周平の『コトノハノハコ』

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小説第5弾『夢の終わりの夜行バス』~第5章~

2015年01月29日 | 小説
結局俺はコーラを、仙台の実家に帰省するという彼はオレンジジュースを自動販売機で買ってバスへと戻った。
もちろん例の女の子はすでに席に着いていた。

真横の席の男も盛岡まで帰るというのなら、もうこれ以上邪魔されないように、彼の飲むオレンジジュースに睡眠薬でも混入してやりたい気分だったが、幸い彼は仙台駅で降りるし、生憎俺は睡眠薬を持ち合わせていなかった。

休憩タイムが終わり、また恒例の何言ってるんだか聞き取れないアナウンスが流れたが、仙台駅と盛岡駅の間のどこかのサービスエリアでまた休憩タイムが与えられると言っているのはなんとなく分かった。

これがラストチャンスだ。
俺と同じ似非ミュージシャンの彼は仙台駅でバスを降りる。
もし彼女も仙台駅で降りるならば、そこでこの恋物語は終幕を迎えるが、もし彼女が盛岡駅まで行くのなら、次の休憩タイムに似非ミュージシャンの彼にさっきみたいに邪魔をされる事はない。
それに盛岡駅に到着してからも彼女に話かけられるチャンスがあるかもしれない。

再びバスが動き出し、やがて車内は消灯された。

真横の席の彼はすでに完全に寝る気の体勢に入っている。
休憩タイム中もずっと寝てくれていたら良かったのに…

さっきまでは全然眠れなかったが、さすがに俺も眠くなってきた。
次の休憩タイムまではだいぶ時間がある。
眠ってしまっても大丈夫だろう。

俺はカーテンにもたれ掛かるようにしながら目を閉じた。

深夜の高速道路を静かに滑るようにして走っていくバス。
とても心地が良い。

相変わらず斜め後ろの席の女の子の事が気になって仕方ないが、今度はちゃんと眠れそうだ。

不思議なものだ。
もうどうして自分がこのバスに乗っているかなんて忘れてしまっていた。

10年間、夢を追いかけながら住んでいた東京を離れ、今日からまた岩手の実家で暮らすというのに、全く実感が沸かない。

おそらく脳内の奥底では、斜め後ろの席の女の子と盛岡市内のアパートでも借りて同棲でもしてしまっているのだろう。

10年間追いかけた夢が叶わなかったから、今このバスに乗っているというのに、つい2時間くらい前に急に発生した一時的な病気のような夢が叶うと本気で思ってしまうあたりが、人間の… いや、男という生き物の… いや、馬鹿な俺のすごいところだ。

2時間近くは眠れただろうか。

どうやらバスは一旦高速道路を降り、もうすぐ仙台駅へと到着するようだ。

さよなら、仙台生まれの似非ミュージシャン君よ。

(第6章へ続く)

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