徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

涙を数える 初日&2回目(ネタバレあり)

2014年07月31日 | 舞台
※舞台セットや個々のキャラクターについて加筆(@8/2)※随時更新予定。



キャラメルボックス2014 サマーツアー・プレミアム
『涙を数える』


≪スタッフ&キャスト≫(敬称略)

脚本・演出  成井豊 真柴あずき

長谷川鏡吾(上田藩士)      :多田直人
舟橋明一郎(上田藩士・鏡五の親友):辻本祐樹
大佛聞多(上田藩江戸上屋敷世話役):池岡亮介
南条朔之助(上田藩目付・剣の達人):岡田達也
舟橋貞蔵(明一郎の父・上田藩勘定奉行):西川浩幸
長谷川淑江(鏡吾の母)      :坂口理恵
舟橋樹雨(明一郎の妹)      :原田樹里


≪プロローグ≫

信州上田藩士・長谷川鏡吾は20歳。12年前に藩の勘定方だった父親が公金横領の罪に問われて自害した。家名廃絶は免れたものの禄米を十分の一に減らされ、組屋敷にも住めなくなり、母・淑江とともに城下の長屋で暮らしている。日々の食にも事欠く生活の中で剣の道場にも通えず、ひとり素振りに励む鏡吾のところに、勘定奉行の息子で幼馴染の舟橋明一郎がやってくる。三年前に明一郎が江戸遊学に出掛けて以来の再会にも、未だ無役に甘んじる鏡吾の顔は晴れない。片や天下の大道場や蘭学塾で時代の最先端に触れた明一郎は「お前と一緒にこの日本を変えたい!」と熱く語るのだった――。


 ◇   ◇   ◇


キャラメルボックス(以下CB)夏公演の二作品め、新作『涙を数える』初日の30日。
待ちかねました!文字通り、ジリジリしながら待ってました!

この『涙を数える』はCB時代劇の最高峰『TRUTH』のスピンオフで、さらにCB作品中でも一・二を争う人気キャラの鏡吾メイン!これを全く新しく作り上げ、演じる側のプレッシャーたるや如何に…と思っていました。

が!心・配・ご・無・用!?ちゃんと鏡吾の物語であり『TRUTH』の系譜を継ぐドラマでありました。
劇場が暗闇に包まれ、舞台が明転して…多田鏡吾の第一声を聞いてから二時間!最後までそれは確信していました。

もちろん3人の鏡吾を演じる役者さんは、お互い全然「似ていない」のですが、何でしょうか…「中の人」ではなく、ちゃんとそれぞれが長谷川鏡吾だ、と感じたのです。

『TRUTH』では大内さんが意図的に上川さんの鏡吾に似せてる部分もあると思っています。ですが『涙』は新作初演=完全オリジナルな訳で。世界で初めて、比べる対象がない「21歳の鏡吾」です――とはいえ、ちゃんと多田さんの見せてくれたお芝居は【長谷川鏡吾】を構成するDNAをがっちり、しっかり、伝えてきてくれました。観客席からの期待と思い入れと過去の歴史の重みを一身に背負って(文字通り、身を削って)熱演してくれた彼に、心からの惜しみ無い拍手を送りたいと思いました。

そして、この作品が決して『TRUTH』ありきのスピンオフという位置づけではなく、ひとつの物語として完成された世界を提示してくれたことも、私には大きな喜びでした。『TRUTH』を観ていない人でも、これだけでちゃんと世界観を堪能できます。

でも…ラストの鏡吾を見届けたら、是非彼の9年間に思いを馳せながら『TRUTH』を見守っていただきたいな…と、個人的には思いました。これは、いち『TRUTH』ファン、鏡吾ファンとしての素直な気持ちです。



誰にでも、TRUTH(真の心、真実)がある。
この『涙を数える』は、鏡吾をはじめ、それぞれのTRUTHの物語。




登場人物はたった7人。なのに、強烈に濃いお芝居!この脚本の持つ力…思うに一人一人の登場人物に物語がありすぎて、それを追っていくだけでも飽くことなく楽しめました。
決してハッピーエンドではありませんが、観る側が想像の翼を存分に羽ばたかせるだけの脚本とお芝居、こういった舞台に出会えると、とても幸せな気分になります。あの7人全員分のスピンオフが書けると思ってしまいました。

流石と唸らされるのは、台詞・所作・剣捌き…随所にちりばめられた『TRUTH』へのリンク、オマージュです。『TRUTH』好きなら「あっ!」と思う、気づかされる仕掛けに満ち満ちています。一瞬も気が抜けないその心地よい緊張感。スリリングな物語の展開。絡み合う人間模様。誰もが必死で生きている、その一人一人に真実があり願いがあり、それらは決して間違いではないのに、お互いの意地やエゴ、誤解が邪魔をして、気持ちが通じあうことなく破局に向かう――8年後の「最終章」を知っていれば、余計に切なく涙が滲んできます。

時折容赦なく突っ込まれる笑いどころは、もちろん笑っちゃうんですが、逆に「切ない」んですよね…お汁粉に入れる塩みたいに、ちょっと入れてるからこそ甘さが強くなる、みたいな。他の作品でもそうですが、真逆の「笑い」が入るから、根底に流れる不条理さや切なさ、怒りや悲しみといった感情がギュッと密度を濃くする気がします…。

鏡吾や明一郎だけでなく、明一郎の家族である父・貞蔵や妹・樹雨、鏡吾を優しく厳しく見守る母の淑江、彼らが織りなす家族愛と「大切な何かを守ること」への誇りや「信じること」の大切さ、難しさ……それぞれに語る言葉に、思い当たること、気づかされることがいっぱいで、何度も涙を拭いました。

目付の南条どの…劇場内の観客全員の敵意やら視線やら何やら一手に引き受けて「俺が主役だぁ~!」「俺に斬~ら~せ~ろ~!」とばかりにイキイキと立ち回る姿、めちゃめちゃ楽しそうです!(思わず笑ってしまった)
手段を選ばず、女でも容赦せず、必要であれば同僚をも平気で欺き刀を向ける、圧倒的なラスボス感!(笑)「正直勝てる気がしない」とまで思わせる強烈なキャラクター、これは必見!!! ←ちなみに私はああいうキャラが大好きですっ!ダークヒーローと言っても過言ではないでしょうwいっそ観ていて気分爽快?!

今回のゲストお二人についても語らないといけませんね。若き上田藩士を演じる辻本祐樹くん&池岡亮介くん、何という役柄へのハマりっぷり。脚本が彼らの持ち味を引き出しているのと、彼ら自身が自然な存在感で役を自分のものにしているのと、両方です。

お二人の放つ素敵なキラキラ感!!(←若さってステキ☆w)と、そこに黙って立っているだけで場面が立ち上がっていくような、安心して身を委ねられるCBの看板俳優&女優さんのお芝居が、本当に綺麗に混じりあっていて…話自体はシリアスなのに、すごく楽しめました。
例えるなら、キラキラした二人がショートケーキの上に乗っている真っ赤なイチゴで、それを取り巻く上質の生クリームやスポンジケーキがCBの役者さんたち!!♪ふたつが合わさってすっごく美味しい!w イチゴだけ&クリームだけ取りのけて食べるのはダメです。これはイチゴ&クリーム&スポンジを一緒にパクリ!と食べてこそ、双方の美味しさや魅力が何倍にも引き立つ…そんな印象すら受けました。

お約束の「笑いどころ」も、この二人が絡む場面はいつもと雰囲気が違って何だか微笑ましいし可愛いし…絡む相手が変わると役者さんのリアクションや醸し出す雰囲気も大きく変わるとは思いますが、今回は特にそこが意外な面白さになっています。


   ☆


カーテンコールでは劇場の空気を揺らす大きな拍手!3回…4回…ちゃんと多田さんから挨拶を聞かないと帰らないよ!という勢いで。←カテコの仕切りを任せた時の安定感半端ない岡田さんが大好きだw

辻本くんが「CBの舞台に立てたと実感した瞬間、鼻水が止まらなくなって…すみません、乾ききってます、喉カラカラ!」と言ってましたが、それは観ている方も同じです。喉を潤すことすら思いつかないほど、息を止めるような集中で観ていました。

そして挨拶でも飄々とした池岡くんに嬉しそうにツッコミを入れている岡田さんを観ていると、舞台上の二人の掛け合い含めて漫才なんじゃないかと錯覚w…その横には既にカテコ3回目辺りで半分意識がない?多田さんの姿。明らかにフラフラで、完全燃焼して真っ白に燃え尽きてました…初日から飛ばし過ぎでしょ!?でもその気持ちは痛いほどわかる!わかるからこそ、何度も大きな拍手を送り続けたのだと思います。

彼らを見守る西川さん、坂口さん、原田さんの姿は本物の家族のようなあたたかさで満ちていて、みなさんホントに素晴らしく良い表情でした!!!


 ◇   ◇   ◇


終演後、家に帰り舞台を思い出していると、いろいろ言葉や連想が浮かんできましたが、その夜は(あえて何も書かずに)のんびりと舞台の余韻を味わいたい気持ちでした。

二回目は週末に観ますので、その折にもう少し詳しく踏み込んで書くつもりです。



※文中、芝居を「甘いもの」にたとえましたが、私個人は甘味類が大の苦手です…むしろ、すっ飛んで逃げます(^^; ←基本「バイオ燃料」で動くヒトw 



(8月2日追記)



≪舞台美術(セット)≫
予測は外れました!(笑)そりゃそうですね、昼夜入れ替え公演で全く違うの作ったら転換が大変です。大枠(一番外のダークブラウンと木目色の柱2本)は残してありました。平面のみだった『TRUTH』に比べて大きく変更されたのは、メインの舞台。八百屋舞台(客席に向かって緩やかな斜面になっている。左右に可動する)そして上に通路(左右にハケ口)、下は舞台を取り囲むように ̄|__| ̄型の通路(左右にハケ口)が設けられていること。奥までの高さを加えたことで、より多重構造になった印象があります。この上で殺陣をする人は斜めに体重をかけて踏んばらないといけないので、大変だと思いますが…(^^;

舞台が絵だとしたら、額縁のように緑の葉で覆われたアーチ状の幕が上部と左右を囲んでいます(片アーチが前後に少しずらした位置で2枚→アーチ型になっている)――これはカーテンのように引いてしまうことで屋内描写も可能。紗の幕にもなっていて、スクリーンに投影される文字や、回想シーンでの人影を効果的に見せてくれます。一番奥の壁面は信州上田を思わせる黄昏色の山々のシルエット。これは江戸に行っても変化せず、逆に鏡吾や他の登場人物たちの心の底に存在している「故郷への思い」を映し出しているようにも見えます。『TRUTH』同様、大道具(調度品など)の具象物はありません。スッキリとしたシンプルな舞台です。



≪お芝居の印象と登場人物たち≫
前回もちらっと書きましたが、脚本と演技両方による人物造形が素晴らしかった、と思います。(『TRUTH』を知っている人間が観るという)もともとの情報量も加味して考えるべきなのでしょうが、それを割り引いたとしても十分に楽しめる、素晴らしい密度の物語に仕上がっています。そしてゲストのお二人の存在感や演技は、いわゆる「キャラメルボックス」の中には無いものなので、個性と個性の溶け合った、何とも観ていて気持ちの良い舞台です。(注:話の内容は重い)

多田さんの鏡吾。チラシのイメージビジュアルと真逆!の正統派な月代つき時代劇かつら+扮装だったので少々意外に思いました。(前髪ありでも可愛かったのに!)いえいえ、観るのはそこじゃありません。顔かたちではなくて「声」と「存在感」がちゃんと【長谷川鏡吾】だったこと、ここに尽きます。彼の発する最初の台詞を聞いた瞬間、「ああ!鏡吾だ!」とストンと腑に落ちたのです…理屈ではなく、私の五感がそう確信しました! ←「すげーな、この断言っぷりw」と自分でツッコミ入れておこうw

『TRUTH』での鏡吾…何故ああなってしまったのか、何故その選択をしてしまったのか、やり取りや場面のひとつひとつが「その結末」に至る欠けたピースを嵌めていくようでした。明一郎に対しての友情や感謝、素直になれない若者らしい意地と、恵まれた彼に対する嫉妬や屈折した自己不全感、亡き父への思い、母への思い、幼馴染で自分に心を寄せてくれている樹雨への思い、そして上昇志向と承認欲求……表面上は取り繕っていても内面に潜むガツガツとした野心や攻撃的な部分がマグマのように噴き出す芝居、目が離せません。

ラストシーン、笑顔で鏡吾の名を呼ぶ明一郎の声が、彼には届かない…届かないまま剣を振り続ける鏡吾の姿は、声もなく号泣しているようでした。あの時彼は深い傷を負った自分の心に鍵をかけて、友への思いを「封印」してしまったのかな、と思ったのです。『TRUTH』ラストでは弦次郎に英之助の声が届くのと対照的で…とても切ない姿。でも「忘れないでいる」ことは「自分の傷を絶えず直視する」ことでもあります。若かった鏡吾には、その事実は余りにも残酷だったのかもしれません。とにかく、鏡吾についてはいろんな思いがモヤモヤしていて、正直今はまだ上手くまとめられません。

辻本くんの明一郎。羽織や袴、上級武士の扮装がよく似合います。爽やかでやや直情径行気味のお坊ちゃんです。大輪のヒマワリに似た陰の無さと華やかな存在感、一昨年の平重衡(@大河『平清盛』)を思い出しました。多田鏡吾の持つ屈折して年不相応に籠る陰りや鬱屈とまさしく好一対になる、日向を歩く者特有の無邪気さや(無意識の)傲慢さ、幼さ、清廉さや真っ直ぐさ…若さの具現化したような、愛すべきキャラクターです。(中の人が今年30と知って驚きましたがねw)

池岡くんの演じる大佛聞多。名前に反して「(人の話を)聞いちゃあいねぇw」な超絶・天然っぷりが爽やかに際立って個性的です。江戸生まれの江戸育ち、と言うだけに、他の全てのキャラとの違いが鮮やか!絡んだ相手が全員ペースを崩される、稀有な存在感。その「コミカル担当」なくせに意外に(失礼!)深い洞察力や卓越した剣腕、人を見る眼など、座組みの末っ子として妙味を如何なく発揮してくれています。出てきたら何かやらかしそうな楽しい期待をいつも抱かせてくれる、目が離せないキャラです。

おっと。出てきたら何かやらかしそう、と言えば「この方」しかいらっしゃいませんw実際やらかしてますし!ねえ南条さん!!!岡田さんの120%振り切れたダーク&ヒールの演技が素晴らしい!惚れ直しますよ。たぶん南条さんについて書きだしたら止まらないかと。ああいうキャラ大好きです。ちょっと細かい部分は3日の夜公演観てから書かせてくださいませ。




☆西川さん@貞蔵パパ、坂口さん@母上、林さん@樹雨どのに関しては、月曜に更新します☆