世の中には色んな嗜好をもった人がいる。性的な嗜好も人それぞれである。その中で、ヴィジュアル系と最も関連の深い性的嗜好が『異性装』であろう。異性装は、異性の服(文化的にその性にのみ着用が許されるような服)を身につけることで性的興奮を覚える、という現象のことをいう。異性装のほとんどが男性であり、女性の異性装というのはほとんどいない、と言われている。
ヴィジュアル系のアーチストたちは、基本的に、女性的なファッションを好む傾向が強い。化粧や口紅、スカートやブラウスなど。女性に特有の服を綺麗に着こなすことで、独自の世界観を作り出している。この観点から見れば、フェミニンな服装は、ヴィジュアル系独自の文化というよりも、イギリスのポジパン/ニューウェイブ系アーチストの文化の一つだと言うべきだろう。カルチャークラブのBOY GEOLGEのファッションやスタイルは見事に異性装そのものだった。日本では、ソフトバレーの森岡賢や、DER ZIBETの藤崎一成(ISSAY)などが異性装アーチストの第一人者だ。その後、X Japanのyoshiki、ルナシーのSUGIZO、マリスのManaなど、異性装ファッションのステータスをグーンと上げた。
ただ、彼らが「異性装者(トランスヴェスタイト)」かどうかは分からない。彼らが奇抜な女性コスチュームをまとうのは、世間にインパクトを与えるための手段として、表現手段としてだったのか、それとも自らの性的興奮を覚えるためだったのか。
彼らは別として、一般の異性装者はまだまだ認知されているとは言いがたい。女性が男性のファッションを真似ることとはやはり違うことだと思う。女性は、現在社会的に男性のファッションをそのまま真似していてもそれほど違和感がない。男性用のスーツだって、それほど違和感があるわけじゃない。さすがにトランクスを身につける女性はいないと思うが・・・ 逆に、男性の異性装はまだまだ違和感が強くあるのではないか。都内や大都市でたまに異性装の人を見かけることがある(きっと誰もが彼らを見たことはあるのではないか)。その時、周りの人の目を見ると、目に見える差別はしていないものの、かなり彼らに対して好奇のまなざしを向けている。
というわけで、異性装も、ヴィジュアル系の根本問題を考える上で、重要な概念だと思うので、その概念の意味を訳してみました。
異性装
(Transvestismus:フェミフィリア)「異性向けの服を好む」という社会的規範から逸脱した性癖
異性装はほとんど男性にしか生じない。女性の服を身にまとうことに性的な興奮を覚えるとき、その男性は「異性装者」と呼ばれるようになる。ゆえに、異性装者は必ずしも同性愛者であるわけではないのだ。
通常、異性装者はヘテロセクシャル(異性愛者)であり、異性と親密な関係をもつ。彼らは、トランスセクシャルとは反対に、女性になろうとしていないし、「自分は違う性に生まれてきた」とも思っていない。たいていの異性装者は、自分が男であることには全く不満を抱いておらず、ただ自分の女性的な一面を享受したいだけなのである。稀なケースだが、一部の異性装者たちには、自分の胸を大きくするために、ホルモン治療を受ける人もいる。
女性の場合、異性装は極めて稀な現象である。レズビアンの女性の中に男性の服装を身につける人もいるが、彼女たちは異性装には当てはまらない。というのも、彼女たちはホモセクシャルに似た要素はあるものの、単に実用的だというだけで男性の服装を身につけているだけだからである。もっと言えば、彼女たちの場合、そのほとんどが、変装願望もないし、性的興奮も起こしていないのである。