徒然草庵 (別館)

人、木石にあらねば時にとりて物に感ずる事無きに非ず。
旅・舞台・ドラマ・映画・コンサート等の記録と感想がメインです。

いのうえ歌舞伎 『蒼の乱』 (2回目/ネタバレあり)

2014年04月09日 | 舞台



というわけで!

ひょんなことでチケットを譲っていただけたので、急遽8日(火)夜公演を観に行ってきました。
センターブロック中央、前回より数列前になり中通路を通る役者さんが手の届くような距離の良席。大・感・謝です!(^人^)

休演日明けの火曜、観る側はもちろんですが、演じる側も、演出も、きっと何かが変わっていると期待していましたが、いや~…素晴らしい舞台の進化を観た思いです。演出の若干の変更、台詞カットによる場の締まりやキレの良さ、各キャラクターの持つ「魅せ場」のはまり具合…4日より断然!良かったと思います。終演後、思わず「今日はすごい!前と全然違う!」と呟いてしまったほど。

私的MVPはやはり帳の夜叉丸こと、早乙女太一くんです。
前回も全身がビリビリ震えた第二幕の後半、常世王の死を目の当たりにして呆然自失→「貴様あああああ―――!」の鬼気迫る絶叫とその直後の殺陣、「たとえ一人になろうとも、蝦夷の誇りは貫いて見せる!」と大見得を切る姿…文字通り、痺れました!根っからの舞台人なのでしょう、彼は自分の見せ方を本当によく知っていると思います。思えば般若面を手に歌舞伎口調で登場するシーンもひたすらカッコイイ(笑)この作品、好きな役者さん満載ですが、早乙女夜叉丸を観るだけでも行く価値が十分にあります。(二回目宣伝w)

前回に続き満員御礼の劇場がカーテンコール3回でスタンディングオベーションでしたが、今日の天海さんはとても良い表情をされていて、ラスト引っ込む前に嬉しそうに歓声に応えてました。天海さん演じる蒼真を観て思ったことや舞台へのもう少し踏み込んだ感想は、後日加筆したいと思います。



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(4月13日加筆)

というわけで。
数日間日本を離れる前にざっと書き出しました。雑感です。


昨年の『おのれナポレオン』に比べると断然こっちの方が「似合う」役柄の天海さん(え~…アルヴィーヌ様は美しかったけど色気・ゼロでしたから!w)、好き嫌いはともかくとして、国ひとつ、数多の人々の想いや願いを背負う重い役は、まさしく「あて書き」ならではと思います。とにかくお元気になってよかった、それしかないんですが(苦笑)…舞台姿、折々に見せる凛とした表情、照れ笑いのような可愛らしさ、何かを背負わざるを得ない立場に追い込まれていく悲愴な姿…どれも「らしい」なあと。ただ、何というか、共演の方々が濃いせいか、主役一本立ちのような劇ではなく、群像劇…というか「誰が主役であってもいいのではないか」スピンオフが山ほど書けるほど濃いキャラばっかりだったせいか、第一幕のインパクトは薄めで、ようやく主となって動き出すのが第二幕後半だったかな・・・とも。

不思議なことですが…将門御前として戦う姿、青いマントを風に翻し立つ姿は本当に凛々しく美しく、「まさにセンターに立つべく生まれてきた方だなあ♪」と見惚れていた半面、何故かその姿がとても痛々しく思えてなりませんでした。表面的なカッコ良さではなく、その後ろに(他人には絶対に見せないであろう)無数の傷が透けて見えるような、蒼真の秘められた哀しみや弱さを見てしまう、といいますか。

女として、妻として、嫁として、そして一人の人間として「思うが儘に、信念のもとに」生きようと思ったら、ここまで傷つかなくてはいけないのだろうか、と。蒼真がぶつかる壁、差別、苦しみ、葛藤…21世紀でもさして変わってはいないのではないでしょうか?

松ケン演じる小次郎がそのまんま「無頼の高平太」©大河清盛で、それに輪をかけたバカ正直っぷりが、もう…何とかならんのか…と思いつつ、この朴訥とした(セリフの微妙な訛りがまた効果的)雰囲気が、さながら「ダブル主演」で好対照だったのかとも感じました。

蒼真の姿と、その行動を見ていると「人よりも多くのものが見えてしまう」過酷さを感じずにはいられませんでした。「外つ国人だろうが蝦夷だろうが、関係ない。自由な国を」と望む彼女の言葉は、正論ではありますが、それから千年近くを経た現代に生きる私は「蒼真、残念だけどあなたが言うような国は21世紀になっても未だ実現の兆しはないよ」と、語りかけたくなってしまうのです。おそらく彼女も困難な道のりとは分かっていたはずでしょうが、それにしても、なんと苛烈な道を自ら進まれるか。「私」を殺して「公」に生きようとする姿が、とにかく観ていてグサグサと痛い。そして痛々しい。これは「狙ってそう仕向けた」のでしょうか…。

「差別は、宗教上の理由からでもイデオロギーでもなく、ただ単に生活上の不都合から生まれる」と書いた作家がいました。坂東や西海、蝦夷、外つ国人…21世紀の日本が抱える鬱屈した病巣が台詞やシナリオの中に織り込まれていて、これまた痛い。ここにスポットを当てて、シリアスに描き切ったとしたら、それはそれで素晴らしい舞台になっただろうとは思います。でも、そういうテイストは新感線ではないんでしょうね。ちょっとそれが残念なような、それでいいのかな、と思うような、モヤモヤ半分です。


相変わらず振り切った(笑)芝居で楽しませていただいた新感線の役者さんたちに感謝!
橋本じゅんさんは天才だと思います。どう見ても「 」にしか見えませんでした!あのギミックをあそこまで自在に操る器用さも必見!!
パイレーツ純友こと粟根さんも素敵でした。「鬼とでも手を組むわ!」のあとのニヤリ笑った後の殺陣がカッコ良かった…!
桔梗役の高田聖子さんは、ひょっとしたら私が舞台の上に居たら一番「近い」気持ちの役だったかも。大好きです。
そして「まさかの出オチですか?!」の枇杷麿右近さん…すみません。笑ってばっかりでw

梶原善さんの弾正淑人、この役の「得体の知れなさ」が、物語を最後まで「どっちに転ぶか」分からなくしていたと思います。お人形のようにちまちま歩く姿や、可愛らしいと言っていいw佇まい、人を食ったような物言い、全編通して「さすがだな~!」と感嘆。

感嘆といえば平幹二朗さん!台詞回し、存在感、全てにおいて別格!!!真田の里見さんのように、居るだけで空気が変わる…まさしくフィクサー。奥の大殿よりもやはり常世王のミステリアスな威厳に満ちた姿が最高にハマってました。カテコで(直前まで奥の大殿を演じていたのに)常世王の姿で出てきてくださって、うれしかったです。

帳の夜叉丸くんは、『蛮幽鬼』の刀衣のころと比べると、いわゆる若さ、瑞々しさという点ではやはり違っていましたが、その分キャラに幅が持たせられるというか、ギャグをやっても許す!みたいな(いーっと口をひんむく顔が可愛かった!)…殺陣の速さ、ドラマティックさ、美しさ、ちょっと不良っぽい佇まいと相まって、それはそれは素敵でした。



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さすがにもうリピートはしないと思いますが(笑)一回目の「え~!?」という感想を払拭できて、何よりでした!v


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≪『蒼の乱』を史実アレンジの面で楽しむトリビア≫※5/8加筆


◆奥の大殿=太政大臣 藤原忠平
モデル:藤原忠平/貞信公(880~949)
菅原道真を讒言したことで知られる藤原時平の三弟。兄・時平の早世後に朝政を司り、延喜の治と呼ばれる政治改革を行う。承平六年(936年)太政大臣に昇り、死去まで35年間その職にあった。子孫は藤原北家嫡流となる。『栄華物語』によると人柄寛大で慈愛が深かったという。
平将門は忠平の家人として仕えていた時期もあった。また、藤原純友の大叔父藤原基経は忠平の父であり、実は二人は遠戚関係にあたる。


◆常世王=藤原仲平
モデル:藤原仲平(875~945)
舞台の設定とは異なり、忠平の同母「兄」である。また、時平の次弟にあたる。承平三年(933年)右大臣、同八年左大臣に就任。
Wiki先生によれば「次男でありながら末弟の忠平に比べ20年も大臣昇進が遅れ、終生彼の後塵を拝した。温和敦厚な人柄と伝わる仲平も、こればかりは心苦く思っていたという。」とはあるが、謀反を起こして放逐されたという事実はない。
左京一条にある屋敷「枇杷第」を伝領したことから「枇杷左大臣」と呼ばれたが、この名前は劇中の悪役である「一条枇杷麿」に転用されている。