その少し前に、チュンユーとの
出会いがありました。
彼女の僕の前に、この部屋に
住んでいた人です。猫も彼女
の飼い猫でした。
彼女はここから車で三十分ほ
どのところにあるバードカレ
ッジの学生で、奥さんのいる
人とつき合っていて、、その
人の子どもを妊娠していたの
です。
なんらかの事情があって、そ
の人と半同棲の暮らしをして
いたアパートメントを追い出
された彼女は、ほかに行くと
ころもなく、昔住んでいたこ
の部屋のドアを叩いたという
ことなのです。
土砂降り雨の夜、顔に殴られ
たような青あざをつけて、幽
霊のようにドアの前に立って
いた彼女を、追い返すことは
できず、その夜は彼女を部屋
に泊めました。
誓って言いますが、彼女には
出会ってから今まで、指一本、
触れていません。
それはさておき、僕はたまたま
翌週からファームにこもる予定
でいたから、新しいアパートが
見つかるまでのあいだ、という
条件つきで、僕の部屋を提供し
たのです。もちろんちゃんと
家賃をもらうことにしました。
彼女はときどき、車を運転して、
僕が働いている畑まで会いにき
てくれました。
電話も電気もなく、現代文明と
は切り離された場所で暮らして
いたので、彼女に会って話しを
するのは、楽しかったです。
でも僕は彼女に対して、特別な
感情は一切もって持っていませ
んでした。
ただ、ある時彼女から「子ども
が生まれるまでは、あなたにそ
ばにいて欲しい」と、涙ながら
に頼まれたとき、どうしても
「NO」と言えなかったのは、事
実です。それは僕が、ミコンノ
ハハに育てられた男だったから
でしょう。