桜木詩音様
じゃーん
ニューヨーク発東京行きの
初メールを送ります。
もっと早くメールを送りたかった
のですが、引越しやら何やらで、
怒涛のような日々を送っていました。
遅くなって、ごめん!!!
古いパソコンがダウンしてしまい、
新しいマシンを購入したのですが、
その設定にも戸惑ってしまい、日
本語環境設定に四苦八苦。
おまけにクラスも始まって、忙しさ
に拍車がかかっています。
あっという間に、もう四月も終わり
だね。
お元気ですか?
仕事、どうですか?会社の雰囲気に
もう慣れてきた頃かな。
今から六年ほど前、社会人になって
間もない頃のことを思い出します。
ところであの日は、成田まで来てく
れて、本当にありがとう。
生来、人に見送られるのは苦手な
のですが、あの日は特別でした。
驚きました!心底うれしかった。
本気で、飛行機を遅らせようかと。
そうすればよかったかなと、
実はあのあともずっと後悔している。
詩音さんの仕事のようすも、よか
ったら伝えてください。
たのしいメールを待ってるよ!
それではお身体に気をつけて。
待って、待って、待って、待ち
くたびれて、もう来ないのかも
しれないと、あきらめかけた頃
に届いたメール。青空に泳ぐ鯉
のぼりのような、元気いっぱい
な言葉。
あのひとの笑顔が、笑い声が、
そのまま文章になったような。
初めて届いたメールは印字して、
折り畳み、いつも鞄の中に入れて
いた。
まるでお守りのようにして。
いいえ、それは海辺で拾った、
真っ白な巻貝だった。あのひと
の声が聞きたくなった時、わた
しは貝殻を取り出して、そこに
耳を当てればよかった。
本気で、飛行機を遅らせよう
かと。
そうすればよかったかなと、実
はあのあともずっと後悔して
いる。
何度読んでも、そこまで来ると、
胸がふるえた。
覚えている。泣き出しそうになる
なるほど嬉しいのに、それと同じ
くらい、どうしようもなく淋し
かったことを。
読めば読むほど、ふたりのあいだ
に横たわる、途方もない距離を感
じて、あのひとの言葉をなぞれば
なぞるほど、わたしはその茫瀑
(ぼうばく)とした距離に圧倒
され、押し潰されそうになるの
だった。
だから遠距恋愛を、わたしは
いつしか頭の中で変換するように
なっていた。
アイシテル
トオクハナレテイテモ
ワタシタチハ
ツナガッテイル
それはわたしから、わたしへの
メッセージだった。
宇宙の彼方を彷徨う「エンキョリ
レイアイ」という名の惑星。
そこに棲んでいるもうひとりの
わたしに、地上から、過去と未来
をつなぐ中継地点から、わたし
は来る日も来る日も、信号を
発信し続けた。
じゃーん
ニューヨーク発東京行きの
初メールを送ります。
もっと早くメールを送りたかった
のですが、引越しやら何やらで、
怒涛のような日々を送っていました。
遅くなって、ごめん!!!
古いパソコンがダウンしてしまい、
新しいマシンを購入したのですが、
その設定にも戸惑ってしまい、日
本語環境設定に四苦八苦。
おまけにクラスも始まって、忙しさ
に拍車がかかっています。
あっという間に、もう四月も終わり
だね。
お元気ですか?
仕事、どうですか?会社の雰囲気に
もう慣れてきた頃かな。
今から六年ほど前、社会人になって
間もない頃のことを思い出します。
ところであの日は、成田まで来てく
れて、本当にありがとう。
生来、人に見送られるのは苦手な
のですが、あの日は特別でした。
驚きました!心底うれしかった。
本気で、飛行機を遅らせようかと。
そうすればよかったかなと、
実はあのあともずっと後悔している。
詩音さんの仕事のようすも、よか
ったら伝えてください。
たのしいメールを待ってるよ!
それではお身体に気をつけて。
待って、待って、待って、待ち
くたびれて、もう来ないのかも
しれないと、あきらめかけた頃
に届いたメール。青空に泳ぐ鯉
のぼりのような、元気いっぱい
な言葉。
あのひとの笑顔が、笑い声が、
そのまま文章になったような。
初めて届いたメールは印字して、
折り畳み、いつも鞄の中に入れて
いた。
まるでお守りのようにして。
いいえ、それは海辺で拾った、
真っ白な巻貝だった。あのひと
の声が聞きたくなった時、わた
しは貝殻を取り出して、そこに
耳を当てればよかった。
本気で、飛行機を遅らせよう
かと。
そうすればよかったかなと、実
はあのあともずっと後悔して
いる。
何度読んでも、そこまで来ると、
胸がふるえた。
覚えている。泣き出しそうになる
なるほど嬉しいのに、それと同じ
くらい、どうしようもなく淋し
かったことを。
読めば読むほど、ふたりのあいだ
に横たわる、途方もない距離を感
じて、あのひとの言葉をなぞれば
なぞるほど、わたしはその茫瀑
(ぼうばく)とした距離に圧倒
され、押し潰されそうになるの
だった。
だから遠距恋愛を、わたしは
いつしか頭の中で変換するように
なっていた。
アイシテル
トオクハナレテイテモ
ワタシタチハ
ツナガッテイル
それはわたしから、わたしへの
メッセージだった。
宇宙の彼方を彷徨う「エンキョリ
レイアイ」という名の惑星。
そこに棲んでいるもうひとりの
わたしに、地上から、過去と未来
をつなぐ中継地点から、わたし
は来る日も来る日も、信号を
発信し続けた。