周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけないという、自分の首を絞めた新企画「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』もついに最終話です!!
さて、今回の材料は…
「肥やし」…大さじ3杯
「商魂」…小さじ2杯
「費用」…小さじ1杯
「情け」…小さじ3杯
「地階」…大さじ2杯
実はこの時点でも全く決まっていない結末。いったいどうなる!? 幸いにも使いやすい単語が多い最終話スタート!!
『夢馬鹿』~最終話~
『力いっぱい』がついにオープン初日を迎えた。
場所は有楽町駅から国会議事堂方面にちょっと行ったところにある、地上4階・地下1階のビルの地上1階だ。
同じビルの4階には雀荘、3階にはスナックが入っていて、2階は空店舗になっている。そして地下1階には、おしゃれな雑貨カフェが近日中にオープンするらしい。
店の前には開店前から10名ほどの列が出来ていた。まずまずのスタートだ。
女性客も意外に多く、「ただのラーメン屋さんだったら一人では入りづらいけど、これなら入りやすいかも。」と言ってくださった。
とある中年太りの男性客は「ラーメンもおしゃれで体の”肥やし”だけじゃなく、目の"肥やし"にもなる。」と冗談っぽく言っていた。
雪男は準備段階から私のアイディアも聞き入れてくれて、「でももっとこうした方が売れる。」とか「これは千円超えても売れるんじゃないか。」とか、的確なアドバイスもくれて、そしてそれが見事に売上に繋がっていった。
雪男の”商魂”は本当に尊敬できるものがある。
しかし、良い状態は長くは続かなかった。
開店から3ヶ月ほど経つと客足は減少しはじめた。飽きられてしまったのだろうか。
”費用”ばかりが嵩み、このままでは経営が厳しい状況だ。
仕入れなきゃいけない材料の数も、この「シューピー散文クッキング」の1話につき5個なんて少ないと思ってしまうほどだ。
他にも光熱費、アルバイトの人件費、このブログの読者である友人が心配してくれたほどの家賃…。出費は尽きない。
「なぁ、貝塚。俺、ラーメンの新メニュー考えてきたんだ。もしこれを出しても客足が戻らなかったらあきらめよう。このままでは本当にまずい。」
雪男が険しい表情で提案してきた。
「分かった。俺の考えたメニューも最初は良かったけど、すぐに飽きられてしまって…。本当に”情け”ない…。すまない、雪男。」
「いや、そんなことあるか! 俺のアドバイスや値段設定がいけなかったのかもしれない。とりあえず俺の考えた新メニューの雪貝ラーメンを食べてみてくれ!」
「雪貝ラーメン!?」
「あぁ。俺とお前の名前から一文字ずつ取って雪貝ラーメンだ。雪に見立てた粉チーズとアサリが入ってる。」
それは本当においしかった。これでもダメならその時は店を畳む覚悟を決めようと思えたほどだった。
閉店などする事になったら家内になんて説明したら良いのだろう。
そのあとどんな地獄が待っているのか考えただけでも恐ろしい。
そして2週間後。
「雪貝ラーメン」の発売初日を迎えた。
店の前にも雪貝ラーメンがプリントされたのぼり旗を3本立てた。チラシも出した。できる事は全部やった。
開店前から雪男は厨房で仕込みを続けている。
私は店内の清掃や資材の補充をしていた。
「おい、雪男! 店の前に行列ができてるぞ!」
長い列が歩道の方まで繋がってるのが見えた。
「マジか!? それならこの店続けられるかもな。じゃあ、ちょっと列の整理をしてきてもらえるか?」
「了解!」
私は雪男に頼まれて外に出た。
長い列の中には私が退職した会社の最寄り駅で数ヶ月前に出会い、里芋を大量にくれた若い女性もいた。
なんという偶然だろう。
私は驚いたが、その女性に話しかけている余裕など無く、列の整理を始める事にした。
「うん? この列、どこが先頭なんだ?」
よく見ると、その長い列は本日オープンのおしゃれな雑貨カフェのある”地階”へと繋がっていた。
時を同じくして、私の自宅ではリビングの壁に貼られた「家内安全」と書かれたシールが剥がれ落ちていた。
《完》
さて、今回の材料は…
「肥やし」…大さじ3杯
「商魂」…小さじ2杯
「費用」…小さじ1杯
「情け」…小さじ3杯
「地階」…大さじ2杯
実はこの時点でも全く決まっていない結末。いったいどうなる!? 幸いにも使いやすい単語が多い最終話スタート!!
『夢馬鹿』~最終話~
『力いっぱい』がついにオープン初日を迎えた。
場所は有楽町駅から国会議事堂方面にちょっと行ったところにある、地上4階・地下1階のビルの地上1階だ。
同じビルの4階には雀荘、3階にはスナックが入っていて、2階は空店舗になっている。そして地下1階には、おしゃれな雑貨カフェが近日中にオープンするらしい。
店の前には開店前から10名ほどの列が出来ていた。まずまずのスタートだ。
女性客も意外に多く、「ただのラーメン屋さんだったら一人では入りづらいけど、これなら入りやすいかも。」と言ってくださった。
とある中年太りの男性客は「ラーメンもおしゃれで体の”肥やし”だけじゃなく、目の"肥やし"にもなる。」と冗談っぽく言っていた。
雪男は準備段階から私のアイディアも聞き入れてくれて、「でももっとこうした方が売れる。」とか「これは千円超えても売れるんじゃないか。」とか、的確なアドバイスもくれて、そしてそれが見事に売上に繋がっていった。
雪男の”商魂”は本当に尊敬できるものがある。
しかし、良い状態は長くは続かなかった。
開店から3ヶ月ほど経つと客足は減少しはじめた。飽きられてしまったのだろうか。
”費用”ばかりが嵩み、このままでは経営が厳しい状況だ。
仕入れなきゃいけない材料の数も、この「シューピー散文クッキング」の1話につき5個なんて少ないと思ってしまうほどだ。
他にも光熱費、アルバイトの人件費、このブログの読者である友人が心配してくれたほどの家賃…。出費は尽きない。
「なぁ、貝塚。俺、ラーメンの新メニュー考えてきたんだ。もしこれを出しても客足が戻らなかったらあきらめよう。このままでは本当にまずい。」
雪男が険しい表情で提案してきた。
「分かった。俺の考えたメニューも最初は良かったけど、すぐに飽きられてしまって…。本当に”情け”ない…。すまない、雪男。」
「いや、そんなことあるか! 俺のアドバイスや値段設定がいけなかったのかもしれない。とりあえず俺の考えた新メニューの雪貝ラーメンを食べてみてくれ!」
「雪貝ラーメン!?」
「あぁ。俺とお前の名前から一文字ずつ取って雪貝ラーメンだ。雪に見立てた粉チーズとアサリが入ってる。」
それは本当においしかった。これでもダメならその時は店を畳む覚悟を決めようと思えたほどだった。
閉店などする事になったら家内になんて説明したら良いのだろう。
そのあとどんな地獄が待っているのか考えただけでも恐ろしい。
そして2週間後。
「雪貝ラーメン」の発売初日を迎えた。
店の前にも雪貝ラーメンがプリントされたのぼり旗を3本立てた。チラシも出した。できる事は全部やった。
開店前から雪男は厨房で仕込みを続けている。
私は店内の清掃や資材の補充をしていた。
「おい、雪男! 店の前に行列ができてるぞ!」
長い列が歩道の方まで繋がってるのが見えた。
「マジか!? それならこの店続けられるかもな。じゃあ、ちょっと列の整理をしてきてもらえるか?」
「了解!」
私は雪男に頼まれて外に出た。
長い列の中には私が退職した会社の最寄り駅で数ヶ月前に出会い、里芋を大量にくれた若い女性もいた。
なんという偶然だろう。
私は驚いたが、その女性に話しかけている余裕など無く、列の整理を始める事にした。
「うん? この列、どこが先頭なんだ?」
よく見ると、その長い列は本日オープンのおしゃれな雑貨カフェのある”地階”へと繋がっていた。
時を同じくして、私の自宅ではリビングの壁に貼られた「家内安全」と書かれたシールが剥がれ落ちていた。
《完》