなたのために泣いている。あなたはこの者達を自分の争いごとに巻き込みたくなかった。向こうにあなたが叛くなどありもしないことを証明するために争えばこの国はまた疲弊するだけ。それをそなたはひとりの身で受け入れたのね。
我が背子…そなたを誇りに思うわ。」
二上山の頂上近くになると飛鳥三山が浮かび上がるように見えた。
これがあなたが見つめる世界。愛した世界。あなたはこの飛鳥の守護となる。この二上山があなたになる。
大祓詞を大伯はあげた。我欲、我見を遠ざけ、支配者、被支配者、統治者、被統治者という関係を超えて対立することなく究極は一つなのだと、大元は一つと考え、親が子を守るような形で民を慈しみ愛されてきた大津に相応しいと思い大伯はあげた。
シラサギらは透き通るような美しさと弟を慈しむ姿に大伯に圧倒されていた。これで間違いなく大津さまは天に昇られたに違いないと思った。
草壁皇子がおかしくなった…と飛鳥浄御原に噂が流れていた。
胸元の大津から送られた白い珠が時折冷たく感じる。
「大津が喜んでいるの、悲しんでいるの。全くあなたの声が聞こえなくなった。」
大津の柩を見た。
もうそなたは父上様のもとに旅立ったの…お祖父様もあなたを優しく迎えてくれているの。
この世にもう未練は無くなった。これが仏の言う成仏なの。
私がおかしくなってあなたの声を聞いてしまっただけなの。
柩を撫で、頬でさえずった。
それを見ていたシラサギ、大津の邸に仕える者などは涙した。
「大伯さま、秋は陽が早いです。」とシラサギは悲しそうに言った。
「そうね…」と大伯は虚ろに答え輿に乗り天香山から二上山へと歩みを始めた。
沿道には百姓、民らが伏して手を合わせ泣いていた。
「本当にあなたは民を慈しんでいたのね。こんなところまで民が悲しみあなたのために泣いている。あなたはこの者達を自分の争いごとに巻き込みたくなかった。向こうにあなたが叛くなどありもしないことを証明するために争えばこの国はまた疲弊するだけ。それをそなたはひとりの身で受け入れたのね。
我が背子…そなたを誇りに思うわ。」
二上山の頂上近くになると飛鳥三山が浮かび上がるように見えた。
これがあなたが見つめる世界。愛した世界。あなたはこの飛鳥の守護となる。この二上山があなたになる。
大祓詞を大伯はあげた。我欲、我見を遠ざけ、支配者、被支配者、統治者、被統治者という関係を超えて対立することなく究極は一つなのだと、大元は一つと考え、親が子を守るような形で民を慈しみ愛されてきた大津に相応しいと思い大伯はあげた。
シラサギらは透き通るような美しさと弟を慈しむ姿に大伯に圧倒されていた。これで間違いなく大津さまは天に昇られたに違いないと思った。
草壁皇子がおかしくなった…と飛鳥浄御原に噂が流れていた。