どんな場所にどんなラーメンがあるのかは、誰も分からない。そして、どんなお店にも個々それぞれの歴史があり、思いがあり、文化があり、背景がある。だから、どんな場所でも、ラーメンが存在するであろう可能性があれば、行ってみる。それが、keism☆
というわけで、向かったのは、前回の「ラーメンショップ天狗」よりもマニアックな場所にある「珍来」です。いや、ホント、これは奥地ですよ。
http://rp.gnavi.co.jp/5700672/
http://www.hotpepper.jp/strJ000966333/
このように、情報らしき情報もないです。住所情報のみ、程度です。なんか、僕もようやく「ラーメンフリークス」の領域に入れたかなぁって、ちょっと思いました☆ フリークス(Freaks)=奇人、変人。中毒者。一般の人が食べていないお店を開拓してこそ、本当のフリークスですよね。
けれど、珍来は、奥地・僻地にはありますが、それなりに公的な場所の近くにあるのです。目の前は、県立安房特別支援学校です。校門のすぐ前が珍来です。駐車場も広大です。なので、全く人がいない場所というわけではございません。さらに、その隣りには、障がい者施設もあり、人の出入りは決して少なくはないと思います。なお、この障がい者施設とこのお店には深い深い関係があったのです。
さて、珍来。名前だけを聞くと、「なんだよー。珍来かよー」と思う人もいるかと思いますが、完全なる個人店です。団塊Jrの親世代の女性店主さんが一人で切り盛りしています。とても気さくで楽しい店主さんでした。
聞くと、かつてはメインの国道410号線沿いで営業していたそうです。創業は昭和50年。36年前だそうです。しかし、何度か現在の場所と移転を繰り返し、こちらに落ち着いたそうです。一般的には410号線沿いの方が絶対にいいと思うんですよね。
なので、「どうしてこの場所で営業しようと思ったのですか?」と尋ねると、ご兄弟の方が、このすぐ近くにある障がい者施設で生活しており、そのご兄弟のために、こちらに移った、というのです。施設とはいえ、週末は家に帰れるわけです。が、もう年齢的にも若くはなく、しかもご両親は既に他界している。頼れるのは、血のつながった兄弟姉妹だけなんですね。兄弟思いの店主さんは、お店よりも家族を優先することに決めたんだそうです。「本当はもっと都会の場所で営業したいんだけどね~」と語る店主さんの瞳に、決意に似た強い意志を感じました。
しかも、このお店の麺は、そのご兄弟の方のいる障がい者施設のワークホームで作っている麺なんですよ。言い換えれば、「障害者作業所」で作る麺を、珍来の女性店主さんが用いて、ラーメンを作る、ということです。これは、僕の思い描く、ある種の理想の作業所・ワークホームとラーメン店の連携の姿なのです。もう、この話を聞いただけで、テンションはMAXです。なお、このワークホームでは、中華麺のみならず、米、そば、うどんといった様々な食べ物を製造しているんですね。
http://www.nakazato.or.jp/workhome.html#sagyou
店主さんは、「ここの麺は、作る人が変わるので、その日によって麺の出来が変わってくるのよ。でも、この麺は美味しいわよ。本当。スープはどうか分からないけど…(笑)」、とおっしゃっていました。
こちらのお店のイチオシは、「タンメン」だそうです。タンメンでもよかったのですが、まずは基本だろうということで、ラーメンを注文しました。
なんとも、昔レトロなラーメンなのでしょう。スープがなみなみと注がれているので、肝心の麺が見えない、という。けれど、麺の量が少ないわけではなりません。きちんと一人前分が入っています。
スープは、かなりワイルドな味わいです。ソフトじゃないです。基本的には、昔ながらの中華そばの王道の味だと思いますが、その中でもかなりクセのある野生的な味わいなんです。完全お手製のスープです。基本は、鶏、豚の動物系スープ。けれど、野菜は入れてないんだそうです。理由は、「甘くなるから」、というもの。店主さんには、かなりこだわりがあるらしく、「甘いスープはダメ」なんだそうです。
同じ理由から、ラーメンのかえし(たれ)も、醤油のみなんですって。チャーシューの煮汁を使うと、油のせいで甘くなる。とにかく甘いラーメンは、作りたくない、ということなんです。凄くないですか? このこだわり方。お客さんに合わせることに必死なラーメン屋さんが多い中、自分の味覚・趣向にどこまでもこだわる店主さんって、あまり知らないです。「基準は私」、それがこのお店の店主さんの哲学なんですね。そこは、とても感銘を受けました。
なので、この味が旨いだとか不味いだとかを語るのは不毛だと思いました。36年かけて、辿りついたこの女性店主さんの魂の一杯を味わえ!、と。この36年間で、味を大きく3度変えたようです。本人的には、「今のスープが一番美味しい!」、と胸を張っておっしゃっていました。そこにまたドキュンですよ。(常連さんは、昔の方がよかったと言うらしいですが、そう言われると、「昔は他に美味しいものがなかったからそうだけよ」と一蹴するそうです)
マニア的には、とにかく強い味のラーメンですね。臭いというんじゃないんですが、強い味わい。油分は限りなく少なく、ワイルドでありながら、それほどファットではない。そこが、家庭じゃないプロの料理だなぁって思いました。ベースとなるのは、鶏と豚のみ。つまり動物ダシだけのスープ、それを醤油で割ったのが、こちらのラーメンです。ある種、究極のシンプル。
それから、麺ですね。正直にいえば、僕も「作業所で製造している麺?! 大丈夫なのかな」とほんの一瞬思いました。けれど、それは偏見、邪推、憶測に過ぎませんでした。店主さんがおっしゃっていたように、かなり魅力的な麺になっていたのです。こちらの麺、若干縮れた細いストレート麺です。結構、ポキポキっとした麺になっていて、細いなりに食感の強い麺になっています。もちもち感はあまりありませんが、このお店のスープには見事に合っている気がしました。この麺なら、他のお店で出しても、全然遜色ないと思いました。(出来のばらつきがなければ、最高ですが、なかなかそううまくはいかないそうです)
あと、感動したのが、自家製のチャーシュー。
豚バラ肉で、脂身たっぷり。「チャーシューは脂身がなければ美味しくないわ」、とばっさり。肩ロースの美味しさは認めつつも、ラーメンのチャーシューはバラ肉!という信念が垣間見れました。
いや、お世辞抜きに、こちらのチャーシューは凄いですよ。1cm以上の厚みのあるチャーシュー。これなら、是非チャーシューメンを食べてみたいです。店主さん的にも、自慢の逸品なんだそうです。
…と熱く語りましたが、全体的には、昔ながらのラーメン-ワイルド篇-といったところですかね。都会派のラーメンフリークが感動するようなお店ではないでしょうが、ラーメン道を突き進むラーメンフリークさんなら食べるべきラーメンかなとも思います。思い浮かんだのは、君津の「九州ラーメン日吉」かな。あそこも、シンプルで強い味のラーメンを提供していました。あるいは、昭和の味というか。
歴史に裏打ちされたプロの手作りの味です!!(「手作り」というのがポイント)
いやはや、こんな素敵なお店に出会えるとは、、、
さらに、お会計をすませ、出て行こうとすると、「ちょっと、お漬物も食べていきなさいよ!」、と。もうさすがにお腹パンパンなんですけど、、、と言っても、聞く耳もたず。
店主のおばちゃんがご自身で作った漬けものを頂きました。これが、旨かった。しょっぱさと野菜の甘さが見事に融和していました。「ごはんがほしくなりますよ~」と言うと、「分かったわ♪」といって、ご飯まで…orz... 「いや、例えばですよ!!」、とこっちが言っても、やはり聞く耳もたず…
こういうやり取りができるのも、素敵なところですよね。
「お兄さん、インターネットをやってるなら、ちょっと宣伝してよ~」、と熱く言われました。宣伝はしませんが、おススメはいたします☆
あと、店内もなかなかですよ。これは、ちょっと、異空間って感じでした。お店の外からの印象とは全く違う店内の雰囲気でした。
目の前は特別支援学校です。こちらが目印になりますね☆
また近いうちに来ます!