先の働き方改革法でフレックスタイム制といえば1カ月以内だったのが、1か月を超え3カ月を清算期間とするフレックスタイム制も可能となりました。
それとは別に、週休二日制のフレックスタイム制における弱点を補正する制度が、労使協定締結を条件に導入されています。それまでの通達運用で認めていたのを、法制化したのでした。
フレックスタイム制も変形労働時間制の一種で、たとえば月の実労働時間の累計が、暦日数の30日の月なら
暦日数から求まる法定上限: 40時間×30日÷7日=171.42…(171時間25分) |
をこえるところから時間外労働扱いになります。日々の出退時刻を労働者に任せるのと引き換えに、日の法定労働時間超えを時間外労働扱いしなくてよいとするのが、フレックスタイム制の肝です。ところが、祝日休のない6月のように、曜日の巡りによっては、ふつうの完全週休二日制で時間どおり働く分は時間外労働が生じないのに、フレックスタイム制で所定労働日を毎日8時間働くと、時間外労働が生じてしまいます。
2022年6月を例にあげてみましょう。水曜始まりで土日を休日とする完全週休二日制にして22所定労働日あり、完全週休二日制にて毎日8時間働くと
22×8=176時間 176時間ー171時間25分=4時間35分 |
フレックスだからという理由だけで法定総枠との差4時間35分に割増賃金つけるという不合理が生じます。そこで完全週休二日制を条件に労使協定を結べば、月(清算期間)の所定労働日数、上の例では22日×8時間=176時間をもって、その清算期間の法定労働時間に置き換えることを認めます。
ところがこれに関する説明がパンフにひととおりあるだけで、通達やQ&Aに見当たりません。なかには、導入理由から「清算期間の暦日数からもとまる法定労働時間」と、「同期間の所定労働日数の8時間倍」のどちらか長いほう、という運用がとなえられているようです。
月 | 暦日数 | 法定総枠 (a) |
所定 労働日数 (例:c) |
法定総枠 (b) c×8 |
a,bどちらか 多いほう |
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1月 | 31日 | 177.14時間 | 21日 | 168時間 | 177.14時間 |
2月 | 28日 | 160時間 | 20日 | 160時間 | 160時間 |
3月 | 31日 | 177.14時間 | 23日 | 184時間 | 184時間 |
4月 | 30日 | 171.42時間 | 21日 | 168時間 | 171.42時間 |
5月 | 31日 | 177.14時間 | 22日 | 176時間 | 177.14時間 |
6月 | 30日 | 171.42時間 | 22日 | 176時間 | 176時間 |
7月 | 31日 | 177.14時間 | 21日 | 168時間 | 177.14時間 |
8月 | 31日 | 177.14時間 | 23日 | 184時間 | 184時間 |
9月 | 30日 | 171.42時間 | 22日 | 176時間 | 176時間 |
10月 | 31日 | 177.14時間 | 21日 | 168時間 | 177.14時間 |
11月 | 30日 | 171.42時間 | 22日 | 176時間 | 176時間 |
12月 | 31日 | 177.14時間 | 22日 | 176時間 | 177.14時間 |
合計 | 365日 | 2085.71時間 | 260日 | 2080時間 | 2113.14時間 |
完全週休二日制における法定労働時間の累計: (365日-105日)×8時間=2080時間 |
それを認めてしまうと、年間約30時間(=2113-2085)※も時間外労働を、時間外労働としなくてもよいことになり、法規制強化の逸脱となります。
祝日休のある週の第3日休日は、所定労働日に含めていいのかという問いに、通達は詳しく解説してくれてませんが、祝日休のあるフレックスでない完全週休二日制とパラレルという考えにあわせれば、その休日は休日として数えることになるでしょう。以上のことから、所定労働日数の整数倍がその月の法定労働時間に置き換えられるということになります。もっとも祝日休に働きにでても、8時間こえなければ、週40時間におさまるので、しっくりこないところはあります。
完全週休2日制でありさえすればいいので、休日が毎週土日固定でなくともよく、今年の6月ような水曜始まりで、所定24日の8時間倍192時間ということもありえます(6月第1週の2休は5月最終週に、6月最終週の2休は7月第1週に配することで完全週休二日制遵守。)。このケースで※試算したところ年40時間の差が出ました。
なお、通達時代から変わらないように、フレックスタイム制だけに認められた制度ですので、同じことが起こるからと言え完全週休二日制の変形労働時間制(1カ月単位)には適用されません。
労働基準法第32条の3第3項 | 意訳 |
一週間の所定労働日数が五日の労働者について第一項の規定により労働させる場合における同項の規定の適用については、同項各号列記以外の部分(前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)中「第三十二条第一項の労働時間」とあるのは「第三十二条第一項の労働時間(当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、労働時間の限度について、当該清算期間における所定労働日数を同条第二項の労働時間に乗じて得た時間とする旨を定めたときは、当該清算期間における日数を七で除して得た数をもつてその時間を除して得た時間)」と、「同項」とあるのは「同条第一項」とする。 | 1週間を完全週休二日制のフレックスタイム制(清算期間3カ月ものも含む)にて就労させる労働者については、締結する労使協定により、労働時間の限度について清算期間中の所定労働日数を8時間倍した時間数(※1)をもってすると協定に定めたときは、法定労働時間週40時間とあるのは、その清算期間の暦日数を7で除した数(※2)をもって※1を割った時間(※3)とする。 ※1:(例)23日×8時間=184時間 (月枠171時間25分のかわり) ※2:30÷7=4.2857…(清算期間の週数) ※3:184時間÷4.2857…=42.93…時間(法定労働時間週40時間のかわり) |
(2022年9月1日投稿)