離婚したあと、つき合った人の
ひとり―――彼は童話作家で、
あとで一緒に仕事をすることに
なる―――に言われたことがある。
ふたりとも裸で、ベットの中に
いる時に。
「きみのそばにいると、僕はな
んだか寒いよ。きみはいつでも、
遠いところにいる。僕の腕の中
いる時でも、心はひとりでどこ
かを彷徨っているだろう」
わたしはその時笑いながら、答
えを返したはずだ。
「馬鹿なことを言わないで。
ほら、わたしはこうして、ここ
に、あなたのすぐそばにいるじ
ゃない?」
彼は正しかった。
今のわたしには、そのことが
わかる。
彼の言った通り、わたしはいつ
も、そこにはいなかった。
たぶんわたしは、わたし自身を、
わたしのすべてを、置き忘れて
きたのだと思う。あの日、あの
夜、あの河のそばのプラット
ホームに。
その手紙を読んだのは、それが
書かれてから四年ものちのこと
だった。
ローマのホテルの一室で、わたしは
会社の同僚から、封筒を受け取った。
四月だった。
それは、エアメールの薄い封筒だっ
た。封筒は薄いが、中身は厚い。
ブルーのインクで記された、端正
な文字。宛先は会社気付。六十セ
ント分のアメリカ切手。左上に
英語で書かれた差出人の名前は
「kaisei Inoue」となっていた。
桜木詩音様
シオンちゃん、と書いていの
かどうか、しょっぱなから考え
込んでしまうのですが、