青麦畑でかわした
はじめてのくちづけを
忘れてしまいたい
パスポートにはさんでおいた
四葉のクローバー 希望の旅を
忘れてしまいたい
アムステルダムのホテル
カーテンからさしこむ 朝の光を
忘れてしまいたい
はじめての愛だったから
あなたのことを
忘れてしまいたい
みんなまとめて
今すぐ
思い出すために
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会えて本当によかった。
静寂の中を、月明かりに導かれ
て、すいすいと進んでいく一艘の
小舟のような、軽快で明快な物語。
その舟の作る波に乗って、どこま
でもどこまでも、ついていきたく
なるような。
青空より破片あつめてきしごとき
愛語を言えりわれに抱かれて
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恋はきらいだけど、片思いは
好きだという人だっている。
何歳になっても、片思いしか
しない人だっている。
たとえば、パリが好きだから
パリに行かない人だっている。
パリの町について、どんな旅行
者よりもくわしく知っているの
に、
実際に出かけたがらないんだ」
「臆病な人なのね」
と女の子が訊きました。
「かも知れない。でも、そうい
う人は、パリは実在しなと思っ
ている。旅行してたどりつく
のは、どこにでもあるような
ヨーロッパの都市で、
自分の想像力のなかの花の
都と同じじゃないっ てこと
を知っているのだ。
恋についてだって同じこと
だよ。
一人で想っているときは、
幻滅しないですむ、
だけど、それは恋なんかじゃ
ないんだよ」
たった一人のやさしい女よ
二日のあいだ恋をしようよ
あの時の私が泣き続ける
私の心は弱いのです
だからといって
私を弱いと思わないように
とてもたくさんのことがあります
とてもたくさんのまちがったこと
も
本当でないと思っても
そうしてしまうことも
あります
いけないこともしたりもします
私の心は強いのです
だからといって
私を強いと思わないように
広いガラスの自動ドアの向こ
うに、ベンチがいくつか並んで
いた。まるで恋人たちに必要な
孤独を守ろうとするかのように、
ベンチとベンチの間隔は遠く、
離れていた。
ひとつだけ、空いているベンチ
があった。
見えない手に導かれるようにし
て、わたしたちはそこに腰かけた。
忘れな草の水色を滲ませた、夕暮れ
前の空。
ときどき、急に何かを思い出したよ
うに、吹いてくる突風。
ごーっと唸るジェットエンジンの音。
日常から切り離された、どこかよそ
よそしい、緊張を孕んだ空気に包ま
れて、わたしたちはただ、寄り添っ
ていた。
あのひともわたしも、言葉を失って
いた。五分前に会えた。でも五分後
に迫っている。別れを前にして。
目の前で、まるで意を決したように、
一機の旅客機が飛び立とうとしてい
た。
「あれが俺の乗る飛行機だったり
して」
と、あのひとは言って、わたしは
顔を覗き込んだ。泣き顔のように
なってしまっている、わたしの笑
顔を。
「俺けっこうドジだから、そういう
こと、よくあるんだよね」
わたしは黙って、あのひとのそ
ばに座っていた。喉がからから
に渇いていた。けれど、それは
何かを飲んでも、決して癒えな
い渇きだと知っていた。
「よく来てくれたね」
そう言ったあのひと声は、心なし
か、掠れていた。
「会いたいから」
「さっきは、驚かなかったなんて
言ったけど、ほんとはすっごく驚
いてた。心臓が止まりそうなくら
い」
「驚かせてごめんなさい。でもどう
しても会いたくなって」
「俺も。もう、どれだけ会いたいか
ったかというと」
言葉はそこで途切れて、長い両腕を
持てあますようにしながら、ぎこち
なく、それでいて、まるで電流のよ
うに容赦なく、あのひとは、わたし
の躰を抱きしめてくれた。
男の腕だと思った。欲望を感じた。
わたしの欲望だ。心臓が、早鐘を
打ち鳴らしていた。あのひとに、
聞こえてしまうのではないかと
思えるほど、好き、好き、好きと。
恥ずかしいくらいに。
でもその時、わたしの耳はちょうど
あのひとの心臓の真上にあった。
だから、聞こえた。あのひとの
胸の鼓動。それはわたしの鼓動
よりも何倍も烈しく、波打って
いた。
それから、キスがやってくる。
記憶の中ではすでに一万回、
いいえそれ以上、幾度も幾度も
重ねてきた―――たった一度
だけの―――わたしたちのキス。
繰り返し、繰り返し、すり切れる
まで再生しても、決して古びる
ことのない記憶。
思い出すたびに、胸の奥から湧
き出してくる情熱の息吹。それを
感じるたびに、わたしは無条件で、
愛を信じることができる。
わたしの唇に、あのひとの温かな
唇が触れた、その刹那。
それは、わたしの中でもうひとり
のわたしが生まれ、わたしのもう
ひとつの人生が始まった瞬間だった。
そのまつ毛の下の、一見
優しそうに見える瞳が発
する、一見意地悪そうな
視線が、好きだった。
愛してると
言ってほしいなら
いうでも言う
誰の前でも
誰の後でも
私は私
あなたと私でなれるものすべて
他のだれにも似ていない
かけがえのない
私たちそのもの