梅雨が明け、今年も夏がやって来た。
海に行く約束をしているおかげで、岩本さんと一緒のシフトになった時の話題にはあまり困らなかった。
梅雨に入る前に比べれば、だいぶ彼女の目を見て話せるようになってきたと自負している。
8月のバイトのシフトが決定し、海に行く日にちも決まった。
決戦は8月21日だ。
きっと暑い日がまだまだ続いているはずだ。あとは当日雨が降ったりしない事を祈るばかりである。
決戦までまだ1ヶ月近くある。
早く当日になって欲しいという気持ちと、このドキドキワクワクな日々が永遠に続いて欲しいという気持ちが交錯する。
原さんとシフトが一緒になると必ず8月21日の入念な打ち合わせになってしまう。まるで原さんも当日一緒に来るかのような勢いで打ち合わせを楽しんでいるので、そこだけは勘違いさせないようにと僕は必死だ。
僕は車も車の免許も持っていないので、当日は電車で海へ行く事になるだろう。
車の助手席に彼女を乗せて連れて行けたら良いのだけれど、さすがに今からでは間に合わない。
そしていよいよ8月21日を迎えた。
僕の祈りは届かなかった。
明け方から大雨。まるで梅雨に戻ってしまったかのような天気と気温だ。
岩本さんとメールで話し合った結果、海へ行くのは8月31日に延期となった。
まぁ良いか。このドキドキワクワクがまだ10日も続くのだ。
それから1週間が過ぎた。
珍しく携帯電話が鳴った。
某ジャニーズグループの明るい前向きなラブソング。岩本さんからのメールである。
ちょっと待てよ… 予定が入ったから行けないとか今さら言わないだろうな?
僕は恐る恐るメールを開いた。
そのメールは皮肉にも過去の岩本さんからのメールの中で最も文章の長いものであった。
タイトル「お疲れさまです。」
本文「いよいよ海まであと3日ですね♪ 実は今日は報告があるんです。私、昨日ついに彼氏ができたんです!! おとといの夜に合コンに呼ばれて、そこで知り合った1つ年上の大学生なんです。もし宜しければ彼氏も一緒に海に連れて行っても良いですか? っていうか二瓶さんと私の二人きりだと彼氏もさすがにダメだって言ってるので。彼氏が車を持っているので3人で彼の車で一緒に行きましょう!!」
3日後。
恋の終わり。
夏の終わり。
8月の終わり。
海から街へと戻る車の中。
運転席の後ろの座席に気まずい思いで座る僕に、オレンジ色の夕日の光が右側の窓から眩しく射す。
左斜め前の助手席には岩本さんが幸せそうな表情を浮かべながら座っている。
そして、その隣の運転席では原さんの21歳の息子がハンドルを握っている。
<完>
海に行く約束をしているおかげで、岩本さんと一緒のシフトになった時の話題にはあまり困らなかった。
梅雨に入る前に比べれば、だいぶ彼女の目を見て話せるようになってきたと自負している。
8月のバイトのシフトが決定し、海に行く日にちも決まった。
決戦は8月21日だ。
きっと暑い日がまだまだ続いているはずだ。あとは当日雨が降ったりしない事を祈るばかりである。
決戦までまだ1ヶ月近くある。
早く当日になって欲しいという気持ちと、このドキドキワクワクな日々が永遠に続いて欲しいという気持ちが交錯する。
原さんとシフトが一緒になると必ず8月21日の入念な打ち合わせになってしまう。まるで原さんも当日一緒に来るかのような勢いで打ち合わせを楽しんでいるので、そこだけは勘違いさせないようにと僕は必死だ。
僕は車も車の免許も持っていないので、当日は電車で海へ行く事になるだろう。
車の助手席に彼女を乗せて連れて行けたら良いのだけれど、さすがに今からでは間に合わない。
そしていよいよ8月21日を迎えた。
僕の祈りは届かなかった。
明け方から大雨。まるで梅雨に戻ってしまったかのような天気と気温だ。
岩本さんとメールで話し合った結果、海へ行くのは8月31日に延期となった。
まぁ良いか。このドキドキワクワクがまだ10日も続くのだ。
それから1週間が過ぎた。
珍しく携帯電話が鳴った。
某ジャニーズグループの明るい前向きなラブソング。岩本さんからのメールである。
ちょっと待てよ… 予定が入ったから行けないとか今さら言わないだろうな?
僕は恐る恐るメールを開いた。
そのメールは皮肉にも過去の岩本さんからのメールの中で最も文章の長いものであった。
タイトル「お疲れさまです。」
本文「いよいよ海まであと3日ですね♪ 実は今日は報告があるんです。私、昨日ついに彼氏ができたんです!! おとといの夜に合コンに呼ばれて、そこで知り合った1つ年上の大学生なんです。もし宜しければ彼氏も一緒に海に連れて行っても良いですか? っていうか二瓶さんと私の二人きりだと彼氏もさすがにダメだって言ってるので。彼氏が車を持っているので3人で彼の車で一緒に行きましょう!!」
3日後。
恋の終わり。
夏の終わり。
8月の終わり。
海から街へと戻る車の中。
運転席の後ろの座席に気まずい思いで座る僕に、オレンジ色の夕日の光が右側の窓から眩しく射す。
左斜め前の助手席には岩本さんが幸せそうな表情を浮かべながら座っている。
そして、その隣の運転席では原さんの21歳の息子がハンドルを握っている。
<完>