周平の『コトノハノハコ』

作詞家・周平の作詞作品や歌詞提供作品の告知、オリジナル曲、小説、制作日誌などを公開しております☆

『ブサメンの音楽隊』~最終話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年11月03日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』、ついに最終話です!

さて、今回の材料は…

「ピンチヒッター」…小さじ3杯
「殻」…小さじ2杯
「実験」…大さじ1杯
「申し送る」…大さじ4杯
「人ごみ」…小さじ3杯

最後にとんでもない結末が待っている最終話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~最終話~

文化祭まで残り2週間を切った。
「ねぇ、文化祭本番前に僕らの曲を"実験"的にネット上にあげてみない?」とネコが言い出した。

「なんでよ?」イヌが訊いた。

「ネット上での反応を見るんだよ。ここはもっとこうした方が良いとか。こう歌った方が良いとかアドバイスもらえるかもだし。」

「うん、いいかも。僕も、なんかこう、うまく言えないけど、もっと”殻”を破りたい感じがする。」と、ニワトリが答えた。

「でもどうやってアップするの?」今度は僕(ロバ)が訊いた。

「僕の知り合いにオリジナル曲をネットにアップしている周平さんっていう人がいるんだ。その人のページにアップさせてもらおうかと。」ネコが答えた。

「なるほど。その前にちょっとだけ歌詞を書き直したいかな。」
歌詞を書いてからだいぶ月日が経っていたので、心境の変化もかなりあった。
僕は今現在の気持ちも踏まえて歌詞を一部書き直した。

こうして僕らのオリジナル曲『ブサメンの音楽隊による行進曲』は文化祭で公開される前に、ネット上で全世界に公開されてしまった。
もちろんネコから周平さんに「僕らの曲が酷すぎて、コメント欄に罵詈雑言が飛び交ったらすみません。」と”申し送る”事はしてくれたらしい。

そして、ついに迎えた文化祭当日。

4組のバンドの中で僕らが最初に演奏する事になった。もちろん僕らが一番レベルが下だし、その方がハードルも低くて助かった。
僕は文化祭1週間前に風邪を引いてしまったが、もちろん”ピンチヒッター”なんていないし、ここまで来て誰かに譲るつもりもなかった。
根性で風邪を治して、なんとか今日を迎えた。

体育館内は全校生徒や先生達、そして保護者や他校の生徒、教育委員会のお偉いさん達で”人ごみ”になっていた。

「よし、行こうか。」僕は3人に声をかけた。

「おう!」とイヌ。

「やっと、だね。」とニワトリ。

「悔いのないようにやろう! 3人ともこの時を半年間も待ってくれてありがとう!」とネコ。

ついに、ついに、この瞬間を迎えた。
4人とも目が潤み、ネコ以外の3人は手が震えていた。

「皆さん、はじめまして! ブサメンの音楽隊です。」

バンド名を聞いて体育館内に笑いが起こる。

「聴いてください! 『ブサメンの音楽隊による行進曲』です。」

と言っても、文化祭にお越しいただけなかった皆様にはどんな曲なのか伝わらないかと思いますので、この物語の筆者でもある周平のオリジナル曲がアップされているサイトの方で『ブサメンの音楽隊による行進曲』をお聴きくださいませ♪

「musictrack」の周平のページです。
ここで『ブサメンの音楽隊による行進曲』や周平のオリジナル曲も簡単に聴けます↓
http://musictrack.jp/user/22036

《完》

『ブサメンの音楽隊』~第10話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年10月16日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第10話です!

さて、今回の材料は…

「細々」…小さじ2杯(なんと第1弾『夢馬鹿』第9話に続いて2度目!)
「折しも」…大さじ1杯
「規則的」…小さじ6杯
「免許」…小さじ3杯
「大した」…小さじ2杯

いよいよ次回は最終話。今から”大した”急展開はない第10話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第10話~

新入生歓迎会の直後、僕らは正式に軽音楽部に入った。
軽音楽部には僕らを含め4組のバンドがある。しかし、文化祭で4組全てが全校生徒の前で演奏を披露できる時間が確保されるかは分からないという。
もし1組でも削られるとしたら、それはレベルも一番下で入り立ての僕らで間違いないだろう。
顧問の二瓶先生が4組全て演奏披露ができるようにかけ合ってくれると言ってくれたがどうなるかは分からない。
二瓶先生は結構歳のいってるオジサン教師なのだが、甥っ子である二瓶一之さんがちょっと前までギタリストを目指していたが挫折したとかで、僕らみたいな連中には理解があるらしい。

とにかく僕らは”規則的”に練習を積んだ。
部室である音楽準備室を使えるのは週に1回、しかも1時間しかない。
なので、高校生にとっては決して安いとは言えない駅前のスタジオも借りて練習した。
まるで悪い事でもしているかのように”細々”と、こっそりと。
特にネコは自動車の運転”免許”をとるための教習や勉強と並行しながらなので、バンドの事は親にも内緒にしているらしいから尚更だ。

そして、文化祭まで約2ヶ月となったある日。
いつものように昼休みに校舎の屋上で、僕とイヌとニワトリの3人で、女子にモテる日々を迎えた際の計画を話していると、そこにネコがやって来た。
「やぁ! 今日は皆に良い報告があるんだ。」とネコ。

「マジかよ!? まさか文化祭で演奏披露できんのか!?」とイヌ。

「いや、そうじゃなくて… 運転”免許”とれたんだ。」とネコが申し訳なさそうに答えた。

「なんだよ~。期待させんなよ~。でも、やっぱりお前は”大した”もんだよ。俺なんか絶対無理だもん。バンドやりながら教習とか勉強なんて。」とイヌが返した。

「とにかくおめでとう!」
「おめでとう!ネコ!」
僕とニワトリもネコを祝ってあげると、”折しも”軽音楽部顧問の二瓶先生がやって来た。

「おう、やっぱりお前たちココにいたか。今日はお前たちに良い報告があるんだ。」と、本日2度目となる重大発表フラグが立った。

続けて二瓶先生が言った。

「文化祭で4組全て演奏できる事になったぞ! 良かったな!」

その言葉を聞いて、僕ら4人の中で笑顔になった者は1人もいなかった。
4人ともひたすら嬉し涙を流した。

《最終話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第9話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年09月12日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第9話です!

さて、今回の材料は…

「最前線」…大さじ3杯
「反対色」…大さじ6杯
「ブラシ」…小さじ5杯
「乱れる」…小さじ2杯
「詰め掛ける」…小さじ3杯

今回を含めてラスト3話! ここから終盤戦の第9話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第9話~

迎えた新入生歓迎会。新生徒会長の海図真貴人率いる軽音楽部の演奏を僕らは指を咥えて見ているしかなかった。
海図たちのオリジナル曲は、僕らのオリジナル曲「ブサメンの音楽隊による行進曲」とは”反対色”なロック調の曲で、演奏も全く”乱れる”事なく悔しいくらいに完璧だった。

「やっぱすげぇわ。こりゃ、ライヴハウスにも客が"詰め掛ける"わけだよ。」イヌが言った。

「仕方ないから、僕たちは11月3日の文化祭での演奏を目指して頑張ろうよ!」ニワトリが言った。

「うん! そうだねっ!」僕は自分の心に嘘をついて無理に明るく返したが、悔しさや残念さを隠しきれた自信が無かった。
その証拠に、
「本当にすまない。僕の不甲斐なさで…。」とネコにまた謝らせてしまった。

「いや、ネコの所為じゃないよ。僕らの実力がまだまだだからこうなっただけ。ネコは常に”最前線”で頑張ってきてくれたし感謝してるよ。ネコがいなかったら今のレベルにも達していないし、そもそも僕らバンド始めてないし。」

それから僕たちは11月3日の文化祭で、どういう形であれ絶対に演奏を披露する事を目標にさらに練習を積んだ。

僕は掃除の時間も、男子トイレの中でデッキ”ブラシ”をマイクスタンドに見立てて歌の練習をして先生に怒られている。
僕は純粋にイヌ、ニワトリ、ネコとのバンド活動が楽しくなっていた。
バンドを始めた理由の「女子にモテたい」なんて気持ちはどこかに消えてしまっていた。

ある日の昼休み、いつものように僕とイヌとニワトリの3人は校舎の屋上にいた。

「あぁ、早く演奏披露して、女子からキャーキャー言われてぇなぁ。」イヌがぼやいた。

「うん、そうだねぇ。僕も早くモテたいよ。ロバもそうだよね?」ニワトリが言った。

「うん! そうだねっ!」僕は自分の心に嘘をつかずに正直に明るく返した。

《第10話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第8話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年08月28日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第8話です!

さて、今回の材料は…

「野飼い」…大さじ6杯
「海図」…大さじ8杯
「没落」…大さじ5杯
「スイス」…大さじ3杯
「つらつら」…大さじ2杯

今回は材料が過去最高難易度と言っても良いくらいの第8話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第8話~

新年度生徒会選挙の開票結果の発表は”スイス”イ進んでいった。

生徒会選挙管理委員会のうちの一人の生徒が、新年度の生徒会に当選した生徒を一人ずつ読み上げて行く。
書記、会計、議長など、下の役職から順に当選した生徒の名前が読み上げられ、残すは副会長と会長の2人のみとなった。

「生徒会副会長、212票…  西園寺つむぐ」

体育館中がどよめいた。

「う、嘘だろ? 西園寺が負けた…。」

「ナンバーワン西園寺、ついに"没落"だな。」

「じゃあ、あいつが生徒会長って事か。」

複数の生徒が次々に驚きの言葉を口に出してしまう。
僕も含めブサメンの音楽隊のメンバーは驚きと絶望で声も出なかった。

「生徒会会長、245票…  ”海図”真貴人(かいず・まきと)」

体育館中から大きな拍手が起こった。

”海図”真貴人は僕ら4人の誰ともクラスが一緒ではなく、たしかにネコの強敵となるライバルがいるとしたら彼くらいだった。
スポーツや勉強ではネコには敵わないが、ネコよりもイケメンで、入学当時から軽音楽部に入り、そこの部員とバンドを組み、学校とは関係のないところでもライヴを定期的に行っているらしい。
僕からしたらネコ以上に羨ましい存在だ。

やがて新年度が始まり、僕たちは3年生になった。
ネコが計画していた新入生歓迎会での演奏披露の提案は通らなかった。
それもそうだ。僕たちは軽音楽部に所属しているわけでもない。
ただ友達同士で趣味でバンドをやっている、言ってしまえば”野飼い”のロバ、イヌ、ニワトリ、ネコだ。

「みんな、本当にすまない! 僕が生徒会長になれなかったばかりに…。」ネコが謝ってきた。

「いや、謝るなよ。ネコは十分頑張ったし、どうしたら僕たちなんかが皆の前で演奏を披露できるか”つらつら”と考えてくれていたじゃん。」僕は言った。

「そうだよ。また皆で考えようぜ! 俺たちが曲を披露できる場を。」イヌが言った。

「次にチャンスがあるとしたら文化祭かな?」ニワトリが言った。

文化祭が行われるのは11月3日の文化の日。半年以上も先である。

《第9話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第7話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年08月13日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第7話です!

さて、今回の材料は…

「回す」…小さじ2杯
「懸案」…大さじ3杯
「知己」…大さじ2杯
「表」…小さじ3杯
「おおらか」…小さじ5杯

多少無理な展開があっても”おおらか”な気持ちで読んでいただきたい第7話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第7話~

僕がキーボードに加え、ヴォーカルも務める事になってしまった日から半月が経った。

ネコが作曲ソフトで簡単なオケを作り、それをCDに焼いて、楽譜と一緒に僕ら3人に”回し”た。
それに合わせて僕らはそれぞれに時間の許す限り自宅で演奏や歌の練習をしまくった。
近所からのクレームやピンポンダッシュなどの嫌がらせなど気にしていられなかった。

そして今日、駅前のスタジオを借りて、4人全員ではじめて合わせて演奏してみた。
まだまだバラバラだけど、こういう事が初めてな僕とイヌとニワトリはなんだか感動してしまった。

ただ、どんなに練習を頑張ったところで、披露する場が決まっていないのが”懸案”だ。

「早く”表”舞台に立ちてぇなぁ。」とイヌが言うと、

「僕が生徒会長になれたら、新年度の新入生歓迎会で演奏できる時間をもらえるように動いてみようと思ってる。」とネコが言った。

「おう! それはいいね! そしたらもっともっと練習を頑張らないと。今のレベルじゃ恥をかくだけだ。」ニワトリは真面目な顔つきで言った。

すると、ネコがまた話し始めた。

「半月にしてはまずまずだと思うよ。卒業までにはライヴハウスでやりたいね。僕の”知己”にライヴハウスのスタッフがいるから今から頼んでおくよ。5つ年上のすごく”おおらか”な人で、僕の兄ちゃんみたいな存在でさ。」

「それはありがたい!頼むよ、ネコ。」僕は言った。

それから僕らはさらに練習を重ねた。
個人個人でも、4人全員でも。
まずは新年度の新入生歓迎会で、全校生徒の前でオリジナル曲『ブサメンの音楽隊による行進曲』を披露できると信じて。

そして、ネコにとって、そして僕らにとっても運命を左右する生徒会選挙の開票日がやってきた。

もう事前の演説も投票も終わっている。
ネコなら万が一の逆転が起きても生徒会副会長にはなれるだろうが、ここはやっぱり生徒会長になってもらわないと困る。
不純な理由ではあるが「ブサメンの音楽隊」の躍進のためには仕方ない。

体育館に集められた全校生徒の前でいよいよ開票結果が告げられる。

《第8話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第6話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年07月27日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第6話です!

さて、今回の材料は…

「ピンポン」…大さじ4杯(卓球なんてどこで使う!?)
「降りる」…小さじ2杯
「激震」…小さじ5杯
「誇らしい」…大さじ2杯
「図案」…大さじ6杯

おそらくこの辺が折り返し地点となるであろう第6話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第6話~

翌日、「ブサメンの音楽隊」初のオリジナル曲の歌詞を清書した紙をカバンに入れ、僕は登校した。
イヌ、ニワトリ、ネコの3人に早く歌詞を見てもらいたかった。
この時の僕にはまだ、今日このあと「ブサメンの音楽隊」に起こる”激震”など予測できるわけもなかった。

僕らは昼休みにいつものように校舎の屋上に集まった。
そして歌詞を書いた紙を順番に3人に見せた。

イヌとニワトリは「面白い歌詞じゃん!」とか「タイトルも良いね!」とか良い評価をしてくれて僕は”誇らし”かった。
しかし、この歌詞を歌う事になるヴォーカルのネコだけは反応が違った。

「悪いけど僕はヴォーカルを"降りる"よ。」

「えっ!? なんでよ?」僕は訊いた。

「お前がヴォーカルやってくれなきゃ俺たち解散するしかないぜ?」イヌも続けて言った。

「決して悪い歌詞じゃないし、僕らの最初の曲にふさわしい内容とタイトルだと思う。でもこの内容なら僕は歌いたくない。」

「まぁ、タイトルがタイトルだし、歌詞の中にもモテたいとか入ってるしな。ネコは俺らと違ってブサメンでもないし、モテないわけでもないから気持ちは分かるよ。」さすがのイヌも納得するしかなかった。

「ねぇ、ロバ。君がキーボード弾きながらヴォーカルをやってみたらどう? ヒゲダンみたいでカッコイイじゃん! そしたら僕はドラムをやるから。」

「えっ!? でも僕、めちゃくちゃ歌下手だよ?」

「今日から歌もキーボードも大特訓だね!」ニワトリが言いやがった。

こうしてこの日から僕は家に帰るとキーボードの練習に加えて、ネコのアドバイスを受けながら歌の特訓も始めた。
近所からクレームや嫌がらせ("ピンポン"ダッシュなど)が増えたのは言うまでも無い。

でもとりあえず一番最悪な解散とかは回避できたし、なんとなく「ブサメンの音楽隊」の方向性と言うか”図案”みたいなものがハッキリしたような感じもして嬉しかった。

僕(ロバ)が恐れ多くもキーボード&ヴォーカル、イヌがベース、ニワトリがトランペット、ネコがドラム。
そんな僕たち「ブサメンの音楽隊」の記念すべき最初のオリジナル曲のタイトルは『ブサメンの音楽隊による行進曲』だ。

果たしてこの曲を披露できるチャンスは訪れるのだろうか。
そして、披露できるレベルまでになれるのだろうか。

《第7話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第5話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年07月10日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第5話です!

さて、今回の材料は…

「振り絞る」…小さじ3杯
「蹴落とす」…大さじ2杯
「ふざける」…小さじ2杯
「仮死」…大さじ7杯
「序幕」…大さじ4杯

毎回真剣!、”ふざける”つもりなんて一切ない第5話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第5話~

「どうしても僕も加わらなきゃダメかな?」
次期生徒会長最有力候補のネコが僕ら3人に訊いてきた。

イヌは答えた。
「たしかに生徒会の選挙控えてて大変だと思うけど、バンドやって、さらにお前の人気を高めて他の生徒会長候補を”蹴落とす”チャンスだと思わない?」

「まぁ、ネコばかり目立って僕たちが全然モテなかったら困るけどね。」
ニワトリも笑いながら言った。

「そうだ! 選挙ってたしか体育館で全校生徒の前で5分間演説するよね? そこでうちらでオリジナル曲披露するのはどうよ?」僕は言った。

「いや、”ふざける”なよ! そんな事して何のアピールになるんだよ!」珍しくネコが声を荒げた。

「ごめん、たしかにそうだよな。もう文化祭は終わっちゃったし、なんか披露できるチャンス無いかな?」

「披露する場がないとモチベーションも上がらないよなぁ。」イヌがぼやいた。

そこからしばらく4人とも黙ってしまった。

すると仕方ないかのようにネコが話し始めた。

「分かった! じゃあとりあえず僕が曲を1曲作る! だから歌詞はロバが書いてくれ。披露する場はまた考えよう。」

「僕に歌詞なんか書けるかな? 歌詞書き上げる前に”仮死"状態になっちゃうよ。」
僕が言うと、またしばらく4人とも黙ってしまった。
ただでさえ極寒な真冬の校舎の屋上が、さらに冷えてしまった。

兎にも角にも、こうして「ブサメンの音楽隊」の活動は”序幕”を迎えた。

1週間後、ネコから完成したオリジナル曲のオケをもらった僕は、少ない脳みそを”振り絞る”ように歌詞を書き始めた。

メロディに歌詞を当てはめていくという作業は思った以上に大変だったが、思った以上に面白くもあった。
メロディの音符の数と、歌詞の文字数がただ合っていれば良いという単純なものではなかった。
この母音だと歌いづらいとか、この文字だとキレが無いとか、奥が深いなぁと実感させられた。

そして、数日後「ブサメンの音楽隊」初のオリジナル曲の”仮死”、いや、歌詞が完成した。

《第6話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第4話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年06月22日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第4話です!

さて、今回の材料は…

「地獄で仏に会う」…大さじ4杯
「やれる」…小さじ2杯
「血の気」…小さじ6杯
「納入」…大さじ5杯
「クレーム」…小さじ4杯

とりあえず今のところ、つまらないという”クレーム”は来てないので第4話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第4話~

ロバこと僕・呂畑蓮、イヌこと犬飼翔、ニワトリこと仁羽桃李の3人は、西園寺つむぐの勧めでバンドを組む事になった。
「”地獄で仏に会う”」とはこういう事をいうのだろう。
女子にモテずに困っていた僕ら3人の未来は、隣のクラスの次期生徒会長最有力候補の西園寺くんのおかげで一気に明るくなっていった。
3人とも楽器など未経験だったが、女子にモテるためならどんな事でも”やれる”気がしていた。

バンド名は「ブサメンの音楽隊」に決定。お察しの通り、「ブレーメンの音楽隊」のもじりだ。
偶然か必然か、ロバ、イヌ、ニワトリがいずれも「ブレーメンの音楽隊」に登場する動物だったからだ。
ネコ役がいないのが残念だが。

僕はお年玉で一番安いキーボードを購入した。
今日やっと"納入"される予定だ。
本当はエレキギターが良かったのだが、一番の難関とされるFコードを押さえられる自信がなかったからという理由だけでキーボードにした。
女子にモテるためならどんな事でも”やれる”のではなかったのだろうか。

イヌもお年玉でエレキベースを購入し、毎日学校から帰ると大音量で練習し、隣の家から”クレーム”を受け続けているらしい。

ニワトリは父親が持っていたトランペットを譲り受けて、隣の家以前に家族から”クレーム”を受けながら練習を頑張っているらしい。

「なぁ、とりあえず何かの曲のコピーから始めて、ゆくゆくはオリジナル曲を作りたいよね?」と僕は2人に対して言った。

「そうだな。西園寺は作詞作曲もできるらしいから、あいつにオリジナル曲も作ってもらおうぜ。」とイヌ。

「でもさぁ、肝心なヴォーカルはどうするの? 僕は音痴だから無理だよ? そもそもトランペット吹きながら歌えないし。」とニワトリ。

そこで僕ら3人は近いうちにカラオケに行き、僕かイヌのどちらか歌がうまかった方が楽器を演奏しながらヴォーカルも務める事にしようと決めた。

数日後、僕らは3人全員のあまりの歌の下手さに”血の気”が引いた。

「よしっ! ヴォーカルも西園寺くんにやってもらおう!」

こうしてブサメンではない西園寺つむぐも「ブサメンの音楽隊」に強制的に加入となり、あだ名も強制的に「ネコ」となる。
彼女いない歴は1週間だ。

《第5話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第3話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年06月04日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第3話です!

さて、今回の材料は…

「海水浴」…小さじ5杯(群馬県に海ないよ~)
「面倒」…小さじ2杯
「丁寧」…小さじ2杯
「自由平等」…大さじ3杯
「つむぐ」…大さじ4杯

こんな企画、"面倒"だから辞めたいけど、そうも行かずに第3話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第3話~

イヌだけじゃなく、ニワトリ(元・大将)も含め3人で行動する事が増えてから1週間くらい経った日の事。
僕たちは昼休みを相変わらず校舎の屋上で過ごしていた。

「午後の授業"面倒"だなぁ。帰りてぇなぁ。」と僕。

「でも、僕たち帰ってもゲームくらいしかやることないでしょ?」とニワトリ。

「それな。」とイヌ。

「夏までには彼女作って、一緒に"海水浴"とか行きてぇなぁ。」僕がまたぼやいた。

その後もこんな感じで生産性の無い会話を繰り返していた。

そこに一人の男子生徒が現れた。

「君たち、真冬に屋上なんかにいたら風邪引いちゃうよ?」

僕たちにそう声をかけてきたのは隣のクラスの学級委員長で、来年度は生徒会長間違いなしと言われてる西園寺”つむぐ”(さいおんじ・”つむぐ”)だ。

僕は「おぅ! 次期生徒会長がこんなトコに何しに来たのよ?」と声をかけた。

「いや、ちょっと、彼女にフラれちゃって…。一人になりたくてココに来たんだ。」西園寺くんは答えた。

「おいおい、早まるなよ! 俺たちなんてふってくれる彼女すらいないんだからな!」イヌが吠えた。

するとニワトリが、「たしか西園寺くん、生徒会長の選挙の演説で”自由平等”な学校にしたいとか言ってたよね? じゃあ僕たちにも彼女を与えてよ? そうじゃないと"自由平等"とは言えないよ。」と、僕とイヌもビックリな滅茶苦茶な事を要求しだした。

「君たち、そんなに女子にモテたいならバンドとかやってみたらどう? 僕もバンドでライヴをやってる時にお客さんとして来ていた他校の生徒が彼女になったんだ。もう、元・彼女だけどね。」

「バンドか! なぜそれを思いつかなかったんだ!!」イヌがまた吠えた。

「もしバンドやるなら僕が”丁寧”に教えてあげるよ?」
西園寺くんがそう言ってくれた事で、僕たち3人の不純なバンド計画が始動した。

《第4話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第2話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年04月29日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第2弾『ブサメンの音楽隊』の第2話です!

さて、今回の材料は…

「ほぐれる」…小さじ2杯
「極寒」…小さじ4杯
「大将」…大さじ3杯
「八方」…大さじ5杯
「墨」…小さじ6杯

"八方"塞がりにならないためにも大事に行きたい第2話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第2話~

「なぁ、イヌ…」

「なんだよ、ロバ。」

「僕たち、どうしたら女子にモテるんだろうな?」

「さぁねぇ… 分かったら苦労しないよなぁ。」

昼休みの時間、学校の屋上、もう何十回目か分からない僕(ロバ)とイヌのお決まりの会話。
真夏の青空の下、太陽の光が降り注ぐ屋上での青春シーンを想像してる読者が多い事だろうが、季節はまさかの冬、今にも雪が降り出しそうな”墨”色の空の下、”極寒”の中での会話である。

「僕たち、勉強もスポーツもできないし、顔もイケてないし、どうしようもないよな…」

「ほんと、”八方”塞がりとはこの事だよな。」

そんなロバこと僕・呂畑蓮と、イヌこと犬飼翔の前に1人の生徒がやってきた。

「2人とも、こんな寒いのによく屋上なんかにいられるね。」
その生徒が僕らに向かって言った。

「おう、”大将”。お前こそなんでこんな寒い屋上に来たのよ?」と僕が返す。

この男子は僕らのクラスメイトで、見た目が裸の”大将”に似ているので、皆から"大将"と呼ばれている。

「僕も2人と同じで女子にモテたいんだ。それに”大将”っていうあだ名も本当は嫌で…」

「でも”大将”は男女問わず皆から好かれてはいるじゃん? ”大将”と話してると緊張が”ほぐれる”って言ってる女子もいるよ?」
今度はイヌが返した。

「でも彼氏にしたいかって言われると違うんだと思う。僕、太ってるし…」

「”大将”っていうあだ名が嫌なら、ニワトリはどう? 本名が仁羽桃李(にわ・とうり)だし。その名前でニワトリじゃなくて”大将”っていうあだ名になった方が不思議だよ。どんだけ裸の”大将”に似てるんだよ!」
僕は笑いながら言った。

こうして、仁羽桃李の新しいあだ名は「ニワトリ」となる。
彼女いない歴は年齢×3÷3-5+3+2だ。

《第3話へ続く》

『ブサメンの音楽隊』~第1話~(シューピー散文クッキング第2弾)

2022年04月11日 | シューピー散文クッキング
おそらく大好評だったと思われる新企画『シューピー散文クッキング』の第1弾『夢馬鹿』の終了から1ヵ月半。
早くも第2弾がスタートです!!
まだ『シューピー散文クッキング』が何だか分からない方もいらっしゃるかと思いますので説明します。
『シューピー散文クッキング』とは周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけないという、自分の首を絞めるような企画なのであります。

さて、今回の材料は…

「折れる」…小さじ2杯
「群馬県」…小さじ6杯
「北陸」…小さじ5杯
「早起きは三文の得」…大さじ2杯
「長所」…小さじ3杯

どこかで心が"折れる”事がないように最初が大事な第1話スタート!!

『ブサメンの音楽隊』~第1話~

2021年の都道府県魅力度ランキングで44位となり県知事が激怒した事でも知られる”群馬県”。
東北地方や"北陸"地方と誤解される事も多い”群馬県”。

そんな”群馬県”の中の小さな村に17年前に生まれたのが、僕、呂畑蓮(ろばた・れん)だ。
現在、県立の高校に通う2年生。
これと言って得意な科目も無ければ特技も無い。
顔もブサイクでロバに似ている。
それに加え、苗字も呂畑なため、あだ名は「ロバ」となる。
彼女いない歴は年齢×2÷2+5-5だ。

唯一の”長所”は早起きができる事だ。
幼い頃から両親から「”早起きは三文の得”」という諺をうるさく言われてきた。
だが、早起きで得をした事など一度も無い。
強いて言うなら夏休みのラジオ体操の最終日にもらえる謎のお菓子くらいだ。

授業中もどうしたら女子達からモテるのかばかり考えている。
小学校、中学校、高校それぞれで好きになった女子も何人かいるが、告白しようと思った時にはすでに誰かと付き合っていたりする。
中には、告白しようと思って「ねぇ、○○さん…」と声をかけたら「誰?」と返してきたクラスメイトもいて、心が”折れる”ような事もあった。

そんな僕にも親友と呼べる男子はいる。
クラスメイトの犬飼翔(いぬかい・しょう)だ。
顔はそれほど悪くはないが、なにしろ身長が低い。
それに加え、苗字も犬飼なため、あだ名は「イヌ」となる。
彼女いない歴は年齢×4÷2÷2だ。

《第2話へ続く》

『夢馬鹿』~最終話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2022年02月25日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけないという、自分の首を絞めた新企画「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』もついに最終話です!!

さて、今回の材料は…

「肥やし」…大さじ3杯
「商魂」…小さじ2杯
「費用」…小さじ1杯
「情け」…小さじ3杯
「地階」…大さじ2杯

実はこの時点でも全く決まっていない結末。いったいどうなる!? 幸いにも使いやすい単語が多い最終話スタート!!

『夢馬鹿』~最終話~

『力いっぱい』がついにオープン初日を迎えた。

場所は有楽町駅から国会議事堂方面にちょっと行ったところにある、地上4階・地下1階のビルの地上1階だ。
同じビルの4階には雀荘、3階にはスナックが入っていて、2階は空店舗になっている。そして地下1階には、おしゃれな雑貨カフェが近日中にオープンするらしい。

店の前には開店前から10名ほどの列が出来ていた。まずまずのスタートだ。
女性客も意外に多く、「ただのラーメン屋さんだったら一人では入りづらいけど、これなら入りやすいかも。」と言ってくださった。
とある中年太りの男性客は「ラーメンもおしゃれで体の”肥やし”だけじゃなく、目の"肥やし"にもなる。」と冗談っぽく言っていた。

雪男は準備段階から私のアイディアも聞き入れてくれて、「でももっとこうした方が売れる。」とか「これは千円超えても売れるんじゃないか。」とか、的確なアドバイスもくれて、そしてそれが見事に売上に繋がっていった。
雪男の”商魂”は本当に尊敬できるものがある。

しかし、良い状態は長くは続かなかった。
開店から3ヶ月ほど経つと客足は減少しはじめた。飽きられてしまったのだろうか。
”費用”ばかりが嵩み、このままでは経営が厳しい状況だ。
仕入れなきゃいけない材料の数も、この「シューピー散文クッキング」の1話につき5個なんて少ないと思ってしまうほどだ。
他にも光熱費、アルバイトの人件費、このブログの読者である友人が心配してくれたほどの家賃…。出費は尽きない。

「なぁ、貝塚。俺、ラーメンの新メニュー考えてきたんだ。もしこれを出しても客足が戻らなかったらあきらめよう。このままでは本当にまずい。」
雪男が険しい表情で提案してきた。

「分かった。俺の考えたメニューも最初は良かったけど、すぐに飽きられてしまって…。本当に”情け”ない…。すまない、雪男。」

「いや、そんなことあるか! 俺のアドバイスや値段設定がいけなかったのかもしれない。とりあえず俺の考えた新メニューの雪貝ラーメンを食べてみてくれ!」

「雪貝ラーメン!?」

「あぁ。俺とお前の名前から一文字ずつ取って雪貝ラーメンだ。雪に見立てた粉チーズとアサリが入ってる。」

それは本当においしかった。これでもダメならその時は店を畳む覚悟を決めようと思えたほどだった。
閉店などする事になったら家内になんて説明したら良いのだろう。
そのあとどんな地獄が待っているのか考えただけでも恐ろしい。

そして2週間後。
「雪貝ラーメン」の発売初日を迎えた。
店の前にも雪貝ラーメンがプリントされたのぼり旗を3本立てた。チラシも出した。できる事は全部やった。

開店前から雪男は厨房で仕込みを続けている。
私は店内の清掃や資材の補充をしていた。

「おい、雪男! 店の前に行列ができてるぞ!」
長い列が歩道の方まで繋がってるのが見えた。

「マジか!? それならこの店続けられるかもな。じゃあ、ちょっと列の整理をしてきてもらえるか?」

「了解!」
私は雪男に頼まれて外に出た。
長い列の中には私が退職した会社の最寄り駅で数ヶ月前に出会い、里芋を大量にくれた若い女性もいた。
なんという偶然だろう。
私は驚いたが、その女性に話しかけている余裕など無く、列の整理を始める事にした。

「うん? この列、どこが先頭なんだ?」

よく見ると、その長い列は本日オープンのおしゃれな雑貨カフェのある”地階”へと繋がっていた。

時を同じくして、私の自宅ではリビングの壁に貼られた「家内安全」と書かれたシールが剥がれ落ちていた。

《完》

『夢馬鹿』~第11話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2022年02月07日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』の第11話です!

さて、今回の材料は…

「フラット」…小さじ5杯
「細目(さいもく)」…大さじ5杯
「猛り立つ」…大さじ2杯
「器械」…大さじ2杯
「力いっぱい」…小さじ2杯

次回はいよいよ最終話。ちゃんと完結に向かえるか大きな鍵を握る第11話スタート!!

『夢馬鹿』~第11話~

会社に2ヵ月後の退職を告げた私は、仕事の後の時間や週末の休みを使って雪男とラーメンバーの開店に向けた準備を進めた。
不動産や内装業者とのやりとりは雪男にほぼ任せ、私は店内で使用する機械や"器械"の選定や購入を担当した。

開店までの2ヶ月間、寝る時間などほとんどなかった。
寝不足で仕事中のミスは増え、お決まりの上司からの公開説教を何度も食らった。
退職する前にクビになってもおかしくなかった。

2人とも長年の夢の実現に向けて”猛り立っ”ていた。
とても”フラット”な気持ちなんかではいられなかった。

それでも2人で集まって”細目”を決めていく話し合いの時は至って冷静だった。
アルバイトはどのくらい雇えるか、営業時間はどうするか、店名は何にするかなど、時間が経つのも忘れて真剣に話し合った。

そして、店名は『"力いっぱい"』に決定した。
ラーメンもお酒も一杯・二杯と数えるし、いっぱい食べたり呑んだりして欲しいし、何よりも我々が”力いっぱい”頑張るという意味を込めて雪男が命名した。さすがのセンスだ。

私が一番自信を持って提案した店名は『夢馬鹿』だった。
雪男は馬鹿じゃない。馬鹿なのは私だけだ。

そして…、

ついに…、

『”力いっぱい”』開店の日を迎えた。

《最終話へ続く》

『夢馬鹿』~第10話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2022年01月19日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』の第10話です!

さて、今回の材料は…

「振る舞う」…小さじ3杯
「全部」…小さじ1杯
「知恵」…小さじ2杯
「グロテスク」…大さじ8杯
「国会議事堂」…大さじ6杯(ついに家内がゴジラになって襲来!?)

今回を含めていよいよ残り3話。そろそろ結末が見えてきて欲しい第10話スタート!!

『夢馬鹿』~第10話~

長く続いた沈黙を破ったのは意外にも家内だった。

「ちなみにお店を開くとして、場所はどの辺にされるんですか?」

家内が雪男の説得に応じるつもりかのような質問を初めて投げた。
これはひょっとしていけるのか?

「有楽町駅周辺で考えてます。有楽町駅から"国会議事堂"方面にちょっと行ったところに貸店舗がありまして、そこを借りられれば、そこで…。」

「なるほど、そうですか…。でもうちの主人には何の”知恵”も無いので、雪男さんにきっと迷惑をかけるかと…。」

私に何の”知恵”も無いだと!?と、ちょっとイラついたが、折角の良い流れを壊さない為にここはグッと堪えた。

「"全部"僕に任せてもらって大丈夫ですから!」

いや、そこは私に何の”知恵”も無い事を否定してくれよ!と、ちょっとイラついたが、折角の良い流れを壊さない為にここもグッと堪えた。

「はい…。でも"グロテスク"な置物とかが趣味の主人に飲食業なんて務まるんでしょうか?」

「そんなの関係ないですよ! それに"グロテスク"な置物を店内に飾ったりしませんから。それじゃお客さん来てくれませんからね。」
雪男は笑いながら答えた。

その後も、ひたすら私の悪口オンパレードになっていったが、折角の良い流れを壊さない為にグッと堪え続けた。

家内の強張った表情も少しずつ緩み始め、内心はどうか分からないが、雪男に対して笑顔で"振る舞う”ようになっていった。

「家内安全」のシールの真上に掛けられているリビングの時計の針は、まもなく24時を指そうとしていた。

そして、私がこの数ヶ月間、待ちに待った言葉をついに家内が発した。

「分かりました。でも、もし事業に失敗した時は、雪男さんが責任をもって主人の再就職に協力してくださいますか?」

「はい、もちろんです! 僕もこう見えて人脈だけはありますので大丈夫です。そもそも絶対に失敗しないように頑張りますので!」
雪男が答えた。

奇跡が起きた。ついに家内の承諾を得られた。

翌日、私は2ヵ月後に退職したい旨を会社に伝えた。

《第11話へ続く》

『夢馬鹿』~第9話~(シューピー散文クッキング第1弾)

2021年12月17日 | シューピー散文クッキング
周平本人が目を瞑りながら国語辞典を適当なページで開いて適当な場所を指差し、目を開けた時に指が指している単語(1話につき5個)を全て文章のどこかに組み込まなければいけない「シューピー散文クッキング」の第1弾『夢馬鹿』の第9話です!

さて、今回の材料は…

「細々」…小さじ2杯
「肴(さかな)」…小さじ3杯
「逆襲」…小さじ2杯(おいおい、大丈夫か?w)
「蔵書」…大さじ4杯
「毛細血管」…大さじ5杯(医者と吉本新喜劇の吉田 裕さん以外が使う事ある?)

これが2021年最後の更新! 2022年の自分に易しいバトンを渡したい第9話スタート!!

『夢馬鹿』~第9話~

その週の土曜日の夜遅く、子供たちが寝た後に雪男は約束通り我が家にやってきた。

「なぁ、本当に大丈夫なのか? うちの家内は一筋縄ではいかないぞ?」

「まぁ、任せとけって! ここからお前の"逆襲"開始だ!」

雪男は強気だが、私は不安で仕方ない。
だが、きっとこれが私にとってラストチャンスである事も確かだ。

「ごめんなさい、大したものも用意できなくて…」
妻が雪男に酒と”肴”を出しながら言った。

「いえいえ、こちらこそこんな遅い時間にお邪魔してすみません。」

私は2人のそのやりとりをただ黙って見ていた。

「お前、本当に家では肩身狭そうだな?」
妻がキッチンに戻った隙に、雪男が私に小声で言ってきた。

「家だけじゃなく会社でもそうだよ。お前と違ってどこでも"細々"と生きてるんだよ…。 まるで"毛細血管"ぐらいにな…。」
私はぼやくように返した。

「今日は私に何か話したい事があるとか…。」
キッチンから戻ってきた妻が切り出した。

「はい。実は…、」

雪男は私から相談されている事、そしてその夢を2人で力を合わせて叶えていきたい事を長々と語った。
さらに「三十路を越えてからはじめる起業」というタイトルの"蔵書"も自宅から持ってきていたらしく、妻の目の前に出し、説得力を増そうとした。

「そうですか…。」
妻はしばらく黙ってしまった。

「お子さんが2人もいますから、奥さんが不安に思うのも当然です。必ず成功するなんて保証はどこにも無いわけですから。」
雪男が耐え切れない沈黙を破ってくれた。

「えぇ…。」
妻はまた黙り込んでしまった。

相手が私1人だったら一蹴して終わりだろうが、相手が雪男でそれなりの説得力もあるからこその反応なのだろう。

どっちだ? これはどっちだ?
もしかしたら了承してくれるのか?
奇跡が起きるのか?

私と妻と雪男の3人だけの23時のリビング。
「家内安全」のシールの真上に掛けられている時計は、まるで電池が切れているかのように先ほどから全く動いていないような気さえした。
もしかしたら第1話のラストからずっと電池が切れたままなのではないだろうか。

《第10話へ続く》