周平の『コトノハノハコ』

作詞家・周平の作詞作品や歌詞提供作品の告知、オリジナル曲、小説、制作日誌などを公開しております☆

小説第4弾『この道の先には』~第3章~

2014年01月21日 | 小説
2014年2月19日(水曜日)

ボクが死ぬであろう日まで、
ボクが勇気を出さずとも死ねる日まで、
あと6日。

「昨日、あなたの最期占いで1週間後に死ぬと告げられたなう。」
「やったぁ!あと6日で死ねるぞ~!」
そんな事をボクがツイッター上でつぶやいてみたところで誰もリプライなんてくれないし、気付いてもくれなかった。
そりゃそうだ。ボクのフォロワー数は0なのだから。

※リプライ…ツイッター上で自分のつぶやきに対して他者がコメントを返してくれる事。
※フォロワー…ツイッター上で自分のつぶやきがその人のタイムラインに表示されるようにフォローをしてくれている人の事。

でも驚くべき事が起きた。

ボクがフォローしてる人がリツイートしてくれたおかげで知る事ができたのだが、
「あなたの最期占いで2014年2月25日(火曜日)に某コンビニエンスストアに車が突っ込むという事故で死ぬと占われた。。。でもそんなの信じないぞ!!」とつぶやいている男性がいたのだ。

※リツイート…他人のつぶやきが良い情報や気に入った内容だった場合にその内容を他のユーザーにも拡散するために再投稿する事。

彼のIDは「@SHO_HEX」、名前は将平というらしい。
どうやら彼もボクと全く同じ占い結果が出てしまったようだ。

それは複数人に同じ結果が出るような、やっぱり適当な占いの単なるスマホアプリにすぎないという事か、もしくはボクが死ぬ時に彼も同じ現場に居合わせるという事のどちらかを意味している。

もし後者だったとしたら、きっと彼はボクの近所に住んでいて、きっといつも同じコンビニを利用して、よく雑誌の立ち読みをしているに違いない。

ボクは思い切って彼にリプライをしてみた。
「はじめまして。実はボクもあなたの最期占いで同じ結果が出ました。フォローさせていただきました。よろしくお願いします!」と。

不思議なものだ。
ボクはあと6日で死んでしまうというのに、誰かと繋がっていたいなんていう人間らしい感情が今更溢れ出していた。

(第4章へ続く)

小説第4弾『この道の先には』~第2章~

2014年01月14日 | 小説
2014年2月18日(火曜日)

巷でひそかに流行っているスマホのアプリがあった。
その名は「あなたの最期占い」。

※アプリ…アプリケーションの略。スマホやパソコンにインストールして利用する「応用ソフト」の事。

自分の名前、生年月日、血液型などのプロフィールを一通り入力した後で、100個の質問にYesかNOで答えると、自分の命日と、どのような最期を迎えるかが分かるという、占いの中でも最も胡散臭い類に入るようなくだらない占いだ。

だが、「それが案外そうでもないらしい」という話がツイッター上でひろがっていた。

※ツイッター…140文字以内で好きな事をつぶやいたりできるコミュニケーションツール。パソコンや携帯電話などがあれば誰でも無料で登録・利用できる。

ほとんどの人が「何十年後の何月何日かに何らかの病名で亡くなる」というように今すぐは結果が本当かどうか分からないような占い結果を出される中、
「わずか3日後に交通事故で死ぬ」とか「12日後に心臓麻痺で突然死する」と占われた人が本当にその通り亡くなってしまったというのだ。

もちろん誰もが「単なる偶然だ!」「運命は自分で変えられる!」「本当に当たるわけがない!」というように全く信じようとはしなかった。
ちょっと悪ふざけの過ぎる単なるスマホアプリぐらいに捉えていた。

だが、おそらく唯一だと思うが、その占いが当たって欲しいと願う人間がいた。

それがボクだ。

なぜならばボクは「2014年2月25日(火曜日)に某コンビニエンスストアに車が突っ込むという事故で死ぬ」と占われたからだ。

つまり今日からわずか1週間後だ。

おそらくいつものようにコンビニで週刊少年誌の立ち読みをしているという、ボクにとって唯一の至福を味わっている最中に外から車が突っ込んできて、ボクは死んでしまうのだろう。

でもそれなら本望である。

本望であると思っていた。

そう。彼と出会わなければ。

(第3章へ続く)

小説第4弾『この道の先には』~第1章~

2014年01月07日 | 小説
死にたいと思っていた。
死んでしまいたいと願っていた。
どうしたら楽に死ねるだろうと考えていた。
そう。彼と出会うまでは。

そして、きっと死んでいた。
そう。あの男と出会わなければ。

ボクには何の取柄も無く、特に夢も無い。
お金もあまり無く、28歳にもなって恋人もちゃんとできた事が無い。
友達もいない。兄弟もいない。両親ももうこの世にはいない。
バイトも深夜の工事現場の交通整理が週に3、4日あるくらいで、いわゆる「誰かと会話する」事が他人に比べて圧倒的に少ない。

そんなボクにある唯一の趣味といえば、毎週月曜日に発売される週刊少年誌をコンビニで買いはせずに立ち読みする事くらいだ。

果たして、"この道の先には光なんてあるのだろうか?"

これから先、生きていて何か楽しい事はあるのだろうか?
ボクに明るい未来などあるのだろうか?
愛読の週刊少年誌が廃刊にでもなったらどうやって生きてゆけば良いのだろうか?

死にたいと思っているくせに、
死んでしまいたいと願っているくせに、
どうしたら楽に死ねるだろうと考えているくせに、

こうしてまだボクは今日もここに生きてしまっている。
自殺する勇気すらボクは持っていないのだ。
スマートフォンなんかは持っているくせに。

そもそも友達もいないようなボクがスマートフォン(以下、スマホ)なんかを持つ意味があったのだろうか?

それが、どうやらあったらしい。

死にたいと思っていた。
死んでしまいたいと願っていた。
どうしたら楽に死ねるだろうと考えていた。
そう。彼と出会うまでは。

そして、きっと死んでいた。
そう。あの男と出会わなければ。

(第2章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~最終章~

2013年03月07日 | 小説
翌日。

2043年の世界に戻ってきた52歳の歩夢はドラマの撮影で東京都内の某スタジオの控え室にいた。

「あ、そうだ。撮影の合間で読もうと思って、じいさんからの手紙をカバンに入れてきたんだっけ。」
そう思い出した歩夢はカバンの中から、30年前の世界で老人に手渡された手紙を取り出した。
そこにはこう書かれていた。

「お前がこの手紙を読んでいる頃には、2043年の世界でベテラン俳優として忙しい日々を送っている事じゃろう。
お前がタイムスリップしてきた時間では説得の邪魔をしてしまって済まなかったのう。
でも分かっておくれ。
わしは人生がもうそれほど長くないと分かった時に、30歳を過ぎた頃に夢を諦めてしまった事をとても後悔したのじゃ。
そう、わしはお前のさらに30年後、つまり2073年から来た82歳のお前じゃ。
お前は本当はタイムスリップして、22歳のわしへの説得に成功したのじゃ。
そのおかげでわしは、23歳の時にそこそこ良い会社に就職して、やがて自分で会社まで立ち上げてビジネスに成功したのじゃ。
美人な奥さんも貰ってなぁ、何不自由ない生活を送ってこられたのじゃ。
しかし、それが「幸せな人生だったか?」と問われれば、自信を持ってそうと答えられんのじゃ。
やっぱり若い頃に諦めてしまった夢が呪いの様にずっと自分につきまとっているのじゃ。
わしの時代では景気対策のために、大金さえ払えば抽選に参加せずともタイムマシンの搭乗権を獲得できるようになっとる。
そこでわしは大金をつぎ込み、2013年の世界に再び戻り、22歳のわしを説得する52歳のわしを邪魔して、若い頃のわしに夢を追いかけ続けさせたのじゃ。
本当に済まなかったな、52歳のわし。
でもきっとその甲斐あって、若い頃のわしが頑張ってくれて、52歳のわしは人気俳優として忙しい日々を送っている事を確信しておる。
この手紙をお前が読んでいる頃には、わしも2073年の世界に戻されておるじゃろう。
ほんの数日だったが、52歳と22歳の自分と熱く語り合えて本当に楽しかった。
最後になるが、タバコや酒はなるべく控えるようにしておくれ。
わしが82歳ではなく、もっともっと長く生きられるようにな。
それでは元気でな。」

「なんだよ、じいさん。っていうか30年後の俺… そうならそうと言ってくれれば良かったのに。っていうか俺、あと30年であんなにハゲて、あんなに老けるのか?」

52歳の歩夢が82歳の歩夢からの手紙を読み終えたのを見計らったかのように、歩夢の母が岐阜の実家から歩夢の携帯電話に電話をかけてきた。

「はい、何?」
歩夢はどうせまた金の催促だろうと思いながら電話にでた。

「もしもし、歩夢? あんた、そろそろお金送ってきてちょうだいよ~。」

予想通りだった。

「うん、分かったよ。もうすぐギャラ入るからさ。そしたら送るよ。
ちょうど今日もドラマの撮影なんだよ。今も控え室にいて、これからまた撮影の続きだから電話切るね。」

「撮影って言ったって、あんたはExtra(エキストラ)でしょ?
ギャラも大した額じゃないんでしょ?」

「まぁ、そうなんだけどさ… 
でもな、おふくろ。たとえエキストラでも、たとえギャラは少なくても、俺は今すごく幸せな人生を送れていると思えるんだ。
おふくろ… 52歳にもなって今更だけど、俺を産んで、そして育ててくれて本当にありがとう。」

歩夢がそう言うと、歩夢の母の目からは涙が溢れて止まらなかっ…

「ちょっと歩夢! 何を綺麗に話をまとめようとしてるのよ! 
私が泣くとでも思ったのかい? ふざけた事言ってないで、さっさとお金送ってきてちょうだい! 分かった?」

「…」

翌月、52歳の歩夢は再びタイムマシン搭乗権の抽選に応募した。

<完>

小説第3弾『Extra Dream』~第9章~

2013年02月28日 | 小説
物語はいよいよ終盤に突入した様子だ。
勘の良い方なら今の時点で老人の正体が予測できたかもしれないが、
この物語のオチはそこではないので、「もういいや」と思わずに是非とも最後まで読み続けて欲しい。

筆者がそう願っているうちに、1週間ひとつ屋根の下だった3人は、
52歳の歩夢が1週間前に降り立った公園の公衆トイレの個室の中にギュウギュウ詰めで入っていた。
入っていく所を誰にも見られていなかったら幸いだ。

「じゃあ、精々元気でのぉ。あ、そうそう、これこれ。」
老人は52歳の歩夢に手紙の入った便箋を渡した。

「じいさん、何だよこれ?」
便座に腰掛けた52歳の歩夢が問う。

「2043年の世界に戻ったら必ず読んでおくれ。」

「何だよ… 気色悪いなぁ。まぁ手紙なんて誰からも貰った事ないからちょっと嬉しいけど。」

22歳の歩夢も52歳の歩夢に別れの言葉を告げた。
「俺、絶対夢をあきらめないから! 30年後の俺や親父やおふくろに苦労させないようにもっと頑張るよ! そして絶対俳優として売れてみせるよ!」

「まったく… 俺は何のために東京に引っ越してまで、この時代にタイムスリップしてきたのか… これに一生分の運を使ったようなもんだぜ?」

「無駄にはしないよ! 30年後の俺の努力を。」

「もちろんだ。絶対に無駄にすんなよ! 俺の努力と苦労を!」

ちなみに52歳の歩夢は何の努力も苦労もしてはいない。
ただ、バイト先を岐阜から東京へ変え、住処を実家から二瓶のアパートに変えただけだ。

52歳の歩夢が左腕にしている安い腕時計に目をやると同時に、その体が薄黄色の光に包まれ出した。
「どうやらそろそろタイムリミットのようだな。頼んだぞ! 22歳の俺! それから… じいさんもお元気で。まぁできるだけ長生きしてくれよ。じいさんのおかげで俺も少し目が覚めたよ。ありがとう。2043年に戻ったら俺はどういう生活をしているか分からないけれど、自分に与えられている仕事を一生懸命頑張ってみるよ!」

そう言った52歳の歩夢の体はさっきよりも眩しい光に包まれ、やがて公衆トイレの個室から消えた。

(最終章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第8章~

2013年02月21日 | 小説
翌日も52歳の歩夢の、52歳の歩夢による、52歳の歩夢と22歳の歩夢と歩夢の両親のための説得が続いた。

「分かったよ。じゃあ、俳優の夢は諦めないで、色々資格を取りながらバイトを続けるって事で良いか? まぁ、どうせそろそろそうしなきゃなぁって考えてたところだったし。」

「ダメだダメだ。そうこうしてるとあっという間に三十路になっちまう。すぐに就職活動始めろ! そして就職が決まり次第バイトやめろ。」

「嫌だよ、そんなの…」
22歳の歩夢はそう言うと、半分涙目でうつむいてしまい、部屋にはしばらく沈黙が続いた。

「ピンポーン♪」
沈黙を破るようにインターホンが鳴った。

「うん? 誰だ、こんな時に。まぁ女じゃない事だけは俺も知ってるが。どうせ宅急便だろ。」
52歳の歩夢はそう決めつけた。

22歳の歩夢は顔を上げて、ゆっくりと玄関へ向かいドアを開けた。
「はい、どちら様ですか?」

そこには年老いた男が杖をつきながら立っていた。
「私は『若者の夢を応援する会』の会長をしておる者じゃ。今、このアパートの前を通りかかったら、あんたと別の男の会話が聞こえてきて、若いあんたに夢を諦めろだなんて、何てひどい事を言う奴がおるんじゃと思い、失礼を承知でお邪魔したのじゃ。」

二人の歩夢の会話は外に漏れるほど大きいものではなかったはずだ。
22歳の歩夢はかなり胡散臭いと思ったが、今の自分にとってこの老人は味方以外の何物でもないと思い、部屋に招き入れる事にした。

それから狭いアパートの一室で、22歳の歩夢、52歳の歩夢、そして『若者の夢を応援する会』の会長を名乗る老人の3人による討論会が行われた。
タイムスリップ云々の話も老人はなぜかすぐに理解した。

「とにかく夢は持ち続けなきゃいかんのじゃ! わしも若い頃に夢があって追いかけてはみたが、結局あきらめてしまって… 今になって思えば本気が足りなかったなぁと思うんじゃ。もっと頑張ってみれば良かったのぉ…と今になって思う。わしはもう先が長くは無い。でもそんなわしが死ぬ間際にこんな風に思うのじゃから、52歳のあんたも、昔の自分の夢をもう少し信じてあげたらどうかのぉ?」

「じいさんは甘いんだよ! もう先が長くないからそんな気楽に考えられるんだよ!」

「俺は会長さんに賛成! やっぱり人間、最後の最後にはどんなに貧しくても、どんなに惨めでも、自分の生きたいように生きれば良かったって思うんだよ。そうですよね? 会長さん?」と22歳の歩夢。

「まったくその通りじゃ!」

その後、5日間同じような言葉のやり取りが続いた。
22歳の歩夢&老人 VS 52歳の歩夢という構図は最後まで変わらなかった。
そしてなぜか、どさくさに紛れて老人も22歳の歩夢のアパートに居候している。

そしてついに、52歳の歩夢が30年後の世界に戻らなくてはならない時がやってきた。

(第9章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第7章~

2013年02月14日 | 小説
「どちら様ですか?」と22歳の歩夢。

「あなた様です!」と52歳の歩夢。

バターン!と22歳の歩夢はすぐに玄関のドアを力強く閉めた。

「いや、怪しいもんじゃないから開けてよ~。」
52歳の歩夢は慌てて玄関のドアを数回ノックした。

「ふざけんな! 今忙しいんだよ!」

「大丈夫! すぐに話は終わるから! それにお前、本当は忙しくないだろ。だって22歳の頃の俺に忙しかった時なんて無いんだから。」

22歳の歩夢はもう一度ドアを20センチぐらいだけ恐る恐る開けてこう言った。
「おじさん、さっきから何言ってんの? 警察呼ぶぜ?」

「まぁまぁ落ち着いて! 立ち話もなんだから、部屋の中で話そうよ!」

「いやいや、ここは俺の部屋だから。」

「お前の部屋だって事は俺の部屋だよ。」

「はぁ? ふざけんなよ!」

「信じてもらえるわけはないと思うけど、俺は30年後のお前なんだよ。その証拠に…」
52歳の歩夢は自分の生年月日から、生い立ち、数々の失恋話、数々の失敗談、小学生の頃のあだ名など本人しか知らないような事を次々と言い並べた。

「どうせ俺の同級生の誰かから聞き出したんだろ? 信じられないね!」

「じゃあ、これならどうだ?」
52歳の歩夢は13~22歳の歩夢の歴代エロ本隠し場所を全て言い当てた。

「分かりました。信じます。すみませんでした。」と22歳の歩夢。

それから2人は部屋の中に入り、52歳の歩夢は自分がタイムスリップできた理由や、そもそもタイムスリップしてきた理由を話した。

「まぁ、とにかく、さっさと俳優になる夢なんて諦めて、良い所に就職して、良い彼女見つけて、さっさと結婚もして、親父とおふくろを安心させてくれや。」

「はぁ? ふざけんなよ。確かにそりゃ、親父とおふくろに親孝行はしてやりたいけど、夢は絶対にあきらめられないよ!」

「でもどうせ30過ぎた頃に 諦める運命にあるんだぜ?」

「いや! そんな運命変えてみせる! このままなら叶わないと分かったんなら、尚更もっと頑張って絶対に俳優として成功してみせる! だからさっさと30年後に帰ってくれよ!」

「いや、無理無理。今日から1週間、ここで寝泊りするから。」

「はぁ? ふざけんなよ…」

(第8章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第6章~

2013年02月07日 | 小説
物語は第6章へ突入。5章かけてやっと歩夢が過去へと来られたわけだが、これでも結構どうでも良い部分を色々省いて書いている事を読者にはご理解いただきたい。

「あぁ、懐かしいなぁ…」
歩夢は2013年の風景の中を、昔の記憶を思い出しながら歩いた。
「そういえばここでヤンキーに絡まれたっけなぁ」とか「そういえばここで自転車で派手にこけたっけなぁ」とか「そういえばここで犬の糞を思いっきり踏んでしまったっけなぁ」など、気が付けば悲しい思い出ばかりだ。

そうこうしていると、30年前にアルバイトしていたコンビニ、いや、つい昨日まで2034年の世界でも働いていたコンビニにたどり着いた。

レジには22歳の二瓶が立っていた。
「うん、いつの時間帯でも確実に彼は居ると思ってた。」

どうやら2013年の10月13日は歩夢は仕事が休みだったらしい。もしくは深夜のシフトになっていたかである。

「とりあえずこの頃に住んでたアパートへ行ってみるか。あ、でもその前に一応…」
歩夢は何を思いついたのか、コンビニの中へ入っていって二瓶の立っているレジへ向かった。

「ねぇ、君、おそらく来年くらいに大きな恋をすると思うけど、残念ながら叶わない恋だからあきらめなよ。君が傷つかないためにもね。」

「は?」
当然の二瓶の反応である。
「いきなり何なんですか?」

「いや、失礼。いきなり変な事を言って済まなかった。でもね、未来はいくらでも自分の手で変えられるからね!頑張って!」
歩夢は全く説得力の無い言葉を返した。

「は、はい…」

「それじゃあ、また30年後で!」

「…」

歩夢は自分の言いたい事だけ言い放って、コンビニを足早に出て行った。

「何だ今のオッサン。頭おかしいんじゃねぇか? でも顔が誰かに似ていたような… まぁいいか。」

15分後、頭のおかしいオッサンは30年前に住んでいたアパートへとたどり着いた。

「ピンポーン♪」
インターホンを鳴らすと、22歳の歩夢がゆっくり玄関のドアを開けてくれた。

(第7章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第5章~

2013年01月31日 | 小説
「2」、「0」、「1」、「3」
歩夢はタイムマシンの中にあるタッチパネルで戻りたい過去の年を入力した。
2013年。歩夢が22歳だった年だ。
もう2、3年前にタイムスリップしても良かったのだが、昔の歩夢に東京で2、3年は夢を見させてやっても良いのではないかと思い、キリが良く30年前の2013年に戻る事にした。

「OK」ボタンを押すと、タイムマシンの中は目を開けていられない程の眩しい光に包まれた。

10秒後、歩夢が恐る恐る目を開けると、さっきまでの眩しい光は消えていて、歩夢はとある公園の公衆トイレの個室の便座に座っていた。

「何もトイレの中じゃなくても…」

歩夢が2013年に戻って最初につぶやいた言葉はこれだった。
後で分かった事だが、どうやら東京コスモツリーが経った場所に昔あった公園の公衆トイレらしい。

「本当にここは2013年なのか?」
歩夢は街のあちこちを見渡して確かめた。

街の至る所に貼られた某秋葉原アイドルのポスター、携帯電話に「公園なう。」と今となっては寒気のする言葉を入力している若者、「消費税率8%になる前に買い替えを!」と貼り紙がされている家電量販店の店頭に展示された大型(今となっては小さい方だが)テレビ。
駅の高架下で横たわっている、お家の無い人の体に掛けられている布団代わりの新聞紙には「平成25年(2013年)10月13日(日曜日)」と印刷されている。

「間違いない。ここは2013年の東京だ…」

分かってはいた事なのだが、いざ本当にタイムスリップすると、歩夢は変な恐怖と孤独感に襲われた。
それはそうだ。この世界には52歳の歩夢を知る人間は一人もいないのだ。

「ちょっと待てよ? でもどうせ2043年だって俺の事を知ってる奴なんて、親父とおふくろとバイト先が一緒だった奴らくらいだよな。じゃあ、たいして変わらないじゃないか。」

そう開き直った歩夢は22歳の自分自身を探しに向かった。

(第6章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第4章~

2013年01月24日 | 小説
第3章でまさかの再登場を果たした「二瓶」という人物が何者なのか知らない方や、忘れてしまった方は小説第1弾『草食系貧乏』を参照して欲しい。

その二瓶にも、ついにめでたく新しい家族ができた。

「歩夢」だ。

マンスリーマンションの賃料を浮かせるために歩夢は二瓶のボロアパートに転がり込んだのである。
二瓶はまさか人生で初めてアパートの合鍵を渡す相手が同性、ましてや同い年のオッサンになるとは思っていなかっただろう。

そうして、5畳のボロアパートでお互いに心の傷を舐め合う日々が足早に過ぎて行った。

歩夢は自分の生活費や両親への仕送りの金を稼ぐために毎日必死で働き続けた。
コンビニに人が足りている時間は他のアルバイトもいくつかやった。
高く聳え立つ東京コスモツリーのてっぺん、いや、高さ900メートル地点にある超特別展望台を見上げながら。

そして、歩夢が東京へ出て来て僅か4ヶ月後の2043年10月にまさかの奇跡は起きた。

二瓶のボロアパートのボロポストに、歩夢のタイムマシン搭乗権の獲得を知らせる封書が届いたのである。

二瓶が誤って、それを鍋敷きに使用してしまったため、若干封書の中身も濡れてしまったが、間違いなくそこには歩夢の無謀な賭けの成功を知らせる文章が綴られていた。

「し、信じられない… まさか本当に、しかもこんなに早く叶うとは…」
歩夢は本来の目的を果たす前に感動して泣き出してしまった。

その頃、岐阜の実家では毎月減っていく一方の歩夢からの仕送りに両親が涙していた。

その10日後、ついに歩夢がタイムマシンに乗る日がやってきた。
ちなみに歩夢が過去に戻っていられる1週間の間は、現代でも時が1週間過ぎている。
歩夢はコンビニや他の全てのアルバイト先に退職届を出した。
過去から戻ってきた頃には、もう歩夢が東京に留まる理由は無いからである。

それに歩夢が現代に戻ってきた頃には、きっと歩夢の過去は変えられていて、52歳の歩夢はアルバイトなんかではなく、立派にどこかの会社の社長にでもなっているかもしれないのだから。

(第5章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第3章~

2013年01月15日 | 小説
物語は第3章へ突入し、これからどんどん盛り上がっていく予定ではいるが、
念のためここでもう一度、2043年にタイムマシンが完成している可能性は限りなくゼロに近い事をお伝えしておく。
タイムマシンの実現はおそらく永遠に難しいだろう。
過去には戻れない、過ぎた時間は取り戻せない。それが現実だ。
だから、この物語を読んでいるのは時間の無駄だと感じた読者は、今からでも間に合うので引き返して欲しい。

そうこう言っている間に馬鹿な歩夢は東京に到着してしまったようだ。
年老いた両親に「毎月必ずお金は送るから!」と言って実家を飛び出してきた。
そう、全ては30年前に戻り、昔の自分に会って、夢を諦めさせるために。

歩夢はさっそくマンスリーマンションを借り、アルバイトを探し始めた。
過去の経験を買ってもらえるだろうと、あちこちのコンビ二の面接を受けたが、さすがに52歳のオッサンはそう簡単には雇ってはもらえなかった。

「こうなったらダメ元であそこしかない!」

歩夢は30年前にアルバイトをしていた都内某所にあるコンビ二を探しに向かった。
そこそこ大きい通りにあるコンビ二だったし、潰れてはいないだろうと踏んだ。

辺りの様子はもちろん30年前とは大きく変わっていたが、そのコンビニだけは昔と変わらずにそこにあった。

「あのぉ… すみません。」
歩夢はレジの奥の方にいる同じくらいの歳の店長らしき男性に声をかけた。

「あのぉ、かなり昔にここで働いていた者なんですが、現在アルバイトは募集されていますか?」

すると、店長らしき男性は驚くべき言葉を返した。

「あなた… まさか歩夢君?」

「えっ?」
ビックリした歩夢は、すぐにその男性の左胸にある名札に目をやった。

「ま、まさか、二瓶君?」

「うん。いや~、久しぶりだね~。元気だった?」

「ま、まぁね。二瓶君、まさかここの店長になったの? 
っていうか、ここであれからずっと働いてたの?」

「うん、そうだよ。さすがにこれだけ、この店だけに命を懸けて働いていれば店長ぐらいにはなれるさ。」
二瓶店長は笑いながらそう答えた。

それから何十分の時が流れただろう。
二人は他のお客さんも完全無視で話に花を咲かせた。

お互いまだ未婚である事や、当時もお互いモテなかった事や、二瓶の失恋話や、歩夢が当時頻繁に二瓶にシフトを代わって貰っていた事、

そして、歩夢が今さら東京へ戻ってきた理由を。

その翌日から歩夢は30年ぶりに、このコンビニで働き始めた。

東京都民の中から抽選でタイムマシンに乗れる一人に選ばれる、訪れるかどうかも分からないその日まで。

(第4章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第2章~

2013年01月08日 | 小説
「歩夢」という主人公の名前を聞いて、読者は何歳くらいの人間を想像しただろうか?
10代の若い男性を想像しただろうか?
いや、この名前だと女性でもおかしくはない。
20代前半の可愛らしい女性を想像した読者もいるだろうか?

残念ながらどれも不正解だ。
答えは「52歳の冴えないオッサン」である。

歩夢(52歳独身・男性・アルバイト)は1991年(平成3年)に岐阜県に生まれた。
19歳の頃に俳優になりたいという夢を追いかけて上京した。
しかし10年以上経っても全く芽が出ず、夢をあきらめ、30歳を過ぎてから定職に就こうとしたが、時すでに遅し。
結局、34歳の時に東京を去ることになり、現在は実家で年老いた両親と3人暮らし。
岐阜でも定職に就く事はできず、アルバイトを掛け持ちして自分と両親の生活費を稼いでいた。
昼間は定食屋で、深夜はコンビ二でアルバイトの日々。

ちなみに歩夢が定食屋で働こうと思ったのは"定食"屋で働く事で"定職"に就いた様な気になれるからという安易な理由であるかどうかは定かではない。

「こんなはずじゃなかったのになぁ…」

歩夢は20代前半のうちにさっさと夢をあきらめ、定職に就かなかった事を激しく後悔していた。

「あぁ、あの頃に戻ってやり直せたらなぁ…」

歩夢は休日に実家の居間でそうつぶやくと、特に見たい番組も無いのにテレビをつけて、体を横にした。
テレビでは、俳優としても活躍している若手の男性タレントが「東京コスモツリー」の中にあるレストラン街のリポートをしていた。
まさに歩夢が昔、思い描いていた姿がそこにはあった。

「東京コスモツリーかぁ… すげぇよなぁ… だってタイムマシンまであるんだもんなぁ…

うん!? タイムマシン!? そうだ!その手があった!!」

52歳のオッサンになっても馬鹿なままの歩夢は、
下手したら俳優として成功するよりも可能性の低い賭けに出る事にした。

(第3章へ続く)

小説第3弾『Extra Dream』~第1章~

2013年01月01日 | 小説
最初に言っておくが、この物語はフィクションである。
しかし、フィクションじゃなくなるかもしれない物語である。
フィクションであるか否かは、読者自身が30年後まで生きて、
その目で確かめていただく他に方法が無い。

時は西暦2043年。

日本の消費税は20%にまで引き上げられ、
生活苦を理由に自殺する者が相変わらず日々絶えない。
国会議事堂の前では、毎日のように減税を訴える大規模なデモが続いている。

それを見下ろすかのように聳え立つ、高さ1000メートルの電波塔「東京コスモツリー」。
これが2043年の東京の新たなシンボルになっている。
その「東京コスモツリー」の高さ900メートルの地点にある超特別展望台には、
過去にだけタイムスリップできるというタイムマシンがあるらしい。
2040年までに日本やアメリカなど6カ国がタイムマシンの製造に成功したのである。
つまり22世紀に誕生するであろう青い猫型ロボットの必要性はほぼ無くなったと言えるのである。
それに竹とんぼくらいの大きさのプロペラで空が飛べるだなんて、
この時代の暗く沈んでいる日本人は誰も信じてはいない。
ピンク色の密入国&不法侵入可能ドアも然りだ。

話は戻るが、日本が消費税を20%にまで引き上げた理由はタイムマシンの製造費なのではないかと、
疑問や反発の声も多い。
しかし、国民にとっても嬉しい話もある。
なんと毎月一人、東京都民に限り、応募者の中から抽選で選ばれた一人が、
タイムマシンで過去の自分の好きな時間に1週間だけタイムスリップできるというのだ。
そんな少ない確率に賭けて東京へ引っ越す馬鹿な人間も少なくはない。

そんな馬鹿な人間の中の一人が、そう、この物語の主人公「歩夢(あゆむ)」である。

(第2章へ続く)

小説第2弾『上京テトラロジー』~10、エピローグ~

2012年03月07日 | 小説
東京の某所にとても人手に困っているコンビニエンスストアがあった。
それまで学生のアルバイトがたくさんにいたのだが、たまたまそのほとんどが大学4年生など卒業を控えた人たちで、みんな就職も決まり、この春に一気に何人も辞めてしまったのだ。

そんなコンビ二のアルバイトの募集に2人の若者が応募してきた。
この春から俳優の養成所に通うレンと、美容の専門学校に通うアオイだ。

でもレンとアオイがそのコンビ二で働ける時間は限られている。
それぞれ養成所や専門学校に通いながらなのだから当然だ。
まだまだ人手は足りない。

2人はよくシフトも重なり、歳が同じな事もあり、大きな夢を追いかける者同士すぐに仲良くなった。
そして、恋人と遠距離恋愛中のレンと、親たちと離れて暮らし始めて心細いアオイが互いに惹かれ合ってしまうのには、そんなに時間はかからなかった。

「やっぱり私たち、付き合い続けるのは難しいのかな?」
「うーん… 大丈夫だと思ってたけど、やっぱり難しいのかもなぁ…」
「友達に戻った方が良いのかな? 私たち。」
「うん…」

九州に住むマイと東京に住むレンが電話でそんな会話を交わしたのは梅雨入りの頃だった。


それから1ヶ月半が経ち、未だ人手不足のコンビニに、梅雨明けと共に1人の救世主がやって来た!!

上京してから4ヶ月経つというのに、まだアルバイトが決まらず、結局母親からの仕送りで生活していたカズだ。

カズは特に学校などに通っているわけではないので、24時間いつでも働けるのだ。
それでもこの4ヶ月の間で10回以上も他の所の面接で不採用になったというのだから不思議だ。

店長はカズを即採用した。

カズは翌日からさっそく働き始め、カズの母と同じくらいの歳だと思われる女性に仕事を一から教えてもらうことになった。

「よろしくね。"原"といいます。」

その女性から先に挨拶してくれた。

「よ、よろしくお願いします! 僕… "二瓶"と申します!」

"カズ"こと"二瓶一之"は慌てて挨拶を返した。

<完>

(※ カズだけは小説第1弾『草食系貧乏』へ続く)

小説第2弾『上京テトラロジー』~9、カズ後編~

2012年02月29日 | 小説
「まったくもう…」
カズの母はため息をついて電話の受話器を置いた。
それはそうだ。
カズの担任から呼び出しを食らったのだから。

「お父様とお母様はこれでご納得されてるんですか?」
担任は母に尋ねた。

「え?」
母は何の事だかさっぱり見当が付いていない様子だ。

母の目の前に置かれた、カズが学校に提出した進路希望調査票の「卒業後の進路」の選択欄では「就職」にも「進学」にも丸印が付けられておらず、その他の欄に「上京する」とだけ書かれてあり、具体的な進学希望校や就きたい業種などを書き込む欄には「ビッグになりたい」とだけ書かれてある。
そしてその紙の右下には、本来は同意した親がするべき捺印がされてある。

「あんた何考えてるの?」
母は横に座らされているカズに訊いた。

「上京して、バンド組んで、それで、デビューして、ビッグになりたいんだ。」
「それならそれで、音楽の専門学校に通いたいとかないわけ?」
「そんな金どこにあるわけ?」
「…」
母は黙ってしまった。

結局1時間にわたる話し合いの末、進路希望調査票の「卒業後の進路」は「アルバイト」と訂正され、「今後、音楽専門学校に通う際の学費のため」と付け加えられた。


それから数ヶ月。
カズにも上京する日が訪れた。
「ほら!早くしなさい! 新幹線に乗り遅れるわよ!」
「分かってるって!」
「まったくもう…」

カズは駅まで母に車で送ってもらった。
「とりあえずあとで10万円くらい振り込んでおくけど、それを使い切る前にちゃんとアルバイトを見つけるのよ!」
「うん、分かってるって。」
「アパートの大家さんに迷惑かけるんじゃないわよ!」
「うん、分かってるって。」
このあとも母とカズの似たような会話が延々と続いたが、それを全文載せると他の3人の主人公と不公平になってしまうので省略させていただく。

新幹線の発車時刻まで5分になった。

「それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい!」
「うん。」
「あっちに着いたら電話するのよ!」
「うん、分かってるって。じゃあ。」

カズの姿が見えなくなるまで母は心配そうに見送った。
姿が見えなくなっても母は心配でしばらくそこから動けなかった。

すると、新幹線のホームに向かったはずのカズが改札まで駈け足で戻ってきた。
「どうしたのかしらあの子… まさか寂しくなって…」
「母ちゃ~ん!!」
「どうしたの!?」

「車の中に財布忘れてきた~!!」

「まったくもう…」

(最終章へ続く)