忘れられた女がひとり、港町の
赤い下宿屋に住んでいました。
彼女のすることは、毎日、夕方に
なると海の近くまで行って、海の
音をカセットレコーダーに録音し
てくることでした。
彼女の部屋には、日付を書き込んだ
カセットテープが一杯散らばって
いましたが、どれをきいても、ただ
波の音がきこえてくるばかりだった
のです。
―――どうして、毎日、海の音ばか
り録音しているの?
と、通りがかりの少年水夫がききま
した。
―――わたしにもわからないわ。
と、忘れられた女が答えました。
ただ、波の音をきいていると、
気持ちが落ちつくの。
(この忘れられた女には、むかし
好きだった船乗りがいたそうです。
その船乗りは、、ニューイングラン
ド沖の航海に出たまま帰ってきませ
んでした。噂では、戦死したとか、
難破して死んでしまったとか言われ
ましたが、女はどれも信じないで、
いつまでも待ちつづけたのです)
ある日、その忘れられた女が、暮方
になっても録音にやってきませんで
した。
「おかしいなと」少年水夫は思いまし
たが、大して気にもかけませんでした。
しかし、そのあくる日も、またあくる
日も、やっぱりやって来ないのです。
とうとう少年水夫は、赤い下宿屋に女
を訪ねてみました。
すると、部屋には鍵がかかっていず、
だれもいなかったのです。
一台のセットされてあったカセットの
スイッチを入れてみると、波の音が
きこえてきました。
それは、ごくありふれた暮方の波の
音でしたが、じっときいていると、
吸いこまれるようなさみしい感じが
しました。
ふと、耳のせいかドボン!という
小さな音がきこえました
おや、と思ってテープをまき戻して
みると、やっぱりドボン!という
小さな音が聞こえるのでした。
(自分の録音してきた海の音に、
飛び込んだ、さみしい女の自殺した
夏の物語です)
YouTube
映画「おもいでの夏」(1970) SUMMER OF '42 Michel Legrand
赤い下宿屋に住んでいました。
彼女のすることは、毎日、夕方に
なると海の近くまで行って、海の
音をカセットレコーダーに録音し
てくることでした。
彼女の部屋には、日付を書き込んだ
カセットテープが一杯散らばって
いましたが、どれをきいても、ただ
波の音がきこえてくるばかりだった
のです。
―――どうして、毎日、海の音ばか
り録音しているの?
と、通りがかりの少年水夫がききま
した。
―――わたしにもわからないわ。
と、忘れられた女が答えました。
ただ、波の音をきいていると、
気持ちが落ちつくの。
(この忘れられた女には、むかし
好きだった船乗りがいたそうです。
その船乗りは、、ニューイングラン
ド沖の航海に出たまま帰ってきませ
んでした。噂では、戦死したとか、
難破して死んでしまったとか言われ
ましたが、女はどれも信じないで、
いつまでも待ちつづけたのです)
ある日、その忘れられた女が、暮方
になっても録音にやってきませんで
した。
「おかしいなと」少年水夫は思いまし
たが、大して気にもかけませんでした。
しかし、そのあくる日も、またあくる
日も、やっぱりやって来ないのです。
とうとう少年水夫は、赤い下宿屋に女
を訪ねてみました。
すると、部屋には鍵がかかっていず、
だれもいなかったのです。
一台のセットされてあったカセットの
スイッチを入れてみると、波の音が
きこえてきました。
それは、ごくありふれた暮方の波の
音でしたが、じっときいていると、
吸いこまれるようなさみしい感じが
しました。
ふと、耳のせいかドボン!という
小さな音がきこえました
おや、と思ってテープをまき戻して
みると、やっぱりドボン!という
小さな音が聞こえるのでした。
(自分の録音してきた海の音に、
飛び込んだ、さみしい女の自殺した
夏の物語です)
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映画「おもいでの夏」(1970) SUMMER OF '42 Michel Legrand