周平の『コトノハノハコ』

作詞家・周平の作詞作品や歌詞提供作品の告知、オリジナル曲、小説、制作日誌などを公開しております☆

小説第1弾『草食系貧乏』~最終章~

2011年03月26日 | 小説
梅雨が明け、今年も夏がやって来た。

海に行く約束をしているおかげで、岩本さんと一緒のシフトになった時の話題にはあまり困らなかった。
梅雨に入る前に比べれば、だいぶ彼女の目を見て話せるようになってきたと自負している。

8月のバイトのシフトが決定し、海に行く日にちも決まった。
決戦は8月21日だ。
きっと暑い日がまだまだ続いているはずだ。あとは当日雨が降ったりしない事を祈るばかりである。

決戦までまだ1ヶ月近くある。
早く当日になって欲しいという気持ちと、このドキドキワクワクな日々が永遠に続いて欲しいという気持ちが交錯する。

原さんとシフトが一緒になると必ず8月21日の入念な打ち合わせになってしまう。まるで原さんも当日一緒に来るかのような勢いで打ち合わせを楽しんでいるので、そこだけは勘違いさせないようにと僕は必死だ。

僕は車も車の免許も持っていないので、当日は電車で海へ行く事になるだろう。
車の助手席に彼女を乗せて連れて行けたら良いのだけれど、さすがに今からでは間に合わない。

そしていよいよ8月21日を迎えた。
僕の祈りは届かなかった。
明け方から大雨。まるで梅雨に戻ってしまったかのような天気と気温だ。
岩本さんとメールで話し合った結果、海へ行くのは8月31日に延期となった。
まぁ良いか。このドキドキワクワクがまだ10日も続くのだ。

それから1週間が過ぎた。

珍しく携帯電話が鳴った。
某ジャニーズグループの明るい前向きなラブソング。岩本さんからのメールである。
ちょっと待てよ… 予定が入ったから行けないとか今さら言わないだろうな?
僕は恐る恐るメールを開いた。
そのメールは皮肉にも過去の岩本さんからのメールの中で最も文章の長いものであった。

タイトル「お疲れさまです。」
本文「いよいよ海まであと3日ですね♪ 実は今日は報告があるんです。私、昨日ついに彼氏ができたんです!! おとといの夜に合コンに呼ばれて、そこで知り合った1つ年上の大学生なんです。もし宜しければ彼氏も一緒に海に連れて行っても良いですか? っていうか二瓶さんと私の二人きりだと彼氏もさすがにダメだって言ってるので。彼氏が車を持っているので3人で彼の車で一緒に行きましょう!!」



3日後。
恋の終わり。
夏の終わり。
8月の終わり。
海から街へと戻る車の中。
運転席の後ろの座席に気まずい思いで座る僕に、オレンジ色の夕日の光が右側の窓から眩しく射す。
左斜め前の助手席には岩本さんが幸せそうな表情を浮かべながら座っている。
そして、その隣の運転席では原さんの21歳の息子がハンドルを握っている。

<完>

今後の更新予定

2011年03月23日 | 日誌
先日3月11日の東北地方太平洋沖地震で犠牲になられた沢山の方々のご冥福をお祈りするとともに、家族や友人を亡くされた方々や不安な避難生活を送っておられる方々に一日でも早く笑顔が戻りますことを願っています。

そして、地震当日からそのために自分ができる事を考えていた毎日でした。

その結果、やはり自分には「音楽」と「言葉」しか無いという結論に達しました。
ですから当初の予定通り、当ブログの更新は休まずに続けております。

もうまもなく小説『草食系貧乏』は最終章を迎えます。
そして4月1日には最新のオリジナル曲に付けた歌詞をアップする予定だったのですが、それは延期とし、先日Twitterのjibunlabelという音楽プロジェクトで制作した、被災地の方々に向けての歌詞を先にアップしたいと思います。

もちろんそれが今すぐに被災地の方々へ届くことはないかもしれません。
そして被災地の方々が今一番求めているものは、そういうものでは無い事は重々承知の上でございます。

ただ、自分に今出来る精一杯の事をしたいなぁと思っております。

【今後の更新予定】
3/26 小説『草食系貧乏』最終章
4/1 歌詞#110(地震の被災地の方々へ向けた歌詞)
5月中旬 歌詞#111(オリジナル曲の歌詞)

※上記以外にも制作日記など更新する可能性あり。


小説第1弾『草食系貧乏』~第11章~

2011年03月19日 | 小説
結局、岩本さんを映画に誘ったりなんかは当然できないまま今年も梅雨の季節がやってきた。
原さんからは会う度にダメ出しを受けている。

だが、そんな梅雨の始めに奇跡は起きた。
岩本さんから初めてメールが届いたのだ。
タイトル「お疲れさまです。岩本です。」
本文「お疲れの所、突然すみません。明日の午前9時から3時間のシフトが入っていたのですが何か風邪を引いちゃったみたいで出勤できそうにありません。もし可能でしたら代わっていただけないでしょうか?」
はい、出ました。恒例の業務連絡メール。
貧乏な僕にとってはそれはそれはありがたいお誘いだ。
かなりバイトのスケジュールはキツくなるが、それ以外の予定は特に何も無いので問題ない。それにここで助けてあげれば好感度アップも間違いない。
そして何よりも、岩本さんのメアドというバイト代よりも嬉しいものを僕はゲットしたのだ。
僕は岩本さんに了解のメールを返すよりも先に、彼女からのメールの着信音だけ他の人からのとは別の曲に設定した。某ジャニーズグループの明るい前向きなラヴソングだ。
これまでどんなに多くても週に3回しか会えなかった彼女になんだか毎日会える気がした。
いや、それだって決して無理な話ではない。岩本さんと付き合う事さえできればそれだって可能なのだ。

「いや、無理ね。このままじゃ絶対に。」
原さんの一言が僕のせっかくの勢いをぶった切った。
「そんな… べつに言い切らなくても…」
「あれほど映画にでも誘いなさいって言ったのに。」
「いや、だって、映画って… なんか、ありきたりじゃないですかね?」
「べつに映画じゃなくたって良いのよ。そうだ!海にしなさい。夏が来たら一緒に海に行こうって言いなさい。分かった? 決定ね。」
「はぁ…」

このまま原さんに押されっぱなしなのも何だか悔しい。
それに原さんの言う通り、このままじゃ岩本さんと付き合うなんて絶対に無理だ。
待っているだけじゃ何も変わらない。何も進まない。
次に岩本さんとシフトが一緒になるのは明後日の夜だ。
それまで緊張しながら過ごすのは何かキツい。
っていうのはあくまで口実であり、本当は直接会って誘う勇気がないのだ。
僕はメールで彼女を海に誘う事にした。

タイトル「二瓶で~す。」
本文「お疲れさま!突然なんだけど岩本さんは海とか好きかな? 夏になったら海でも見に行こうと思ってるんだけど、良かったら一緒にどうかな?」

二人きりで行くつもりなのか、それとも大人数で行くつもりなのか読み取れないような曖昧な言葉でとりあえずメールを送ってみた。

返事は早かった。
タイトル「お疲れさまです。」
本文「あ、海良いですねー。ぜひぜひ行きましょう!」

うん。最初の返事はこんなものだろう。
この「ぜひぜひ」に僕は何度か騙された経験がある。
過度な期待はしないように心がけて、「ありがとう!じゃあ日にちとかはまた後日決めましょう!」とだけメールを返した。

小説第1弾『草食系貧乏』~第10章~

2011年03月12日 | 小説
僕の一人反省会が始まった直後、さっきまで立ち読みを続けていた茶色の帽子をかぶった小太りな中年の男性客が何も買わずに店の外へと出て行った。
反省会でもう一人の自分自身にダメ出しをされ凹んでいた僕は、やる気の無い声で「ありがとーございましたー」とその男性客に対して言った。

仕事が終わり、自分の部屋へ帰っても一人反省会は続いた。
もっと岩本さんが興味を示すような話題を提供できなかっただろうか。
そう、例えば、彼女は服飾の専門学校に通っているのだからファッションの事とか。
でも僕にファッションの知識などほとんど無い。そもそも持っている私服がほとんど無い。
どんな人がタイプなの?とか、好きな芸能人はいるの?という質問は予てからしたかったのだが、今となってはそれに対する答えが自分と大きくかけ離れたものだったらどうしようという恐怖が邪魔をする。

そういえば岩本さんは本当に僕の連絡先を自分の携帯電話に登録してくれたのだろうか?
彼女のような律儀な性格なら「お疲れさまです!私のメアドと番号です。登録お願いします。」的なメールがあっても良いものだが。
やはり警戒されているのだろうか。

僕の携帯電話もたまには鳴る。
だがそれらは岩本さん以外のバイト仲間からの業務連絡、母親からの心配メールや心配電話、不動産からの滞納している家賃の催促の電話、自分でもセットしていたのを忘れている目覚ましばかり。
どの着信音もアラーム音も僕の好きなバンドの同じ曲に設定してあるので、音が鳴っただけではメールなのか電話なのか目覚ましなのか分からない。
岩本さんの連絡先をゲットし、彼女からのメールや電話の時だけ着信音を違う曲に設定する事が今の僕のささやかな夢なのである。

2日が過ぎた。
今、僕の横には大仏頭の原さんが立っている。最も苦痛な時間である。
「ねぇ、二瓶君。あなたやっぱり岩本さんの事が好きでしょ?」
「え? だからそんな事ないって言ってるじゃないですか。何度も。」
「いや、間違いないね! だってものすごく話しかけたそうにしてるのに全然話しかけられてないし。バレバレよ。」
「いや、あれは岩本さんが仕事を覚えるのに集中しているから邪魔しちゃいけないなと思って… っていうか、何で原さんがそんな事知ってるんですか?」
「え、いや、それは… 勘よ! 私の勘は良く当たるの!」
「あ、そうですか…」
「もうさ、思い切って告白しちゃいなよ!」
「うーん… 告白したいのは山々なんですけど…」
僕は今、原さんに岩本さんを好きだって事を堂々と告白してしまっている。
「とりあえず今度シフトが一緒になった時に映画にでも誘っちゃいなさい!分かった?絶対よ!」
「はぁ…」
原さんは僕の恋を応援してくれているのだ。ウザいなんて思ってしまってはいけない。
僕は原さんに心から感謝をした。
先日の深夜の茶色の帽子をかぶった小太りな中年の男性客の正体が、変装した原さんだったとも知らずに。

2年ぶりオリジナル曲完成♪

2011年03月10日 | 日誌
こんにちは。久々の制作日記です。
2月はずっと1月に購入した作曲ソフト「MUSIC CREATER 5」で2年ぶりのオリジナル曲のオケを作っておりました。
家で暇な時間はずっとそれでしたね。

今回は珍しくマイナー調のハイテンポなロック♪
個人的に好きなジャンルですが、意外と自分では作ったことが少ない。

タイトルはまだ秘密ですが、今の音楽業界に対する軽い愚痴(?)や、その中での自分の決心みたいなものを綴った歌詞になっています。
今回は仕事ではないので、とにかく自分の今書きたいものを書きました。

先日歌録りも終え、完成しました!!

歌詞は4月1日にアップ予定です!
曲も何らかの形でお聴かせできたらと思っております。

あ、小説の方も反響が多くて嬉しいです♪
でもあくまで歌詞で勝負!!なのでちょっと複雑な気持ちです(笑)
小説の面白い部分を作詞の方にも活かせたら新しい世界が描けるかもなぁ。

夢を追って上京してから10年目に突入しましたので、今後はさらに加速して頑張っていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします!!

では。

小説第1弾『草食系貧乏』~第9章~

2011年03月05日 | 小説
「おはようございます!」
深夜0時とは思えないほど明るい挨拶とともに岩本さんが店内に入って来た。
「おはよう!」
僕も平然とした態度で返した。
さて、どうしようか。どうしても彼女のメアドだけでもゲットしたい。
何と言って強制的にメールを送らせようか。
「ねぇ、メールちょうだいよ!」
いや、これはダメだ。ストレート過ぎる。
「仕事で分からない事あったら何でもメールして訊いて良いからね。」
これも変だ。分からない事は勤務中に教えろよ!っていう話だ。

店内には客がほとんど居なくなった。
窓際の雑誌コーナーで立ち読みをしている茶色の帽子をかぶった中年の小太りな男性客が一人いるだけだ。
レジは当然暇である。納品もまだ来ない。
岩本さんは僕に背を向けた状態で、レジ内に置いてあるタバコと自分のメモ用紙を照らし合わせてタバコの種類を復習している。なんて仕事熱心な子なのだ。
店内には沈黙の時間が流れているが、これを「沈黙」と感じているのはきっと僕だけで、岩本さんはタバコの種類を覚えるのに必死で、小太りな中年の男性客は雑誌の立ち読みに必死なのであろう。
店内には有線の音楽も流れているが、今の僕の耳には全く入ってこない。
やはり「沈黙」を感じているのは僕だけなのであろう。
そして僕はこの「沈黙」を破らねばならない!と思った。
「そういえば岩本さん…」
僕は切り出した。
「はい。なんですか?」
岩本さんが視線をタバコから僕へと移した。
「このあいだ渡した僕のメアド… 無事に登録できた?」
なんだこの間抜けな質問は。
携帯に他人の連絡先を登録するのに無事も何もないだろう。
今どきの20歳の子なら尚更だ。
「あ、登録できましたよ。」
「あ、それなら良かった。」
会話が終わってしまった。
岩本さんはまたタバコとメモ用紙に意識を戻す。
中年の男性客はまだ立ち読みを続けている。
また僕の中だけで沈黙の時間に戻ってしまった。
何か、何かを話さねば…

「どう? タバコの種類覚えられそう?」
考えた結果出た言葉がこれだ。
「はい、おかげさまでだいぶ覚えてきました。」
「あ、それなら良かった。」
僕は何も教えていない。それでも「おかげさまで」という言葉を添える岩本さんはやっぱり素敵である。
あ、なるほど。僕があまり話しかけられなかったおかげでタバコの種類を覚えるのに集中できましたって事か。
結局、今日はあまりうまく話せないまま午前3時になってしまい、岩本さんは一足先にあがってしまった。
僕があがる午前6時まではバックヤードで何かの計算をしている店長とレジにいる僕の二人しか店員はいない。
ここから僕の静かな一人反省会が始まるのである。

#109 『桜舞う道を』

2011年03月01日 | 作詞作品集
この道 歩くの
今日で最後かな
春の陽射し こぼれる
並木道

そして明日から
君と僕とは
別の道を行くんだ

何度も笑い合って
何度もケンカをしたね
想い出と涙
溢れて止まらない ずっと

春の風が新しいステージのページめくる
変わりゆく季節の中 
別れだってあるのだろう
これからの旅を描く
今はまだ真っ白な地図を
カバンに詰め込んで さぁ行こう
桜舞う道を


明日を君とは
進めないけれど
大丈夫 僕は一人じゃないさ

次の曲がり角を
曲がったら その先には
新しい出会い
僕を待っているさ きっと

春の風が新しい運命を紡いでく
明日から どんな人や街が 
僕を囲むだろう
どんな道 どんな壁が待ってても 
真っ青な夢を
失くさず 握りしめ さぁ行こう
次のステージへ


きっと いつか また会える
その時はまた笑顔でいよう
君も 僕も

春の風が新しいステージのページめくる
変わりゆく景色の中 
僕は何を選ぶだろう
これからの旅を描く
今はまだ真っ白な地図を
カバンに詰め込んで さぁ行こう
桜舞う道を